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ぶどう膜炎

壊死性ヘルペス性網膜炎(急性網膜壊死・進行性外層網膜壊死)

1. 壊死性ヘルペス性網膜炎とは

Section titled “1. 壊死性ヘルペス性網膜炎とは”

壊死性ヘルペス性網膜炎は、急性網膜壊死(Acute Retinal Necrosis:ARN)と進行性外層網膜壊死(Progressive Outer Retinal Necrosis:PORN)から構成される急速進行性ウイルス性網膜症のスペクトラムである。

急性網膜壊死は1971年、浦山らによって「桐沢型ぶどう膜炎」として日本で最初に報告された。それまで類をみない6例の特異な経過をとる劇症ぶどう膜炎として報告されたこの疾患が、国内外での急性網膜壊死の最初の報告である。

免疫状態による臨床像の違いが本疾患の本質的な特徴である。

  • 急性網膜壊死:主に免疫正常患者に発症。血管炎・虹彩毛様体炎・硝子体炎を伴う周辺部網膜炎として現れる。
  • 進行性外層網膜壊死:HIV感染者などの免疫不全患者に発症。顕著な眼内炎症や血管病変を伴わず、黄斑部や周辺部網膜を急速に巻き込む。

本疾患は真の眼科的緊急疾患であり、恒久的な視力喪失を防ぐためには直ちに治療を開始することが不可欠である。

Q 急性網膜壊死とPORNはどう違うのか?
A

急性網膜壊死は主に免疫正常者に発症し、周辺部から始まる強い炎症(硝子体炎・前部ぶどう膜炎・動脈炎)を特徴とする。一方PORNはHIV感染など高度免疫不全者に発症し、著明な硝子体炎を伴わずに後極部を含む網膜が急速に壊死する点が特徴的に異なる。いずれも緊急治療を要する。

急性網膜壊死患者は通常、以下の症状で受診する。

  • 飛蚊症:前部硝子体炎・硝子体混濁によるもの。
  • 羞明(まぶしさ):前眼部炎症による光過敏。
  • 視力低下:進行性・急速な視力障害。
  • 眼痛:顕著な特徴となることもあるが、欠如していることも多い。

治療を行わない場合、患者の3分の1で1ヶ月以内に僚眼が侵される。症例の85%以上が片眼性に発症する。

急性網膜壊死所見

前眼部:肉芽腫性または非肉芽腫性前部ぶどう膜炎・豚脂様角膜後面沈着物。単純ヘルペスウイルスによる急性網膜壊死では高眼圧(平均35 mmHg)が高率に認められる。

網膜病変:遠位周辺部または中間周辺部に始まる黄白色壊死性斑状病変。時間経過とともに拡大・増加・融合する。

網膜血管炎:動脈炎が主体。棍棒状の静脈沿い出血が特徴的。

進行性外層網膜壊死所見

炎症の乏しさ:著明な硝子体炎がないのが特徴。

後極部から発症:急性網膜壊死とは逆に初期から後極部・黄斑部を侵す。

急速進展:24〜48時間で著明な進行を示すことがある。

両眼性:経過の初期から両眼性になる傾向がある。

急性網膜壊死の経過では、網膜周辺部に認める黄白色顆粒状病変(ウイルス増殖部位)が全周性・後極側へ拡大するが、抗ウイルス薬投与により約1週間で進展が停止する。その後各顆粒状病変は融合して濃厚で境界明瞭な地図状白色病変へと変化する(直接的なウイルス障害と閉塞性血管炎による)。

急性網膜壊死の最も多い原因は水痘帯状疱疹ウイルスであり、次いで単純ヘルペスウイルス1型・単純ヘルペスウイルス2型が続く。サイトメガロウイルスは免疫不全者では重要な原因となる。

  • 水痘帯状疱疹ウイルス:高齢者に多い傾向。加齢に伴う細胞性免疫低下が関与。
  • 単純ヘルペスウイルス1型:成人・高齢者に多い。ヘルペス脳炎の既往と関連することがある。
  • 単純ヘルペスウイルス2型:若年者に多い。髄膜炎との関連が指摘されている。
  • サイトメガロウイルス:主に免疫不全者(HIV感染・糖尿病・癌・免疫抑制療法使用者)に発症。
  • ヘルペス感染の現症または既往歴:最大50%の患者に認められる。
  • 免疫抑制状態:HIV感染・糖尿病・悪性腫瘍・全身ステロイド/免疫抑制療法の使用。
  • 局所ステロイド使用:劇症型急性網膜壊死と関連することがある稀なリスク因子。
  • 高齢:水痘帯状疱疹ウイルスによる急性網膜壊死のリスク増加。

