長すぎるACIOL
虹彩変形:支持部が虹彩を圧迫し、虹彩の形状が変形する。
瞳孔変形:瞳孔が楕円形や歪んだ形となる。
角膜内皮障害:レンズが角膜内皮に近接し、内皮細胞が障害される。
眼不快感:持続的な不快感や疼痛をきたす。

前房内眼内レンズ(Anterior Chamber Intraocular Lens; ACIOL)は、水晶体嚢またはチン氏帯(毛様体小帯)の支持が不十分な眼において、前房内の隅角に固定する眼内レンズである。
通常の白内障手術では眼内レンズを水晶体嚢内に固定する。しかし、術中の後嚢破嚢、チン氏帯断裂、外傷による水晶体脱臼、落屑症候群などにより嚢支持が失われた場合、代替固定法が必要となる。ACIOLはその代替法のひとつとして古くから用いられてきた選択肢である。
現代のACIOLは通常、柔軟なオープンループ型(flexible open-loop)の支持部(ハプティクス)を持ち、各支持部末端の基盤が前房隅角の強膜突起(scleral spur)に接するよう配置される。初期のモデルは硬性のクローズドループ型であり、合併症が多かったが、現在のオープンループ型設計により転帰は大幅に改善している。
嚢支持が不足した場合の眼内レンズ固定法には、ACIOLのほか、虹彩固定型レンズ(アイリスクローレンズ)、虹彩後面縫着眼内レンズ、および強膜固定後房眼内レンズが選択肢として存在する1)。
通常の眼内レンズは水晶体嚢内(後房)に固定するが、ACIOLは前房内の隅角に固定する。水晶体嚢やチン氏帯の支持が失われた場合に選択される代替固定法のひとつである。
適切にサイズが選定され正しく配置されたACIOLでは、術後早期から良好な視力が得られることが多い。しかし、サイズ不適合や位置異常がある場合には以下の症状を呈する。
眼内レンズのサイズが適正でない場合、以下の所見を呈する1)。
長すぎるACIOL
虹彩変形:支持部が虹彩を圧迫し、虹彩の形状が変形する。
瞳孔変形:瞳孔が楕円形や歪んだ形となる。
角膜内皮障害:レンズが角膜内皮に近接し、内皮細胞が障害される。
眼不快感:持続的な不快感や疼痛をきたす。
短すぎるACIOL
慢性炎症:固定が不安定でレンズが動揺し、持続的な炎症を引き起こす。
嚢胞様黄斑浮腫:炎症継続により黄斑部に浮腫が生じる。
角膜内皮障害:慢性炎症に伴い内皮細胞が傷害される。
眼内レンズ回転・移動:支持が不十分なため、レンズが回転・移動する。
UGH症候群(Uveitis-Glaucoma-Hyphema syndrome)は、ACIOLが虹彩を機械的に刺激することで生じる合併症である。ぶどう膜炎・緑内障・前房出血(前房出血)が三徴として現れ、適切な処置なく放置すると角膜内皮代償不全に至る1)。
また、誤って配置されたACIOLや不適切な設計の眼内レンズが毛様体溝に置かれた場合、持続的な眼内炎症の原因となる1)。糖尿病患者や術中に散瞳補助器具を使用した患者では、術後炎症の持続リスクが高く、嚢胞様黄斑浮腫の発生率は最大29.5%に達する報告がある1)。
Uveitis-Glaucoma-Hyphema(ぶどう膜炎・緑内障・前房出血)症候群である。ACIOLが虹彩を機械的に刺激することで生じ、三徴が同時または順次に出現する。進行すると角膜内皮障害に至る可能性がある1)。
ACIOLが適応となる主な原因と、合併症リスクを高める要因を以下に示す。
角膜内皮代償不全のリスクが高い眼では、疎水性アクリル素材以外の眼内レンズ素材選択にも注意が必要である1)。
ACIOLの適切な配置のためには、術前の精密な眼球計測が不可欠である。
適切なACIOLのサイズ選定は最重要課題である。主な計測法を以下に示す。
| 計測法 | 特徴 | 精度 |
|---|---|---|
| WTW水平径 | 最も標準的な方法 | 前房OCT非使用時の最善策1) |
| 前房OCT | より正確な前房幅測定 | 最も信頼性が高い |
| 超音波生体顕微鏡(UBM) | 前房内構造の詳細観察 | 一致性にばらつきあり |
白色輪部間(White-to-White; WTW)径の水平方向計測が、前房OCTを用いない場合に最も正確なACIOL長の推定法とされている1)。計測値に1mmを加えた長さのレンズを選択するのが一般的な方法である。ただし、術者の座る位置(上方 vs 耳側)によって最適な長さが異なる点にも注意が必要である。
嚢支持が不足した状態でのACIOL挿入には、厳密な手術手技が求められる。
