線維型の後発白内障
徹照法所見:境界不鮮明で多数の皺状の混濁。
病態:水晶体上皮細胞が筋線維芽細胞様細胞に変化し、コラーゲンを主とした細胞外基質を産生する。前嚢と後嚢が癒着した部分から後嚢上に広がる。
症状への影響:後方散乱のため障害は比較的軽い。著しい場合はコントラスト感度の低下や前嚢切開窓の縮小(前嚢収縮)をもたらす。

後発白内障(Posterior Capsule Opacification, PCO)は、白内障摘出術後に残存した水晶体上皮細胞(Lens Epithelial Cells, LECs)が増殖・移動・分化することで、保存された後嚢が二次的に混濁する疾患である。「二次性白内障(secondary cataract)」とも呼ばれる。
後発白内障は白内障手術後の術後合併症として最も頻度が高い2)。現代の手術手技と眼内レンズのデザインの進歩により、有病率はかつての20〜50%から大幅に低下し、現代の手術技術では5%以下とする報告もある2)。それでも、患者およびヘルスケアシステムに大きな負担をもたらしている。
白内障手術後2〜5年以内に患者の20〜50%に発生するとの報告がある。海外のメタアナリシスによれば、後発白内障の発生率は術後1年で11.8%、3年で20.7%、5年で28.4%と高頻度であることが報告されている。
小児・乳児では発症率が著しく高く、発症時期も早い。小児での後発白内障の発症率は100%に達するとされ、関連する弱視リスクへの早期対処が不可欠である。
白内障自体が再発することはない。摘出した水晶体の混濁が戻るわけではなく、後発白内障が最も考えられる原因のひとつである。術後数か月から数年後にかすみや視力低下が生じた場合は後発白内障を疑い、眼科を受診することが重要である。
多くの患者は、問題のない白内障手術から数か月〜数年後に受診する。典型的な訴えは以下の通りである。
後発白内障は以下の型に分類される。
線維型の後発白内障
徹照法所見:境界不鮮明で多数の皺状の混濁。
病態:水晶体上皮細胞が筋線維芽細胞様細胞に変化し、コラーゲンを主とした細胞外基質を産生する。前嚢と後嚢が癒着した部分から後嚢上に広がる。
症状への影響:後方散乱のため障害は比較的軽い。著しい場合はコントラスト感度の低下や前嚢切開窓の縮小(前嚢収縮)をもたらす。
真珠型後発白内障
徹照法所見:境界が比較的明瞭な小さな粒状増殖(エルシュニッヒ真珠)。光を前方散乱させるため視機能障害が強い。
病態:水晶体赤道部に並ぶ正常に分化した水晶体上皮細胞で構成される。腫大し混濁して分化した水晶体上皮細胞の塊(ブラッダー細胞またはウェドル細胞)が後嚢上に蓄積する。
症状への影響:視軸上に蓄積すると顕著な視力低下を引き起こす。重層化したElschnig真珠があれば、すでに視力低下していることが多い。
Elschnig真珠は出現と消失を繰り返す動的な変化を示す3)。形成・消失が1週間以内に起こりうることが報告されており、同一患者でも左右眼で異なる形態パターンを呈しうる3)。視軸部の真珠が自然退縮し視力が改善した症例も報告されており、自然退縮の機序としてアポトーシス・硝子体腔への脱落・マクロファージによる貪食が提唱されている3)。
白内障手術では、前嚢の一部を切開(連続環状水晶体嚢切開術:CCC)し、混濁した水晶体組織を取り除いてIOLをインプラントする。残存した前嚢上の水晶体上皮細胞が増殖・移動・分化することで後発白内障が発生する。
関与するサイトカイン・増殖因子には、TGF-β、FGF-2、肝細胞増殖因子(HGF)、マトリックスメタロプロテアーゼ(MMPs)などが含まれる。手術中に使用される一部の眼科用粘弾剤(OVD)の成分である外因性ヒアルロン酸(HA)は、後発白内障発生率を増加させる可能性が示唆されている。
後発白内障の診断は病歴と細隙灯顕微鏡検査に基づく。診断の手順は以下の通りである。
