膨隆型
外観:ドーム状または球状に膨らんだ色素性の嚢胞。
表面:滑らかで光沢のある内腔が透見される。
位置:瞳孔縁から垂れ下がるように突出し、前房内に露出する。

虹彩小隆起(Iris flocculus)とは、虹彩の瞳孔縁(pupillary border)に生じる先天性の良性嚢胞様病変である。「flocculus」はラテン語で「羊毛の束」を意味する floccus に由来し、その房状の外観を表す。
病変の本体は虹彩色素上皮(iris pigment epithelium; IPE)嚢胞であり、虚脱と再形成のサイクルを繰り返す。このため、膨隆(inflated)した球状あるいは涙滴状の外観と、虚脱(deflated)した平坦または萎縮した外観の両方が観察される。複数の嚢胞が瞳孔縁に沿って整列すると、特徴的なしわ状の房状構造を形成する。
病変は通常良性であり、視力障害を来すことは稀である。ただし、ACTA2(smooth muscle alpha-actin 2)やMYH11(smooth muscle myosin heavy chain)といった平滑筋関連遺伝子の変異との関連が報告されており、これらの変異を持つ患者では生命を脅かす胸部大動脈瘤・解離(TAAD)を発症するリスクがある点が臨床上重要である。
ICD-10コードはH21.5(虹彩嚢胞)に分類される。
比較的稀な疾患であり、孤発性と家族性の両形式が存在する。ACTA2遺伝子変異を持つ患者100人中、虹彩小隆起を有していたのは6人のみであったとする報告があり、変異保有者全体に頻繁に認められるわけではない。
大多数の患者は無症状で経過する。症状が現れる場合、以下が報告されている。
細隙灯顕微鏡検査では、瞳孔縁に沿って整列した両側性の房状突出物が観察される。
膨隆型
外観:ドーム状または球状に膨らんだ色素性の嚢胞。
表面:滑らかで光沢のある内腔が透見される。
位置:瞳孔縁から垂れ下がるように突出し、前房内に露出する。
虚脱型
外観:平坦または萎縮した、しわ状の嚢胞壁。
表面:不規則な皺を呈し、色素の沈着が目立つ。
動態:虚脱と再膨隆を繰り返すため、診察のたびに形態が異なる場合がある。
超音波生体顕微鏡(UBM)では、虹彩から発生する無エコーの嚢胞として描出される。嚢胞が大きい場合、角膜内皮に接触していることがある。前眼部光干渉断層計(AS-OCT)も嚢胞の構造評価に有用である。
合併症として、嚢胞が隅角に達した場合は続発緑内障、角膜内皮との接触が長期に及ぶ場合は限局性角膜浮腫が生じうる。
Reddensらの症例報告では、21歳男性(患者1)と24歳女性(患者2)の兄妹が両側性の虹彩小隆起を呈した。患者1の右眼では大型嚢胞が瞳孔上半を覆い、超音波生体顕微鏡で嚢胞が角膜内皮に接触していることが確認された。患者2は右眼にさらに大きな嚢胞が瞳孔を閉塞し、最良矯正視力は20/50まで低下していた1)。
虹彩小隆起の発生機序は、IPEの2層間が解離することにより嚢胞が形成されるものと考えられている。嚢胞は虚脱と再形成を繰り返し、瞳孔縁に沿った特徴的な形態を呈する。
虹彩小隆起は通常孤発性であるが、家族性の変異も報告されている。以下の遺伝子との関連が報告されている。
Reddensらの症例では、患者1・2の両名と生物学的母親においてACTA2遺伝子病的変異(c.445C>T, p.Arg149Cys)が同定された。この変異はTAAD、早発性冠動脈疾患、虹彩小隆起、リベド・レティキュラリスを特徴とする家族に繰り返し報告されているものである1)。
患者2には皮膚の網状青斑(リベド・レティキュラリス)が認められた。これはACTA2変異の補助的な臨床徴候として有用である1)。
ACTA2変異による大動脈イベントの総合的な浸透率は約48%とされ、85歳までの大動脈イベント累積リスクは推定75%に達するという報告がある1)。
必ずしもそうではないが、ACTA2またはMYH11遺伝子の変異と虹彩小隆起の関連が報告されており、これらの変異は大動脈瘤や大動脈解離のリスクを高める。虹彩小隆起を認めた場合は心臓評価と遺伝子検査を考慮すべきである。Reddensらの症例でも兄妹のうち妹にのみ大動脈弁異常が認められており、同一変異でも表現型は異なる可能性がある1)。
診断は細隙灯顕微鏡による直接観察が基本である。瞳孔縁に沿った両側性の房状構造の確認、膨隆型と虚脱型の経時的変化の確認が鍵となる。
