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白内障・前眼部

白内障手術時における乱視矯正

1. 白内障手術時における乱視矯正とは

Section titled “1. 白内障手術時における乱視矯正とは”

乱視(astigmatism)は、角膜または水晶体の曲率が経線(meridian)によって異なることで生じる屈折異常である。単独で存在するほか、近視遠視と重複することも多い。

眼全体の乱視(全屈折乱視)は角膜乱視と水晶体乱視の合計である。白内障(水晶体混濁)の摘出によって水晶体乱視は消失するため、術後の乱視は基本的に角膜乱視のみとなる。そのため、術前の屈折乱視は乱視矯正計画の参照値として用いられない。

乱視の有病率と臨床的意義

白内障手術を受ける患者を対象とした系統的レビューでは、47%の眼に1.0D以上の既存角膜乱視が存在することが明らかになっている。世界各国のデータでは、軽度乱視(1.5D未満)の有病率は74.6〜89.6%、中等度乱視(1.5〜2.5D)は8.1〜14.9%、高度乱視(2.5D超)は2〜6.8%である。

未矯正乱視が0.75Dで視力20/25(約0.8)に、1.5Dで20/40(約0.5)に低下する可能性がある。一般的に、白内障手術時の乱視矯正の目標は術後残余乱視を0.5D以下にすることである。

Q なぜ白内障手術と同時に乱視矯正を行うのか?
A

白内障手術は眼内レンズ(IOL)を挿入する機会でもあり、トーリックIOL選択や角膜切開の工夫により追加の侵襲なく乱視矯正が可能である。未矯正乱視は術後の眼鏡依存につながり、患者の生活の質と経済的負担に影響する。

乱視による視覚症状は程度によって異なる。

  • 霧視・歪み視:遠近ともに焦点が合いにくく、像が伸びたり歪んで見える。
  • 視力低下:特に0.75D以上の乱視では矯正なしの視力が低下する。
  • ハロー・グレア:夜間光源の周囲に光の輪や放射状の光芒が出現する。多焦点IOL使用例では乱視が残存すると増悪しやすい1)
  • 眼精疲労・頭痛:不十分な乱視矯正のまま視作業を続けると生じる。
  • 眼鏡依存:術後に眼鏡なしで快適な視力が得られない状態は、患者満足度の低下に直結する1)

乱視の分類

角膜乱視は2つの主経線(principal meridians)の関係性に基づいて分類される。

正乱視

直乱視(WTR):急峻な経線が垂直方向(60〜120度)にあるもの。若年者に多い。

倒乱視(ATR):急峻な経線が水平方向(0〜30度・150〜180度)にあるもの。加齢に伴い増加する。

斜乱視:急峻な経線が水平・垂直のいずれから30度以上離れたもの(31〜59度・121〜149度)。

不正乱視

不規則パターン:2つの主経線が直交しない(90度離れない)乱視。

原因円錐角膜・角膜瘢痕・翼状片・角膜手術後・眼表面疾患など。

特徴:円柱レンズでは完全矯正不可。トーリックIOLの適応外となる。

角膜乱視の多くは先天的な角膜形状の非対称性による。白内障手術前に1.0D以上の角膜乱視を認める患者は約1/3程度とされる。

加齢と乱視の変化

乱視の方向は加齢とともに変化する。若年〜中年では直乱視(WTR)が多いが、高齢者では加齢に伴い倒乱視(ATR)へのシフトが生じる2)。これにより、白内障手術を受ける高齢患者では倒乱視が相対的に多くなる傾向がある。

術後乱視の原因

  • 術前の角膜乱視:最も主要な原因。白内障手術前に1D以上の角膜乱視が認められる症例はトーリックIOLの良い適応である。
  • 切開創の影響:近年の小切開白内障手術(超音波水晶体乳化吸引術)では惹起乱視はきわめて少なく、臨床上無視できることが多い。水晶体嚢外摘出術・後嚢破損チン小帯断裂による創口拡大例では術後乱視を惹起しやすい。

正確な角膜乱視の計測が、適切な矯正法選択と良好な術後成績の基盤となる。

角膜曲率測定(ケラトメトリー)

オートレフケラトメータ・IOLマスター700(Zeiss)・Lenstarなどの光学式バイオメータが標準的に使用される。これらは角膜乱視の量と軸を測定し、IOL度数計算に供される。

角膜トポグラフィ

角膜前面の2次元形状マップを作成する。バイオメータで得られた角膜乱視データの検証と、正乱視・不正乱視の鑑別に用いる。トーリックIOLは正乱視のみを矯正するため、不正乱視の有無を確認するために重要な検査である。

