活動期
灰黄色の網膜下病変:乳頭周囲または黄斑部に出現する不明瞭な境界を持つ病変。
活動性先端部(leading edge):病変の辺縁に蛇行状の進展を示す活動性領域を認める。
前房炎症:軽度の前房内細胞を伴うことがある1)。硝子体炎・血管炎は通常軽微または欠如する。

蛇行状脈絡膜炎(serpiginous choroiditis; SC)は、網膜色素上皮(RPE)、脈絡膜毛細血管板(choriocapillaris)、および脈絡膜を侵す原因不明の両側性・慢性進行性・再発性の炎症性疾患である1)。地図状脈絡膜炎あるいは匐行性脈絡膜炎とも呼ばれる。白点症候群(white dot syndromes)の一型に分類される4)。
非結核流行地域における後部ぶどう膜炎の1.6〜5.3%を占める稀な疾患である2)。30〜50歳代に発症し、男性にやや多い4)。全身疾患との明確な関連は確認されていないが、全身性エリテマトーデス、免疫性血小板減少性紫斑病、抗リン脂質抗体症候群などの自己免疫疾患との合併例が報告されている3)。
病変の主座は脈絡膜毛細血管板にあり、脈絡膜毛細血管板の閉塞性血管炎と二次的な内皮細胞障害を経て、RPE・外網膜・脈絡膜の萎縮に至る2)。中心視力が障害されるのは20〜50%の症例で、経過観察期間が長いほどその頻度は上昇する2)。最大25%の眼で最終視力が20/200未満となる。
両眼性であることが多いが、左右非対称に進行する。両眼で異なる治癒段階の病変が認められることが典型的である1)。片眼のみの発症もまれに報告されている。
蛇行状脈絡膜炎の主な自覚症状は以下の通りである。
蛇行状脈絡膜炎の典型的な眼底所見は、乳頭周囲から遠心性に蛇行状に広がる灰黄色の脈絡網膜病変である。症例の80%が乳頭周囲型を呈する1)。
活動期
灰黄色の網膜下病変:乳頭周囲または黄斑部に出現する不明瞭な境界を持つ病変。
活動性先端部(leading edge):病変の辺縁に蛇行状の進展を示す活動性領域を認める。
前房炎症:軽度の前房内細胞を伴うことがある1)。硝子体炎・血管炎は通常軽微または欠如する。
瘢痕期
脈絡網膜萎縮斑:RPEと脈絡膜毛細血管板の萎縮により、脈絡膜大血管が透見される。色素沈着を伴う。
再発病変:既存の萎縮斑の辺縁部や離れた部位から新たな活動性病変が出現する。
虫食い状の進展:再発を繰り返し、後極部に不規則な萎縮性・色素沈着性病変が広がる。病変は血管アーケードを越えて赤道部に及ぶこともある。
蛇行状脈絡膜炎の亜型として、黄斑部蛇行状脈絡膜炎とアンピジナス脈絡膜炎がある。黄斑部型は乳頭周囲を温存して黄斑部から発症し、脈絡膜新生血管のリスクが高く視力予後は不良である2)。アンピジナス脈絡膜炎は、急性後部多発性斑状色素上皮症(APMPPE)と蛇行状脈絡膜炎の両方の特徴を併せ持ち、後極部に散在する多発性板状病変を呈する4)。
再発の間隔は3ヶ月〜4年と幅広い2)。活動性病変は数週間で消退するが、活動性の徴候が1〜9ヶ月持続する場合もある2)。
蛇行状脈絡膜炎の正確な病因は不明であるが、免疫原性の機序が有力視されている1)。副腎皮質ステロイド薬や免疫抑制薬に反応すること、およびHLA-B7やHLA-A2との関連頻度の上昇が報告されていることがこの仮説を支持している3)。
提唱されている病因・関連因子は以下の通りである。
明確な遺伝性疾患ではない。ただしHLA-B7などの遺伝的素因との関連が報告されており、免疫学的な感受性に個人差がある可能性は指摘されている3)。
蛇行状脈絡膜炎の診断は、特徴的な眼底所見とマルチモーダルイメージングに基づいて行われる。感染性疾患の除外が極めて重要である。
細隙灯顕微鏡および倒像検眼鏡により、乳頭周囲から進展する灰黄色の地図状病変と萎縮瘢痕を確認する。前房内細胞は軽度で、硝子体炎は通常軽微である1)。
| 検査法 | 活動期の特徴的所見 |
|---|---|
| FA | 早期低蛍光・後期過蛍光(漏出) |
| ICGA | 全相にわたる低蛍光 |
| 眼底自発蛍光 | 高自発蛍光の辺縁と低自発蛍光のハロー |
結核の除外が最優先事項である。特に流行地域からの患者では、インターフェロンγ遊離試験(IGRA)やツベルクリン反応検査を含む結核検査が必須である5)。
その他の除外すべき疾患に対して以下の検査を施行する。
蛇行状脈絡膜炎との鑑別を要する主な疾患は以下の通りである。
結核性蛇行状様脈絡膜炎(SLC)は多発性・散在性病変で硝子体炎を伴い、中心窩を温存する傾向がある。蛇行状脈絡膜炎は乳頭周囲から連続的に進展し硝子体炎は軽微である。SLCでは抗結核薬治療が必須であり、免疫抑制薬単独では再発を防げない5)。
