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白内障・前眼部

白内障・緑内障濾過手術併用療法の術式

1. 白内障・緑内障濾過手術併用療法とは

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白内障と緑内障はともに世界的な失明の主要原因であり、人口高齢化に伴い有病率が増加している。両疾患を同時に有する患者では、手術方針の選択が重要な臨床課題となる。

白内障手術(水晶体超音波乳化吸引術・眼内レンズ挿入術)は平均で2mmHg未満の眼圧を軽度に低下させることが知られている。高い術前眼圧を有する患者ではより大きな低下が期待できるが、この効果の大きさと持続期間は様々な交絡因子により完全には解明されていない。開放隅角緑内障に対し、白内障手術単独を眼圧コントロールの手段とすることは一般に推奨されない。一方、閉塞隅角緑内障においては、水晶体摘出が有効な治療選択肢となり得る。

「順次手術」(staged surgery)と「併用手術」(combined surgery)の転帰を比較する十分なエビデンスは乏しく、一般化したアプローチへの強いコンセンサスは得られていない。そのため個別化アプローチが推奨される。

Q 緑内障の患者が白内障手術を受けると、眼圧が下がることはあるか?
A

白内障手術単独でも眼圧が軽度に低下することがある。特に偽落屑緑内障(PXG)や術前眼圧が高い症例でより顕著な効果が見られる。しかし、開放隅角緑内障のコントロール目的として白内障手術単独に頼ることは推奨されない。

白内障と緑内障が共存する患者では、以下の症状が重複する場合がある。

  • 視力低下:白内障による霧視・コントラスト低下と、緑内障による視野欠損が複合する。
  • 羞明・グレア:主に白内障による水晶体混濁が原因となる。
  • 視野狭窄・視野欠損:緑内障性視神経萎縮による。固視点に迫る中心視野の喪失は特に問題となる。

術前評価において確認すべき主な所見を以下に示す。

緑内障評価

眼圧:現在の薬物療法でコントロールされているか確認する。

視神経評価:萎縮の程度、カップ/乳頭比、網膜神経線維層の菲薄化。

視野検査:緑内障の病期評価。中心視野島(central island)のみが残存する場合、白内障手術の視覚的利益は限定的となる。

隅角鏡検査:開放隅角か閉塞隅角かを判断する。慢性閉塞隅角緑内障では術後の悪性緑内障リスクに注意が必要である。

白内障評価

最高矯正視力と潜在視力:潜在視力計(PAM)により白内障の影響を排除した視力ポテンシャルを推定できる。

白内障の種類と程度:超音波乳化吸引術の難度を左右する。

瞳孔散大の状態:縮瞳薬の長期使用や虹彩後癒着の有無を確認する。

偽落屑・毛様体小帯脆弱性:小帯断裂リスクの評価が不可欠。

白内障・緑内障が共存する場合の手術適応判断

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緑内障患者において白内障手術後に有意な眼圧スパイク(25mmHg以上)が患者の最大半数で生じる可能性がある。残留粘弾性物質、術後炎症増加、障害された線維柱帯網でのステロイドレスポンスが原因となる。術後2〜4ヶ月間、多くの緑内障患者では眼圧が術前ベースラインを上回ることを術者と患者が認識しておく必要がある。

緑内障の重症度と眼圧状態による適応区分は以下の通りである。

  • 白内障手術単独が適応:軽度緑内障性損傷で1〜2剤の点眼薬で眼圧コントロール良好な場合。
  • 2段階アプローチが適応:先に濾過手術を行い、濾過胞が安定した後に白内障手術を行う。長期的な眼圧下降率が高いことが示されているため好まれる場合がある。線維柱帯切除術後5年間の白内障発生率は87%と報告されており、後日の白内障手術を計画しておく必要がある。
  • 併用手術が検討される状況
    1. 眼圧コントロールは良好だが薬物副作用が著しい場合
    2. 最大限の薬物療法下で進行した視神経萎縮がある場合
    3. 最大限の薬物療法で眼圧が境界域の場合
    4. 眼圧コントロール不良で視力回復の緊急性が高く、2回手術が困難な場合

緑内障患者では縮瞳薬の長期使用、癒着形成、過去の外傷・レーザー治療などにより瞳孔散大不良がしばしば見られる。偽落屑症候群、糖尿病、α1遮断薬服用患者も注意が必要である。対処法として以下がある。