急性網膜壊死の診断は通常、臨床的に行われる。SUN(Standardization of Uveitis Nomenclature)2021ワーキンググループが設定した診断基準が用いられる。

以下の組み合わせで診断される。

必須:周辺部網膜を侵す壊死性網膜炎

かつ、以下のいずれか

  1. 前房水または硝子体検体からの単純ヘルペスウイルスまたは水痘帯状疱疹ウイルスのPCR陽性
  2. 特徴的な臨床像(全周性または融合性の網膜炎 + 網膜血管の鞘走および/または閉塞 + 軽度を超える硝子体炎)

本邦では以下の診断基準が用いられる(初期眼所見・臨床経過・眼内液ウイルス検査の組み合わせ)。

初期眼所見

  • 前房炎症細胞または豚脂様角膜後面沈着物
  • 周辺網膜の黄白色病変
  • 網膜動脈炎
  • 視神経乳頭発赤
  • 炎症性硝子体混濁
  • 眼圧上昇

臨床経過

  • 網膜病変の急速な円周方向拡大
  • 網膜裂孔または網膜剥離の発生
  • 網膜血管閉塞
  • 視神経萎縮
  • 抗ウイルス薬への反応

眼内液(前房水・硝子体液)のPCRによるウイルスDNA検出が感度・特異性ともに最も優れた診断法である。定量的PCRはウイルス量・疾患活動性・治療反応の評価にも有用である。

ゴールドマン・ウィトマー係数(GW係数)

Section titled “ゴールドマン・ウィトマー係数(GW係数)”

眼内液と血清中の抗体産生を比較する検査。GW比が4を超える場合、局所的な抗体産生を意味し診断的価値がある。ただし発症早期(10日以内)には眼内抗体産生が十分でないことに注意が必要である。

急性網膜壊死の治療目標は、①網膜壊死を止めること、②炎症・血管閉塞による副次的損傷を最小限に抑えること、③僚眼を保護することの3点である。抗ウイルス療法はラボ検査の結果を待たずに直ちに開始する。

可及的速やかに(as soon as possible)以下の4要素を同時に開始する。

  • A(Aciclovir:抗ウイルス療法)
  • S(Steroid:抗炎症療法)
  • A(Aspirin:抗血栓療法
  • P(Prophylaxis for retinal detachment:網膜剥離の予防)
療法薬剤・投与量投与方法期間
導入療法アシクロビル 10 mg/kg×3回/日点滴静注2週間
導入療法代替バルトレックス錠(500 mg)6錠 分3経口2週間
継続療法バルトレックス錠(500 mg)6錠 分3経口初期療法後2週間

最新の知見では、バラシクロビル(1回最大2 g、1日3回)などの経口療法による導入も、静脈内アシクロビルと同等の視力転帰および網膜剥離発生率を示したとの報告がある。

全身投与とホスカルネット(foscarnet)の硝子体注射(2.4 mg/0.1 ml)の併用療法を受けた患者は、全身療法のみのグループと比較して視力が改善し網膜剥離発生率が低下したことが示されており、急性網膜壊死患者の導入療法として検討されるべきである。

サイトメガロウイルス網膜炎に対しては、ガンシクロビル(5 mg/kg×2回)またはバルガンシクロビル(900 mg×2回)が使用される。

  • ステロイド:抗ウイルス療法開始24〜48時間後から導入(硝子体炎・牽引性網膜剥離の原因となる硝子体索の形成を最小限に抑えるため)。局所ステロイド療法は網膜炎の急速進行と視力喪失を助長する可能性があるため注意が必要。
  • 抗血栓療法:バイアスピリン錠(100 mg)1錠 分1 4週間。閉塞性血管炎による合併症を防ぐ。
  • 散瞳薬虹彩後癒着の予防。

