周辺部所見
周辺部角膜浮腫:初期に輪部を含む下方周辺部から始まり、全周性に進行する。上方角膜は一般に温存されるが、発症時に上方から浮腫を生じた稀な例もある。
褐色〜オレンジ色の内皮色素沈着:浮腫領域の角膜内皮に特徴的な色素沈着を認める。虹彩震盪による断続的な内皮外傷が原因と考えられる。
虹彩萎縮:角膜浮腫領域の直下にある虹彩の萎縮が報告されている。

ブラウン・マクリーン症候群(Brown-McLean syndrome)は、周辺部(輪部から2〜3mm)の下方角膜に浮腫が生じ、全周性に進行する疾患である。中央角膜はほとんどの症例で温存される。
1969年にBrownとMcLeanにより「白内障摘出後の周辺部角膜浮腫」として初めて報告された。その後、本疾患として命名され現在に至る。
比較的稀な疾患であり、古典的には水晶体嚢内摘出術(intracapsular cataract extraction; ICCE)後の無水晶体眼に多く報告される。術後平均6〜16年を経て発症することが知られている。患者の多くは高齢者だが、12歳という若年での報告例もある。
強度近視(high myopia)をブラウン・マクリーン症候群に伴う症例があり、その有病率は40〜61%に及ぶとの報告がある。
術後平均6〜16年と長期の潜伏期間を経て発症する。そのため、白内障手術の既往を持つ高齢患者の外来診察では、遠い術後であっても周辺部角膜の状態を確認することが重要である。
通常は無症状である。症状が出現する場合は以下が多い。
細隙灯顕微鏡検査が診断の中心となる。特徴的な所見を以下に示す。
周辺部所見
周辺部角膜浮腫:初期に輪部を含む下方周辺部から始まり、全周性に進行する。上方角膜は一般に温存されるが、発症時に上方から浮腫を生じた稀な例もある。
褐色〜オレンジ色の内皮色素沈着:浮腫領域の角膜内皮に特徴的な色素沈着を認める。虹彩震盪による断続的な内皮外傷が原因と考えられる。
虹彩萎縮:角膜浮腫領域の直下にある虹彩の萎縮が報告されている。
中央部・全体所見
中央角膜の透明性維持:中央部には滴状角膜(guttae)はほとんど認められず、内皮細胞密度は正常に保たれる。1)
虹彩震盪(iridodonesis):無水晶体眼に多く認められ、断続的な内皮外傷の原因となる。
隅角の色素沈着:隅角鏡検査では広く深い隅角と、線維柱帯のさまざまな程度の色素沈着を認める。
角膜中央部の厚みは正常(例: 541μm)に保たれる一方で、浮腫を生じた周辺部(鼻側・耳側)は700μmを超える肥厚を示すことが報告されている。1)
眼圧上昇に伴う一過性の中央部角膜腫脹が認められることもあるが、持続的な中央部浮腫は稀であり重症例に限られる。
移植角膜でブラウン・マクリーン症候群を発症した場合は、色素と浮腫がドナー角膜の中央寄りから始まり、グラフトとホストの接合部の手前に色素のない周辺帯が存在することが確認されている。
中央角膜が温存されるため、多くの場合は視力への影響が軽微である。ただし、未治療のまま進行して中央角膜の代償不全が生じると角膜移植が必要となることもある。また、合併した上皮水疱が破裂すると感染性角膜潰瘍のリスクが生じる。
ブラウン・マクリーン症候群の病態生理は依然として未解明である。当初は潜在的な角膜内皮ジストロフィとの関連が疑われていたが、原因となる特定のジストロフィや遺伝子は特定されていない。親族内での発症例が確認されていることから遺伝的素因の可能性も示唆されている。2)
主なリスク因子・関連術式は以下の通りである。
ブラウン・マクリーン症候群の発症に内皮外傷が必ずしも必要ではないことも示されており、超音波生体顕微鏡(UBM)検査で虹彩角膜接触が認められない症例や、虹彩切除術を施行していても発症した症例が存在する。2)
