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ぶどう膜炎

腫瘍壊死因子(TNF)阻害薬

腫瘍壊死因子(tumor necrosis factor; TNF)阻害薬は、炎症性サイトカインであるTNFの作用を阻害する生物学的製剤の総称である。難治性の非感染性ぶどう膜炎に対する治療選択肢として、近年急速に普及してきた。

世界初のTNF阻害薬はインフリキシマブ(1998年)であり、エタネルセプト(1998年)、アダリムマブ(2002年)が続いた。眼炎症性疾患で研究されているのは主にこの3剤である。ゴリムマブやセルトリズマブについては眼炎症への研究は行われていない。

日本では2007年にインフリキシマブが難治性のベーチェット病ぶどう膜炎に保険収載された。2016年にはアダリムマブが非感染性ぶどう膜炎に対して保険収載されている。

国際眼炎症学会の221名の専門医を対象とした調査では、生物学的製剤として98.6%がアダリムマブの使用経験を有し、97.7%が第一選択の生物学的製剤としてアダリムマブを挙げた1)。インフリキシマブの使用経験は79.6%であった1)

Q TNF阻害薬は何種類あるのか?
A

現在市場には5種類のTNF阻害薬(インフリキシマブ、エタネルセプト、アダリムマブ、ゴリムマブ、セルトリズマブ)が存在する。ただし眼炎症性疾患で研究されているのはインフリキシマブ、アダリムマブ、エタネルセプトの3剤である。日本で眼科領域の保険適用があるのはインフリキシマブとアダリムマブの2剤である。

TNF阻害薬は治療薬であり、特定の疾患ではない。本セクションではTNF阻害薬の適応となるぶどう膜炎の臨床像と、治療効果の評価指標について記載する。

TNF阻害薬が適応となる非感染性ぶどう膜炎の主な症状は以下の通りである。

  • 霧視硝子体混濁黄斑浮腫に伴い出現する。
  • 視力低下:後部ぶどう膜炎・汎ぶどう膜炎で顕著となる。
  • 飛蚊症硝子体中の炎症細胞による。
  • 充血:前部ぶどう膜炎で認められる。
  • 眼痛前房炎症が強い場合に生じる。

TNF阻害薬の治療効果は、以下の所見の改善により評価される。

  • 前房細胞:前房内の炎症細胞数の減少が消炎の指標となる。
  • 硝子体混濁:混濁の改善が後部・汎ぶどう膜炎の治療反応を反映する。
  • 黄斑浮腫嚢胞様黄斑浮腫の軽減が視機能の改善と相関する。
  • 網膜血管炎:血管漏出の消失がベーチェット病などにおける消炎の指標となる。

Branfordら(2025)の国際調査では、90%以上の専門医が非感染性ぶどう膜炎の白内障手術前に少なくとも3か月の消炎期間を要件としていた1)。嚢胞様黄斑浮腫のリスクが炎症活動性により有意に増大するためである。

TNF阻害薬の適応となる非感染性ぶどう膜炎は自己免疫機序によって発症する。TNFは炎症カスケードの中心的サイトカインであり、以下の機序で眼炎症に関与する。

  • 他のサイトカインの刺激:TNF-αが炎症性サイトカインの産生を促進する。
  • 炎症細胞の動員:好中球やリンパ球の遊走を誘導する。
  • 血管透過性の変化血液網膜関門の破綻を惹起する。

TNF阻害薬が必要となる主な疾患は以下の通りである。

  • Behcet病:わが国ではインフリキシマブが第一選択として使用される。
  • 若年性特発性関節炎(JIA)関連ぶどう膜炎:アダリムマブが広く使用される2)
  • サルコイドーシス:国際調査では92.8%がアダリムマブを選択した1)
  • Vogt-小柳-原田病:92.3%がアダリムマブを第一選択とした1)
  • 毛様体扁平部炎:92.3%がアダリムマブを選択した1)
  • HLA-B27陽性ぶどう膜炎:96.4%がアダリムマブを選択した1)

TNF阻害薬の導入前と投与中に必要な検査について記載する。

TNF阻害薬は免疫抑制作用を有するため、投与前に以下のスクリーニングが必須である。

  • 潜在性結核の除外:ツベルクリン反応またはインターフェロンγ遊離試験(QuantiFERON®)を実施する。活動性結核の合併下では投与禁忌である。
  • B型肝炎スクリーニング:HBs抗原・HBs抗体・HBc抗体を確認する。キャリア状態では活動性肝炎を誘発する可能性がある。
  • 血液検査:全血球計算(CBC)、生化学検査、肝機能検査を実施する。
  • 脳MRI多発性硬化症が疑われるぶどう膜炎(特に毛様体扁平部炎)では、脱髄病変の除外のためMRIを行う。