ACTA2を含む15遺伝子パネルによる検査が行われる。Reddensらの症例ではAccreditation CanadaおよびACMGガイドラインに準拠した認定臨床検査室でのパネル検査が実施された1)。
経胸壁心エコー検査による大動脈弁・上行大動脈の評価が推奨される。Reddensらの症例では、患者2において左右冠尖の癒合を伴う二尖弁大動脈弁と上行大動脈の軽度拡張(3.4 cm)が発見された1)。
| 疾患 | 特徴 | 鑑別ポイント |
|---|---|---|
| 虹彩色素上皮嚢胞 | 虹彩根部に多い | 位置・形態で鑑別 |
| 虹彩実質嚢胞 | 外傷・手術後に多い | 病歴・超音波生体顕微鏡で鑑別 |
| Lisch結節 | 神経線維腫症1型 | 全身所見・固形結節 |
| 虹彩メラノーマ | 固形・増大傾向 | 形態・増大速度 |
臨床診断自体は細隙灯顕微鏡所見で可能であるが、ACTA2やMYH11遺伝子の変異の有無を確認するため、遺伝子検査は全例に考慮することが推奨されている。変異が確認された場合は本人および家族への心臓評価と遺伝カウンセリングが必要である1)。
視覚症状のない症例では経過観察が原則である。前房出血・角膜混濁・眼炎症・眼圧上昇がなければ、6ヵ月ごとの眼科的フォローアップが1つの目安とされている。嚢胞は自然に変動することがあり、自然消退する場合もある。
視覚症状を来した場合、または超音波生体顕微鏡で角膜内皮への接触が確認された場合に介入を考慮する。治療の選択肢は侵襲の低いものから高いものへの段階的アプローチが推奨されている。
Nd:YAGレーザーは、最も侵襲が少ない治療法として位置づけられる。嚢胞壁を破砕・縮小させることで視覚症状の改善が得られる。Reddensらの症例では、単発セッション(エネルギー:1.0 mJ、シングルショット)で最大嚢胞の壁を破砕し、直後から嚢胞縮小と視力改善が得られた。術後眼圧スパイクは認めなかったが、前房内への色素散布が観察された。2年間のフォローアップで安定を維持した1)。
Reddensら(2025)の2例では、Nd:YAGレーザー治療後、患者1・2ともに視覚的な不快感が改善し、患者2の右眼矯正視力は20/50から20/25に向上した。2年間フォローアップ時点で再発は認められなかった1)。
レーザーが奏効しない場合や隅角圧迫・角膜混濁が進行した場合に、細針吸引または外科的切除が検討される。
ACTA2変異が確認された患者は、患者年齢に応じた診断フローチャートに基づき、少なくとも年1回の心臓画像検査が推奨されている1)。
虹彩小隆起の本体は虹彩色素上皮(IPE)嚢胞であり、IPEの2層間(前上皮細胞層と後上皮細胞層)が解離することで嚢胞腔が形成される。嚢胞は虚脱と再形成を繰り返すため、同一患者でも観察時期により外観が異なる。
ACTA2遺伝子は血管平滑筋のα-アクチンをコードし、虹彩括約筋および大動脈壁の平滑筋機能に関与する。MYH11はミオシン重鎖をコードし、収縮・弛緩機能ユニットを制御する。これらの遺伝子の変異は、虹彩平滑筋の収縮機能不全を引き起こすとともに、大動脈壁の構造的脆弱性をもたらすと考えられている。
前者が虹彩小隆起・調節障害・先天性散瞳の眼科的症状を、後者が胸部大動脈瘤・解離(TAAD)・早発性冠動脈疾患・動脈管開存症などの心血管系異常を生じさせる。
Reddensら(2025)の症例では、同一のACTA2病的変異(c.445C>T, p.Arg149Cys)を持つ兄妹において、妹のみに大動脈弁異常(二尖弁大動脈弁・軽度上行大動脈拡張)が認められた。同一変異でも表現型が異なる原因として、未同定の他の遺伝子変異の関与が示唆された1)。
また、患者2においてFBN2遺伝子の意義不明変異(c.6439G>A, p.Asp2147Asn)が同定されたが、その臨床的意義は不明である1)。
同一ACTA2変異(例:p.Arg149Cys)でも、大動脈変化の有無や重症度が家族内でも異なることが示されており、修飾遺伝子の探索が続いている。MYH11やその他の遺伝子が表現型の多様性に関与する可能性がある1)。
虹彩小隆起を持つすべての患者に対して、大動脈変化の有無を評価するスクリーニングを行うべきであるとする意見が強まっている。欧州希少血管疾患参照ネットワーク(VASCERN)は、ACTA2病的変異患者に対する管理のコンセンサス声明を発表している1)。
Nd:YAGレーザーを用いた長期管理のデータは限られており、大規模な症例シリーズが必要とされている。既存の報告では2年以上の安定が示されているが1)、再発時の追加治療に関するプロトコルは確立されていない。