ペリスタルティック型
原理:ローラーがチューブをしごいて陰圧を発生させる。
利点:吸引圧と吸引流量を独立して設定できる。
欠点:吸引圧の立ち上がりが遅い。安全性を重視した設計で初中級者向き。

ファコダイナミクス(Phacodynamics)とは、超音波水晶体乳化吸引術(phacoemulsification and aspiration: PEA)の根底にある機械的原理の総称である。フルーイディクス(流体力学)と超音波パワー変調の両概念を包含する。
超音波水晶体乳化吸引術は1967年にKelmanによって発明され、その後装置と手技の進歩によって急速に普及した。現在ではほぼすべての白内障手術がこの術式で行われており、術者がファコダイナミクスを正確に理解することは、安全で効率的な手術の前提条件である。
ファコダイナミクスを構成する主要なパラメータには以下のものがある。
装置の適切な設定は手術の安全性と効率を向上させる。一方、不適切な設定は前房虚脱、後嚢破損、角膜内皮障害などの合併症を招く可能性がある。習熟度によらず、すべての術者にとって基本原理の理解が安全な手術の基盤となる。
灌流液(BSS:平衡塩類液)は灌流ボトルから重力によって前房内に供給される。灌流圧はボトル高に比例し、以下の計算式で概算できる。
灌流圧(mmHg) ≈ ボトル高(cm) × 0.7 例:ボトル高100cmで約70mmHg、80cmで約56mmHg、70cmで約49mmHg
ボトルを患者眼よりも高い位置に設置することで圧勾配が生じ、灌流液が前房内へ流れ込む。ボトル高を上げると前房内圧が上昇し、前房深度も深くなる。ただし、緑内障患者や動脈硬化の患者では眼圧上昇に注意が必要である。
近年では、重力式(gravity)に加え、VGFI(Vented Gas Forced Infusion)やソフトバッグ加圧方式といった強制灌流システムが開発されており、前房内圧の変動をより少なく制御できる。
流出は主にポンプを介した吸引によって生じる。吸引流量を増加させると流出が増え、前房内の動きが速くなる。もう一つの流出経路として、創口・サイドポートからの漏出がある。
流入量と流出量が等しい場合に前房内の圧バランスが保たれ、安定した前房が維持される。
流体不均衡の影響:
その通りである。ボトル高を上げるとサージ前後の前房内圧が上昇するが、圧変動の振れ幅は変わらない。サージの抑制にはボトル高の調整ではなく、吸引圧の低減や低コンプライアンスチューブの使用などが有効である。
吸引流量とは、単位時間にチップ先端の吸引口から移動する液体量(mL/分)である。ペリスタルティック方式ではポンプの回転速度を直接設定できる。
吸引圧は、チップが閉塞した際に核片をチップ先端に保持する力(hold ability)を規定する負圧(mmHg)である。
ペリスタルティック型
原理:ローラーがチューブをしごいて陰圧を発生させる。
利点:吸引圧と吸引流量を独立して設定できる。
欠点:吸引圧の立ち上がりが遅い。安全性を重視した設計で初中級者向き。
ベンチュリ型
原理:気流がカセット内に陰圧を発生させる(Bernoulliの法則)。
利点:吸引圧の立ち上がりが速く、follow abilityが高い。
欠点:微細な制御が難しく、吸引流量を独立設定できない(設定吸引圧の約半分が流量となる)。上級者向き。
近年は両ポンプの欠点が改善されており、一台で両方式を使い分けられるハイブリッドシステムも存在する。
サージ(surge)とは、核片によるチップ閉塞が解除された直後に、蓄積した陰圧が急激に解放されることで前房から液体が急速に流出し、前房が一時的に不安定になる現象である。
Georgescuらの摘出人眼を用いた研究では、サージにおける前房の変動距離は0.04〜2mmであったと報告されている。
サージが生じると後嚢や虹彩がチップに引き寄せられ、後嚢破損・虹彩損傷の危険を招く。
サージ軽減策:
超音波の周波数は20kHz以上と定義され、超音波水晶体乳化吸引術装置では一般的に40kHz前後(約28.5〜40kHz)が使用される。チップの破砕力は以下の2種類の機序による。
ジャックハンマー効果
機序:チップが水晶体核に物理的に衝突する機械的打撃。
特性:対象物との距離が増すほど加速度が上昇し、パワーが増大する。縦(longitudinal)振動の主要な破砕機序である。
キャビテーション効果
機序:チップ後退時の急激な圧低下でマイクロバブルが発生し、前進時に爆縮するエネルギー放出。
特性:爆縮時に約13,000°F(7,200℃)の温度と75,000psiの衝撃波が発生する。組織損傷を引き起こす可能性もある。
超音波パワーはチップの振幅(stroke length)として表され、最大振幅を100%とする。パワーを上げると破砕効果が高まる一方で、熱の発生と創口熱傷のリスクが増大する。また振幅が大きくなると核を突き放す力(chattering:チャタリング)も強まる。
従来の縦方向(longitudinal)振動に加え、横方向の回旋振動(torsional)を用いる方式が開発されている。往復両方の動きで核を削るため、熱発生が少なく核破砕効率が高い。トラディショナルとトーショナルを組み合わせ、さらにパルス設定を加えることで硬い核でも安全な処理が可能である。
チップ先端のベベル角(0〜60度)によって特性が異なる。
| ベベル角 | 閉塞性 | 用途 |
|---|---|---|
| 大(45〜60°) | 低(閉塞しにくい) | スカルプティング(溝掘り) |
| 小(0〜15°) | 高(閉塞しやすい) | チョッピング・核片除去 |
| モード | 特徴 | 推奨場面 |
|---|---|---|
| 連続(Continuous) | 常時発振 | 軟らかい核 |
| パルス(Pulse) | オン/オフを繰り返す | 熱抑制・硬い核 |
| バースト(Burst) | 短時間パルス発振後に休止 | チョッピング手技 |
パルスモードは超音波発振の合間に休止があるため、チャタリングが抑えられ、熱発生を低減しながら効率的な核破砕が可能である。
溝掘り(開放破砕):
核分割後の破砕(閉塞破砕):
フットペダル操作:
両手法超音波乳化吸引術では、灌流チョッパーとスリーブなしのファコプローブを分離することで、サブミリ切開での閉鎖腔核乳化が可能となる。亜脱臼水晶体などの難症例において灌流ポートが嚢の安定化を補助する利点がある1)。
初心者には低い吸引流量・超音波パワー・吸引圧・灌流圧の設定が推奨される。これにより前房の圧力差を最小化し、後嚢破損・虹彩裂傷・硝子体脱出などのリスクを低減できる。場面ごとに設定を切り替えることが安全な手術習得の近道である。
近年の超音波白内障手術装置では、前房内圧センサーによるフィードバック制御システムが導入されつつある。前房内圧をリアルタイムに感知して灌流量を自動調節することで、圧変動とサージを最小化し、後嚢破損リスクの低減が期待されている。
重力式(gravity)に代わる強制灌流方式として、VGFI(灌流ボトル内ガス加圧)やソフトバッグを板で圧出する方式が実用化されている。これらは重力式よりも迅速に灌流量を増やすことができ、前房内圧変動の少ない安全な手術環境の実現に貢献している。