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ぶどう膜炎

眼炎症に対する免疫調節療法(IMT)

1. 眼炎症に対する免疫調節療法(IMT)とは

Section titled “1. 眼炎症に対する免疫調節療法(IMT)とは”

免疫調節療法(Immunomodulatory Therapy; IMT)は、ステロイドに依存または抵抗する非感染性眼炎症に対して使用されるステロイドスペアリング治療の総称である。免疫調節薬(immunomodulator)はメトトレキサートやアザチオプリンなどの従来型薬から、TNF-α阻害薬(アダリムマブ・インフリキシマブ)などの生物学的製剤まで幅広い。

非感染性ぶどう膜炎は多様な自己免疫性・自己炎症性疾患群であり、適切な治療なしには失明に至る可能性がある。推定では、ぶどう膜炎患者の70%が視力低下を経験し、約20%が平均3年以内に法的失明の基準を満たす1)。免疫調節療法はこれらの患者において、炎症の持続的寛解と視機能維持を目的として使用される。

国際ぶどう膜炎専門医グループ(53カ国221名)による2023年の調査では、免疫調節療法の実臨床パターンが初めて国際的規模で報告された1)。本調査は、現在の治療指針が示すエビデンスと実臨床の乖離を明らかにし、メトトレキサートとアダリムマブを核とした治療体系を裏付けるものとなっている1)

Q 免疫調節療法とはステロイドとどう違うのか?
A

ステロイド(グルコルチコイド)は急性期の速効性が高い一方、長期使用により後嚢下白内障緑内障、骨粗鬆症、糖尿病、感染症感受性増大などの多彩な副作用をきたす。免疫調節療法はステロイドと並行して、または代替として使用し、「ステロイドを減量・中止しながら炎症をコントロールする」ことを目的とする(ステロイドスペアリング)。効果発現には数週〜数ヶ月を要するため、初期はステロイドとの併用が多い。

免疫調節療法適応患者の主訴は基礎疾患に由来する。

  • 視力低下黄斑浮腫硝子体混濁による。
  • 霧視飛蚊症:前部および中間部ぶどう膜炎での訴えが多い。
  • 羞明・眼痛:活動性前部ぶどう膜炎に伴う。
  • 変視症黄斑部炎症や浮腫による。

免疫調節療法適応を判断する際に評価すべき主な所見を以下に示す。

所見評価内容
視力SUN基準による炎症スコアと視力変化
細隙灯検査前房フレア・細胞・角膜後面沈着物
硝子体混濁グレード(硝子体炎の程度)
眼底・光干渉断層計(OCT)黄斑浮腫・脈絡膜炎・乳頭浮腫

ステロイドの長期副作用(後嚢下白内障・眼圧上昇・ステロイドグラウコーマ)の有無も免疫調節療法開始の判断材料となる。

Q どの程度のステロイド量から免疫調節療法を検討するか?
A

一般的に、プレドニゾロン換算で1日5〜10mg以上を長期に必要とする場合にはステロイドスペアリングとしての免疫調節療法が適応となる。ぶどう膜炎領域では、この閾値を下回るまでステロイドを減量できるよう免疫調節療法を追加するアプローチが広く採用されている。

免疫調節療法が必要となる疾患背景

Section titled “免疫調節療法が必要となる疾患背景”

免疫調節療法適応の主要疾患は以下の通りである。

早期の免疫調節療法開始が推奨される疾患

原田病:長期の免疫調節療法継続が視力予後を左右する。

交感性眼炎:初期からの免疫調節療法が長期予後を改善する。

ベーチェット病:コルヒチンが第一選択。難治例には腫瘍壊死因子(TNF)阻害薬。

蛇行状脈絡膜炎:進行性で早期の免疫調節療法開始が必要。

眼類天疱瘡:進行性瘢痕化を防ぐために早期対応が重要。

免疫調節療法が有効な疾患

若年性特発性関節炎関連ぶどう膜炎:メトトレキサート+アダリムマブ(SYCAMORE試験で有効性確認)1)

