カルシウム沈着
好発素材:親水性アクリルIOL
外観:光学部表面〜内部のリン酸カルシウム沈着による白濁化。挿入後約5年で発症する。
視機能への影響:高度。IOL摘出交換の適応となることが多い。

眼内レンズ(IOL)混濁は、白内障手術で挿入されたIOLの光学部が術後に混濁する現象である。IOL混濁は1990年代から報告されている。摘出・交換されたIOLの約200例に1例の割合で認められる5)。
IOLの素材により混濁パターンが異なる。
混濁の発症時期は術中・術後早期(数時間〜数日)・術後晩期(数ヶ月〜数年)に分類される。IOL混濁が後嚢混濁(PCO)と誤診されると、不必要なNd:YAGレーザー後嚢切開術や硝子体切除術が行われ、合併症を招く可能性がある。
親水性アクリルIOLが石灰化による混濁を最も起こしやすい。疎水性アクリルIOLではグリスニングが生じうるが、視機能への影響は軽度であることが多い。現在販売されている製品では製法改良により発生頻度は低下している。
IOL混濁は緩徐に進行するため、初期は無症状のことが多い。
高倍率での細隙灯顕微鏡検査が診断の鍵である。混濁パターンはIOL素材により異なる。
カルシウム沈着
好発素材:親水性アクリルIOL
外観:光学部表面〜内部のリン酸カルシウム沈着による白濁化。挿入後約5年で発症する。
視機能への影響:高度。IOL摘出交換の適応となることが多い。
グリスニング
好発素材:疎水性アクリルIOL
外観:光学部内部に1〜20 μmの液体充填微小空胞が出現する。水相分離現象が本態である。
視機能への影響:多くは軽度。網膜機能が低下した症例では影響が出ることがある。
SSNG
好発素材:疎水性アクリル(アクリソフ®に散見)
外観:光学部内表層に約100 nmの微小水相分離が生じ白濁して見える。
視機能への影響:少ないが経年的に混濁が増加する。
前眼部光干渉断層計(AS-OCT)は石灰化の存在・位置・密度の検出に有用である。
IOL混濁の原因は多因子的であり、IOL素材の特性・眼局所因子・全身因子・医原性因子が複合的に関与する。
角膜内皮移植術(DSAEK・DMEK)や硝子体手術後のIOL混濁は近年特に注目されている。
Belinら(2021)は262眼の強膜固定Akreos AO60 IOLを後方視的に検討し、全体の混濁発生率は2%(5/262眼)であったが、DSAEK施行例に限ると25%(4/16眼)と有意に高率であったことを報告した(P<0.01)6)。混濁を生じた5眼すべてが眼内ガスまたは空気に曝露されていた。
Aguilera Zúñigaら(2025)は、DMEK後の親水性IOL混濁率が約9%に達し、親水性IOL素材は疎水性に比べ65倍のリスクを有すると報告した4)。リバブリング(再気泡注入)は独立したリスク因子であり、混濁IOLの約3分の1が最終的に摘出を要した。
親水性アクリルIOLは眼内ガス曝露後に石灰化するリスクが高い。将来的にDSAEKやDMEK、ガスタンポナーデを伴う硝子体手術の可能性がある場合は、疎水性アクリルIOLの選択が推奨される6)。
高倍率での細隙灯顕微鏡検査が最も重要である。IOL光学部表面の粒状変化や混濁の有無を注意深く観察する。
主な診断のポイントは以下の通りである。
摘出IOLの精密解析により確定診断が可能である。
| 検査法 | 検出対象 |
|---|---|
| アリザリンレッド染色 | IOL表面のカルシウム |
| フォン・コッサ染色 | IOL内部のリン酸カルシウム |
| 走査型電子顕微鏡(SEM)+EDX | 結晶構造と元素分析 |
Gartaganisら(2023)はCarlevale親水性IOLの摘出検体をSEM-EDXで解析し、前面にヒドロキシアパタイト(HAP)結晶の密な層(約10 μm厚)を確認した1)。HAP形成はイオン(Ca²⁺, PO₄³⁻, OH⁻)の親水性ポリマー内への拡散によるものであった。
Alferayanら(2026)はジャイレート萎縮患者のIOLからロゼット型スノーフレーク沈着物を報告し、フォン・コッサ染色陽性・偏光下で複屈折を示すシュウ酸カルシウム結晶を確認した5)。リン酸カルシウムではなくシュウ酸カルシウムの沈着はIOL混濁として初めての報告であった。
IOL混濁はIOL光学部そのものの変化であり、高倍率の細隙灯顕微鏡検査でIOL表面または内部に粒状〜白濁の変化を認める。後嚢混濁はIOL後方の後嚢に生じる混濁であり、Elschnig真珠や線維性変化として観察される。誤診を防ぐため、散瞳下での慎重な観察が重要である。
視機能に影響を及ぼすIOL混濁に対する唯一の根本的治療はIOL摘出交換である。カルシウム沈着による高度の混濁は摘出交換の明確な適応となる。グリスニングおよびSSNGは視機能への影響が軽度であることが多いが、高度に進行した症例では摘出交換が奏効する場合がある。
