前眼部所見
雪片状混濁:眼瞼間の上皮下点状病変。初期に出現する。
硬化性角膜炎:慢性炎症による角膜実質の瘢痕化と新生血管。永続的失明の主因である。
前房内ミクロフィラリア:細隙灯で徹照法を用い、S字型またはC字型の微細な可動性要素として観察される。
虹彩毛様体炎:瞳孔偏位、虹彩萎縮、広範な虹彩癒着を引き起こす。

オンコセルカ症(onchocerciasis)は、糸状虫類の Onchocerca volvulus(回旋線虫)によって引き起こされるフィラリア感染症である。「河川盲目症(river blindness)」とも呼ばれ、流れの速い河川近傍に生息するブユ(Simulium 属)が媒介する。
2017年のグローバル疾病負荷研究によると、世界で少なくとも2,090万人が感染しており、そのうち1,460万人が皮膚疾患、115万人が視力喪失を患っている1)。感染症による失明原因としてトラコーマに次いで世界第2位である1)。感染者の99%以上がサハラ以南アフリカ31カ国に集中している。
2024年現在、28カ国の少なくとも2億4,950万人が排除に向けた介入を必要としている。2023年には合計1億7,220万人が治療を受け、世界全体のカバー率は69.0%に達した。
コロンビア(2013年)、エクアドル(2014年)、メキシコ(2015年)、グアテマラ(2016年)の4カ国はWHOにより排除が認定された5)。メキシコでは1994年から2011年にかけてイベルメクチンの年2〜4回投与を実施し、3焦点すべてで伝播の中断が達成された5)。
エチオピアではスキンスニップ法によるメタアナリシスでプール有病率31.8%と報告されている2)。高度流行地域では20歳までに感染率が80〜100%に達し、男性の有病率(28.4%)は女性(19.3%)を有意に上回る2)。
ガーナでは1974年からの管理プログラムにより、ミクロフィラリア有病率が1975年の69.13%から2015年には0.72%まで低下した3)。治療カバー率は1997年の58.5%から2016年には83.8%まで上昇し、約1億錠のイベルメクチンが配布された3)。
ガボンでは管理プログラムの確立が遅れており、地域により0%から80%超まで有病率が大きく異なる6)。ロア糸状虫(Loa loa)との共感染が高率であり、イベルメクチン投与に伴う重篤な副作用リスクが地域指向性イベルメクチン治療(CDTI)実施の障壁となっている6)。
超流行地域では非感染集団と比較して全死亡率が3〜4倍に増加し、平均寿命が7〜12年短縮する。
感染者の99%以上がサハラ以南アフリカに集中する。南米ではブラジルとベネズエラの国境地域にのみ伝播が残存している。中東ではイエメンにも流行地が存在する。
通常、眼症状に先行して皮膚症状が出現する。眼症状は感染から数年後に顕在化し、40〜50代でピークに達する。
回旋線虫は眼のすべての組織に関与しうる。点状表層角膜炎、硬化性角膜炎、前房内仔虫、前部ぶどう膜炎、脈絡網膜炎、網脈絡膜萎縮、視神経乳頭炎がみられる。
前眼部所見
雪片状混濁:眼瞼間の上皮下点状病変。初期に出現する。
硬化性角膜炎:慢性炎症による角膜実質の瘢痕化と新生血管。永続的失明の主因である。
前房内ミクロフィラリア:細隙灯で徹照法を用い、S字型またはC字型の微細な可動性要素として観察される。
虹彩毛様体炎:瞳孔偏位、虹彩萎縮、広範な虹彩癒着を引き起こす。
後眼部所見
脈絡網膜炎:乳頭周囲から始まり、広範な網脈絡膜萎縮に進展する。
視神経乳頭炎:視神経浮腫から始まり、最終的に視神経萎縮に至る。
続発緑内障:虹彩癒着による閉塞隅角型が多い。癒着がなくても緑内障の独立したリスク因子である。
白内障:虹彩毛様体炎に続発して早期に形成される。
硬化性角膜炎と脈絡網膜炎が永続的な失明の主要因である。続発緑内障や視神経萎縮も不可逆的な視力障害の原因となる。詳細は「病態生理学・詳細な発症機序」の項を参照。