嚢支持不足時の眼内レンズ固定法として、前房固定(ACIOL)・虹彩固定・強膜内固定の3種が選択肢となる。2018年のネットワークメタ解析では、これら3つの固定法はいずれも有効であることが支持されている(エビデンスレベルI+, Good, Strong)1)。
前房固定(ACIOL)
設計:柔軟なオープンループ型支持部を前房隅角に配置。
利点:手技が比較的シンプル、PMMA素材で耐久性が高い。
注意点:適切なサイズ選定が転帰を左右する。
虹彩固定
設計:支持部を虹彩組織に直接クリップ固定(アイリスクローレンズなど)。
利点:隅角評価が不要、硝子体手術後眼にも適用可能。
注意点:前方または後方(瞳孔後方)への配置が選択できる。
強膜内固定
設計:眼内レンズ支持部を強膜トンネル内に固定(Yamane法など)。
利点:隅角・虹彩を利用しない、長期安定性が期待できる。
注意点:結膜・強膜の操作が必要、合併症に眼圧上昇・眼内レンズ傾斜がある1)。
切開創の作成:標準的なACIOLはPMMA(ポリメチルメタクリレート)製で折りたたみができないため、レンズ光学部径(通常6mm)に合わせた大きな切開が必要となる。角膜乱視を軽減するため、強膜トンネル切開がしばしば選択される。
縮瞳薬投与:挿入前にミオスタット(カルバコール)またはミオコール(アセチルコリン)を投与し、瞳孔を縮小させる。これにより隅角から虹彩を遠ざけ、支持部ループへの虹彩嵌頓を防止する。
周辺虹彩切除術:瞳孔ブロックによる虹彩膨隆を防ぐため、レンズ挿入前に必ず実施する1)。
支持部の方向:支持部は切開創と反対側に向けて配置し、早期の支持部脱出(haptic prolapse)を防止する1)。
虹彩嵌頓の確認:挿入後、各支持部ループを中央かつ前方に引いてレンズを隅角に安定させる。瞳孔が尖っていたり楕円形になっている場合は虹彩嵌頓のサインであり、再配置が必要である。
レトロスペクティブ解析(Donaldsonら)では、ACIOLと縫着型後房眼内レンズを比較したところ、最高矯正視力や合併症転帰に統計的有意差は認められなかった。最終的な術式選択は術者の習熟度と患者固有の解剖学的特性による。
白色輪部間(WTW)径の水平方向計測が最も標準的な方法であり、計測値に1mmを加えた長さのレンズを選択する1)。前房OCTが利用できる場合はより正確なサイズ決定が可能である。
初期のACIOLは硬性のクローズドループ型であった。支持部が隅角を継続的に圧迫・刺激することで、慢性炎症、隅角損傷、角膜内皮障害、二次緑内障などの重篤な合併症が多発した。UGH症候群もこの時代に多く報告された。
現代の柔軟なオープンループ型ACIOLは、支持部の柔軟性により隅角への圧迫力が分散される。この設計変更により合併症発生率は大幅に低下し、縫着型後房眼内レンズと同等の転帰が報告されるようになった。
前房内眼内レンズは後房型眼内レンズと比べて眼内炎症を刺激しやすく、隅角解剖が障害されている場合はとくに問題となる1)。炎症の機序として以下が考えられている。
ゾヌロパチー(チン氏帯障害)はぶどう膜炎患者に多く、ACIOLを要する無水晶体状態の素地となりやすい1)。
ACIOLは後房型眼内レンズよりも角膜内皮に近接するため、内皮細胞消失の長期的なリスクが懸念される。適切なサイズのACIOLを適切に配置した場合でも、後房型眼内レンズよりも内皮細胞密度の経年的な低下が速い可能性がある。角膜内皮代償不全が生じた場合は、角膜内皮移植(DMEK/DSEK)が必要となる。
Tourino Peralbaら(2018)は虹彩クローレンズの配置部位(前方 vs 後方)が最終転帰に与える影響を検討した1)。前方配置と後方配置で視力転帰と合併症プロファイルに差があるかが研究上の課題となっており、術式選択の個別化に向けた知見の蓄積が進んでいる。
Yamane法(フランジ法)は眼内レンズ支持部を強膜内に固定し、支持部末端をフランジ状に変形させる無縫合の強膜固定術である1)。本邦では急速に普及し、合併症として眼圧上昇・眼内レンズ傾斜・硝子体出血・嚢胞様黄斑浮腫・支持部の結膜穿破・眼内炎が報告されている1)。ACIOLと強膜内固定術の長期成績を直接比較する前向き無作為化試験はまだ少なく、エビデンスの充実が求められている。
ACIOLを含む嚢支持不足時の各固定法について、裸眼視力・矯正視力だけでなく、コントラスト感度・グレア・ハローといった視機能の質的評価を含む長期転帰比較研究が求められている。現時点では、固定法の選択は術者の経験と患者固有の解剖学的特性に大きく依存している。