蛇行状脈絡膜炎の治療に関する無作為化比較試験は存在せず、確立された標準治療はない。疾患の稀少性ゆえに症例集積と専門家の合意に基づく治療が行われている2)。
副腎皮質ステロイド薬の内服、またはトリアムシノロンアセトニド(マキュエイド)の後部テノン嚢下注射を行う。海外では免疫抑制薬を使用した報告が散見されるが、再発と寛解を繰り返すため客観的な治療効果判定は困難であり、再発に対しては無効のことが多い。
活動性病変に対しては、高用量全身性副腎皮質ステロイド薬が第一選択となる1)2)。
ステロイド減量・中止後の再発予防には免疫抑制薬が不可欠である3)。結核の除外確認後に導入する。
専門家によるコンセンサス調査では、蛇行状脈絡膜炎に対する免疫抑制薬として第一選択にメトトレキサート(38.0%)、ミコフェノール酸モフェチル(27.6%)、アザチオプリン(23.1%)が挙げられ、生物学的製剤としてはアダリムマブ(91.0%)が最も多く推奨されている6)。
Ebrahimiadiらは17例の蛇行状脈絡膜炎患者にクロラムブシルを投与し、白血球数3,000〜4,500 cells/μLを目標に用量調整を行い、良好な忍容性と再発予防効果を報告した2)。推奨用量は0.2 mg/kg/日以下、総投与量は2.2 g以下である。
Malekiらの4例シリーズでは、クロラムブシルと全身性ステロイド併用に抵抗した難治例において、デキサメタゾン硝子体内インプラントの追加によりステロイドを中止してクロラムブシル治療を継続し、48ヶ月以上の寛解を達成した症例が報告されている2)。治療成功の鍵は白血球数を毒性レベル(3,000〜4,500 cells/μL)に安定させることであった。
脈絡膜新生血管(CNV)は最大35%に合併する。抗VEGF薬(ベバシズマブ、ラニビズマブ)の硝子体内注射が行われる2)。黄斑型SCではCNVの発症リスクが特に高い2)。
一部の患者ではアルキル化薬により長期寛解(「治癒」)が得られた報告がある2)。しかし多くは再発と寛解を繰り返す慢性疾患であり、長期の免疫抑制療法と経過観察が必要である。
蛇行状脈絡膜炎の病態の中心は脈絡膜毛細血管板レベルの閉塞性血管炎である2)。組織学的には、脈絡膜にリンパ球浸潤が認められ、血管周囲にもまれにリンパ球集簇を認める2)3)。肉芽腫形成は認められない3)。
病態生理の経過は以下のように理解されている。
蛇行状脈絡膜炎の病態は散弾状脈絡網膜症(birdshot chorioretinopathy)と組織学的に類似している2)。両疾患ともリンパ球主体の脈絡膜浸潤を特徴とし、免疫介在性の機序が共通すると考えられている。
潰瘍性大腸炎との合併例では、T細胞主導型の炎症が共通の病態基盤として注目されている3)。腸管粘膜の自己抗体が脈絡膜の抗原と交差反応する可能性や、腸内細菌叢の変化が制御性T細胞とエフェクターT細胞のバランスを崩す機序が推察されている3)。
Seddighら(2024)は、COVID-19感染1ヶ月後に黄斑型蛇行状脈絡膜炎を発症した28歳男性を報告した1)。脈絡膜内高反射フォーカスが認められ、活性化ミクログリアまたは障害RPE細胞の集積と推察された。SARS-CoV-2が感受性のある宿主において炎症性トリガーとなり自己免疫的調節障害を誘発する可能性が示唆されている。
COVID-19感染後に蛇行状脈絡膜炎やアンピジナス脈絡膜炎を発症・再燃した症例が複数報告されている1)。
Providênciaら(2022)は、41歳女性がCOVID-19感染1ヶ月後に蛇行状脈絡膜炎の再燃を呈した症例を報告した1)。また、20歳代の2例がCOVID-19感染約1週間後に両側性アンピジナス脈絡膜炎を発症したことが報告されている。これらの知見はSARS-CoV-2が脈絡膜の炎症性トリガーとなる可能性を示唆しているが、因果関係の証明には至っていない。
Malekiら(2021)は、クロラムブシルとステロイドの標準併用療法に抵抗した4症例を検討し、デキサメタゾン硝子体内インプラントまたはインフリキシマブを追加してステロイドを中止することでクロラムブシルの白血球数コントロールが安定し、長期寛解が得られたことを報告した2)。全身性ステロイドがクロラムブシルの効果を減弱させるという仮説を提唱しており、局所ステロイドへの切り替えが治療成功の鍵となる可能性がある。
抗TNFα抗体であるアダリムマブが蛇行状脈絡膜炎のステロイド減量療法として検討されている。
Pollmannら(2020)は、潰瘍性大腸炎合併の蛇行状脈絡膜炎患者にアダリムマブを導入し、蛇行状脈絡膜炎と潰瘍性大腸炎の双方で5ヶ月間の寛解維持を報告した3)。ただし、アダリムマブ投与下で疾患が進行した報告もあり、有効性は確立していない。