診断は細隙灯顕微鏡検査による臨床所見と病歴の組み合わせによる。水晶体嚢内摘出術などの内眼手術歴や、非術後疾患(水晶体亜脱臼など)の既往がある患者に下方周辺部から全周性に広がる角膜浮腫を認めた場合、ブラウン・マクリーン症候群を疑う。
| 検査 | 主な所見 |
|---|---|
| 細隙灯顕微鏡 | 周辺部浮腫・内皮色素沈着 |
| スペキュラーマイクロスコピー | 中央内皮正常・周辺内皮減少 |
| AS-OCT | 周辺角膜肥厚・中央正常厚 |
スペキュラーマイクロスコピー(角膜内皮細胞検査):中央部角膜の内皮細胞数と形態は正常に保たれる。周辺部角膜の内皮は細胞数の減少や形態の変化を認めることが多いが、正常な場合もある。広域スペキュラーマイクロスコピーによりパノラマ像を取得すると、浮腫域と非浮腫域の境界まで高密度の細胞が均一に分布していることが確認されている。1)
生体内共焦点顕微鏡(In vivo confocal microscopy):周辺部角膜では角膜神経の肥大、ボウマン層の線維化、基底上皮の不規則な形状・サイズが認められることがある。中央部角膜の内皮は概ね正常で、後部実質に大型の角膜細胞や太い角膜神経を認めた報告がある。
前眼部光干渉断層計(AS-OCT):周辺部角膜の肥厚を定量的に評価できる。例として周辺部700μm超、中央部541μmという著明な差が記録されている。1)
シャインプルーフ画像(Scheimpflug imaging):周辺部角膜の肥厚と中央部の正常な厚みを同時に確認できる。
電子顕微鏡:ブラウン・マクリーン症候群の周辺部角膜ではデスメ膜に異常な後部コラーゲン層と破壊された内皮細胞が認められる。走査型電子顕微鏡では正常な内皮と病的な内皮の間に明確な境界線がみられることがある。
隅角鏡検査:隅角は広く深く、線維柱帯にはさまざまな程度の色素沈着を認める。下方角膜浮腫を呈する眼では、隅角鏡検査で異物や残存水晶体物質の有無を確認することも重要である。
Fuchs角膜内皮ジストロフィでは中央角膜に滴状角膜(guttae)が生じて中央部から浮腫が始まるのに対し、ブラウン・マクリーン症候群では中央角膜に滴状角膜はほとんど認められず、浮腫は周辺部下方から始まる。内眼手術の既往歴もブラウン・マクリーン症候群診断の重要な手がかりとなる。
ブラウン・マクリーン症候群の大多数の症例は保存的治療に反応する。
また、周辺部角膜浮腫があってもコンタクトレンズの装用が良好に許容される場合があることが示されている。
難治例や症状が顕著な場合、手術が検討される。
環状羊膜移植術(annular amniotic membrane transplant):ブラウン・マクリーン症候群に続発する上皮水疱の再発例に対し、2つの異なる直径のトレパンを用い、羊膜の基底膜側を上にして配置する環状羊膜移植術が有効とされる。中央の視力を維持しながら水疱を治療できる。
前部角膜実質穿刺(anterior stromal puncture):23Gまたは25G針を用いて行う。コラーゲン発現を誘導し、上皮細胞の接着性と上皮下線維化を改善することで、角膜上皮への水分の浸入を阻止する機能を高める。
前房内眼内レンズの摘出:前房内眼内レンズに関連したブラウン・マクリーン症候群では、前房内眼内レンズの摘出により角膜浮腫が解消されることが多い。
角膜移植:未治療のまま中央角膜の代償不全が生じた症例では、最終的に角膜移植が必要になる場合がある。
ブラウン・マクリーン症候群の病態生理は依然として不明な点が多い。現在、いくつかの仮説が提唱されている。
ブラウン・マクリーン症候群では、中央部の角膜内皮細胞(CEC)が高密度を維持する一方で、周辺部の内皮が障害される。通常、Fuchs角膜内皮ジストロフィでは中央部から内皮細胞数の減少・肥大化が始まり、周辺部へ向かうと考えられていた。1) これに対してブラウン・マクリーン症候群では、周辺部の内皮が選択的に障害されながら、中央部の高密度な内皮が長期にわたり安定するという逆のパターンを示す。