病原体は Onchocerca volvulus(回旋線虫)である。ブユが感染者を刺咬してミクロフィラリアを摂取し、ブユ体内で1週間かけて感染力のある第3期幼虫(L3)に発育する。L3は新たなヒト宿主の皮膚に侵入し、6〜12か月かけて成虫に成熟する。
成虫の雌は皮下や深部筋膜組織に移動し、線維性カプセル(皮下結節)に包まれる。このカプセル内で受精した雌は数百万のミクロフィラリアを産生する。成虫の生殖寿命は最大15年と推定される1)。ミクロフィラリアは皮膚真皮のほか、眼を含む各組織に移動する。
経胎盤感染による伝播も報告されている。
診断は臨床所見と流行地域の居住歴に基づいて行われる。確定診断にはスキンスニップ法が用いられる。
無血スキンスニップ法が標準的な確定診断法である。肩甲骨、各腸骨稜、各ふくらはぎの上から検体を採取する。検体は生理食塩水中で最大24時間培養し、可動性要素を染色同定する。回旋線虫は尾部に鞘や核を持たないため他の線虫と区別できる。
特異度は非常に高いが、感染初期や虫体負荷が低い場合は感度が低い。感染後18か月以降に検出価値が高まる。
酵素免疫測定法(ELISA)やウェスタンブロット法で、皮膚・涙・尿中の回旋線虫抗原に対する抗体を検出する。IgG4サブクラスの測定も使用される。Ov16抗原に対する抗体検査は、排除プログラムの後期段階で有用である4)。ただし、Ov16抗体検査は現在の感染と過去の曝露を区別できない点に注意が必要である4)。
PCR法はスキンスニップ法より感度が高く、低虫体負荷でも検出可能である。O-150 PCR法はブユの分子ゼノモニタリング(MX)にも使用される4)。分子ゼノモニタリングはミクロフィラリア有病率1%以上のコミュニティを高い感度で検出でき、伝播中断の判定に推奨されている4)。
Rosaら(2023)はプロテオミクス解析により、感染者の血漿および尿中から O. volvulus 由来タンパク質を直接検出する手法を報告した9)。19種の候補バイオマーカーが同定・優先順位付けされ、特にOVOC11613(major antigen)は5例の血漿と1例の尿から検出された9)。活動性感染の診断や治療効果モニタリングへの応用が期待される。
他のミクロフィラリア感染症(Mansonella perstans、ロア糸状虫、メジナ虫など)、サルコイドーシスなどの全身性炎症性疾患、角膜変性・硬化性疾患が鑑別に挙がる。
| 検査法 | 特徴 | 適応 |
|---|---|---|
| スキンスニップ | 高特異度・感度は負荷依存 | 確定診断 |
| Ov16抗体 | 非侵襲的・曝露歴を反映 | 排除後の監視 |
| PCR | 高感度・低負荷でも検出 | 排除プログラム |
感染初期や虫体負荷が低い場合、スキンスニップ法は偽陰性となりうる。臨床的に疑わしければ、血清学的検査やPCR法を追加することが推奨される。
イベルメクチン(ストロメクトール®)の内服が標準治療である。2015年ノーベル医学・生理学賞を受賞した大村智とCampbellの開発した薬剤であり、集団投与プログラムの中核をなす。
イベルメクチンは成虫には効果がない。しかし早期治療開始により、視神経萎縮の発現を軽減し、視野欠損や角膜炎の重症度を減少させることが示されている。進行した脈絡網膜病変や続発緑内障には無効である。
ドキシサイクリンの6週間投与は、共生細菌ボルバキアを枯渇させることで成虫のミクロフィラリア産生を最大18か月間抑制し、角膜混濁を軽減する効果がある。
虹彩毛様体炎にはステロイド点眼薬と調節麻痺薬(散瞳薬)を使用する。白内障には白内障手術が適応となる。緑内障には眼圧下降治療を行う。
イベルメクチンはミクロフィラリアを減少させるが、成虫を殺滅しない。成虫の生殖寿命は最大15年であるため、長期間の反復投与が必要である。現在、成虫を標的とする新薬の開発が進行中である。詳細は「最新の研究と今後の展望」の項を参照。
