この疾患の要点
ぶどう膜炎仮面症候群(UMS )は、免疫介在性・感染性ではない眼内浸潤細胞を呈する疾患群である。
腫瘍性と非腫瘍性に大別され、原発性硝子体 網膜 リンパ腫(PVR L)が最多の原因である。
三次ぶどう膜炎 クリニックの患者の2.5〜5%がUMSと診断される。
ステロイド 治療に一時的に反応するため診断が遅れやすい。
腫瘍性仮面症候群では早期診断が生命予後に直結する。
高齢患者の治療抵抗性ぶどう膜炎や癌の既往がある患者では常にUMSを鑑別に挙げる必要がある。
ぶどう膜炎仮面症候群(Uveitis Masquerade Syndromes; UMS)は、免疫介在性または感染性のプロセスによらない眼内浸潤細胞を呈する疾患群の総称である。1967年にTheodoreが慢性結膜炎 として発症した結膜 癌の症例に対して初めて「仮面症候群」の用語を使用した。
UMSは大きく腫瘍性 と非腫瘍性 の2群に分類される。腫瘍性UMSの代表は眼内リンパ腫であり、非腫瘍性UMSには眼内異物 ・色素散布症候群・網膜剥離 などが含まれる。
三次ぶどう膜炎クリニックにおけるUMSの頻度は2.5〜5%と報告されている。Rothova(2001)は828人中40人(5%)がUMSと診断され、うち48%に眼内悪性腫瘍を認めたと報告した。Grangeは853人中21人(2.5%)が腫瘍性UMSであったと報告している。
Q 仮面症候群はどのような疾患と間違えやすいか?
A サルコイドーシス 、トキソプラズマ症、梅毒、結核、中間部ぶどう膜炎 、急性網膜壊死 、バードショット網膜脈絡膜 炎など、一般的な眼炎症性疾患を模倣する。特にステロイドに一時的に反応することが診断の遅れにつながる。
UMSの症状は原因疾患により多様であるが、一般にぶどう膜炎と区別がつかない。
霧視 :硝子体混濁 や網膜下浸潤による。最も頻度が高い。
飛蚊症 :硝子体内の細胞浸潤による。PVRLで顕著である。
視力 低下 :緩徐に進行する無痛性の視力低下がPVRLの特徴。
眼痛 :転移性虹彩 腫瘍では続発緑内障 による強い眼痛を呈する1) 。PVRLの眼内再発時にも眼圧 上昇を伴う眼痛がみられることがある2) 。
充血 :前眼部の浸潤や続発緑内障に伴う。
腫瘍性UMSの主要な原因別臨床所見を以下に示す。
PVRL
硝子体混濁 :ベール状のびまん性混濁が特徴。リンパ腫細胞が末梢硝子体線維に沿って配列する2) 。
網膜下浸潤 :クリーム色〜黄白色の浸潤がサルコイドーシスやホワイトドット症候群に類似する。
角膜 後面沈着物 :眼内再発時には初発時より高頻度(47.4% vs 29.4%)にみられる2) 。星状またはmutton fat様の形態を呈する。
前房 内細胞 :前部ぶどう膜炎を模倣する。
転移性腫瘍
脈絡膜腫瘤 :網膜下液 を伴うクリーム白色〜淡黄色の腫瘤。最も一般的な眼転移の形態。
虹彩結節 :虹彩表面に散在する小結節。続発緑内障を伴う1) 。
偽前房蓄膿 :白血病に特徴的。両側性で粘稠、しばしば血性である。
隅角 腫瘤 :隅角鏡で小腫瘤や周辺虹彩前癒着 を認める1) 。
眼内悪性リンパ腫ではベール状の硝子体混濁が特徴的な所見であり、真菌性眼内炎 の塊状硝子体混濁とは異なる。腫瘍化したリンパ球が眼内に浸潤し、ぶどう膜炎様の所見を呈するため、代表的な仮面症候群の一つとして知られる。
Q 白血病の眼症状にはどのようなものがあるか?