  • 前房内への保存剤フリー1:10,000エピネフリン注入
  • サイクロダイアリシス・スパチュラによる後癒着剥離
  • 瞳孔括約筋切開術、Kuglenフック・Sinskyフックによる瞳孔伸展
  • 虹彩フック、Morcher散瞳リング、またはMalyuginリングによる機械的散瞳

白内障と緑内障を併発する患者において、視力低下への各疾患の寄与を判断するため完全な眼科的検査を行う。

検査項目評価内容
潜在視力計(PAM)白内障の影響を排除した視力ポテンシャル
視野検査緑内障病期の判定、中心視野の評価
隅角鏡検査隅角の開閉を判別
細隙灯顕微鏡白内障の型・程度、偽落屑、瞳孔散大状態

前嚢の視認性不良が問題となる症例(角膜混濁・成熟白内障・赤色反射不良)では、トリパンブルーの使用が安全な連続環状水晶体嚢切開(CCC)の完遂に大きく寄与する。

併用手術(白内障超音波乳化吸引術+線維柱帯切除術)を行う場合、同一創口(single-site)法と別個創口(two-site)法のいずれかを選択する。

同一創口法

手技概要強膜トンネル法を用い、線維柱帯切除術と白内障手術を同じ結膜・強膜切開創から行う。

利点:時間短縮、創口が1つ、術者の位置変更不要。

欠点:術後炎症が強い。過度な結膜操作が濾過手術の転帰に影響する可能性がある。視力回復が遅れる場合がある。代謝拮抗薬使用時に前房内漏出予防の注意を要する。

別個創口法

手技概要:耳側角膜切開で白内障手術を行い、その後上方に移動して線維柱帯切除術を行う。

利点:白内障手術の術野改善(特に眼窩が深い症例・眼瞼裂が狭い症例)。上方結膜の操作と炎症が少ない。濾過胞の生存率が高まる可能性がある。視力回復が迅速。

欠点:時間がかかる場合がある。術者の位置変更・顕微鏡調整が必要。

眼圧コントロールの比較:双方とも眼圧下降に有効であり、2002年のレビューでは別個創口法が同一創口法より低い眼圧を達成するという中程度の質のエビデンスが示されたが、差は小さかった。その後の研究では両アプローチで差がないとする報告もある。

白内障超音波乳化吸引術と線維柱帯切除術の併用は、眼圧コントロールと視力改善の両方をもたらし、術後眼圧スパイクへの保護と長期的眼圧コントロールを1回の手術で提供できる。ただし、濾過胞生存率と長期眼圧コントロールが単独の線維柱帯切除術より劣る可能性があるデータも存在する。2015年のCochrane系統的レビューでは、白内障単独手術と比較して併用手術が1年時点で良好な眼圧コントロールをもたらすという低質の根拠が示された。

エビデンスに基づくレビューでは、マイトマイシンC(マイトマイシンC)の使用は5-FUと異なり、併用手術における眼圧をより低下させることが示されている。Cochrane系統的レビューでは、マイトマイシンCが線維柱帯切除術後の結膜下瘢痕化を低減するために術中に使用できるとされている。ただし、マイトマイシンCを使用すると低眼圧、黄斑症、濾過胞漏出、濾過胞炎、眼内炎などの合併症が増加する可能性がある。

白内障手術時に低侵襲緑内障手術を同時に施行する選択肢がある。利用可能な低侵襲緑内障手術の手技には以下が含まれる。

  • Ab interno線維柱帯切除術(トラベクトーム)
  • Ab interno管腔形成術(カナロプラスティ
  • 内視鏡的毛様体光凝固術ECP
  • 線維柱帯バイパスマイクロステント(iStentなど複数世代の製品が存在する)

低侵襲緑内障手術は抗代謝薬を使用した従来の濾過手術と比較して、低眼圧と濾過胞合併症のリスクを低減できる可能性があるが、眼圧を同程度には低下させられない場合がある。多施設無作為化臨床試験において、線維柱帯バイパスマイクロステント+白内障手術群は白内障手術単独群と比較して2年時点で眼圧が臨床的に低く、安全性に差はなかった。

低侵襲緑内障手術は軽症緑内障で眼圧を中程度に低下させ、薬剤使用を減らすことが期待できる。重症緑内障や術前眼圧が高い症例では、濾過胞形成手術(線維柱帯切除術)の方が低眼圧を達成し、優先される。

