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眼外傷

眼窩内壁骨折

眼窩内壁骨折(orbital medial wall fracture)とは、眼窩内側壁を構成する篩骨紙様板(lamina papyracea)の骨折である。眼窩壁の中で最も薄い部位であり、骨折に脆弱である。

単独発生は比較的稀で、多くの場合は眼窩底骨折を伴うか複合骨折の一部として発生する。前頭骨・鼻篩骨(nasoethmoidal)・上顎骨の骨折を合併することもある。眼窩骨折は眼窩縁を含まない純粋な内部骨折として「眼窩吹き抜け骨折(blow-out fracture)」とも呼ばれる。

原因はほとんどが眼窩周囲への鈍的外傷(blunt trauma)である。交通事故・スポーツ活動・暴力・転落・転倒事故が主な受傷機転である。男性に多く、コンタクトスポーツが代表的なリスク要因である。顔面の発達や副鼻腔の含気化(pneumatization)の状態により、年齢によって骨折パターンが異なる。

Q 眼窩内壁骨折は眼窩底骨折と何が違うのか?
A

眼窩底骨折は眼窩底(上顎骨)の骨折であり、眼窩内壁骨折は篩骨紙様板の骨折である。両者は合併することが多い。眼窩底骨折では眼窩下神経領域の知覚異常が生じやすいが、眼窩内壁骨折では水平方向の眼球運動障害が主体となる。

単独の内壁骨折では無症状のこともある。

  • 複視:水平方向の注視時に生じる。内直筋や関連軟部組織の嵌頓による。嵌頓がなくても軟部組織の腫脹や筋肉の打撲で生じうる。
  • 鼻出血(epistaxis):骨折により副鼻腔に貯留した出血が鼻腔へ流入する。
  • 眼球運動時の痛み:嵌頓を伴う症例で生じる。
  • 皮下気腫:鼻をかんだ後に眼窩周囲の腫脹が増悪する。眼窩と鼻腔の交通を示唆する重要な症状である。
  • 眼球心臓反射:嵌頓を伴う小児・若年成人で起こりうる。悪心・嘔吐・徐脈・めまい・失神が生じる。迷走神経反射による。閉鎖型骨折では頭蓋内圧亢進症状と誤診され、診断が遅れることが問題となっている。
Q 鼻をかんだ後に目の周りが腫れたのはなぜか?
A

眼窩内壁の骨折により眼窩と副鼻腔が交通した状態で鼻をかむと、空気が眼窩内に侵入して眼窩気腫を生じる。これにより眼窩周囲の腫脹が急速に増悪する。骨折後2週間以内は鼻をかまないよう指導する。

臨床所見(医師が診察で確認する所見)

Section titled “臨床所見(医師が診察で確認する所見)”
  • 眼球運動障害:内転・外転の両方で水平方向の眼球運動が制限される。外眼筋捕捉や損傷による複視を伴う。眼窩内出血・気腫がある場合はさらに悪化する。
  • 眼球陥凹(enophthalmos):ヘルテル眼球突出計で測定する。初期は軟部組織の腫脹で隠されることがある。大きな開放型骨折では受傷後2週間程度で浮腫軽快後に顕著になる。経過観察で繰り返し測定が重要である。
  • 眼窩気腫:眼窩と副鼻腔の交通により空気が眼窩内に侵入する。少量の気腫でも全方向に高度な眼球運動制限を生じる。数日で自然吸収される。
  • 触診所見:気腫を示す握雪音(crepitus)や段差変形(step off deformity)を確認する。
  • 球後出血(retrobulbar hemorrhage):稀だが重症例で起こりうる。有痛性眼球突出・眼圧上昇・視神経圧迫による視力低下を生じ、眼窩コンパートメント症候群として緊急介入が必要となる。
  • 眼球心臓反射の全身評価:特に小児・若年成人の外眼筋嵌頓例で、徐脈・悪心・嘔吐・失神・心ブロックがないか評価する。
  • 合併眼球損傷眼瞼裂傷・眼球破裂・虹彩離断(iridodialysis)・水晶体不安定症・外傷性白内障硝子体出血網膜震盪(commotio retinae)・網膜出血/剥離・外傷性視神経症(traumatic optic neuropathy)の合併を確認する。
Q 眼窩内壁骨折で子どもが嘔吐するのはなぜか?
A