角膜トモグラフィ(Scheimpflug 撮影)

角膜前後面の三次元解析が可能であり、後部角膜乱視(PCA)の実測値が得られる。PCAの高い症例(0.5D以上)では、TCAを用いたトーリックIOL計算が推奨される2)

測定機器計測対象備考
オートレフケラトメータ前部角膜乱視スクリーニング
光学式バイオメータ前部角膜乱視・眼軸長IOL計算の標準機器
Scheimpflug撮影前後部角膜乱視(TCA)高PCA症例に推奨

軸マーキング

トーリックIOLの正確な軸合わせのため、術前マーキングが必須となる。

  • 手動マーキング:患者を座位にして細隙灯顕微鏡またはフリーハンドで輪部にマーキングする。下方1点・水平方向2点など複数のバリエーションがある。横臥時に生じる眼球回旋(サイクロトーション)を避けるため、必ず座位で行う。
  • 画像誘導(デジタル)マーキング:術前撮影した虹彩・輪部画像と手術顕微鏡映像を照合して軸を自動決定する。手動マーキングに比べ軸ずれが少ない可能性があるが、最終的な視機能・屈折結果に臨床的に有意な差はないとされる(ESCRS ガイドライン、GRADE +)。
Q なぜ術前マーキングを座位で行うのか?
A

仰臥位になると眼球が数度〜十数度回旋する(サイクロトーション)。座位でマーキングしておかないと、仰臥位での手術時にトーリックIOLの軸合わせが不正確になり、残余乱視が増加する。

白内障手術時の乱視矯正には複数の方法があり、術前乱視量・乱視の種類・眼の状態・術者の経験・費用に基づいて選択する。

トーリックIOL(乱視矯正眼内レンズ)

Section titled “トーリックIOL(乱視矯正眼内レンズ)”

原理と適応

角膜の強主経線とIOLの弱主経線を一致させ、角膜乱視を相殺する仕組みである。IOL面での円柱度数は1.5〜6.0Dに対応し、角膜面では0.75〜4.75Dの乱視矯正が可能である。

1.0D以上の正乱視に対してトーリックIOLを考慮すべきであり、2.0D超では強いエビデンス(ESCRS ガイドライン、GRADE ++)が支持する。

メタ解析(13試験)では、トーリックIOLは非トーリックIOL(切開あり・なし含む)と比較して術後裸眼遠見視力(UDVA、logMAR)を有意に改善し(平均差 -0.07、95% CI -0.10〜-0.04)、20/25以上を達成できないリスクを低減することが示されている。また、2016年の系統的レビュー・メタ解析でも、角膜弛緩切開との比較においてトーリックIOLが最も残余乱視量を低減することが示された4)

日本国内で2022年現在使用可能なトーリックIOLとしては、Vivinexトーリック・テクニス®トーリックII・アクリソフ™IQトーリック・Clareon™トーリックの4種類がある(多焦点トーリック除く)。

軸ずれによる矯正効果への影響

1度の軸ずれごとに矯正効果は約3.3%低下する。30度の軸ずれで矯正効果はほぼ消失し、さらに大きな軸ずれでは非トーリックIOLより術後視機能が低下する可能性がある。IOL回転は術後1時間〜翌日の早期に生じやすく、術終了時に囊内固定が安定していることが重要である。

軸ずれの危険因子

  • 長眼軸長眼(IOLパワーが低く光学部が薄い)
  • 大きい水晶体嚢
  • CCCの形状と術後変化
  • 前房内圧の不安定

長眼軸長眼ではIOL回転予防のため水晶体嚢拡張リング(CTR)の同時挿入が有効との報告がある。

禁忌

不正乱視(円錐角膜・角膜瘢痕・角膜拡張症)、チン小帯脆弱・断裂、後嚢破損、散瞳不良、重度のドライアイバックリングを伴う硝子体網膜手術・緑内障インプラント既往はすべて相対的禁忌である。

輪部減張切開術(LRI)と反対側透明角膜切開(OCCI)

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原理と適応

輪部減張切開術(limbal relaxing incision;LRI)は、角膜の急峻経線に対して減張切開を加え、角膜を弱弯化させて乱視を矯正する方法である。最大3.0Dの矯正が可能だが、予測性が最も高いのは1.5Dまでとされる。トーリックIOLが禁忌の場合(後嚢破損・チン小帯不安定性など)にも使用できる利点がある。

