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白内障・前眼部

後発白内障と光学部キャプチャー

後発白内障(aftercataract)は、白内障手術後の水晶体嚢内に残存した水晶体上皮細胞(lens epithelial cells, LECs)が増殖・移動し、後嚢が混濁する状態である。臨床的には瞳孔領にかかった場合を後嚢混濁(posterior capsule opacification, PCO)と呼ぶ。

白内障手術後の最も頻度の高い合併症であり、術後5年以上の経過をみると少なくとも4人に1人以上に何らかの後発白内障が発生するとされる。海外のメタアナリシスでは、後発白内障の発生率は術後1年で約11.8%、3年で約20.7%、5年で約28.4%と報告されている。発症率は使用する眼内レンズの素材・デザインや患者背景因子(糖尿病・ぶどう膜炎・アトピー性皮膚炎・先天白内障・強度近視など)によっても異なる。

Nd:YAGレーザー後嚢切開術は外来で施行可能な標準的治療だが、米国では毎年数十万件以上が施行されており、社会的・経済的な負担が大きい。近年、シングルピース疎水性アクリル眼内レンズの普及やエッジ設計の変化に伴い、YAGレーザー施行率が再び増加傾向にある。

Q 白内障手術後にまた目がかすむのはなぜか?
A

白内障手術で水晶体を摘出しても、水晶体上皮細胞が嚢内に残存する。この細胞が術後に後嚢上で増殖し、後嚢が混濁することで視力が低下する(後発白内障)。Nd:YAGレーザー後嚢切開術によって多くの場合、速やかに視力が回復する。

後発白内障の症状は混濁の種類と程度によって異なる。

  • かすみ(霞視感):最初にコントラスト感度が低下するため、視力は正常でも「かすむ」と訴えることが多い。
  • 視力低下:混濁が視軸中央を占めると顕著な視力低下が生じる。
  • 光のにじみ・まぶしさ(グレア):特にElschnig真珠型の後発白内障では前方散乱が強く、グレアが著明である。
  • コントラスト感度低下:視力低下に先行してコントラスト感度が低下するため、視力のみでは視機能障害を過小評価しやすい。

Elschnig真珠

外観:後嚢上にカエルの卵状・真珠状の細胞増殖を認める。徹照法で境界鮮明な小粒状として観察される。

原因:赤道部のソェンメリング輪から後嚢中央へ移動した再生水晶体線維。

特徴:入射光を前方散乱させるため視機能障害が強い。眼内レンズが嚢内固定された場合に主に形成される。

線維性混濁

外観:コラーゲンを主とした線維状の混濁。境界不鮮明で皺状に見える。前後嚢が接した部分から広がる。

特徴:後方散乱が主体で障害は軽い。眼内レンズの嚢外固定や非対称固定に多い。

液状後発白内障:眼内レンズと後嚢の間に乳白色の液体が貯留する型。Elschnig真珠を伴うことが多い。

後発白内障の診断は細隙灯顕微鏡の徹照法が基本である。散瞳後に後嚢を徹照してタイプと程度を確認する。視機能への影響は視力だけでなく、コントラスト感度やグレア検査も参考にする。

白内障手術後、水晶体嚢内に残存した水晶体上皮細胞が増殖・移動し、後嚢上へと侵入する。眼内レンズの光学部後方エッジによる「バリア効果」が初期は有効だが、術後3〜5年でゼンメリング輪が形成されると、以前形成されていた嚢の屈曲が消失し、休止していた水晶体上皮細胞が再活性化して光学部後方空間へのアクセスが可能になる(遅発性二次バリア不全)。

  • 患者側因子:若年者(細胞活性が高い)、糖尿病、ぶどう膜炎、アトピー性皮膚炎、網膜色素変性、強度近視
  • 眼内レンズデザイン:ラウンドエッジの眼内レンズはシャープエッジより高リスク6)
  • 素材:親水性アクリル(ハイドロフィリック)はシャープエッジであっても疎水性(ハイドロフォビック)より高リスク6)
  • 術式:水晶体嚢外摘出術は超音波乳化吸引術より高リスク6)
  • 前嚢重なりの有無:前嚢縁が光学部全周を覆う(capsulorrhexis-optic overlap)状態で後発白内障の発生率が低い6)
  • 前嚢研磨の影響:嚢内固定の眼内レンズでは前嚢研磨がバリア効果を損なう可能性がある6)
  1. 未散瞳での観察:後嚢混濁を疑う場合、まず未散瞳で確認する。
  2. 散瞳検査:散瞳後に細隙灯顕微鏡の徹照法でタイプ(Elschnig真珠・線維化・液状後発)と程度を確認する。
  3. 視機能評価:視力のみでなく、コントラスト感度・グレア検査も行う。視機能に対する影響を正確に把握してから治療の適否を判断する。
  4. 眼底透見性の確認:90Dレンズなどを用いて眼底透見性を確認し、後嚢混濁の視機能への影響を補完的に評価する。

