前眼部病変
上強膜炎:扇状の充血と軽度の不快感。炎症フレア時に出現する。
強膜炎:深い持続痛。びまん性または結節性の炎症を呈する。
前部ぶどう膜炎:前房内の細胞・フレア、羞明。肉芽腫性・非肉芽腫性の両パターンが報告されている。

家族性地中海熱(Familial Mediterranean Fever; FMF)は、第16染色体短腕(16p13.3)に位置するMEFV遺伝子の変異に起因する常染色体劣性の自己炎症性疾患である。発熱と腹膜・胸膜・滑膜などの漿膜炎を繰り返す。トルコ人・アルメニア人・アラブ人・非アシュケナージ系ユダヤ人など地中海沿岸集団に多い。
家族性地中海熱の眼症状は他の自己炎症性症候群と比較して頻度は低い。しかし近年の報告では、ほぼすべての主要な眼炎症カテゴリーが家族性地中海熱で記録されている。Yaziciらは三次医療機関で眼炎症を伴う家族性地中海熱患者6例を報告した。後部ぶどう膜炎と前部ぶどう膜炎がそれぞれ3分の1を占め、残りを後部強膜炎・上強膜炎が占めていた。
コルヒチンは家族性地中海熱治療の柱であり、発作の頻度と強度を劇的に減少させる。しかしコルヒチン抵抗性やアドヒアランス不良の患者では、持続的な炎症やAAアミロイドーシスのリスクが残る。
トルコ人・アルメニア人・アラブ人・非アシュケナージ系ユダヤ人など地中海沿岸の集団に多い。一部のコミュニティではMEFV変異保因率が5人に1人を超える。移住により世界中に分布が広がっている。
家族性地中海熱の眼症状は病変の部位により多様である。
家族性地中海熱における眼病変は複数の解剖学的部位に及ぶ。自己炎症・血管機能障害・AAアミロイド沈着の相互作用を反映している。
前眼部病変
上強膜炎:扇状の充血と軽度の不快感。炎症フレア時に出現する。
強膜炎:深い持続痛。びまん性または結節性の炎症を呈する。
前部ぶどう膜炎:前房内の細胞・フレア、羞明。肉芽腫性・非肉芽腫性の両パターンが報告されている。
後眼部病変
後部ぶどう膜炎:脈絡膜・網膜の炎症。黄斑病変による視力低下の可能性がある。
後部強膜炎:脈絡膜皺襞・漿液性網膜剥離を呈する。超音波検査でTサインを認めることがある。
網膜血管炎:血管周囲の鞘状形成、蛍光眼底造影での漏出を示す。
主な眼合併症とその発生部位の対応を以下に示す。
| 部位 | 主な病変 | 臨床的特徴 |
|---|---|---|
| 前眼部 | 上強膜炎・前部ぶどう膜炎 | 炎症フレアに一致 |
| 後眼部 | 後部ぶどう膜炎・後部強膜炎 | 重症例に多い |
| 網膜血管 | 血管炎・静脈閉塞 | 内皮機能障害が関与 |
全身性炎症の活動期やコルヒチンの効果が不十分な時期に一致して出現しやすい。上強膜炎は炎症フレアに伴い、後眼部病変はコントロール不良の慢性例に多い。
家族性地中海熱の眼症状は、MEFV遺伝子変異に起因するピリンインフラマソームの過剰活性化を基盤とする。主要な病因メカニズムは以下の3つである。
眼病変のリスクを高める主な因子は以下の通りである。
家族性地中海熱に伴う眼症状の診断は、全身疾患の既往を踏まえた眼科的精査が基本となる。眼所見だけでは家族性地中海熱特異的なパターンを示さない場合が多く、鑑別診断が重要である。
MEFV遺伝子変異の確認と、CRP・SAA(血清アミロイドA)などの急性期反応物質のモニタリングが全身疾患評価の柱となる。
家族性地中海熱の眼症状は非特異的であるため、以下の疾患との鑑別を要する。
家族性地中海熱の眼合併症に対する治療は、全身性炎症の制御と眼局所の消炎治療の二本柱で構成される。
家族性地中海熱治療の第一選択薬であり、発作の予防とアミロイドーシスの進展抑制を目的とする。通常0.5〜1.5 mg/日(多くは1 mg/日)を継続投与する。コルヒチンによる全身性炎症の適切な制御が、眼合併症の発症予防に最も重要である。
コルヒチン単独で十分な効果が得られない場合には、IL-1阻害薬が検討される。家族性地中海熱の病態の中核であるIL-1β過剰放出を直接標的とする治療である。
眼の炎症所見に応じて、以下の局所治療を適宜行う。治療の原則は他の非感染性ぶどう膜炎に準じる。
コルヒチンは発作頻度を劇的に減少させるが、完全な予防は保証されない。コルヒチン抵抗性の患者やアドヒアランス不良例では、眼症状を含む関節外合併症が生じうる。定期的な眼科検診の継続が重要である。
家族性地中海熱はMEFV遺伝子の病原性変異により、ピリンインフラマソームの活性化閾値が低下した状態である。ピリンは主に骨髄系細胞で発現する細胞質タンパク質であり、Rho GTPアーゼシグナル伝達の変化に反応してインフラマソームを構築する。
活性化されたピリンはASCおよびカスパーゼ-1を動員する。カスパーゼ-1がプロIL-1βおよびプロIL-18を活性型に切断し、ガスデルミンDを介したパイロトーシス(炎症性細胞死)を引き起こす。病原性MEFV変異(M694V・M680I・V726A・M694Iなど)はこの活性化閾値を下げる。その結果、通常無害な刺激でも過剰なIL-1β放出と炎症発作が誘発される。
眼組織における炎症の機序は以下のように整理される。
家族性地中海熱患者の単球では、ピリンの脱リン酸化のみでインフラマソーム活性化が誘発される。健常者ではこの反応は起こらない。この基礎的知見がIL-1βの中心的な病因的役割を支持している。
持続的な全身性炎症により産生されたSAA由来のアミロイド線維が、結膜(蝋様沈着・出血)、眼瞼(結節・下垂)、涙腺(涙液減少)、線維柱帯(眼圧上昇・二次性緑内障)、網膜血管(壁肥厚・虚血)に沈着して障害を引き起こす。詳細は「原因とリスク要因」の項も参照。
臨床的に静止期にある家族性地中海熱小児を対象とした研究では、EDI-OCTで脈絡膜肥厚や微細構造変化が検出されている。これらの所見は慢性的な不顕性炎症が疾患早期から眼組織に影響を及ぼしている可能性を示唆する。脈絡膜血管性指標(choroidal vascularity index)が家族性地中海熱における眼病変の早期バイオマーカーとなりうるか、今後の検討が期待される。
コルヒチン抵抗性家族性地中海熱に対するIL-1阻害薬(アナキンラ・カナキヌマブなど)の有効性が報告されている。これらの薬剤が眼炎症の予防や治療にも有効であるかについては、今後の臨床データの蓄積が必要である。非感染性ぶどう膜炎全般に対してはアダリムマブ(抗TNF-α抗体)のステロイド減量効果が示されており、家族性地中海熱関連ぶどう膜炎への応用も検討の余地がある。