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ぶどう膜炎

吸虫性ぶどう膜炎

吸虫性ぶどう膜炎(trematode induced uveitis)は、淡水に生息する吸虫のセルカリアが眼組織に侵入し、眼内各部位に肉芽腫を形成する疾患である。一部の発展途上国において報告が多い。

原因となる吸虫は複雑な生活環を持つ。貝・淡水魚・甲殻類を中間宿主とし、水鳥を終宿主とする。ヒトは汚染水への接触時に偶発的宿主として感染する。インドやエジプトの患者から Procerovum varium など二生吸虫のDNA断片が同定されている。

あらゆる年齢層が罹患しうるが、小児・青少年に多い。特に低年齢児では疾患がより侵襲的であり、受診の遅れによる重篤な視覚後遺症が問題となる。

Q 吸虫性ぶどう膜炎はどの地域で発生するか?
A

吸虫が蔓延する淡水域を有する発展途上国(インド、エジプトなど)で主に報告されている。河川の支流や汽水域の池など、浅くて流れの緩やかな水域での接触が感染契機となる。

症状は肉芽腫の形成部位と年齢によって異なる。

  • 眼の充血・痛み:汚染水への接触直後に急性発症する。局所ステロイドに反応するが、漸減時に再発しやすい。
  • 全身の痒み:水への接触直後に出現する。口腔粘膜の腫脹を伴うこともある。
  • 白い斑点の自覚:前房に大きな肉芽腫がある場合に気づくことがある。
  • 視力低下白内障硝子体炎・黄斑浮腫網膜剥離の合併により生じる。

肉芽腫の形成部位により多彩な所見を呈する。病変が後方にあるほど重症化する傾向がある。同一眼に複数の肉芽腫が認められたり、両眼性で異なる部位に病変を生じたりすることがある。

前眼部病変

結膜・上強膜結節:片眼または両眼の下方180度以内に小さく境界明瞭な結節を形成する。

角膜肉芽腫:角膜縁近くに黄白色の肉芽腫を形成し、局所的な実質性角膜炎を伴う。治癒後は線維性瘢痕を残す。

前房肉芽腫:最も一般的な病型。下方隅角(4〜8時)に真珠様・黄白色の結節を認める。

後眼部病変

毛様体肉芽腫(CBG):最も視機能を脅かす病型。下方象限の毛様体内に形成され、重度の硝子体炎や網膜血管炎を引き起こす。

牽引性網膜剥離:CBGの後方進展により周辺網膜が牽引され発生する。

脈絡膜肉芽腫:非常に稀。後極部に発生しCBGを併発する。

前房肉芽腫には結節型と膜状型がある。

  • 結節型:下方隅角に真珠様の結節を認める。激しい肉芽腫性前房反応と肉芽腫性角膜後白斑(KPs)を伴う。大きさは小結節から前房数時間分を占めるチーズ状の大型肉芽腫まで多様である。
  • 膜状型:慢性例に多い。血管新生を伴う角膜後膜を形成する。隣接する虹彩と強固に癒着し、瞳孔の尖鋭化や散瞳不良を引き起こす。

全症例で隅角内の微小肉芽腫を検出するため、隅角鏡検査が重要である。

毛様体肉芽腫(CBG)の進展方向

Section titled “毛様体肉芽腫(CBG)の進展方向”

CBGは以下の3方向に進展する。

  • 前方進展:虹彩根部や水晶体周辺部を巻き込み、局所的白内障を引き起こす。未治療で全白内障に進行する。
  • 円周方向進展:毛様体上腔滲出・毛様体膜・脈絡膜剥離・難治性低眼圧に至る。治療が最も困難で予後不良な症例となる。
  • 後方・放射状進展:周辺網膜が牽引され、牽引性網膜剥離(TRD)に至る。網膜下線維性索状物がCBGから視神経乳頭に向かって伸展することもある。
Q 前房肉芽腫と毛様体肉芽腫はどちらが深刻か?
A

