アクティブ方式(Active systems)
仕組み:左右の目に対して高速で交互に連続画像を表示
メガネ:電子制御シャッター式メガネが片眼ずつ能動的に遮断
特徴:高い立体感。クロストーク(ゴースト)が生じる場合がある

眼科手術用3Dディスプレイシステムは、従来の双眼顕微鏡に代わる新しい手術視覚化技術である。 外科医は接眼レンズを覗くのではなく、3Dカメラが撮影した映像を大型モニター上でリアルタイムに観察しながら手術を行う。 この手術様式を「ヘッズアップサージェリー(heads-up surgery)」という。
3Dディスプレイ技術は当初、航空機や軍事用として開発された。 その後、技術革新により手術室への導入が実現した。 眼科分野では、TrueVision 3D顕微鏡下手術用視覚化システムの登場以降、広く普及が進んだ。
従来の顕微鏡手術では、外科医が前傾姿勢を長時間維持しなければならず、頸椎・背部・腰部への負担が問題となってきた。 眼科医における頸部・上半身・腰の症状の有病率は62%に達するとも報告されている。 3Dシステムはこの問題を解消するために開発された。
アクティブ方式(Active systems)
仕組み:左右の目に対して高速で交互に連続画像を表示
メガネ:電子制御シャッター式メガネが片眼ずつ能動的に遮断
特徴:高い立体感。クロストーク(ゴースト)が生じる場合がある
パッシブ方式(Passive systems)
仕組み:2つの画像を水平方向に混合して出力
メガネ:偏光3Dグラスで受動的に分離
特徴:コスト低め。NGENUITY等で採用。クロストークがない
顕微鏡の接眼レンズを覗かずに、3Dカメラが捉えた映像を大型ディスプレイで見ながら行う手術様式です。術者は頭を上げた(heads-up)自然な姿勢で手術でき、頸椎や腰への負担を大幅に軽減できます。複数のスタッフが同じ映像をリアルタイムで共有できるため、教育効果も高いシステムです。
眼科でのヘッズアップ白内障手術は、2010年にWeinstockによって初めて報告された。 TrueVision 3Dシステムは標準的な手術用顕微鏡に取り付けるカメラユニットであり、ステレオ画像とビデオを3D HD大画面モニターに送信する。
米国FDAは、3Dグラフィカルオーバーレイ(graphical overlays)を提供する「TrueVision Refractive Cataract Toolset」を承認している。 さらに「TrueGuide」「TruePlan」アプリケーションにより、トーリックIOL使用を含む手術計画の支援が可能となった。
前眼部手術への応用も広がっている。 羊膜移植(amniotic membrane transplantation)や角膜手術でもヘッズアップシステムが使用されている。 Mohamed YHらは、ヘッズアップシステムを用いた角膜手術(非Descemet剝離自動角膜内皮移植術:nDSAEK)の最初の症例を報告した。
NGENUITY®は世界初のHigh Dynamic Range(HDR)ビデオカメラを搭載した眼科用リアルタイム映像システムである。 斜視手術・白内障手術・緑内障手術・硝子体網膜手術など、眼科手術全般で広く使用されている。
| 項目 | 仕様 |
|---|---|
| ディスプレイ | 55インチ4K Ultra HD OLED |
| 3Dグラス | パッシブ方式円偏光グラス |
| 画像処理 | HDR(High Dynamic Range) |
HDR技術により、白飛びのない明るい視界が確保され、深い焦点深度で安全な手術が可能となる。 網膜周辺部まで肉眼と同様の映像が再現でき、増殖膜などをデジタルフィルタ機能で強調表示することも可能だ。
主な利点:
報告されている限界:
High Dynamic Range(HDR)とは、明るすぎる部分・暗すぎる部分を同時に適切に表現できる映像技術です。従来の手術顕微鏡では白飛びが生じやすかった網膜周辺部まで、肉眼と同じような映像を再現できます。また光量を抑えられるため、長時間手術での網膜への光毒性軽減にもつながります。
眼科で使用されている主なシステムを以下に示す。
網膜領域でのヘッズアップサージェリーは、EckardtとPauloによって導入された。 3D HDRカメラとHD液晶ディスプレイを用いたヘッズアップ硝子体網膜手術を評価した研究では、以下の知見が得られている。
術中OCTとの組み合わせにより、黄斑円孔の有無の確認や内境界膜(ILM)の剥離状況の確認が可能となる。 inverted 内境界膜 flap techniqueの際の手技確認にも有効だ。 DMEK(Descemet膜角膜内皮移植術)やDSAEKなどの角膜手術では、ドナー移植片の位置決め確認に有用とされる。
