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白内障・前眼部

虹彩微小血管腫

虹彩微小血管腫(Iris microhemangioma)は、Cobb房(Cobb’s tufts)または虹彩血管房とも呼ばれ、瞳孔縁に生じる微小な絡み合い状の血管病変である。1932年にTysonが自然前房出血との関連として最初に症例報告し、1969年にCobbが44例を詳細に記載・命名したことでその名が残った1)

病変の本態は虹彩実質内の内皮細胞に裏打ちされた、小さくねじれたまたはコイル状の血管の塊であり、真の腫瘍ではなく過誤腫(hamartoma)として分類される1)。全虹彩腫瘍の約2%を占める稀な病変である。

発症年齢は36〜86歳(平均65歳、中央値67歳)であり、性差および人種差は認められない1)。2013年以前に報告された症例は約90例程度で、2021年のシステマティックレビューでは累計115例が集積されている1)。通常は両側性に認められる。

Q 虹彩微小血管腫とルベオーシスの違いは何ですか?
A

ルベオーシス(虹彩新生血管)は糖尿病・虚血性眼疾患に伴う病的血管新生で、線維血管膜を伴い虹彩全体および隅角に広がる。これに対し虹彩微小血管腫は瞳孔縁に限局した隆起性の血管房であり、線維血管膜を伴わず、虹彩蛍光造影で漏出を示さない点で鑑別される1)

大多数の症例は無症状で経過する。合併症(前房出血)が生じた場合に以下の症状が現れる。

  • 急激な霧視・視力低下:前房出血の量に応じて軽度から光覚まで変動する。最も多い主訴である1)
  • 眼痛・不快感眼圧上昇を伴う場合に認められる。
  • 「眼内の血液」の自覚:患者自身が前房出血に気づく場合がある。
  • 一過性の視力消失:症状が数時間以内に消失し、一過性黒内障と誤認されることがある1)

症状は通常48時間以内に自然消失する1)

細隙灯顕微鏡検査:瞳孔縁の両側性の微小赤色〜赤褐色の結節として認められる。サイズは15〜150マイクロメートルと小さく、虹彩色素が濃い症例では識別に高倍率が必要である1)。複数の微小血管腫が散在することが多い。

虹彩蛍光造影:早期に過蛍光を呈し後期に淡い染色を示すが、明確な染料漏出は認めない。これはルベオーシスとの重要な鑑別点である。臨床検査で確認された虹彩血管房の3分の1のみが虹彩蛍光造影で追加病変として描出されるという報告があり、虹彩蛍光造影は病変の全体像把握に有用である1)

前房出血合併時:22眼のシリーズでは、約半数に少なくとも1回の前房出血があり、3分の1が続発緑内障を発症したとされる1)。血液による線維柱帯閉塞が眼圧上昇の機序である。

病変は後天的に発生すると考えられており、小児での報告例はない1)。虹彩実質血管の発生異常(congenital)か、後天的変性による微小血管増殖かについて議論が続いているが、現在は後天的機序が支持されている。組織学的には、内皮細胞に周皮細胞と疎性結合組織が取り巻く構造で、窓構造(fenestration)を欠く正常な細胞厚を示す過誤腫に相当する1)

特定の全身疾患との関連が報告されており、これらが診断の手がかりとなる。

疾患報告された関連性
筋強直性ジストロフィー患者の約12.5%に虹彩血管房
2型糖尿病患者の約6.7%に虹彩血管房
慢性閉塞性肺疾患複数症例で報告
先天性チアノーゼ性心疾患低酸素血症・静脈うっ滞との関連示唆

筋強直性ジストロフィーとの関連は最もよく知られており、1970年のCobbらの報告が先駆けとなった。高内因性インスリン血症が虹彩新生血管化に関与する可能性が示唆されている1)。ただし、多くの患者に全身疾患は認められない1)

診断は主に臨床的に行われるが、以下の検査が補助となる。

瞳孔縁の微小血管房の確認が基本である。病変は非常に目立たないことがあり、見落としを防ぐために高倍率での観察が必要である。活動性出血や血餅が認められる場合もある。

隅角の評価と、隅角新生血管(ルベオーシス)がないことの確認に有用である。前房出血に対する急性期は再出血リスクがあるため施行を避ける。

診断確定と病変全体像の把握に最も推奨される検査である。病変は早期過蛍光・後期淡染色を呈し、ルベオーシスでみられる明確な漏出は示さない1)。治療前に虹彩蛍光造影を実施することが推奨されている1)

非侵襲的に微小血管内の血流を可視化できる新しい画像技術であり、虹彩血管房の初めての光干渉断層血管造影報告は2017年のKangらによる1)。虹彩蛍光造影の代替として注目されているが、普及にはさらなる研究が必要である。

全血球計算・凝固スクリーニング・尿検査は大部分の症例で正常であるが、自然前房出血の鑑別のために実施が推奨される。糖尿病との関連からfasting blood glucoseおよび経口糖負荷試験も推奨される1)

最も重要な鑑別疾患はぶどう膜メラノーマであり、虹彩蛍光造影と定期的な写真記録による経過観察で除外する1)。その他、ルベオーシス、虹彩血管腫、遺伝性出血性末梢血管拡張症、炎症性虹彩血管が鑑別に挙がる。