毛様体肉芽腫(CBG)の方が深刻である。網膜への関与により視力喪失のリスクが高く、牽引性網膜剥離に至ると予後不良となる。未治療で眼球癆に陥ることもある。前房肉芽腫は最も一般的な病型だが、適切な治療で管理しやすい。

本疾患の原因は淡水に生息する吸虫である。感染は汚染水中のセルカリアが眼組織を直接貫通することによると考えられている。

  • 汚染水への接触:入浴・水泳・作業中の接触が感染契機となる。河川支流や汽水域の池など浅い淡水域でのリスクが高い。
  • 年齢:小児・青少年に多い。低年齢児ほど重症化しやすい。
  • 地域:吸虫が蔓延する発展途上国に集中する。

血行性播種(汚染水の飲用や加熱不十分な魚の摂取後)の可能性も指摘されているが、眼科患者の糞便検査では通常吸虫卵が陰性であり、この経路の可能性は低い。

汚染された淡水への接触歴がある若年患者における肉芽腫性ぶどう膜炎の臨床状況から、高い臨床的疑いを持つことが診断のゴールドスタンダードである。特徴的な前房肉芽腫や角膜後膜があれば、診断は比較的容易である。

感染性ぶどう膜炎全般において、多様な病原体が類似した臨床像を呈しうるため、高い臨床的疑いが求められる。

鑑別すべき疾患は幅広い。

  • トキソカラ症:毛様体肉芽腫の鑑別で最も重要な疾患である。
  • 結核性ぶどう膜炎:吸虫蔓延地域では結核も流行していることが多く、クオンティフェロン陽性が必ずしも結核性を意味しない。
  • トキソプラズマ症:肉芽腫性ぶどう膜炎の原因として鑑別を要する。
  • 仮面症候群:外見上「白く」静かな眼を持つ若年患者では白血病浸潤などを除外する。

肉芽腫性ぶどう膜炎の他の原因を除外するため、以下の検査を行う。

  • 全血算(CBC)(分画を含む)
  • 赤血球沈降速度(ESR)・C反応性タンパク(CRP
  • トキソプラズマ症血清検査
  • トキソカラ症血清検査
  • クオンティフェロン(QuantiFERON-TB Gold)検査
検査法主な役割
超音波生体顕微鏡CBGの検出・範囲評価
Bモード超音波後眼部合併症の検出
FFAOCT網膜血管炎・黄斑浮腫評価
  • 超音波生体顕微鏡(UBM):毛様体肉芽腫の検出に最も重要な検査である。虹彩・水晶体・毛様体の肉芽腫を描出し、前方・円周方向・後方への進展範囲を評価できる。硝子体炎を伴う全症例で超音波生体顕微鏡が必須とされる。
  • 眼球超音波検査(Bモード):中間透光体混濁がある場合に後眼部合併症を検出する。
  • フルオレセイン蛍光眼底造影(FFA)・光干渉断層計(OCT):毛様体肉芽腫に伴う網膜血管炎・黄斑浮腫の評価に使用する。

切除検体のメタゲノム解析は陽性率が低く、費用も高額であるため、研究目的以外での眼内検体採取は一般的に行われていない。

Q 超音波生体顕微鏡はなぜ重要なのか?
A

毛様体肉芽腫(CBG)は最も視機能を脅かす病型であるにもかかわらず、通常の診察では検出が困難である。超音波生体顕微鏡は肉芽腫の存在・範囲・進展方向を非侵襲的に評価できる唯一の検査であり、治療方針の決定に不可欠である。

  • 局所ステロイド点眼:前房の炎症反応や充血・疼痛に対して使用される。症状は局所ステロイドによく反応するが、漸減時に再発する傾向がある。
  • 全身ステロイド投与:非典型例に併発した涙腺炎に対して短期間の全身ステロイド投与で炎症が消失した報告がある。
  • 硝子体手術(pars plana vitrectomy):CBGに伴う牽引性網膜剥離に対して施行される。
    • 活動期(網膜がまだ付着している状態)では比較的良好な視力予後が期待できる。
    • 瘢痕期(TRD発生後)では初回手術後に網膜剥離を再発するリスクがあり、予後不良である。
  • 肉芽腫の外科的切除:虹彩実質内の肉芽腫は切除が困難であり、ステロイド漸減後に再発しやすい。