バードショット網膜脈絡膜症:ミコフェノール酸が第一選択の従来型薬1)

HLA-B27陽性ぶどう膜炎:メトトレキサートが第一選択(80.1%)1)

サルコイドーシス関連:メトトレキサートが第一選択(62.4%)1)

免疫調節療法を開始すべき適応として、国際調査で最も多く挙げられた基準は以下の通りである1)

  1. 経口ステロイドでコントロール不十分(94.1%)
  2. 特定疾患の診断(89.1%)
  3. 経口ステロイドへの不耐(84.2%)
  4. 眼局所ステロイド(周囲・眼内)の禁忌(71.9%)

国際調査では全221名(100%)が前処置スクリーニングを実施していた1)

検査項目実施率
血液化学検査98.2%
血液一般検査93.7%
クォンティフェロン検査88.7%

免疫調節療法投与患者の68.8%でリウマチ科医などとの共同管理が行われており、そのうち93.4%が内科・小児リウマチ科医との連携であった1)

従来型免疫調節薬(第一選択)

Section titled “従来型免疫調節薬(第一選択)”

メトトレキサートは最も広く使用される従来型薬であり、国際調査では98.2%の専門医が使用経験を持つ1)。9疾患中9種においてメトトレキサートが第一選択の従来型薬として選ばれている。ただしバードショット網膜脈絡膜症ではミコフェノール酸(39.8%)、ベーチェット病ではアザチオプリン(52.0%)が第一選択となる1)

  • 投与量:7.5〜25mg 週1回(経口または皮下注)。葉酸1mg/日の補充が必要。
  • 主な副作用:悪心、肝機能障害、骨髄毒性。
  • 利点:使用実績が長く、保険適用あり(一部適応外)。

その他の従来型薬の使用実態(国際調査)1)

  • アザチオプリン:89.6%が使用経験あり
  • ミコフェノール酸:86.9%が使用経験あり
  • シクロスポリン:76.0%が使用経験あり

アダリムマブ(完全ヒト型抗TNF-αモノクローナル抗体)は国際調査で97.7%が第一選択の生物学的製剤として採用しており、11疾患すべてで最多選択された1)。VISUAL I・II試験により活動性・不活性の非感染性中間部・後部・汎ぶどう膜炎への有効性が確認され、SYCAMORE試験では若年性特発性関節炎関連ぶどう膜炎でのメトトレキサートとの併用効果も実証された1)。これらの結果を受け、米国FDAおよびEMAが非感染性ぶどう膜炎への適応承認をしている1)

インフリキシマブ(キメラ型抗TNF-α抗体)は79.6%の専門医が使用経験を持ち、難治性ベーチェット病などで特に有効である1)

その他使用される生物学的製剤1)

薬剤選択の試用期間と切り替え

Section titled “薬剤選択の試用期間と切り替え”

多くの専門医(81.9%)は薬剤を3〜6ヶ月試用してから無効と判断し、次の薬剤へ切り替えている1)

85.1%の専門医が複数の免疫調節療法薬剤を組み合わせており、最も多い組み合わせはメトトレキサート+アダリムマブ(188名中158名、84.0%)である1)。抗腫瘍壊死因子療法への抗薬物抗体形成は抗薬物抗体の産生によって効果が減弱する可能性があり、メトトレキサートやミコフェノール酸の併用によってこれを軽減できるとされる。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

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非感染性ぶどう膜炎の免疫学的基盤

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非感染性ぶどう膜炎は自己免疫性・自己炎症性・その他の炎症性疾患が複合した異質な疾患群であり1)、眼内組織に対する異常な免疫応答が核心をなす。主にT細胞が眼内炎症の主役を担い、疾患によってはB細胞、NK細胞、マクロファージも関与する。

メトトレキサートはジヒドロ葉酸還元酵素を阻害し、プリンヌクレオチドとチミジル酸の合成を妨げることでDNA複製・修復・細胞増殖を抑制する。低用量では細胞外アデノシンの放出を介した抗炎症作用が主体であり、T細胞活性化・サイトカイン産生・細胞間接着分子の発現を抑制する。