A 白血病患者の最大90%に眼病変が報告されている。前眼部では偽前房蓄膿や虹彩浸潤、後眼部では綿花状白斑・ロス斑 様の白芯網膜出血・網膜静脈の蛇行拡張が認められる。漿液性網膜剥離 をきたしVogt-小柳-原田病 や後部強膜炎 を模倣することもある。
原因疾患 特徴 PVRL 最多。悪性UMSの75% 白血病 偽前房蓄膿が特徴的 転移性固形腫瘍 脈絡膜転移が最多 原発性ぶどう膜リンパ腫 低悪性度。稀
PVRL :年間発生率は人口10万人あたり約1人。50〜60代に多い。免疫不全・免疫抑制がリスク因子である。組織学的にはほぼすべて(98%)が非ホジキンB細胞リンパ腫であり、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)に相当する。中枢神経系リンパ腫(CNSL)の最大25%に眼病変を認め、眼病変のみで発症した患者の大多数が後にCNSLを発症する2) 。
転移性固形腫瘍 :転移性疾患患者の約8〜10%に眼病変を認める。約30%で眼転移が全身腫瘍播種の最初の徴候となる。虹彩転移は全転移性ぶどう膜腫瘍の8%を占める1) 。原発巣は乳癌・肺癌が多い。
白血病 :白血球由来の血液腫瘍の総称。ほぼすべての眼組織に浸潤しうる。
眼内異物(IOFB) :穿通性眼外傷の17〜40%に認める。残留した鉄や銅は網膜変性と視力喪失を引き起こす。
色素散布症候群(PDS ) :発生率は人口10万人あたり約4.8人。虹彩後面とチン小帯 の摩擦による色素放出が前房内炎症を模倣する。
網膜色素変性症 (RP ) :4,000人に1人。硝子体細胞や嚢胞状黄斑浮腫 が中間部ぶどう膜炎と誤診されうる。
眼虚血症候群 (OIS) :頸動脈狭窄・閉塞による眼低灌流。約20%に前房内炎症細胞を認める。
網膜剥離 :慢性裂孔原性網膜剥離 が炎症・低眼圧 ・増殖硝子体網膜症を伴って仮面症候群を呈する。
網膜芽細胞腫 :最も一般的な小児眼内悪性腫瘍。浸潤型はぶどう膜炎を模倣する。
コーツ病 :稀で特発性の網膜血管異常。若年男性に片側性に発症する。
若年性黄色肉芽腫 (JXG) :虹彩肉芽腫性病変や前房出血 を伴い、前部ぶどう膜炎を模倣する。
髄上皮腫 :毛様体 原発の稀な小児腫瘍。白内障 ・緑内障 ・ぶどう膜炎を二次的にきたす。
予防・日常のケア
癌の治療中に眼の症状(霧視・飛蚊症・眼痛など)が現れた場合は、速やかに眼科を受診してください。
ぶどう膜炎の治療 に反応が乏しい場合は、主治医に他の原因の可能性について相談しましょう。
小児の非定型的な眼の炎症では、網膜芽細胞腫などの重篤な疾患が隠れている場合があります。早期に専門施設への紹介を受けてください。
UMSの診断には高い臨床的疑いが不可欠である。特に初めてぶどう膜炎を発症した高齢患者、ステロイドに一時的に反応したが再燃した症例、癌の既往がある患者では積極的に鑑別する。
癌(特に乳癌・肺癌)や血液腫瘍の既往
ステロイド治療への反応パターン(一時的改善後の再燃)
眼外傷の既往(IOFBの可能性)
免疫不全・免疫抑制状態
細隙灯顕微鏡検査 :前房内細胞・フレア、角膜後面沈着物、偽前房蓄膿、虹彩結節の有無を評価する。ぶどう膜炎の一般的所見としてKoeppe結節やBusacca結節は肉芽腫性ぶどう膜炎 でみられるが、仮面症候群では腫瘍細胞浸潤による類似所見を呈しうる。
隅角鏡検査 :隅角結節・周辺虹彩前癒着・腫瘤の有無を確認する。隅角結節は眼サルコイドーシスなどでもみられるため鑑別が重要である。
眼底検査 :硝子体混濁の性状(ベール状 vs 塊状 vs 雪玉状)、網膜下浸潤、網膜出血、脈絡膜腫瘤を評価する。
蛍光眼底造影 検査 :網膜血管の透過性亢進・新生血管 ・嚢胞様黄斑浮腫 の検出に有用である。
PVRLの確定診断には硝子体生検が重要である。