外眼筋が骨折部に嵌頓すると眼球心臓反射(迷走神経反射)が起こり、悪心・嘔吐・徐脈が生じる。この症状は頭蓋内圧亢進症状と誤認されやすく、脳神経外科や小児科への搬送で診断が遅れることがある。外傷後に嘔吐を呈する小児では眼窩骨折の合併を積極的に疑うべきである。

眼窩内壁骨折の発症機序には、油圧説(hydraulic hypothesis)と座屈説(buckling theory)の2つの理論がある。多くの場合は両メカニズムの組み合わせで発生する。

油圧説

機序:眼窩周囲への外部衝撃→眼窩内圧上昇→眼窩底・内壁へ圧力伝達→骨折。

根拠:外側壁や眼窩天蓋は十分な厚さがあるため耐えられるが、薄い内壁・底壁が先に破綻する。

座屈説

機序:眼窩縁への直接的な力→より脆弱な眼窩底・内壁に伝達→骨折。

根拠:眼窩縁への力が眼窩壁を伝播して脆弱部位に集中する。

骨折のタイプは粉砕骨折(comminuted)・蝶番状骨折(hinge)・内破骨折(blow-in)・トラップドア骨折(trapdoor)に分類される。粉砕骨折が最も多く、骨片や眼窩内容物が篩骨洞内へ脱出(herniate)する。閉鎖型骨折は若年者に多く、骨が元の形状に戻る際に外眼筋や軟部組織が亀裂部に絞扼される。

眼窩CT(コンピューター断層撮影)が骨折診断の主要ツールである。骨折の部位・大きさ、外眼筋嵌頓、球後出血の評価に用いる。外科的修復の計画立案にも不可欠である。

各画像検査法の特性を以下に示す。

検査法推奨度主な用途
CT第一選択骨折評価・嵌頓・手術計画
単純X線非推奨骨折検出率50%未満
MRI補助的副鼻腔粘液囊胞等の追加評価

CTは軟部条件(骨と軟部組織の位置関係・変位・脱出・嵌頓・絞扼)と骨条件(微細な骨折観察)の両方を指示する。篩骨洞の不透過性は単純X線でも認めることがあるが感度が低く、放射線被曝に見合う情報は得られない。MRIは未知の金属製眼内異物の懸念があるため外傷後の第一選択にはならない。

CT撮影では水平断が基本であるが、冠状断が有用な場合は三次元構築で得る。脳の表示条件では眼窩脂肪が表示されないことがあり、軟部組織条件(ウインドウ幅の調整)に変更することで眼窩脂肪と眼窩内気腫の状態を確認しやすくなる。

画像上の分類として、開放型(骨折片・軟部組織が副鼻腔へ大きく偏位)と閉鎖型(画像上の変化が乏しく、わずかに偏位した骨折部に軟部組織が挟まった像、missing rectus sign)がある。

眼窩周囲への外傷歴に加えて水平方向の眼球運動障害・気腫・眼球陥凹がそろうと内壁骨折が示唆される。確定は放射線学的検査による。

複視の評価には対座法・両眼単一視野検査・Hess赤緑試験(最も精密)を用いる。

  • 骨折を伴わない眼窩周囲皮下出血(水平注視に限定されない運動制限)
  • 外傷後の筋麻痺・出血・打撲(嵌頓を模倣する)
  • 視神経管骨折・頭蓋底骨折・顔骨骨折・眼球損傷の合併
Q なぜCTがMRIより優先されるのか?
A

外傷後は眼内に金属異物が存在する可能性があり、MRIは安全性の観点から第一選択にならない。またCTは骨の描写に優れ、骨折・嵌頓・球後出血の評価に最も適している。MRIは副鼻腔粘液囊胞など追加評価が必要な場合に補助的に用いる。

以下の場合は保存的治療が適応となる。

  • 良好な外眼筋運動で最小限の複視がある
  • 有意でない眼球陥凹(<2mmで美容的に許容可能)
  • 嵌頓を伴わない複視(自然軽快しうる)
  • 眼球運動障害・複視が軽度で画像上の変化が可逆性と判断された場合

保存的治療の基本指導として、受傷後2週間以内は鼻をかまないよう指導する。眼窩気腫の発生防止と副鼻腔内の非無菌組織の眼窩腔侵入防止が目的である。抗生剤の役割については議論がある。ステロイド(prednisolone 1 mg/kg、10日間)で浮腫を軽減し、嵌頓を伴う患者の同定を容易にするとの報告がある。