Q 診断に細隙灯顕微鏡だけでは不十分ですか?
A

細隙灯顕微鏡で認識された虹彩血管房の3分の1のみが虹彩蛍光造影で追加病変として描出されるという報告がある1)。臨床的に病変が見つかった際には虹彩蛍光造影を補助的に実施することで、病変の全体像を把握し、治療計画を立てるうえで有用である。

大多数の症例では、前房出血がない場合または初回の軽微な前房出血のみの場合、経過観察が推奨される1)。定期的な観察で新たな出血がないかを確認する。

前房出血が生じた場合の急性期管理:

  • 安静・頭部挙上:初期管理として推奨される。
  • 局所副腎皮質ステロイド点眼:炎症反応を軽減し血液房水柵を安定化させる。
  • 毛様体筋麻痺薬点眼(シクロペントラートなど):瞳孔散大により止血を助ける。
  • 眼圧管理:眼圧上昇が生じた場合は房水産生抑制薬(アセタゾラミド、βブロッカー点眼など)を使用する1)

ほとんどの前房出血は数日以内に消失する1)

再発性前房出血または薬物療法に反応しない症例に対して最も一般的に報告されている治療法である1)。IFAをガイドとして実施することが推奨される1)

Sarmadら(2018)はARI 532nm、2バーン、スポットサイズ50μm、0.1秒、400mWのパラメータでアルゴンレーザー光凝固術を実施し、5年フォローアップで再発を認めなかったと報告した1)

レーザー照射パラメータは文献間でばらつきが大きく、最適設定のコンセンサスは確立されていない1)。アルゴンレーザー光凝固術が適応となったのは虹彩血管房眼全体の約9%にすぎず、大多数は経過観察のみで管理されていた1)

レーザー治療後も症状が持続する症例や悪性病変が疑われる場合に検討される。再発がなく悪性所見を臨床的に除外できる利点がある1)

既知の虹彩微小血管腫を持つ患者が眼内手術を受ける場合、術中・術後の前房出血リスクを軽減するため、目立つ血管房への予防的アルゴンレーザー光凝固術照射が考慮されることがある。ただし、アルゴンレーザー光凝固術なしで白内障手術を行い出血なしで終了した報告も存在する1)

6. 病態生理学・詳細な発症機序

Section titled “6. 病態生理学・詳細な発症機序”

虹彩微小血管腫の病態生理は完全には解明されていない。

当初は虹彩血管系の先天的発生異常と考えられていたが、小児での報告例がないことから現在は後天性変性機序が支持されている1)

全身疾患との関連から、以下の機序が示唆されている。

  • 微小血管障害説:筋強直性ジストロフィーに伴う全身的な微小血管障害が虹彩血管に影響を及ぼす。
  • 虹彩組織の低酸素・静脈うっ滞説:慢性閉塞性肺疾患・先天性チアノーゼ性心疾患では、慢性低酸素と静脈うっ滞が虹彩組織の微小血管変化を促進するとされる。Krarupはコンジェニタルチアノーゼを伴う虹彩血管房症例において「局所または全身疾患が存在する状態に共通する因子として、遷延する静脈うっ滞と続発性の虹彩組織低酸素がある」と報告した1)
  • 房水の生化学的変化説:白内障・糖尿病・呼吸不全・眼圧低下などによる房水組成の変化が、虹彩血管房の増殖を誘発するという仮説がある1)
  • 高インスリン血症説:筋強直性ジストロフィー患者では膵β細胞の反応性亢進による高インスリン血症が虹彩新生血管化に寄与する可能性がある1)

組織学的には、内皮細胞が周皮細胞と疎性結合組織に囲まれた、窓構造を持たない(tight junctionが保たれた)正常な細胞厚の血管腫として記述されており、糖尿病性新生血管や病的ルベオーシスとは区別される1)


光干渉断層血管造影は虹彩蛍光造影の非侵襲的代替として期待されている。Kangらが2017年に虹彩微小血管腫の光干渉断層血管造影像を初めて報告した1)。虹彩蛍光造影に比べ、造影剤不要・短い取得時間・3次元視覚化という利点を持つ。ただし普及のためにはさらなる多施設研究が必要である1)

最適レーザーパラメータの確立

Section titled “最適レーザーパラメータの確立”

現行のアルゴンレーザー光凝固術プロトコルは症例報告・小規模シリーズに基づくものがほとんどであり、スポットサイズ・出力・照射時間・照射数の最適設定に関するコンセンサスは確立されていない1)。大規模な前向き研究の必要性が指摘されている。

白内障手術前予防的レーザーの役割

Section titled “白内障手術前予防的レーザーの役割”

虹彩血管房を持つ患者への眼内手術前アルゴンレーザー光凝固術の必要性については相反するデータが存在し、確立した推奨がない1)。さらなる証拠の蓄積が求められている。


  1. Almafreji I, Manton A, Peck FS. Cobb’s Tufts: A Systematic Review. Cureus. 2021;13(12):e20151. DOI:10.7759/cureus.20151

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