両眼発症例では左右眼の発症間隔が1ヶ月以内が多いため、初期療法2週間後もさらに2週間は抗ウイルス薬の投与を継続する。

網膜壊死領域には大きな網膜裂孔が生じやすく、網膜剥離の原因となる。

  • 予防的レーザー光凝固:壊死病変後極側への予防的障壁レーザー光凝固(顆粒状病変期が望ましい)。ただしエビデンスは現時点では確立されておらず、一部の研究では予防的レーザー治療を受けた眼でも網膜剥離率の有意な低下は認められなかった。
  • 硝子体手術シリコーンオイル充填・眼内光凝固・輪状締結の組み合わせが行われる。薄く壊死した網膜に複数の萎縮性後方裂孔が存在するため、強膜バックリング法よりも硝子体手術が一般的に選択される。
  • 予防的硝子体手術:顆粒状病変期での予防的硝子体手術が推奨されることもあるが、早期手術と経過観察の間で網膜復位の状態に有意差を認めなかった研究も複数あるため、エビデンスは現時点では不十分。
Q 治療を始めれば必ず視力は回復するか?
A

積極的な介入で良い結果が得られたという報告もあるが、急性網膜壊死全体としての予後は依然として慎重な見通しを要する。未治療急性網膜壊死の予後は伝統的に不良であり、3分の2の眼で視力0.1(20/200)以下となる。早期診断・早期治療開始が予後を決定する最重要因子であり、眼科専門施設への早急な紹介が不可欠である。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

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壊死性ヘルペス性網膜炎の発症には、潜伏ウイルスの再活性化が中心的な役割を果たす。

  • ウイルスの潜伏と再活性化:単純ヘルペスウイルス・水痘帯状疱疹ウイルス・サイトメガロウイルスなどのヘルペスウイルスは神経節に潜伏感染する。何らかのトリガー(免疫低下・加齢・ストレスなど)で再活性化し、神経を介して眼に到達する。
  • 急性網膜壊死発症機序:脈絡網膜組織や単純ヘルペスウイルス1型が硝子体から同定されており、PCR検査によって眼内液から単純ヘルペスウイルス1型・単純ヘルペスウイルス2型のDNAが検出されている。
  • 感染の経路:単純ヘルペスウイルス1型による急性網膜壊死はヘルペス脳炎の既往・合併がある場合に発症しやすく、単純ヘルペスウイルス2型による急性網膜壊死では髄膜炎との関連が指摘されている。水痘帯状疱疹ウイルスによる急性網膜壊死も髄膜炎の合併が報告されている。
  • 閉塞性血管炎:炎症極期には網膜静脈のみならず動脈にも血管炎が生じ、閉塞性血管炎による静脈沿いの棍棒状出血(急性網膜壊死に特徴的)や主幹動脈閉塞が起きる。
  • 網膜剥離の機序:治療開始後約3〜4週目に硝子体の器質化による不完全後部硝子体剥離が起こり、この時期を境に極端に菲薄化・脆弱化した網膜壊死部に硝子体からの強い牽引がかかり、多発裂孔を生じ、約70%の症例で網膜剥離が発生する。
  • 進行性外層網膜壊死の特殊性:進行性外層網膜壊死の多くは帯状疱疹に対する長期治療でアシクロビル耐性が出現している可能性が高く、ホスカルネットを考慮する必要がある。ヒトヘルペスウイルス6型はチミジンキナーゼを欠損するためアシクロビルが無効である。

7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)

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従来の標準治療はアシクロビルの静脈内投与による入院治療であったが、最新の研究では経口バラシクロビル(1回最大2 g、1日3回)による導入療法が静脈内アシクロビルと同等の視力転帰および網膜剥離発生率を達成したことが示されている。外来での治療開始の可能性を開く知見として注目されている。

硝子体内抗ウイルス療法の普及

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全身投与と硝子体内ホスカルネット注射(2.4 mg/0.1 ml)の併用療法が全身療法単独と比較して良好な成績を示したことから、硝子体内注射を含む導入療法の標準化が研究課題となっている。眼内への抗ウイルス薬直接投与により、全身毒性を最小限に抑えながら高い局所濃度を達成できる可能性がある。

定量的PCR検査によるウイルス量モニタリングが、疾患活動性評価・治療反応判定・治療期間の最適化に有用であるとの研究が蓄積されつつある。定量的PCRの標準化と臨床応用の確立が今後の課題となっている。


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