IOL摘出交換は煩雑な手術であり、以下の合併症リスクを伴う。
IOL交換の33%で前部硝子体切除術が必要となる。事前にNd:YAGレーザー後嚢切開術が行われている場合、この割合は48%に上昇し、嚢内固定さえ困難となることがある。
BAB破綻が疑われる症例では、再石灰化を防ぐため疎水性素材のIOLを選択する。
Gartaganisら(2023)はWagner症候群を合併した親水性Carlevale IOL石灰化例において、摘出後にPMMA製前房IOLに交換し、術後3ヶ月で矯正視力20/25を達成した1)。疎水性素材では石灰化の報告がないことが選択の根拠であった。
Maguireら(2024)はEhlers-Danlos症候群患者において、石灰化した親水性Akreos Fit IOLを3ピース疎水性毛様溝IOLに交換し、術後2週間で矯正視力6/10を得た2)。
トリアムシノロンアセトニド(TA)粒子によるIOL被覆など、一過性の混濁は自然消退することがある。
Kumarら(2024)は硝子体内TA注射後に前房IOLがTA粒子で被覆された症例を報告した3)。保存的観察で3週間以内にIOLは清明化し、嚢胞様黄斑浮腫も消退した。後嚢欠損やチン小帯脆弱がある眼ではTA粒子の前房への移行リスクがある。
親水性IOL留置眼でDMEKが必要な場合、ガス曝露による石灰化を防ぐ戦略が検討されている。
Aguilera Zúñigaら(2025)はDMEK時に反転した有水晶体後房レンズ(有水晶体眼内レンズ)を前房内に一時的に留置し、ガスタンポナーデとCarlevale IOLとの直接接触を遮断する手法を世界で初めて報告した4)。有水晶体後房レンズは2週間後に合併症なく摘出され、6ヶ月後もIOLの光学的透明性は維持された。矯正視力はlogMAR 1.00から0.22に改善した。
親水性アクリルIOLの石灰化は、ポリマー表面の官能基(-OHおよび-COOH)がリン酸カルシウムの核形成を促進することで生じる1)。房水中のCa²⁺およびPO₄³⁻イオンが親水性ポリマー内に拡散し、ヒドロキシアパタイト(HAP; Ca₅(PO₄)₃OH)として結晶化する。
Neuhannらの分類では石灰化は3群に分けられる。
Gartaganisら(2023)のSEM-EDX解析では、Carlevale IOLの前面に厚さ約10 μmのHAP結晶密集層が確認された1)。HAP形成は後面から約60 μmの深さまで到達していたが、後面直下にはHAP層は認められなかった。同症例ではIOLの逆挿入により虹彩色素上皮の機械的擦過がBAB破綻を促進し、Wagner症候群による血液網膜関門の障害が石灰化を加速した可能性が示唆された。
DSAEK・DMEK時の前房内空気注入や、硝子体手術時のSF₆ガスがIOLに直接接触すると脱水が生じ、化学的変化を経てカルシウムとリン酸が露出部位に沈着する6)。このため、ガス曝露後の石灰化は光学部中央に限局する特徴がある。
疎水性アクリルIOLでは、生体内で温度上昇に伴いポリマー内の含水率が増加するが、温度低下時に余剰水分がポリマー内の空洞(void)に貯留する。この水相分離現象がグリスニングの本態である。光散乱や網膜浮遊光を引き起こす。
グリスニングよりも微小な水相分離(約100 nm)が光学部内表層に生じ、光の反射・散乱により白濁して見える。SSNGとも呼ばれ、疎水性アクリル素材であるアクリソフ®に散見される。
Alferayanら(2026)はジャイレート萎縮患者のIOLにシュウ酸カルシウムのロゼット型結晶沈着を報告した5)。ジャイレート萎縮ではOAT酵素欠損によりオルニチンが房水中にも高濃度で蓄積し、房水の化学的組成を変化させてシュウ酸カルシウムの析出を促進した可能性がある。リン酸カルシウムではなくシュウ酸カルシウムの沈着はIOL混濁として初の報告である。
Aguilera Zúñigaら(2025)は、親水性Carlevale IOL留置眼でDMEKを施行する際、反転した有水晶体後房レンズ(-0.5 D、12.1 mm)を前房内に一時的に留置する手法を報告した4)。有水晶体後房レンズはSF₆ 20%ガスタンポナーデとIOLとの接触を遮断するバリアとして機能した。2週間後に有水晶体後房レンズを摘出し、6ヶ月後もDescemet膜移植片は接着良好、IOLの光学的透明性は維持されていた。IOL交換のような追加的な外科的侵襲を回避しつつ、十分なタンポナーデを保持できる点が利点である。ただし、有水晶体後房レンズの追加コストと摘出のための再手術が必要であり、長期的な安全性データの蓄積が課題である。