反対側透明角膜切開(OCCI)は0.75D以下の乱視に対してコスト効率の良い選択肢である。

LRIとOCCIを対象とした系統的レビューでは、平均矯正指数(correction index)は0.77±0.18(範囲0.39〜1.0)で低矯正傾向があることが示されている。LRI群の平均矯正指数は0.82±0.13、OCCI群は0.69±0.22であり、両群間に統計的有意差はなかった(p=0.17)。平均角膜乱視は術前1.86±0.53Dから術後1.04±0.48Dへ、平均屈折乱視は1.96±0.62Dから0.98±0.36Dへと有意に減少した(p<0.01)。

手術計画

切開の位置(光学領域)・長さ・深さにより矯正効果が決まる。各種ノモグラム(Johnson & Johnson社のLRI計算機など)または専用ウェブソフトで設定値を決定する。角膜厚の90%の深さで行うことが推奨される。

禁忌

角膜拡張症・周辺部菲薄化・進行したドライアイは慎重適応である。

フェムトセカンドレーザー弧状切開(FLACS-AK)

Section titled “フェムトセカンドレーザー弧状切開(FLACS-AK)”

原理と特徴

フェムトセカンドレーザーを用いて弧状角膜切開(arcuate keratotomy;AK)を行う方法である。前眼部OCTの測定結果に基づきレーザー照射デザインを設計するため、ダイヤモンドナイフによる手動切開より切開精度と深度の均一性が高い。

系統的レビューでは、手動弧状切開とフェムトセカンドレーザー弧状切開は安全性・有効性において同等の視機能・屈折結果を示し、屈折安定性は両法とも術後3ヶ月で達成されると報告されている。

Phamら(2025)は34眼を対象に5年間追跡したコホート研究で、フェムトセカンドレーザー弧状切開と白内障手術の同時施行により、術前平均角膜乱視1.63±0.886Dが術後3ヶ月に0.53±0.628Dへ有意に低下し(p=0.001)、その後5年間にわたって安定(5年後0.55±0.624D、p>0.05)することを示した3)

同研究では術後3ヶ月以降にUDVAが20/25以上を達成した眼は67.6%で、5年間変化なし(p>0.05)。MRSEが±0.50D以内の割合は5年後に91.2%に達した3)。平均惹起乱視は1.09±0.413Dで、矯正指数0.67(低矯正)であったが、弧状切開に関連した合併症(偏位・穿孔・繊維化など)は記録されなかった3)

費用面

フェムトセカンドレーザーは装置・維持費が高価であり、施設費用が増加する。

白内障術後の残余乱視が残存する場合、エキシマレーザーを用いた二次矯正が有効である。LASIK(laser in situ keratomileusis)は球面度数の同時矯正が可能で、術後早期から比較的安定した視力が得られる。PRK(photorefractive keratectomy; PAK:photoastigmatic keratectomy)は角膜混濁がある症例や放射状角膜切開術(RK)後の症例で選択される。

Wavefront-guided LASIK(高次収差測定に基づくレーザー照射)は、アカントアメーバ角膜炎やLRIで矯正できなかった不正乱視例にも有用とされる。

注意点:レーザー装置を有する施設が限られること、残余角膜厚に制約があることに留意する。

  • ピギーバック(バッグオンレンズ、アドオン):術後残余屈折が大きい症例では、嚢外にアドオンレンズや後房型レンズを追加挿入する。自覚屈折度数から度数設定が可能で、球面ずれにも対応できる利点がある。
  • 軸ずれ補正:トーリックIOLが術後回転した場合、位置修正手術で軸ずれを補正する。
  • 抜糸:無縫合白内障手術が一般的な現代では適応が限られるが、水晶体嚢外摘出術などでタイトな縫合により惹起乱視が強い症例では、抜糸による軽減が可能である。

治療法の選択基準

乱視量推奨手法
≤0.75DOCCI・急峻軸切開
0.75〜1.0D以上トーリックIOL検討
1.0〜2.0D以上トーリックIOL(中等度エビデンス)
2.0D超トーリックIOL(強いエビデンス)
Q トーリックIOLとLRIはどちらが優れているか?
A

1.0〜2.0Dの中等度乱視では、トーリックIOLは切開法(LRI・OCCI)より残余乱視量が少なく予測性が高いことが複数の研究で示されている。長期安定性もトーリックIOLが優れる。ただし費用・禁忌・術者経験を考慮して選択する。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

Section titled “6. 病態生理学・詳細な発症機序”

球面角膜ではすべての経線で曲率が等しく、入射光が一点に集光する(正視または均一な球面性屈折異常)。乱視がある場合、2つの主経線で曲率が異なるため入射光が2つの焦線を形成し、鮮明な像が得られない(Sturm’s conoid)。

後部角膜は負の屈折力を持ち(負の屈折面)、その急峻経線は多くの眼で垂直方向(または近垂直方向)に位置する。このためPCAは前部角膜乱視と反対方向に作用することが多い。