視力だけでは判断が難しい場合がある。霞む訴えがあっても視力低下がない場合はコントラスト感度を測定する。グレア負荷時のコントラスト感度・コントラスト感度・視力の順に障害されていくため、早期の後発白内障はコントラスト感度の評価が重要である。
Nd:YAGレーザー後嚢切開の適応は、混濁のタイプ・程度から視機能障害を推定して判断する。
基本的な診断は細隙灯顕微鏡と徹照法で可能である。散瞳後に後嚢を徹照すれば、Elschnig真珠と線維化の鑑別が容易にできる。90Dレンズなどでの眼底透見性も参考となる。Elschnig真珠は透明なため、徹照せずに通常の観察だけでは見落とすことがある。
視機能に影響を及ぼす後発白内障に対する第一選択治療である。非侵襲的・迅速・効果的な治療法であり、外科的な後嚢切開術が行われることは稀である。
手術前の準備:眼圧上昇予防のため、アプラクロニジン塩酸塩点眼を処置1時間前と直後に点眼する。処置前に散瞳を行う。
切開方法:
| 方法 | 特徴 |
|---|---|
| 十字切開 | 後嚢片が浮遊しにくく照射数が少ない。視軸近傍にpit・crackを生じることがある |
| 円形切開 | 視軸近傍を避けられ安全性高い。後嚢片による飛蚊症・炎症が生じることがある |
多焦点IOL挿入眼の注意:通常のスリットランプ観察では正常に見えても、徹照法で細かなElschnig真珠が確認される場合がある。後嚢切開窓は大きめに設定するのがよい。
年少児ではNd:YAGレーザー後嚢切開術を安全に行うことができないため、後発白内障による視軸混濁に対して経平坦部硝子体切除術(pars plana vitrectomy)および嚢切除術(capsulectomy)が行われる。関連する弱視の予防のため、早期対応が特に重要である。
通常の超音波乳化吸引術では、残存した前嚢上の水晶体上皮細胞が術後に活性化される。この水晶体上皮細胞が以下の3つの現象を起こすことで後発白内障が発生する。
線維型後発白内障では、水晶体上皮細胞が筋線維芽細胞様細胞(myofibroblastic cell)に上皮間葉転換(EMT)を起こし、コラーゲンなどの細胞外マトリックス(ECM)を産生する。真珠型後発白内障では、残存した水晶体上皮細胞が不完全に水晶体線維へ分化し、ブラッダー細胞(Wedl細胞)として後嚢上に蓄積する。
スクエアエッジ(直角エッジ)構造の光学系を持つIOLは、丸みを帯びたエッジのIOLと比較して後発白内障率が低い1)。エッジによる機械的なバリア効果が水晶体上皮細胞の後嚢上への増殖を防ぐためと考えられている。IOL光学部よりわずかに小さい直径の連続環状切嚢により、IOL表面に前嚢縁が乗り上げる「シュリンクラップ(密着包装)効果」が生まれ、光学系を囊周囲の房水から隔離することで後発白内障発生が抑制される1)。
IOLの素材については、疎水性アクリルIOLが後発白内障形成を減少させることが一部の研究で示唆されているが、メタアナリシスでその効果は証明されていない1)。前嚢研磨(polishing)については、IOLの光学部後端の鋭角エッジ周囲で後嚢との密な接着が形成されるのを妨げることで、むしろ後発白内障を促進し早期のYAGレーザー治療を必要とする可能性があるとの報告もある1)。
周囲の眼内組織に毒性副作用を及ぼすことなく残存水晶体上皮細胞を除去または再生を抑制することを目的として、代謝拮抗剤・抗炎症剤・低浸透圧薬・免疫学的製剤などが研究されている。
イムノトキシン(MDX-A)を用いた2つの研究で後発白内障率の低下が観察されているが、他の薬剤が後発白内障の発現に有意な効果を及ぼすという生体内での決定的な証拠はまだない。水晶体上皮細胞を選択的に障害する手術終了時の「aqueous flush」技術なども探索されている。
調節眼内レンズ(accommodating IOL)は、柔軟で無傷の後嚢の機能に依存するため、後発白内障形成の予防はこれらのデバイスにとって特に重要な課題となる。後嚢の混濁が調節機能を損なうため、より積極的な後発白内障予防策の開発が求められている。