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ぶどう膜炎

レプトスピラ症の眼科的特徴(眼レプトスピラ症)

レプトスピラ症(leptospirosis)は、スピロヘータの一種であるレプトスピラ属のグラム陰性菌による人獣共通感染症である。別名ワイル病(Weil disease)とも呼ばれる。世界で最も一般的な人獣共通感染症であり、年間推定50万人のハイリスク症例が発生する。死亡率は最大30%に達する。

感染率は温帯地域に比べ熱帯・亜熱帯地域で約10倍高い。日本でも散発発症は全国的にみられる。都会でも下水道作業やネズミの糞尿との接触により発症することがある。海外渡航先で感染し国内で発症する輸入感染例も増加している。

レプトスピラ性ぶどう膜炎は農業従事者に多い。若年〜中年の男性に最も多くみられる。

全身症状は多彩であり、以下の2つの病期に大別される。

急性期(無黄疸期)

発熱:突然の高熱で発症する。

筋肉痛・関節痛:感冒様症状を伴う。

結膜充血:無黄疸期にも認められる。

その他:頭痛、吐き気、食欲不振、腹痛など。軽症例は自限的に治癒する。

後期(黄疸期・ワイル病)

Weil 3徴候:出血・黄疸・腎障害(蛋白尿)を伴う。

腎病変:間質性腎炎、尿毒症、乏尿。

髄膜炎:髄膜刺激症状(頭痛)を認める。

その他:精神病状態、錯乱、せん妄など重篤な全身症状を呈する。

典型例では後遺症を残さず治癒することが多い。

Q ワイル病とレプトスピラ症は同じ病気か?
A

レプトスピラ症は軽症から重症まで幅広い臨床像を呈する。ワイル病はその重症型で、出血・黄疸・腎障害を伴う後期黄疸期の病態を指す。

眼症状は全身感染から通常6か月後に発症する。ただし発症時期は2週間から数年後まで幅がある。

  • 視力低下:硝子体混濁や白内障の進行に伴い自覚する。
  • 充血:急性期の結膜充血から遅発性のぶどう膜炎まで、時期により性状が異なる。
  • 飛蚊症硝子体炎症反応による硝子体混濁に起因する。
  • 眼痛虹彩毛様体炎に伴う毛様充血を伴うことがある。
  • 色覚異常・視野異常:球後視神経症や視神経炎を示唆する所見である。

レプトスピラ症の眼所見は急性期と後期免疫期で異なる。

急性期(レプトスピラ血症期)の眼所見

Section titled “急性期(レプトスピラ血症期)の眼所見”
  • 結膜充血(conjunctival suffusion):分泌物を伴わない点が特徴的である。
  • 結膜下出血:急性期に高頻度にみられる。
  • 強膜黄疸:全身の黄疸を反映する。
  • 結膜浮腫(chemosis):結膜の浮腫性変化を認める。
  • 角膜周囲充血:結膜分泌物を伴わない。

後期免疫期(ぶどう膜炎期)の眼所見

Section titled “後期免疫期(ぶどう膜炎期)の眼所見”

眼所見は片側性または両側性に出現する。

  • 非肉芽腫性前部ぶどう膜炎:前房蓄膿を伴う急性の虹彩毛様体炎。前部ぶどう膜炎は通常軽度で自限性である。
  • 汎ぶどう膜炎:ベール状硝子体混濁・視神経乳頭腫脹・網膜静脈周囲炎を呈する。重症化や再発を繰り返すことがある。
  • 網脈絡膜病変の欠如:網脈絡膜病変は通常みられない。鑑別診断の重要な手がかりとなる。
  • 網膜血管炎:網膜血管の炎症を認めることがある。
  • 視神経病変:視神経乳頭炎・視神経炎・神経網膜炎として現れる。症例の3〜64%で視神経乳頭充血を認める。
  • 白内障:血清陽性例の約14%に併発する。

レプトスピラ属菌はげっ歯類などの野生動物や家畜・ペットが保菌動物である。菌は尿中に排出されるため、尿で汚染された水や土壌を介して感染する。

主な感染経路は以下の通りである。

  • 経皮感染:汚染された水や土壌との接触。皮膚の小傷口や粘膜から侵入する。
  • 経口感染:汚染された水や食物の摂取。
  • 直接接触:感染動物やその体液(特に尿)との接触。

主なリスク要因は以下の通りである。

  • 職業的曝露:農業従事者・下水道作業者・獣医師など。
  • 地理的要因:熱帯・亜熱帯地域で感染率が高い。洪水発生後に集団発症がみられる。
  • レジャー活動:汚染された淡水でのレクリエーション。
  • 海外渡航:流行地への渡航による輸入感染例が増加している。
  • 動物接触:家畜やペットからの感染リスクもある。