国際調査では、全専門医(100%)が導入前スクリーニングを実施しており、血液生化学検査98.2%、血算93.7%、QuantiFERON 88.7%であった1)

投与中は感染性合併症と薬剤有効性の評価が不可欠である。

検査項目インフリキシマブアダリムマブ
CBC・生化学各点滴時6か月ごと
肝機能各点滴時6か月ごと
ANA必要に応じて必要に応じて

他の免疫抑制薬を併用している場合は、1〜2か月ごとのより頻繁なモニタリングが必要となる。

非活動期のぶどう膜炎患者は6〜12週ごとの臨床評価と薬剤毒性スクリーニングが推奨される1)

Q なぜ結核の検査が必要なのか?
A

TNF-αは結核菌を封じ込める肉芽腫形成に重要な役割を果たしている。TNF阻害薬によりこの防御機構が破綻すると、潜在性結核が活動性結核として再燃する危険がある。導入前のスクリーニングと、必要に応じた潜在性結核の治療が不可欠である。

日本における保険適用と使用法

Section titled “日本における保険適用と使用法”

日本ではTNF阻害薬の使用に際し、施設基準・眼科専門医資格・日本眼炎症学会への入会・e-learningの受講が強く推奨されている。

インフリキシマブ

適応:難治性Behcet病ぶどう膜炎(2007年保険収載)

投与法:5 mg/kgを点滴静注。0週・2週・6週の導入投与後、8週間隔で継続する。

特徴:キメラ型モノクローナル抗体。遊離TNF-αと細胞表面TNF-αの双方に結合する。

投与経路:点滴静注(1.2 μm以下のインラインフィルターを使用し2時間以上かけて投与)

アダリムマブ

適応:非感染性ぶどう膜炎(2016年保険収載)

投与法:初回80 mg皮下注、1週後40 mg、以後2週ごと40 mg。

特徴:完全ヒト型モノクローナル抗体。ペン型デバイスによる自己注射が可能。

投与経路:皮下注射(注射部位は毎回異なる部位が推奨される)

アダリムマブの良い適応は以下の通りである。

  • ステロイド内服投与に抵抗して消炎が得られない症例
  • ステロイド減量によりぶどう膜炎が再発する症例

VISUAL I試験およびVISAL II試験により、活動性または静止期の非感染性中間部・後部・汎ぶどう膜炎に対する有効性が確認された1)。SYCAMORE試験では、若年性特発性関節炎関連ぶどう膜炎に対するメトトレキサートとの併用の有効性が示された1)

Behcet病における難治性ぶどう膜炎に対する使用はわが国が世界初の保険適用であり、多くの知見が報告されている。炎症発作の抑制のみならず生活の質の向上やBehcet病の眼外症状の軽快も認められる。

既存治療で十分な炎症発作抑制が得られない症例、または発症初期に重篤な視機能障害を伴う眼底所見を生じた場合に導入される。

眼炎症性疾患に対するTNF阻害薬の使用に関する専門家推奨は以下の通りである。

  1. インフリキシマブとアダリムマブはBehcet病の眼症状に対する第一選択薬として検討できる
  2. 若年性特発性関節炎関連ぶどう膜炎の第二選択薬として検討できる
  3. 代謝拮抗薬やカルシニューリン阻害薬が無効な重度の後部・汎ぶどう膜炎、HLA-B27関連ぶどう膜炎、強膜炎の第二選択薬として検討できる
  4. エタネルセプトよりもインフリキシマブとアダリムマブが推奨される

メトトレキサートとアダリムマブの併用が最も多く用いられている1)。国際調査では併用療法実施者の84.0%がこの組み合わせを選択した1)。併用の意義は以下の通りである。

  • 抗薬物抗体(抗イディオタイプ抗体)の産生抑制5)
  • 治療効果の増強
  • 有効性の持続期間の延長

エタネルセプトはTNF受容体のデコイ型融合タンパク質であり、可溶性TNFには結合するが細胞表面TNFには結合できない。この薬理学的特性の違いにより、眼炎症性疾患に対する有効性はモノクローナル抗体製剤より低い。

エタネルセプトはぶどう膜炎の発症リスクを低減せず、むしろ他のTNF阻害薬(インフリキシマブ、アダリムマブ)よりぶどう膜炎の発症頻度が高いとの報告がある3)4)。この逆説的反応はサイトカインバランスの不均衡と血液網膜関門への二次的影響によると考えられている4)

Q アダリムマブとインフリキシマブのどちらを選ぶべきか?
A

両剤の直接比較試験は行われていない。インフリキシマブは点滴静注であるため通院が必要だが、Behcet病に対する長い実績がある。アダリムマブは自己注射が可能で利便性が高く、非感染性ぶどう膜炎に広く保険適用を有する。選択は疾患の種類、患者の状況、医師の判断による。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