後発白内障による視機能障害が患者の日常生活上の機能要求を満たさない程度に達した場合、または後発白内障が眼底の観察を妨げる場合にNd:YAGレーザー後嚢切開術が適応となる6)。透明な後嚢に対する予防的レーザー照射は行わない6)多焦点眼内レンズ眼では低コントラスト条件での機能的影響が大きいため、早期に適応を検討することがある6)

Nd:YAGレーザー後嚢切開術は外来で施行されることが多く、有水晶体眼に誤照射する医療事故が稀ながら報告されている。後嚢下白内障が後発白内障と誤認された事例が複数ある4,5)

  • 完全散瞳下での眼内レンズ有無の確認を必ず行う
  • 術前タイムアウト(患者確認・手術眼・術式の三点確認)の厳格な実施
  • 散瞳が不完全な状態では後嚢下白内障が後発白内障に類似して見える点に注意する

Moshirfar ら(2022)は、高齢女性の有水晶体眼に後嚢下白内障を後発白内障と誤認してYAGレーザーを照射した事例を報告した4)。その後に施行した白内障手術では後嚢破嚢の状態での摘出が必要となり、術後の最高矯正視力は最終的に20/20を達成した。

Kodama ら(2025)は同様の事例を報告し、有水晶体眼への誤照射後に外科的白内障手術と硝子体手術を施行した5)。プレオペレーションタイムアウトの徹底がこのような「never event」の防止に必須と強調している。

Q 白内障手術を受けていない目に誤ってレーザーが照射されることはあるか?
A

稀ながら報告されている。後嚢下白内障は後発白内障と外見が類似しており、散瞳不完全・術眼確認の不備・記録の誤読などによって誤照射が起こりうる。術前の十分な散瞳と患者確認の徹底が不可欠である4,5)

後発白内障に対する第一選択治療。外来で施行可能で、視機能回復効果が高い。

手技の選択:

  • 十字切開:後嚢片が浮遊しにくく、照射数が少ない。ただし視軸近傍にpit/crackを生じる可能性がある。
  • 円形切開:視軸近傍へのレーザー照射を回避できるため安全性が高い。後嚢片による飛蚊症・炎症が出ることがある。
  • 液状後発白内障:下方周辺部に照射して孔を開け、貯留した白色液状物を硝子体内へ流出させる。

Ohashi ら(2021)は、両眼同時にNd:YAGレーザー後嚢切開を施行した67歳女性において、硝子体黄斑接着が残存していた左眼のみに全層黄斑円孔が形成された事例を報告した2)。照射エネルギーは1.2 mJ/pulse(合計25.2 mJ)と比較的低く、レーザーパルス波そのものよりも硝子体の収縮牽引が黄斑円孔形成の主因と考察された。

「Optic Capture」とは広義に、眼内レンズ光学部が所定の位置(嚢内または前嚢切開縁)から離れて捕獲・拘束された状態、またはその状態を意図的に作る手術手技を指す。

術中意図的Optic Capture(後方光学部ボタンホール固定): 後嚢の連続円形切開(posterior capsulorhexis)の開口部を通して眼内レンズ光学部を後嚢後方に嵌入させる技術(後方光学部ボタンホール固定)。支持部は嚢の赤道部に配置する。光学部後方への水晶体上皮細胞の侵入を遮断し、後発白内障を実質的に根絶できる。

偶発的・術後のOptic Capture(瞳孔捕獲): 強膜縫合固定眼内レンズや術後の眼内レンズ偏位により、眼内レンズ光学部が虹彩前方に前方転位する状態(瞳孔捕獲)。視力低下・眼圧上昇・ぶどう膜炎・血色素沈着緑内障・嚢胞様黄斑浮腫などを引き起こす1)

Q 術後に眼内レンズが虹彩の前に出てしまったらどうなるか?
A

強膜縫合固定眼内レンズで生じる瞳孔捕獲では、視力低下・眼不快感・瞳孔偏位などが起こる。多くは手術室で眼内レンズを後方に押し戻す処置が必要だが、外来での30G針によるパラセンテーシス技術で安全に管理できる場合もある1)

6. 病態生理学・詳細な発症機序

Section titled “6. 病態生理学・詳細な発症機序”

後発白内障の分子・細胞メカニズム

Section titled “後発白内障の分子・細胞メカニズム”

白内障手術後、赤道部に残存した水晶体上皮細胞はソェンメリング輪を形成する。これらの細胞が後嚢上を移動してElschnig真珠を形成する。一方、上皮間葉転換(epithelial-mesenchymal transition)を起こした水晶体上皮細胞がコラーゲンを含む細胞外基質を産生して線維化を引き起こす。

眼内レンズのシャープエッジと前嚢重なりによる物理的バリアは、水晶体上皮細胞の移動を阻止することで初期の後発白内障予防に効果的だが、術後3〜5年で赤道部のゼンメリング輪が拡大すると後嚢への牽引力が変化し、バリア効果が減弱する。長期臨床研究では、シャープエッジ疎水性アクリル眼内レンズでも10年後のYAGレーザー施行率が42%に達することが示されている。

シャープエッジ眼内レンズの後発白内障予防効果

Section titled “シャープエッジ眼内レンズの後発白内障予防効果”

