油圧説
機序:眼窩周囲への外部衝撃→眼窩内圧上昇→眼窩底・内壁へ圧力伝達→骨折。
根拠:外側壁や眼窩天蓋は十分な厚さがあるため耐えられるが、薄い内壁・底壁が先に破綻する。

眼窩内壁骨折(orbital medial wall fracture)とは、眼窩内側壁を構成する篩骨紙様板(lamina papyracea)の骨折である。眼窩壁の中で最も薄い部位であり、骨折に脆弱である。
単独発生は比較的稀で、多くの場合は眼窩底骨折を伴うか複合骨折の一部として発生する。前頭骨・鼻篩骨(nasoethmoidal)・上顎骨の骨折を合併することもある。眼窩骨折は眼窩縁を含まない純粋な内部骨折として「眼窩吹き抜け骨折(blow-out fracture)」とも呼ばれる。
原因はほとんどが眼窩周囲への鈍的外傷(blunt trauma)である。交通事故・スポーツ活動・暴力・転落・転倒事故が主な受傷機転である。男性に多く、コンタクトスポーツが代表的なリスク要因である。顔面の発達や副鼻腔の含気化(pneumatization)の状態により、年齢によって骨折パターンが異なる。
眼窩底骨折は眼窩底(上顎骨)の骨折であり、眼窩内壁骨折は篩骨紙様板の骨折である。両者は合併することが多い。眼窩底骨折では眼窩下神経領域の知覚異常が生じやすいが、眼窩内壁骨折では水平方向の眼球運動障害が主体となる。
単独の内壁骨折では無症状のこともある。
眼窩内壁の骨折により眼窩と副鼻腔が交通した状態で鼻をかむと、空気が眼窩内に侵入して眼窩気腫を生じる。これにより眼窩周囲の腫脹が急速に増悪する。骨折後2週間以内は鼻をかまないよう指導する。
外眼筋が骨折部に嵌頓すると眼球心臓反射(迷走神経反射)が起こり、悪心・嘔吐・徐脈が生じる。この症状は頭蓋内圧亢進症状と誤認されやすく、脳神経外科や小児科への搬送で診断が遅れることがある。外傷後に嘔吐を呈する小児では眼窩骨折の合併を積極的に疑うべきである。
眼窩内壁骨折の発症機序には、油圧説(hydraulic hypothesis)と座屈説(buckling theory)の2つの理論がある。多くの場合は両メカニズムの組み合わせで発生する。
油圧説
機序:眼窩周囲への外部衝撃→眼窩内圧上昇→眼窩底・内壁へ圧力伝達→骨折。
根拠:外側壁や眼窩天蓋は十分な厚さがあるため耐えられるが、薄い内壁・底壁が先に破綻する。
座屈説
機序:眼窩縁への直接的な力→より脆弱な眼窩底・内壁に伝達→骨折。
根拠:眼窩縁への力が眼窩壁を伝播して脆弱部位に集中する。
骨折のタイプは粉砕骨折(comminuted)・蝶番状骨折(hinge)・内破骨折(blow-in)・トラップドア骨折(trapdoor)に分類される。粉砕骨折が最も多く、骨片や眼窩内容物が篩骨洞内へ脱出(herniate)する。閉鎖型骨折は若年者に多く、骨が元の形状に戻る際に外眼筋や軟部組織が亀裂部に絞扼される。
眼窩CT(コンピューター断層撮影)が骨折診断の主要ツールである。骨折の部位・大きさ、外眼筋嵌頓、球後出血の評価に用いる。外科的修復の計画立案にも不可欠である。
各画像検査法の特性を以下に示す。
| 検査法 | 推奨度 | 主な用途 |
|---|---|---|
| CT | 第一選択 | 骨折評価・嵌頓・手術計画 |
| 単純X線 | 非推奨 | 骨折検出率50%未満 |
| MRI | 補助的 | 副鼻腔粘液囊胞等の追加評価 |
CTは軟部条件(骨と軟部組織の位置関係・変位・脱出・嵌頓・絞扼)と骨条件(微細な骨折観察)の両方を指示する。篩骨洞の不透過性は単純X線でも認めることがあるが感度が低く、放射線被曝に見合う情報は得られない。MRIは未知の金属製眼内異物の懸念があるため外傷後の第一選択にはならない。
CT撮影では水平断が基本であるが、冠状断が有用な場合は三次元構築で得る。脳の表示条件では眼窩脂肪が表示されないことがあり、軟部組織条件(ウインドウ幅の調整)に変更することで眼窩脂肪と眼窩内気腫の状態を確認しやすくなる。
画像上の分類として、開放型(骨折片・軟部組織が副鼻腔へ大きく偏位)と閉鎖型(画像上の変化が乏しく、わずかに偏位した骨折部に軟部組織が挟まった像、missing rectus sign)がある。