Section titled “6. 病態生理学・詳細な発症機序”

TNF-αは急性期炎症に関わるサイトカインの一種であり、ぶどう膜炎の活動性に強く関与している。TNFファミリーにはTNF-α(旧称TNF)が含まれ、以下の機序を介して免疫応答に重要な役割を果たす。

  • サイトカイン刺激:IL-1、IL-6などの下流サイトカインの産生を誘導する。
  • 炎症細胞の動員:好中球・マクロファージ・リンパ球の遊走を促進する。
  • 血管透過性の亢進:血液網膜関門(BRB)を構成するタイトジャンクションを障害し、血管透過性を増大させる4)
  • アポトーシスの誘導:標的細胞にプログラム細胞死を誘導する。

モノクローナル抗体

インフリキシマブ:キメラ型(ヒト-マウス)抗TNF-αモノクローナル抗体。遊離TNF-αと細胞表面TNF-αの双方に結合する。

アダリムマブ:完全ヒト型抗TNF-αモノクローナル抗体。インフリキシマブと同じくTNF-αに高い親和性で結合する。

融合タンパク質

エタネルセプト:TNF受容体P75のデコイ型融合タンパク質。遊離TNFを捕捉するが、細胞表面TNFには結合できない。

リンホトキシンA結合:エタネルセプトはリンホトキシンA(旧称TNF-β)にも結合する。モノクローナル抗体はTNF-αのみに特異的に結合する。

エタネルセプトが眼炎症に対してモノクローナル抗体製剤より劣る機序として、細胞表面TNFに結合できないことが最も重要な因子と考えられる。また、エタネルセプトがサイトカインバランスを撹乱し、正常な免疫応答を妨げることで、逆説的にぶどう膜炎を誘発する可能性が示唆されている4)

インフリキシマブに対する抗イディオタイプ抗体が産生されると、時間の経過とともに有効性が低下する。メトトレキサートやミコフェノール酸モフェチルの併用はこの抗体産生を軽減・遅延させる可能性がある5)。併用に耐えられない患者ではインフリキシマブの増量で対応されることもある。

Q エタネルセプトでぶどう膜炎が悪化することがあるのか?
A

エタネルセプトは他のTNF阻害薬に比べ、ぶどう膜炎の発症リスクが高いとの報告がある4)。最近のエビデンスでは、エタネルセプトは眼疾患の予防には効果が低いものの、直接の原因因子ではない可能性が高いと考えられている。眼炎症性疾患にはモノクローナル抗体製剤(インフリキシマブまたはアダリムマブ)が推奨される。


7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)

Section titled “7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)”

従来のステップラダーアプローチでは従来型免疫抑制薬を先行させていたが、近年では生物学的製剤を先行させる実臨床が増えている。

国際調査では60.2%の専門医が従来薬より先に生物学的製剤を使用した経験があり、その91.0%が特定のぶどう膜炎の診断に基づく判断であった1)

標準的な隔週投与で効果不十分な症例に対する毎週投与の検討が行われている。眼炎症性疾患患者25名を対象とした回顧的症例シリーズでは、毎週投与により6か月時点で56%(14/25名)、12か月時点で54%(13/24名)で治療成功が報告されている。

若年性特発性関節炎関連ぶどう膜炎への展開

Section titled “若年性特発性関節炎関連ぶどう膜炎への展開”

若年性特発性関節炎関連ぶどう膜炎における生物学的製剤の使用率は増加傾向にある。

Cannら(2018)は、2007年には若年性特発性関節炎関連ぶどう膜炎の11%に抗TNF製剤が使用されていたが、過去10年で生物学的製剤がより広く普及してきたと報告した2)。小児ぶどう膜炎において27〜48%が炎症コントロール不良であり、20%に有害事象が生じるとの報告がある2)

アダリムマブとメトトレキサートの併用は、若年性特発性関節炎患者においてぶどう膜炎発症リスクをハザード比0.09まで低減するとの報告がある3)


  1. Branford JA, et al. Systemic immunomodulatory drug treatment of non-infectious uveitis: real-world practice by uveitis experts—report of the International Study Group. Br J Ophthalmol. 2025;109:482-489.
  2. Cann M, et al. Outcomes of non-infectious paediatric uveitis in the era of biologic therapy. Pediatric Rheumatology. 2018;16:51.
  3. Leinonen ST, et al. A Nordic screening guideline for juvenile idiopathic arthritis-related uveitis. Acta Ophthalmol. 2022.
  4. Nicolela Susanna F, Pavesio C. Blood-retinal barrier dysfunction in uveitis. Surv Ophthalmol. 2024.
  5. Bellur S, et al. Giant cell arteritis and the role of anti-drug antibodies in biologic therapy. Prog Retin Eye Res. 2025.

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