Jinら(2023)は高PCA(≥0.5D)の62眼を対象とした後方視的研究で、TCAを用いたトーリックIOL計算を行った場合、倒乱視(ATR)群と直乱視(WTR)群の双方で術後過矯正(correction index:ATR群1.14±0.29、WTR群1.25±0.18)が生じることを報告した2)

同研究では、ATR群の誤差量(ME)は0.22±0.52D(p=0.03)、WTR群は0.65±0.60D(p=0.00)で、いずれも過矯正方向に有意にずれていた2)。WTR眼で過矯正が生じると軸が反転し、術後倒乱視状態(against-the-rule残余乱視)となって視機能への影響が大きいため、TCAに基づくトーリックIOL計算はATR眼に推奨されるが、WTR眼では注意が必要であると結論している2)

PCAが0.5Dを超える症例は全体の9〜14%に達する。この群では前部角膜曲率のみを用いた従来計算式では精度が低下するため、PCA実測値またはこれを組み込んだ計算式(Barrett Toric Calculator等)の使用が望ましい。

若年者では直乱視(WTR)が多いが、加齢に伴い倒乱視(ATR)へシフトする。これは、加齢により水晶体周辺部の硬化や眼瞼圧迫の影響で角膜経線方向が変化するためと考えられている。このシフトはトーリックIOLの度数計算やLRI計画においても考慮すべき因子である。

Q 後部角膜乱視はどのような場合に特に問題になるか?
A

高PCA(0.5D以上)の症例では、前部角膜曲率だけでトーリックIOLを計算すると過矯正が生じやすい。特にWTR眼での過矯正は術後倒乱視状態を引き起こし視機能への影響が大きい。Scheimpflug撮影など後部角膜乱視を実測できる機器を使用し、TCAを考慮した計算式を用いることが推奨される2)


7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)

Section titled “7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)”

光調節型眼内レンズ(Light Adjustable Lens; LAL)

Section titled “光調節型眼内レンズ(Light Adjustable Lens; LAL)”

紫外線照射により術後にIOLの屈折力を微調整できるレンズである。術後に残余屈折を確認してから光照射で度数を最終調整することで、乱視矯正の精度向上が期待される1)

術中収差計(Intraoperative Aberrometry)

Section titled “術中収差計(Intraoperative Aberrometry)”

手術中に無水晶体眼または有水晶体眼の屈折状態をリアルタイム測定し、最適なIOL度数・軸をガイドするシステムである。

Davidsonら(2019)は、術中収差測定(IA)・Barrett Toricカルキュレーター・術前計算の3法を比較し、IA群とBarrett群はいずれも75%の眼で0.5D未満の残余乱視となり、術前計算群の53%を上回ることを報告している。

リアルタイムでの修正により再手術リスク低減が期待されるが、専用機器と追加時間が必要である1)

個別化眼内レンズ・遺伝的アプローチ

Section titled “個別化眼内レンズ・遺伝的アプローチ”

術前の詳細な角膜イメージングと患者固有の屈折プロファイルに基づく個別化IOLの開発が進められている。さらに、屈折異常の遺伝的背景を解明し、個人の眼の特性に応じた治療計画を立てる精密医療(personalized medicine)へのアプローチが模索されている1)

Swept-Source OCT(掃引光源OCT)による術前評価強化

Section titled “Swept-Source OCT(掃引光源OCT)による術前評価強化”

掃引光源OCTを用いた高解像度角膜前眼部評価により、複雑症例での手術戦略をさらに精密化できると期待されている1)


  1. Mallareddy V, Daigavane S. Innovations and Outcomes in Astigmatism Correction During Cataract Surgery: A Comprehensive Review. Cureus. 2024;16(8):e67828. doi:10.7759/cureus.67828

  2. Jin T, Yu L, Li J, Zhou Y. Refractive outcomes of toric intra-ocular lens implantation in cases of high posterior corneal astigmatism. Indian J Ophthalmol. 2023;71(8):2967-71. doi:10.4103/IJO.IJO_3385_22

  3. Pham TMK, Nguyen XH, Pham TTT, Hoang TT. Five Years Follow-Up Outcomes of Femtosecond Laser-Assisted Cataract Surgery on Patients with Preexisting Corneal Astigmatism. Int Med Case Rep J. 2025;18:373-379. doi:10.2147/IMCRJ.S506198

  4. American Academy of Ophthalmology. Cataract in the Adult Eye Preferred Practice Pattern. Ophthalmology. 2022;129(1):P1-P126. (PIIS0161642021007508)

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