レプトスピラ症の確定診断には血清学的検査が中心的役割を果たす。

  • 顕微鏡下凝集試験(MAT):ゴールドスタンダードである。ペア血清を用いて4倍以上の抗体価上昇で診断する。
  • ELISA:血清学的アッセイとして補助的に用いられる。
  • 間接赤血球凝集試験:補助的な血清学的検査である。
  • PCR:レプトスピラ遺伝子の検出が可能である。ネステッドPCR法の感度が高い。
  • 培養法:確定診断に有用だが、培養に時間を要する。
  • 組織化学的染色・免疫染色:組織検体からの菌体同定に用いる。
  • 暗視野顕微鏡検査:直接的な菌体観察に使用される。

レプトスピラ性ぶどう膜炎の眼科的鑑別診断として以下を考慮する。

鑑別疾患鑑別のポイント
フックス虹彩異色性虹彩毛様体炎急性の角膜周囲充血・フレア・前房炎症の有無
トキソプラズマ症脈絡膜・網膜の炎症性病変の有無
急性網膜壊死脈絡膜・網膜の炎症性病変の有無

さらに以下の疾患との鑑別も重要である。

  • 原田病交感性眼炎:脈絡膜肥厚や滲出性網膜剥離の欠如で鑑別する。
  • 多発性硬化症:MRI所見や中枢神経系病変の欠如で鑑別する。
  • サルコイドーシス:両側性肉芽腫性ぶどう膜炎の欠如で鑑別する。
  • 毛様体扁平部炎:スノーバンキングの欠如で鑑別する。
  • イールズ病ベーチェット病:網膜血管炎を呈する他疾患との鑑別が必要である。
Q レプトスピラ性ぶどう膜炎と原田病はどう区別するか?
A

レプトスピラ性ぶどう膜炎では脈絡膜肥厚や滲出性網膜剥離がみられない。原田病ではこれらが初期から出現する点が重要な鑑別点である。

レプトスピラ症の治療は疾患の重症度によって異なる。

輸液管理と疼痛・発熱のコントロールが基本である。

全身的な抗菌薬療法が必要である。

  • 初期治療:セフトリアキソン、ドキシサイクリン、アモキシシリン、またはペニシリンを使用する。
  • 重症全身症例:アンピシリンまたはペニシリンの静脈内投与を行う。
  • 治療期間:約3週間の抗菌薬投与を行う。
  • 集中治療:呼吸器症状がある場合は人工呼吸器管理を要することがある。利尿薬や強心薬の使用も検討する。

教科書的にはペニシリン・アジスロマイシン・ドキシサイクリンなどで3週間ほど治療する。

眼所見に対する主要な治療法は以下の通りである。

  • ステロイド療法:点眼・眼周囲注射・全身投与を炎症の程度に応じて使い分ける。
  • 散瞳薬(mydriatics)虹彩後癒着の予防と毛様体痛の軽減に用いる。
Q 眼の症状にも抗菌薬が必要か?
A

眼のぶどう膜炎は免疫反応による遅発性病変であるため、眼科的治療の中心はステロイドと散瞳薬である。ただし全身感染が活動期であれば抗菌薬の全身投与も併用する。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

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レプトスピラ症の眼症状の発症機序は、宿主の免疫応答および菌体毒素の両方が関与すると考えられている。

眼内における以下の変化が報告されている。

  • 血清型特異的リポ多糖(LPS):エンドトキシンとしてぶどう膜炎を誘発する可能性がある。
  • サイトカインの増加:IL-6・IL-8・IL-10・IL-12p70・TNFが前房水中で上昇する。
  • 好中球浸潤:前房水における選択的な好中球浸潤が認められる。

これらの所見は、エンドトキシンがレプトスピラ性ぶどう膜炎の誘因である可能性を示唆している。

眼所見は感染後1〜6か月後に出現する。急性期の結膜充血は菌血症に直接関連する。一方、後期免疫期のぶどう膜炎は免疫反応によるものであり、菌体の直接的な眼組織障害ではない。

網脈絡膜病変が通常みられないことは、病態が脈絡膜への直接感染ではなく、前房・硝子体腔での免疫反応を主体とすることを示唆する。

Q なぜ眼症状が全身感染の数か月後に出現するのか?
A

眼のぶどう膜炎は菌体の直接障害ではなく、宿主の免疫応答による遅発性の反応と考えられている。前房水中のサイトカイン上昇やエンドトキシンの関与が示唆されている。詳細は「病態生理学」の項を参照。


広く普及しているヒト用ワクチンは現時点では存在しない。動物へのワクチン接種は感染予防に有効であるが、ヒトへの応用は研究段階にある。

現在の予防策としては、汚染環境への曝露回避・高リスク者への抗菌薬(ドキシサイクリン)予防投与・動物へのワクチン接種が推奨されている。流行地への渡航前の抗菌薬予防内服も行われることがある。

レプトスピラ性ぶどう膜炎の病態解明については、前房水中のサイトカインプロファイルやエンドトキシンの役割に関する研究が進行中である。これらの知見は、より標的を絞った治療法の開発につながる可能性がある。


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