急性網膜壊死所見
前眼部:肉芽腫性または非肉芽腫性前部ぶどう膜炎・豚脂様角膜後面沈着物。単純ヘルペスウイルスによる急性網膜壊死では高眼圧(平均35 mmHg)が高率に認められる。
網膜病変:遠位周辺部または中間周辺部に始まる黄白色壊死性斑状病変。時間経過とともに拡大・増加・融合する。
網膜血管炎:動脈炎が主体。棍棒状の静脈沿い出血が特徴的。

壊死性ヘルペス性網膜炎は、急性網膜壊死(Acute Retinal Necrosis:ARN)と進行性外層網膜壊死(Progressive Outer Retinal Necrosis:PORN)から構成される急速進行性ウイルス性網膜症のスペクトラムである。
急性網膜壊死は1971年、浦山らによって「桐沢型ぶどう膜炎」として日本で最初に報告された。それまで類をみない6例の特異な経過をとる劇症ぶどう膜炎として報告されたこの疾患が、国内外での急性網膜壊死の最初の報告である。
免疫状態による臨床像の違いが本疾患の本質的な特徴である。
本疾患は真の眼科的緊急疾患であり、恒久的な視力喪失を防ぐためには直ちに治療を開始することが不可欠である。
急性網膜壊死は主に免疫正常者に発症し、周辺部から始まる強い炎症(硝子体炎・前部ぶどう膜炎・動脈炎)を特徴とする。一方PORNはHIV感染など高度免疫不全者に発症し、著明な硝子体炎を伴わずに後極部を含む網膜が急速に壊死する点が特徴的に異なる。いずれも緊急治療を要する。
急性網膜壊死患者は通常、以下の症状で受診する。
治療を行わない場合、患者の3分の1で1ヶ月以内に僚眼が侵される。症例の85%以上が片眼性に発症する。
急性網膜壊死所見
前眼部:肉芽腫性または非肉芽腫性前部ぶどう膜炎・豚脂様角膜後面沈着物。単純ヘルペスウイルスによる急性網膜壊死では高眼圧(平均35 mmHg)が高率に認められる。
網膜病変:遠位周辺部または中間周辺部に始まる黄白色壊死性斑状病変。時間経過とともに拡大・増加・融合する。
網膜血管炎:動脈炎が主体。棍棒状の静脈沿い出血が特徴的。
進行性外層網膜壊死所見
炎症の乏しさ:著明な硝子体炎がないのが特徴。
後極部から発症:急性網膜壊死とは逆に初期から後極部・黄斑部を侵す。
急速進展:24〜48時間で著明な進行を示すことがある。
両眼性:経過の初期から両眼性になる傾向がある。
急性網膜壊死の経過では、網膜周辺部に認める黄白色顆粒状病変(ウイルス増殖部位)が全周性・後極側へ拡大するが、抗ウイルス薬投与により約1週間で進展が停止する。その後各顆粒状病変は融合して濃厚で境界明瞭な地図状白色病変へと変化する(直接的なウイルス障害と閉塞性血管炎による)。
急性網膜壊死の最も多い原因は水痘帯状疱疹ウイルスであり、次いで単純ヘルペスウイルス1型・単純ヘルペスウイルス2型が続く。サイトメガロウイルスは免疫不全者では重要な原因となる。
急性網膜壊死の診断は通常、臨床的に行われる。SUN(Standardization of Uveitis Nomenclature)2021ワーキンググループが設定した診断基準が用いられる。
以下の組み合わせで診断される。
必須:周辺部網膜を侵す壊死性網膜炎
かつ、以下のいずれか:
本邦では以下の診断基準が用いられる(初期眼所見・臨床経過・眼内液ウイルス検査の組み合わせ)。
初期眼所見:
臨床経過:
眼内液(前房水・硝子体液)のPCRによるウイルスDNA検出が感度・特異性ともに最も優れた診断法である。定量的PCRはウイルス量・疾患活動性・治療反応の評価にも有用である。
眼内液と血清中の抗体産生を比較する検査。GW比が4を超える場合、局所的な抗体産生を意味し診断的価値がある。ただし発症早期(10日以内)には眼内抗体産生が十分でないことに注意が必要である。
急性網膜壊死の治療目標は、①網膜壊死を止めること、②炎症・血管閉塞による副次的損傷を最小限に抑えること、③僚眼を保護することの3点である。抗ウイルス療法はラボ検査の結果を待たずに直ちに開始する。
可及的速やかに(as soon as possible)以下の4要素を同時に開始する。
| 療法 | 薬剤・投与量 | 投与方法 | 期間 |
|---|---|---|---|
| 導入療法 | アシクロビル 10 mg/kg×3回/日 | 点滴静注 | 2週間 |
| 導入療法代替 | バルトレックス錠(500 mg)6錠 分3 | 経口 | 2週間 |
| 継続療法 | バルトレックス錠(500 mg)6錠 分3 | 経口 | 初期療法後2週間 |
最新の知見では、バラシクロビル(1回最大2 g、1日3回)などの経口療法による導入も、静脈内アシクロビルと同等の視力転帰および網膜剥離発生率を示したとの報告がある。
全身投与とホスカルネット(foscarnet)の硝子体注射(2.4 mg/0.1 ml)の併用療法を受けた患者は、全身療法のみのグループと比較して視力が改善し網膜剥離発生率が低下したことが示されており、急性網膜壊死患者の導入療法として検討されるべきである。
サイトメガロウイルス網膜炎に対しては、ガンシクロビル(5 mg/kg×2回)またはバルガンシクロビル(900 mg×2回)が使用される。
両眼発症例では左右眼の発症間隔が1ヶ月以内が多いため、初期療法2週間後もさらに2週間は抗ウイルス薬の投与を継続する。
網膜壊死領域には大きな網膜裂孔が生じやすく、網膜剥離の原因となる。
積極的な介入で良い結果が得られたという報告もあるが、急性網膜壊死全体としての予後は依然として慎重な見通しを要する。未治療急性網膜壊死の予後は伝統的に不良であり、3分の2の眼で視力0.1(20/200)以下となる。早期診断・早期治療開始が予後を決定する最重要因子であり、眼科専門施設への早急な紹介が不可欠である。
壊死性ヘルペス性網膜炎の発症には、潜伏ウイルスの再活性化が中心的な役割を果たす。
従来の標準治療はアシクロビルの静脈内投与による入院治療であったが、最新の研究では経口バラシクロビル(1回最大2 g、1日3回)による導入療法が静脈内アシクロビルと同等の視力転帰および網膜剥離発生率を達成したことが示されている。外来での治療開始の可能性を開く知見として注目されている。
全身投与と硝子体内ホスカルネット注射(2.4 mg/0.1 ml)の併用療法が全身療法単独と比較して良好な成績を示したことから、硝子体内注射を含む導入療法の標準化が研究課題となっている。眼内への抗ウイルス薬直接投与により、全身毒性を最小限に抑えながら高い局所濃度を達成できる可能性がある。
定量的PCR検査によるウイルス量モニタリングが、疾患活動性評価・治療反応判定・治療期間の最適化に有用であるとの研究が蓄積されつつある。定量的PCRの標準化と臨床応用の確立が今後の課題となっている。