回旋線虫は生存中にはほとんど炎症を惹起しない。成虫は線維性結節に保護され、ミクロフィラリアは未知のメカニズムにより免疫原性を持たない。眼病変の主因は、死滅したミクロフィラリアから放出される抗原に対するヘルパーT細胞(Th2)反応である。
この反応によりインターロイキンの放出、好中球・好酸球の流入、抗体産生が誘導される。硬化性角膜炎は細胞間接着分子1(ICAM-1)発現の修飾とインターロイキン4・インターロイキン14産生の結果と考えられている。
ミクロフィラリアの死に伴い放出される共生細菌ボルバキア(Wolbachia)が炎症の主因であることが示唆されている。アフリカには2つの主要な系統(サバンナ型と熱帯雨林型)が存在し、サバンナ型はボルバキアDNA含有量が高く、中等度の寄生虫負荷でも眼疾患を引き起こしやすい。熱帯雨林型は高負荷でも失明を起こしにくい。
後極部の眼内炎症の一部は抗原模倣(antigen mimicry)による可能性がある。回旋線虫抗原Ov39と網膜抗原hr44の間の交差反応性が、ミクロフィラリア負荷が減少しても脈絡網膜炎が進行し続ける一因と考えられている。
オンコセルカ症に関連する緑内障は虹彩癒着による閉塞隅角型が多い。しかし癒着がなくても緑内障の独立したリスク因子である。顕微鏡検査では、正常な線維柱帯構造を保ちながら、より下流の流出系に影響を及ぼす線維柱帯後部の異常構造が認められている。
エモデプシドは獣医用駆虫薬として開発された環状オクタデプシペプチドであり、線虫のカルシウム活性化カリウムチャネル(SLO-1)に作用する1)。成虫を含む複数のライフステージに活性を持ち、イベルメクチン耐性系統にも有効である1)。
Phase I臨床試験では健康成人において良好な安全性・忍容性が確認され、40 mgまでの単回投与で用量比例的な血漿中濃度の上昇が認められた1)。半減期は最初の24時間で約11時間、終末相では500時間超であった1)。2014年にBayer社とDNDi(顧みられない病気の新薬イニシアチブ)が共同開発を開始し、ガーナでのPhase II臨床試験が計画されている1)。
O. ochengi(ウシに寄生する同属近縁種)のモデルでは、エモデプシド7日間反復投与により7頭中5頭で成虫の死滅または不妊化が示された1)。
Zhanら(2022)はオンコセルカ症ワクチンの開発状況を報告した8)。主要候補抗原として、L3幼虫のモルティングに必須のシステインプロテアーゼ阻害因子Ov-CPI-2、分泌型タンパク質Ov-RAL-2、表面関連抗原Ov-103が同定されている8)。
O. ochengi のウシモデルでは、放射線照射L3による免疫化で実験的チャレンジおよび自然感染に対する防御が得られた8)。ヒトの流行地域住民の1〜5%に推定免疫(putative immunity)が認められ、これらの個体ではIL-5・IFN-γ・GM-CSFの産生亢進とIgG3高値が特徴的である8)。
Pryceら(2021)はブユの分子ゼノモニタリング(MX)の診断精度を評価し、ミクロフィラリア有病率1%超のコミュニティで高感度に陽性ハエを検出できることを示した4)。MX率とヒト有病率の間に有意な線形関係(R² = 0.50, p < 0.001)が認められた4)。
Rosaら(2023)は質量分析プロテオミクスにより、感染者血漿中のOVOC11613(major antigen)を最有望候補とする19種のバイオマーカーを同定した9)。同位体標識ペプチドによる検証では11タンパク質・15ペプチドの同定が確認された9)。成虫の活動性感染を直接検出できる初の非侵襲的診断法への道を開く可能性がある。
ガーナでは40年以上の管理プログラムにもかかわらず、一部のコミュニティでミクロフィラリア有病率が1%を超えたままであり、イベルメクチン低応答も報告されている3)。ガボンではロア糸状虫との共感染がCDTI実施の障壁となり、有病率のマッピングすら不完全な状態が続いている6)。
排除達成にはイベルメクチン耐性への対策、共流行地域での安全な治療戦略、資金確保、監視体制の強化が不可欠である7)。