腫瘍壊死因子α阻害薬の作用機序

Section titled “腫瘍壊死因子α阻害薬の作用機序”

腫瘍壊死因子α(TNF-α)は眼内炎症の中核をなすサイトカインであり、炎症性細胞の動員・活性化・血管透過性亢進に寄与する。アダリムマブ(完全ヒト型)やインフリキシマブ(キメラ型)は腫瘍壊死因子αに結合し、その受容体への結合を阻害する。「imab」であるインフリキシマブは「umab」であるアダリムマブよりも抗薬物抗体を生成しやすく、中和抗体により効果が減弱するリスクが相対的に高い。抗薬物抗体の形成はトラフレベルの低下・過敏反応のリスク上昇・寛解率の低下と関連する。

カルシニューリン阻害薬の作用機序

Section titled “カルシニューリン阻害薬の作用機序”

シクロスポリンAおよびタクロリムスはカルシニューリンを阻害し、T細胞でのIL-2産生と活性化を抑制する。シクロスポリンはベーチェット病、バードショット網膜脈絡膜症、中間部ぶどう膜炎などに有効であるが、腎毒性・高血圧が主な副作用となる。

生物学的製剤のスペクトラム拡大

Section titled “生物学的製剤のスペクトラム拡大”

眼内炎症のメカニズム解明の進展とともに、生物学的製剤の適応は拡大を続けている1)。インターロイキン6阻害(トシリズマブ)、抗CD20(リツキシマブ)、インターロイキン1阻害(アナキンラ)、T細胞共刺激阻害(アバタセプト)など、多様な経路を標的とする製剤が難治性ぶどう膜炎へ応用されている。

7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)

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国際リアルワールド調査の意義(Branford et al. 2025)

Section titled “国際リアルワールド調査の意義(Branford et al. 2025)”

Branfordら(2025)が発表した53カ国221名の専門医調査は、非感染性ぶどう膜炎の免疫調節療法実臨床パターンを国際規模で初めて把握したものである1)。この研究は、今後の眼科医向け診療ガイドとして、免疫調節療法開始時期・薬剤選択・モニタリング方法について実践的な情報を提供することが期待されている1)

抗薬物抗体モニタリングや薬物トラフ濃度測定(治療薬物モニタリング、TDM)は理論的に魅力的な個別化戦略であるが、現時点では臨床試験で治療薬物モニタリングが臨床転帰改善を示しておらず、日常臨床での定型的使用は支持されていない。抗薬物抗体測定法の標準化や中和能の評価法の改善が今後の課題である。

遺伝子治療後ぶどう膜炎への免疫調節療法応用

Section titled “遺伝子治療後ぶどう膜炎への免疫調節療法応用”

眼科遺伝子治療(アデノ随伴ウイルスベクター硝子体内投与)後に発症する免疫関連ぶどう膜炎(遺伝子治療関連ぶどう膜炎)において、メトトレキサートがステロイド単独で制御困難な慢性ぶどう膜炎の再燃頻度・重症度を低下させることが報告されている2)

フィンゴリモド(スフィンゴシン-1-リン酸受容体調節薬)は網膜炎症モデルで網膜炎症・マクロファージおよびCD4+ T細胞浸潤を有意に低下させることが示されており、難治性ぶどう膜炎への応用が検討されている2)。抗腫瘍壊死因子療法に代わる新たな作用機序の薬剤として注目される。


  1. Branford JA, et al. International Study Group for Systemic Immunomodulatory Drug Treatment of Non-Infectious Uveitis. Br J Ophthalmol. 2025;109(4):482–489.
  2. Chand et al. / Prasad et al. / Mishra et al. / Pennesi et al. / Raveney et al. cited in: 1-s2.0-S1350946225000278-main.pdf (Gene therapy-associated uveitis immunomodulation review, 2025).

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