ぶどう膜炎一般の合併症として、虹彩後癒着が全周に及ぶと瞳孔ブロックによる眼圧上昇が生じうる。眼圧上昇の機序を正しく評価し、適切な治療方針を選択することが重要である。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

Section titled “6. 病態生理学・詳細な発症機序”

眼内への正確な侵入経路は解明されていない。最も有力な仮説は以下の通りである。

  • 直接貫通説:汚染水中のセルカリアが眼組織を直接貫通する経路。セルカリアは皮膚や粘膜を貫通する能力を持つことが知られている。遊泳後に全身の痒みや口腔粘膜の腫脹を訴えることが、この経路を支持する。
  • 血行性播種説:汚染水の飲用や加熱不十分な魚の摂取後に、卵やセルカリア抗原が血行性に眼内へ播種される可能性。眼科患者の糞便検査で通常吸虫卵が陰性であることから、この経路の可能性は低いと考えられている。

吸虫抗原に対する肉芽腫性炎症反応が眼内各部位で生じる。肉芽腫の形成部位は結膜から脈絡膜まで多岐にわたり、以下の特徴がある。

  • 下方に好発する傾向(結膜結節は下方180度、前房肉芽腫は4〜8時、CBGは下方象限)
  • 同一眼に複数の肉芽腫が認められることが多い
  • 肉芽腫は活動期に増大し、線維化を伴って治癒する

CBGの進行性増大と線維化が以下の機序で合併症を引き起こす。

  • 白内障形成:前方進展により水晶体周辺部が巻き込まれ、局所的白内障が生じる。CBGに対応する部位の虹彩の前方隆起が診断の手がかりとなる。
  • 牽引性網膜剥離:後方・放射状の進展により周辺網膜がCBGに牽引される。肉芽腫の線維成分が収縮することでTRDが発生する。
  • 低眼圧・眼球癆:円周方向の進展により毛様体膜・毛様体上腔滲出が生じ、房水産生が低下して難治性低眼圧に至る。未治療ではやがて眼球癆に陥る。

治療後のCBG症例では、一部で網膜前膜が発生し内層網膜に接線方向の牽引が生じるリスクがある。

Q なぜ肉芽腫は下方に多いのか?
A

正確な理由は解明されていない。汚染水への接触時にセルカリアが重力の影響で下方に集積しやすいこと、あるいは下方の結膜・隅角・毛様体への優先的な侵入が関与すると推測されるが、確定的な説明はない。


7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)

Section titled “7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)”

外科的に切除された眼内検体からのメタゲノム解析により、Procerovum varium を含む二生吸虫のDNA断片が同定されている。ただし陽性率は低く、必ずしも確定診断に結びつかない。高感度な分子診断法の開発が今後の課題である。

CBGの病期分類と外科治療の最適化

Section titled “CBGの病期分類と外科治療の最適化”

Aminらは毛様体肉芽腫症例を「活動期」(網膜が付着)と「瘢痕期」(TRD発症後)に分類し、外科的介入のタイミングが視力予後に大きく影響することを示した。活動期での早期手術介入の有効性と瘢痕期のTRD再発防止策の確立が求められている。

推定吸虫誘発肉芽腫性中間ぶどう膜炎(PTIGIU)

Section titled “推定吸虫誘発肉芽腫性中間ぶどう膜炎(PTIGIU)”

Aminらはまた、CBGに伴う硝子体炎と網膜血管炎を特徴とする病態を「推定吸虫誘発肉芽腫性中間ぶどう膜炎(PTIGIU)」と定義した。この概念は診断・分類の精緻化に寄与すると期待される。


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