緑内障ドレナージデバイス(GDD)との併用

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緑内障ドレナージデバイス(Ahmed、Baerveldt、Molteno など)は、複雑な続発緑内障ぶどう膜炎性・新生血管緑内障など)、若年患者、濾過手術既往眼、瘢痕化で結膜が不足している眼で選択される。白内障手術と同時にデバイスを留置することが可能であり、安全かつ効果的な選択肢であることが示されている。

術後薬物療法の基本は以下の通りである。

  • 抗菌薬点眼:最初の1週間は4時間ごと
  • ステロイド点眼:最初の1ヶ月は2時間ごと、その後漸減
  • 調節麻痺薬:浅前房・低眼圧の症例、慢性閉塞隅角緑内障の術後悪性緑内障予防に使用

術後1日目に診察し、眼圧が安定するまで毎週フォローアップを行う。必要に応じて縫合糸抜糸やレーザー切糸(laser suture lysis)を施行する。

Q 先に濾過手術を受けた後に白内障手術を行うと何か問題が生じるか?
A

線維柱帯切除術後に白内障手術を行うと眼圧コントロールに影響することがある。また、術前眼圧が低い患者での近視化サプライズが報告されている。白内障手術が濾過胞の機能を低下させる可能性も知られており、早期に施行した場合(白内障手術直後)はその後の緑内障手術に影響を及ぼす可能性がある。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

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白内障と緑内障が共存する場合の眼圧管理の難しさは、複数の病態が複合することにある。

白内障手術後に眼圧スパイクが生じるメカニズムとして、残留粘弾性物質による線維柱帯の機械的閉塞、術後炎症による線維柱帯網の機能低下、そしてすでに障害されている線維柱帯網でのステロイドレスポンスが挙げられる。緑内障患者は非緑内障患者と比較して、白内障手術後に有意な眼圧上昇を示すことが多い研究で示されている。

緑内障手術後の白内障促進については、線維柱帯切除術後5年間の白内障発生率が87%と報告されており、手術侵襲による酸化ストレスや炎症が水晶体混濁を加速させると考えられている。硝子体脱出を来した場合には緑内障手術の失敗につながる可能性もあるため、落屑症候群など毛様体小帯が脆弱な症例では特に術中管理に注意が必要である。

閉塞隅角疾患においては、白内障の除去自体が隅角開大に有効であり、有症状の白内障に対しては速やかな手術が推奨される。PAC/PACGで有症状の白内障がない場合でも、特に50歳以上では水晶体摘出を検討すべきである。


7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)

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順次手術と併用手術の比較研究

Section titled “順次手術と併用手術の比較研究”

現在のエビデンスは不十分であり、順次手術と併用手術のどちらが優れているかを明確に示す高質の研究は乏しい。両アプローチで同様の長期眼圧コントロールが得られるという報告が出てきており、今後のRCTによるさらなるエビデンス構築が求められている。

新世代低侵襲緑内障手術デバイスの開発

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複数世代にわたる線維柱帯バイパスマイクロステントや管腔形成デバイスが継続的に開発・改良されており、白内障手術との同時施行における安全性・有効性の検討が進んでいる。これらのデバイスが将来的に白内障・緑内障併用手術の標準的な選択肢となることが期待される。

Ex-PRESS ミニチュア緑内障シャントとの併用

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Ex-PRESSシャントは線維柱帯切除術の代替として白内障手術と組み合わせて使用され得る。標準的な線維柱帯切除術と同様の眼圧コントロールを提供しつつ、より簡便な術式である可能性が検討されている。


  1. American Academy of Ophthalmology. Cataract in the Adult Eye Preferred Practice Pattern. PIIS0161642021007508.pdf. 2021.

  2. European Glaucoma Society. Terminology and Guidelines for Glaucoma, 5th Edition. Br J Ophthalmol. 2025. doi:10.1136/bjophthalmol-2025-egsguidelines.

  3. American Academy of Ophthalmology. Primary Open-Angle Glaucoma Preferred Practice Pattern. Primary Open-Angle Glaucoma PPP.pdf. 2020.

  4. Zhang ML, Hirunyachote P, Jampel H. Combined surgery versus cataract surgery alone for eyes with cataract and glaucoma. Cochrane Database Syst Rev. 2015:CD008671.

  5. Jampel HD, Friedman DS, Lubomski LH, et al. Effect of technique on intraocular pressure after combined cataract and glaucoma surgery: An evidence-based review. Ophthalmology. 2002;109:2215-2224.

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