12年間の長期経過観察例では、中央部CECは初診時2,499 cells/mm²から12年後2,456 cells/mm²へとほぼ変化がなく、年間減少率はわずか0.09%にとどまった。1)
この特異な分布を説明する仮説として、以下が提唱されている。1)
角膜内皮疾患の遺伝的素因に内皮への外傷が加わることがブラウン・マクリーン症候群発症の原因であるという推測もある。虹彩震盪(iridodonesis)が断続的な内皮外傷を引き起こし、特に周辺部内皮を選択的に障害すると考えられている。
超音波生体顕微鏡検査で虹彩角膜接触が認められない場合もあり、内皮外傷が必ずしもブラウン・マクリーン症候群の発症に必要ではないことも示されている。
角膜内皮障害が進行して内皮のポンプ機能やバリア機能が閾値を下回ると、角膜実質の含水率が上昇して浮腫が生じる。ブラウン・マクリーン症候群では、この障害が周辺部に限局するという点が特徴的である。
現時点では明確な答えはない。中央部と周辺部の境界に生物学的なバリア(Schwalbe線様構造)が形成された可能性、または内皮細胞が遠心方向(中央→周辺)への移動を行いにくい性質を持つ可能性が提唱されている。1) この謎を解明することは、角膜内皮疾患の新たな治療開発につながる可能性がある。
12年間の長期経過観察から、ブラウン・マクリーン症候群では中央と周辺の境界に生物学的バリアが形成されている可能性が示唆されている。1) この仮説が確認されれば、同様の機械的バリアを意図的に作成する治療アプローチが検討されうる。これは、角膜内皮疾患全般の理解と治療法開発に新たな視点をもたらす可能性がある。
Tomioka ら(2024)は、京都府立医科大学における12年間の長期経過観察例を報告した。1) スリット走査型広域接触型スペキュラーマイクロスコピーを用いたパノラマ像により、浮腫域と非浮腫域の境界直前まで中央部と同等の高密度CECが均一に分布していることが確認された。年間中央部CEC減少率0.09%という極めて安定した経過は、ブラウン・マクリーン症候群における独自の内皮細胞動態の存在を示唆するものである。
ホモシスチン尿症のような代謝疾患を持つ患者では、水晶体亜脱臼・無水晶体化後にブラウン・マクリーン症候群が発症しうることが報告されている。2) このような全身疾患合併例での診断・経過観察プロトコールの確立が今後の課題とされている。
Alenezi ら(2021)は、中東で初めてホモシスチン尿症合併例のブラウン・マクリーン症候群を報告した。2) 29歳男性で、両側水晶体亜脱臼に対する硝子体切除・水晶体切除術から22年以上を経て左眼に発症。5%NaCl軟膏での保存的治療で矯正視力が20/160から20/80に改善した。また、大きな下方虹彩切除術が存在しても下方周辺部浮腫の発症を防がなかったことは、上方虹彩切除術の保護的役割という従来の仮説を否定する重要な知見である。
Tomioka Y, Tanaka H, Sotozono C, Kinoshita S. A comprehensive long-term follow-up study of Brown-McLean syndrome. Am J Ophthalmol Case Rep. 2024;36:102146.
Alenezi SH, Alrefaie SM, Alreshidi SO, ALBalawi HB, Osorio HM. Brown-McLean syndrome in an aphakic patient with homocystinuria: The first reported case in middle east. Saudi J Ophthalmol. 2020;34:300-302.