研究によって示されているエビデンスを以下に整理する6):

  • シャープエッジ眼内レンズはラウンドエッジ眼内レンズと比較して後発白内障スコアが有意に低い(複数のランダム化比較試験・メタアナリシス)
  • 2013年のメタアナリシスでは、疎水性シャープエッジ眼内レンズが親水性シャープエッジ眼内レンズよりも後発白内障率・YAGレーザー施行率が低いことが示された
  • シリコン・ポリメチルメタクリレート・アクリルのシャープエッジ眼内レンズ間ではYAGレーザー施行率に差がない
  • ただし、シャープエッジ疎水性眼内レンズの保護効果は長期(12年)ではラウンドエッジと同等になるとする研究もある

後方光学部ボタンホール固定のメカニズム

Section titled “後方光学部ボタンホール固定のメカニズム”

後方光学部ボタンホール固定では光学部が後嚢の連続円形切開の開口部に嵌入することで、後嚢が光学部の前方と後方の両側に存在する状態(嚢と眼内レンズの隔壁)を形成する。この隔壁により:

  • 水晶体上皮細胞が光学部後方へ侵入できないため後嚢の後発白内障が根絶される
  • 前嚢と光学部の直接接触面積が減少し、前嚢線維化(anterior capsular opacification)も抑制される
  • 追加の前嚢研磨と組み合わせると線維化をさらに低減できる

強膜縫合固定眼内レンズでの瞳孔捕獲(Optic Capture)の機序

Section titled “強膜縫合固定眼内レンズでの瞳孔捕獲(Optic Capture)の機序”

硝子体が除去されると、硝子体による眼内レンズ支持が失われ不安定になる。加えて、水晶体嚢を欠くことによる虹彩の弛緩性(iridodonesis/flaccid iris)が虹彩の前後方向の動きを増大させ、拡瞳時に光学部が虹彩前方に脱出しやすくなる(瞳孔捕獲)1)

強膜縫合位置が輪部から2mm後方での固定例では、2mm未満の例と比較して瞳孔捕獲の再発頻度が統計学的に有意に少なかった(p=0.025)1)


7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)

Section titled “7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)”

後方光学部ボタンホール固定の普及

Section titled “後方光学部ボタンホール固定の普及”

後方光学部ボタンホール固定は後発白内障を実質的に根絶できる外科技術として研究・実践が進んでいる。連続1000例の4〜6年追跡研究では網膜剥離発生率0.2%と良好な安全性が報告されており、標準的な嚢内固定に代わるルーチン手技としての確立が期待されている。ただし、不十分な散瞳とチン小帯不全が禁忌であり、手術者の十分なトレーニングが必要である。

前方光学部嵌入(Reverse Capture)による陰性異常光視症の改善

Section titled “前方光学部嵌入(Reverse Capture)による陰性異常光視症の改善”

陰性異常光視症(negative dysphotopsia)に対して、眼内レンズ光学部を前嚢切開縁の前方に配置するリバースキャプチャーが一部の症例で症状改善に有効と報告されている6)。ただし議論が続いており、標準化されたプロトコールはない。

強膜縫合固定眼内レンズのOptic Capture:外来管理技術

Section titled “強膜縫合固定眼内レンズのOptic Capture:外来管理技術”

Kokame ら(2022)は、強膜縫合固定眼内レンズの術後瞳孔捕獲に対し、30G針を用いた外来でのパラセンテーシス技術を開発した1)。495眼中18眼(3.6%)に瞳孔捕獲が発生し、54回の外来処置がすべて麻酔下(点眼麻酔)で疼痛なく施行された。手術室への緊急搬入なしに管理できたことは、手術室アクセスが制限される状況(COVID-19パンデミック等)でも有効な代替手段として評価されている。


  1. Kokame GT, Card K, Pisig AU, Shantha JG. In office management of optic capture of scleral fixated posterior chamber intraocular lenses. Am J Ophthalmol Case Rep. 2022;25:101356.
  2. Ohashi T, Fujiya A, Kojima T. Macular hole after Nd-YAG laser capsulotomy with OCT findings. Clin Case Rep. 2021;9:e04267.
  3. Jakobsen TS, Kaya MY, Hjortdal JØ, Ivarsen AR. Iris epithelium detachment - An uncommon complication of Nd:YAG laser capsulotomy. Am J Ophthalmol Case Rep. 2021;23:101122.
  4. Moshirfar M, Tukan AN, Bundogji N. Cataract extraction after inadvertent Nd:YAG laser capsulotomy in a phakic eye. SAGE Open Med Case Rep. 2022;10:2050313X221097775.
  5. Kodama PO, Cassoni LL, Nunomura CY, Jorge R. Complication after inadvertent Nd:YAG laser capsulotomy in a phakic eye. Am J Ophthalmol Case Rep. 2025;40:102468.
  6. American Academy of Ophthalmology. Cataract in the Adult Eye Preferred Practice Pattern (PPP). Ophthalmology. 2022 (PIIS0161642021007508).

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