眼窩周囲への外傷歴に加えて水平方向の眼球運動障害・気腫・眼球陥凹がそろうと内壁骨折が示唆される。確定は放射線学的検査による。
複視の評価には対座法・両眼単一視野検査・Hess赤緑試験(最も精密)を用いる。
外傷後は眼内に金属異物が存在する可能性があり、MRIは安全性の観点から第一選択にならない。またCTは骨の描写に優れ、骨折・嵌頓・球後出血の評価に最も適している。MRIは副鼻腔粘液囊胞など追加評価が必要な場合に補助的に用いる。
以下の場合は保存的治療が適応となる。
保存的治療の基本指導として、受傷後2週間以内は鼻をかまないよう指導する。眼窩気腫の発生防止と副鼻腔内の非無菌組織の眼窩腔侵入防止が目的である。抗生剤の役割については議論がある。ステロイド(prednisolone 1 mg/kg、10日間)で浮腫を軽減し、嵌頓を伴う患者の同定を容易にするとの報告がある。
手術適応の判断基準を以下に示す。
| 分類 | 条件 | 手術時期 |
|---|---|---|
| 緊急手術 | 閉鎖型骨折+外眼筋絞扼 | 受傷後24時間以内 |
| 早期手術 | 軟部組織絞扼(筋以外) | 通常2週間以内 |
| 早期手術 | 消失しない眼球心臓反射 | 速やかに |
| 早期手術 | 症状を伴う複視+牽引試験陽性 | 2週間以内が理想的 |
| 早期手術 | CTで外眼筋嵌頓が証明 | 速やかに |
| 早期手術 | 開放型骨折で眼球運動障害が不可逆性 | 瘢痕化前に整復 |
| 待機的手術 | 大きな骨折による眼球陥凹 | 2週間以降も可 |
眼球破裂・眼内損傷の合併や内科的併存症がある場合は手術を延期することがある。陳旧例でも手術適応となる場合があり、画像検査で判断する。
手術遅延は予後を悪化させる。14日以内の修復では眼球陥凹残存率が約20%であるのに対し、6か月以上後の修復では約72%に残存する。
観血的アプローチ
適応:内壁下部・眼窩底複合骨折。
切開:睫毛下切開または経結膜切開(眼窩内壁下部)、涙丘経由切開(単独内壁骨折)。
合併症:眼瞼位置異常、眼窩下神経知覚異常(2〜8週で改善)。睫毛下切開では瘢痕性外反(cicatricial ectropion)の危険がある。
利点:手術時間・入院期間・費用がわずかに有利。
内視鏡的アプローチ
手順:鉤状突起切除→篩骨洞郭清術(ethmoidectomy)→骨折部位特定→脱出組織還納→インプラント挿入(サイラスティック・メロセル・メドポアなど)。
確認:牽引試験(forced duction test)とパルステスト(pulse test)で眼球運動とインプラント配置を確認する。
合併症:上顎洞炎(洞の排泄障害)、骨片の眼窩内への迷入、術後鼻腔パッキングが必要。インプラントサイズが大きすぎると脱出(extrusion)を含む合併症が増加する。
利点:早期修復に使用可能、眼球牽引が少ない。内壁骨折・トラップドア骨折に適する。大きな欠損には利用不可。
生体吸収性ポリマー(ポリ-L-乳酸 PLLA)を主成分とする吸収性インプラントやシリコーンシートで眼窩壁を再建する。経皮的または経結膜的に眼窩縁骨膜に到達し、骨膜切開後に術野を後方へ展開して脱出軟部組織を整復し、骨折片を元の位置に復元したうえで人工骨で再建する。
閉鎖型骨折で外眼筋絞扼が証明された場合は筋壊死の危険があるため、受傷後24時間以内の緊急手術が必要である。一方、嵌頓を伴わない症例では2週間以降への延期も可能である。手術遅延が予後を悪化させるため、適応の判断は速やかに行う。
眼窩内壁は眼窩壁の中で最も薄く、篩骨紙様板が主体を形成する。眼窩骨折(blow-out fracture)は定義上眼窩縁を含まない純粋な内部骨折である。
骨折タイプ別の病態は以下の通りである。
眼球陥凹の発生機序として、眼窩内容物の副鼻腔への脱出により眼窩内容積が拡大し、眼球が後方移動する。眼窩容積が13%以上増加すると眼球陥凹が発生する。
眼窩脂肪には薄い隔壁(orbital septa)が存在する。外眼筋近傍の隔壁が捕捉されると、筋自体の嵌頓がなくても眼球運動制限が生じる。
該当文献なし(本疾患フォルダにはPDF論文原本が存在しない)。