手術適応の判断基準を以下に示す。

分類条件手術時期
緊急手術閉鎖型骨折+外眼筋絞扼受傷後24時間以内
早期手術軟部組織絞扼(筋以外)通常2週間以内
早期手術消失しない眼球心臓反射速やかに
早期手術症状を伴う複視+牽引試験陽性2週間以内が理想的
早期手術CTで外眼筋嵌頓が証明速やかに
早期手術開放型骨折で眼球運動障害が不可逆性瘢痕化前に整復
待機的手術大きな骨折による眼球陥凹2週間以降も可

眼球破裂・眼内損傷の合併や内科的併存症がある場合は手術を延期することがある。陳旧例でも手術適応となる場合があり、画像検査で判断する。

手術遅延は予後を悪化させる。14日以内の修復では眼球陥凹残存率が約20%であるのに対し、6か月以上後の修復では約72%に残存する。

観血的アプローチ

適応:内壁下部・眼窩底複合骨折。

切開:睫毛下切開または経結膜切開(眼窩内壁下部)、涙丘経由切開(単独内壁骨折)。

合併症:眼瞼位置異常、眼窩下神経知覚異常(2〜8週で改善)。睫毛下切開では瘢痕性外反(cicatricial ectropion)の危険がある。

利点:手術時間・入院期間・費用がわずかに有利。

内視鏡的アプローチ

手順:鉤状突起切除→篩骨洞郭清術(ethmoidectomy)→骨折部位特定→脱出組織還納→インプラント挿入(サイラスティック・メロセル・メドポアなど)。

確認:牽引試験(forced duction test)とパルステスト(pulse test)で眼球運動とインプラント配置を確認する。

合併症:上顎洞炎(洞の排泄障害)、骨片の眼窩内への迷入、術後鼻腔パッキングが必要。インプラントサイズが大きすぎると脱出(extrusion)を含む合併症が増加する。

利点:早期修復に使用可能、眼球牽引が少ない。内壁骨折・トラップドア骨折に適する。大きな欠損には利用不可。

生体吸収性ポリマー(ポリ-L-乳酸 PLLA)を主成分とする吸収性インプラントやシリコーンシートで眼窩壁を再建する。経皮的または経結膜的に眼窩縁骨膜に到達し、骨膜切開後に術野を後方へ展開して脱出軟部組織を整復し、骨折片を元の位置に復元したうえで人工骨で再建する。

Q 手術は急いで行う必要があるのか?
A

閉鎖型骨折で外眼筋絞扼が証明された場合は筋壊死の危険があるため、受傷後24時間以内の緊急手術が必要である。一方、嵌頓を伴わない症例では2週間以降への延期も可能である。手術遅延が予後を悪化させるため、適応の判断は速やかに行う。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

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眼窩内壁は眼窩壁の中で最も薄く、篩骨紙様板が主体を形成する。眼窩骨折(blow-out fracture)は定義上眼窩縁を含まない純粋な内部骨折である。

骨折タイプ別の病態は以下の通りである。

  • 開放型骨折:骨折片が副鼻腔へ大きく偏位する。中等度の眼球運動制限と眼球陥凹が残存しやすく、手術適応を積極的に検討する。
  • 閉鎖型骨折:若年者に多い。骨が元の形状に戻る際に外眼筋や周囲軟部組織が亀裂部に絞扼される。強い眼球運動制限を生じ、緊急手術適応となる。
  • 粉砕骨折:骨片や眼窩内容物(外眼筋・脂肪・軟部組織)が篩骨洞内へ脱出する。
  • トラップドア骨折:骨片が開いて閉じ、組織を挟み込む。
  • 内破骨折(blow-in fracture):骨片が眼窩内へ突出する。

眼球陥凹の発生機序として、眼窩内容物の副鼻腔への脱出により眼窩内容積が拡大し、眼球が後方移動する。眼窩容積が13%以上増加すると眼球陥凹が発生する。

眼窩脂肪には薄い隔壁(orbital septa)が存在する。外眼筋近傍の隔壁が捕捉されると、筋自体の嵌頓がなくても眼球運動制限が生じる。


該当文献なし(本疾患フォルダにはPDF論文原本が存在しない)。

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