細胞診 :大きな過染色核と乏しい好塩基性細胞質を持つ多形性細胞を確認する。ステロイド投与後はリンパ腫細胞が溶解し偽陰性となる可能性がある3) 。
フローサイトメトリー・遺伝子再構成検査 :B細胞性リンパ腫の確認に用いる。
IL-10/IL-6比 :房水 または硝子体液中のIL-10がIL-6より高値の場合、PVRLを強く示唆する。IL-10測定の感度は85.7%、特異度は81.1%と報告されている2) 。
MYD88変異検出 :cell-free DNAを用いたMYD88変異検出が注目されている。細胞DNAより検出率が約30%高いと報告されている3) 。
腫瘍マーカー(房水中) :転移性眼内腫瘍では、原発腫瘍で高値を示す腫瘍マーカーを房水中で測定することが補助診断に有用である。ある症例では房水中CEA値(75.6 ng/mL)が血清値(17.3 ng/mL)の4倍以上であった1) 。
6項目の診断フレームワークを用いた中国の症例対照研究では、基準1に加え基準4〜6のうち2つが陽性の場合、DLBCL関連PVRLの診断感度が97.5%、特異度100%に達したと報告されている3) 。
虹彩生検 :転移性虹彩腫瘍が疑われる場合に実施する。限られた組織量で偽陰性が生じうるため、免疫染色(TTF-1、Napsin Aなど)を併用することが重要である1) 。
Q なぜPVRLの診断は遅れやすいのか?
A PVRLはステロイドに一時的に反応するため、ぶどう膜炎と診断されてステロイド治療が継続されることが多い。また硝子体生検の細胞診陽性率が低く、ステロイド前投与によりリンパ腫細胞が溶解して検出されにくくなることも原因である3) 。IL-10やMYD88変異検出などの補助検査が診断精度向上に寄与する。
UMSの治療は原因疾患の同定と治療が原則である。腫瘍性UMSでは原疾患に対する化学療法・放射線療法が主体となる。
従来は外照射放射線療法が第一選択であった。しかし重篤な副作用のため、現在は両側病変・高齢者・頻回の硝子体内注射 が困難な患者に限られる3) 。
硝子体内メトトレキサート (MTX)注射 :現在のPVRLに対する第一選択治療である3) 。眼内病変の制御に高い有効性を示す。ただし標準化された投与レジメンはまだ確立されていない3) 。
全身化学療法 :CNS病変を伴う場合に適応となる。血液眼関門の存在により全身化学療法単独での眼内病変制御は限界がある2) 。全身化学療法と硝子体内化学療法の併用が眼内再発を減少させる可能性がある2) 。
硝子体手術 :診断目的の硝子体切除術に加え、治療的意義も報告されている。ある研究では硝子体切除術のみで75%(8眼中6眼)に完全奏効が得られた3) 。硝子体の足場を除去することでリンパ球増殖が抑制される可能性がある。
PVRLの眼内再発のリスク因子として、若年発症、孤立性PVRL(CNS病変なし)、硝子体内化学療法の既往なし、が同定されている2) 。
全身治療 :原発腫瘍に対する化学療法・分子標的薬が基本。分子標的薬(オシメルチニブなど)の進歩により生存期間が延長している1) 。
放射線療法 :虹彩転移に対しては外照射放射線療法(41%)やプラーク放射線療法(24%)が行われる1) 。
手術療法 :虹彩転移に対する外科的切除は全体の5%にとどまる1) 。
Konnoら(2024)は、肺腺癌からの転移性虹彩腫瘍によるマスカレード症候群の1例を報告した1) 。線維柱帯切除術 とベバシズマブ 硝子体内注射1回、およびオシメルチニブの継続投与により虹彩腫瘍は消退し、眼圧は8〜10 mmHgに制御された。初診から2年9ヶ月間QOLが維持された。
原因疾患の除去・治療が基本となる。
眼内異物 :異物除去手術。鉄・銅などの重金属は早期除去が必要。
色素散布症候群 :眼圧管理。色素緑内障 への移行に注意する。
網膜剥離 :外科的網膜復位術。
Q PVRLの治療後に再発することはあるか?