最近の報告では、黄斑円孔手術を従来の顕微鏡とNGENUITY®のような3D視覚化システムで比較した系統的レビューにおいて、3Dシステムで網膜への光曝露が低減し、術者の快適性が高いことが示された。
ヘッドマウントシステム(head-mounted systems; HMS)は、大型モニターの代わりに術者が頭部に装着するディスプレイを用いる方式である。 これは眼科における新興概念として注目されている。
ヘッズアップシステム(大型モニター)
視聴方法:部屋全体で共有できる大型モニター
3Dグラス:偏光グラスを着用して観察
教育効果:多人数が同時に同じ映像を観察可能
ヘッドマウントシステム(HMD)
視聴方法:術者が頭部に装着するディスプレイ
独立表示:左右の目に独立した映像を同時表示
クロストーク:アクティブ方式のゴースト現象を回避
ソニーはヘッドマウントディスプレイの分野でパイオニアであり、2012年に初めて手術室に進出した。 HMS-3000MTは、Haag-Streit Surgical社の顕微鏡(HS Hi-R NEO 900)と組み合わせて使用される。
システム構成:
解像度は1280×720の立体画像で、2つの独立したOLEDパネルを使用したデュアルビデオ入力により、各目に完全に独立した信号を提供する。 45度の広い水平視野角により、自然な視覚体験が可能だ。
1960年代のIvan Sutherlandによる初期の実験がHMSの開発につながった。 HMSの主な用途は軍事・警察・消防・民間商業(ビデオゲーム、スポーツ等)であった。 眼科でのHMS使用は、Dutra-Medeirosらのグループによって初めて報告された。
ヘッドマウントシステム(HMS)は、左右の目に独立した映像を同時表示することで、アクティブ3Dシステムで生じるゴースト(クロストーク)を回避できます。45度の広い水平視野角で自然な視覚体験が得られ、優れた奥行き知覚と空間把握が可能です。また、2台目のHMDを接続することで手術スタッフも同時に立体視できるため、手術教育ツールとしての可能性も期待されています。
| 手術種別 | 主なシステム | 特記事項 |
|---|---|---|
| 白内障手術 | NGENUITY、TrueVision | IOLガイダンスとの連携可 |
| 硝子体網膜手術 | NGENUITY、Artevo | 光毒性軽減効果あり |
| 角膜手術(DMEK/DSAEK) | ヘッズアップ型全般 | 移植片位置確認に有用 |
| 斜視手術 | NGENUITY | 複数スタッフ共有 |
| 緑内障手術 | ヘッズアップ型全般 | シャント配置の可視化 |
最新システムではデジタル画像処理による以下の機能が実装されている。
従来の双眼顕微鏡を用いた眼科手術では、術者は接眼レンズを覗くために前傾姿勢を維持する必要がある。 これにより頸椎・胸椎・腰椎への慢性的な負荷が生じる。 眼科医の62%が頸部・上半身・腰に関連する症状を経験しているとされ、筋骨格系障害が外科医の寿命を縮める要因となってきた。
3Dディスプレイシステムでの奥行き知覚(depth perception)には、左右の目が異なる画像を受け取ることが必要である。
アクティブ方式では電子シャッターによる高速切り替えで左右に分離するが、残像によるクロストーク(ゴースト現象)が生じうる。 パッシブ方式では偏光フィルタにより分離し、クロストークが少ない。 HMSでは独立した2枚のOLEDパネルを用い、各目に完全に独立した信号を提供するためクロストークが生じない。
カメラで撮影した映像をデジタル処理することで、人間の目では直接見えなかった情報が視覚化できる。 HDR技術は明暗差の大きい術野でも詳細を表現し、デジタルフィルタは特定組織の識別性を高める。 電子的な輝度増幅により、光量を抑えながら(光毒性軽減)高い視認性を両立できる。
眼科分野での3Dディスプレイシステムは、今後もさらなる技術革新が期待されている。
解像度の向上:2K解像度の不足問題は、4K・8Kへの進化で解消されつつある。 将来的には、従来の光学顕微鏡では人間の目に見えなかった構造が可視化される可能性がある。
AI統合:リアルタイム画像解析・術中ナビゲーション・手術計画サポートとの統合が進む見込みだ。 TrueGuide・TruePlanなどのアプリケーションはすでにその先駆けとなっている。
HMSの発展:新型ヘッドマウントシステム(Avegant Glyph網膜投影システム、Beyeonics Surgical Clarity™など)が登場しており、さらなる小型化・軽量化が期待される。
教育・連携用途の拡大:ライブサージェリーのストリーミング配信や遠隔手術トレーニングへの応用が検討されている。 複数のスタッフが同時に立体視できる特性は、次世代の手術教育ツールとしての可能性を持つ。