A PVRLは眼内再発の頻度が高い。ある研究では平均42.5ヶ月の追跡期間中に51例中14例(27.5%)に眼内再発を認めた2) 。再発時の最も多い所見は硝子体混濁(84%)である。定期的な眼科経過観察とIL-10測定が再発早期発見に推奨される2) 。
PVRLは稀な中枢神経系リンパ腫の一型であり、眼内に初発する。最終的に約80%がCNS病変を発症する4) 。腫瘍細胞の形質転換はCNS外で生じ、その後免疫特権を有する眼内へ移行すると考えられている4) 。
血液眼関門(blood-retinal barrier; BRB)の存在がPVRLの病態に重要な役割を果たす。BRBは全身化学療法の眼内移行を制限するため、眼内病変の制御が困難となる2) 4) 。これが硝子体内化学療法の必要性の根拠である。
眼転移は血管が豊富なぶどう膜、特に脈絡膜に好発する。虹彩転移はぶどう膜転移全体の8%と稀であるが、特にぶどう膜炎仮面症候群として現れやすい1) 。
転移性虹彩腫瘍による続発緑内障の機序は、腫瘍細胞の隅角浸潤や周辺虹彩前癒着による房水流出路の閉塞である1) 。
色素散布症候群 :虹彩後面と水晶体 チン小帯の摩擦により虹彩色素上皮から色素が遊離し、前房内に放出される。
眼虚血症候群 :慢性低灌流によるVEGFレベルの上昇が血管透過性を亢進させ、前房内炎症を惹起する。
網膜色素変性症 :光受容体・網膜色素上皮 細胞の変性に伴う二次的な炎症反応が硝子体内細胞として観察される。
PVRLの診断において、硝子体液中のcell-free DNAを用いたMYD88変異検出が注目されている。
Cheeらの報告では、cell-free DNAによるMYD88変異検出率は細胞DNAに比べ約30%高く、高度に希釈(100倍以上)された硝子体検体でも有効であった3) 。房水検体での検出も可能であり、低侵襲な診断手段として期待される。
Liuら(2024)は51例のPVRL患者を対象とした後方視的研究で、全身化学療法と硝子体内化学療法の併用が眼内再発リスクを低減させる可能性を示した2) 。硝子体内化学療法の既往がないことが眼内再発の独立した危険因子であった(OR 7.72; 95% CI 1.37-43.6)。
転移性眼内腫瘍の診断において、原発腫瘍に対応する腫瘍マーカーの房水中測定が補助診断として有用である。
Konnoら(2024)の報告では、肺腺癌からの転移性虹彩腫瘍において房水中CEA値が血清値の4倍以上と高値を示し、診断の一助となった1) 。眼生検で得られる組織量は限られるため、偽陰性回避の手段として房水中腫瘍マーカー測定の有用性が示唆されている。
Konno S, Yuzawa S, Kinouchi R. A case of masquerade syndrome caused by metastatic iris tumor diagnosed by a high CEA level in the aqueous humor and iris biopsy. Diagn Pathol. 2024;19:128.
Liu Y, Wang X, Chen K, et al. Intraocular recurrence in primary vitreoretinal lymphoma. Ophthalmol Retina. 2024;8:317-324.
Chee ASH, Mak ACY, Kam KW, et al. Primary vitreoretinal lymphoma in Hong Kong. Hong Kong Med J. 2026. (in press)
(Review article on blood-retinal barrier and PVRL). Surv Ophthalmol. 2024. [1-s2.0-S1350946224000107]
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