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眼外傷

視神経乳頭離断

視神経乳頭離断(optic nerve head avulsion; ONA)は、外傷により視神経が篩状板(lamina cribrosa)のレベルで眼球から分離する病態である。視神経硬膜鞘や隣接強膜の破裂は伴わない1)。optic nerve evulsionとoptic nerve avulsionは同じ病態を指すが、語源的に区別される。

視神経乳頭離断は外傷性視神経症(traumatic optic neuropathy; TON)の一型であり、前方型外傷性視神経症に分類される1)。外傷性視神経症全体は頭部外傷の0.5〜5%に発生し5)、視神経乳頭離断はその中でもまれな病態である2)。部分離断から完全離断までの範囲があり、視機能への影響は壊滅的になりうる1)

離断の好発部位は視神経乳頭(最多)、眼窩尖部、視交叉の3箇所である1)。原因は交通事故が最多で、スポーツ外傷・転倒・喧嘩なども原因となる。Buchwald et al.のメタ解析では小さな鈍的物体や指が49%の原因を占めた1)

Q 視神経乳頭離断と外傷性視神経症(TON)はどう違うのか?
A

視神経乳頭離断は外傷性視神経症の一型であり、篩状板レベルでの物理的な分離を指す。外傷性視神経症は挫傷から完全断裂まで幅広いスペクトラムを含む概念であり、視神経乳頭離断は最も重篤な型の一つに位置づけられる1)

Optic nerve head avulsion initial images
Optic nerve head avulsion initial images
Mahjoub A, Sellem I, Mahjoub A, et al. Optic nerve avulsion: Case report. Ann Med Surg (Lond). 2021;68:102554. Figure 1. PMCID: PMC8278239. License: CC BY.
Initial fundus photograph and ocular ultrasound showing hemorrhage around the optic disc after trauma. The paired images help explain how optic nerve head avulsion can appear at first presentation.
  • 急性の高度視力低下:完全断裂では光覚消失(NLP)となる。部分断裂では一定の視機能が残存する場合もある。
  • 突然の視力喪失:受傷直後からの急激な視力低下が典型的である3)
  • 眼痛:受傷時の外傷に伴い眼痛を生じることがある3)

医師が確認する主な所見を以下に示す。

  • 相対的瞳孔求心路障害(RAPD):患眼に検出される。外傷性視神経症の特徴的所見である1) 3) 4)
  • 眼底所見(視神経乳頭):媒体が透明な場合、異常に深い乳頭陥凹を認める。視神経が硬膜鞘内に後退してできる空洞によるものである。硝子体出血や乳頭周囲出血を高率に伴う1)
  • 受傷直後の眼底正常例:受傷直後は眼底に異常を認めないことがある。受傷6〜8週後以降、徐々に進行する視神経萎縮が生じ、乳頭の色調が蒼白になる。
  • 網膜中心動脈閉塞症の合併:重症例では合併することがある。
  • 中心フリッカー値(CFF):大きく低下または測定不能となる。

部分離断

視力:一定の視機能が残存しうる。

OCT所見:視神経乳頭の深い空洞を認める。RNFL菲薄化(耳側46μm、上耳側91μm、上鼻側60μmの報告あり)1)

経過:グリア増殖が離断空洞を被覆する経過をたどる。1か月以降にグリア増殖が顕著化する1)

完全離断

視力:光覚消失(NLP)となる。

眼底:視神経が硬膜鞘内に後退し、深い空洞を形成する。

予後:視機能の回復はほぼ期待できない。構造的損傷は不可逆的である4)

OCT所見の経時変化として、受傷2週後よりGCC厚が菲薄化し正常域を下回り、30〜50日前後で安定化する。蛍光眼底造影では静脈分枝閉塞と微小血管リモデリングを示す場合がある1)

Q 硝子体出血で眼底が見えない場合、どのように診断するのか?
A

Bモード超音波検査が有用である。離断部位に対応する低エコー領域として検出できる1)。CT・MRIも補助的に使用される。詳細は「診断と検査方法」の項を参照。

  • 鈍的外傷:最も一般的な発症機序である1)。小さな鈍的物体や指が眼球と眼窩壁の間に侵入する。
  • 穿通性外傷:比較的まれだが発生する。ATV(全地形対応車)事故での樹枝による穿通外傷→眼球脱臼+視神経離断の報告がある2)
  • 高リスク集団:男性、交通事故被害者、スポーツ時の不慮の眼部外傷、転倒・転落による頭部顔面外傷。
  • ATV事故:オープンエア高速車両で防護装置がなく、顔面・眼部外傷リスクが高い2)

各画像検査の特性を以下に示す。

検査主な用途注意点
CT(薄切)骨折・乳頭離断の検出0.75〜1mm薄切が必須
MRI(STIR/DWI)視神経の腫脹・断裂検出金属異物がある場合は禁忌
Bモード超音波硝子体出血例での診断非侵襲的・迅速に施行可能
  • 眼底検査(検眼鏡検査):媒体が透明な症例では直接診断可能。異常に深い乳頭陥凹を認める。
  • Bモード超音波検査:硝子体出血で視神経乳頭が観察できない場合に有用。離断部位の低エコー領域を検出する1)
  • CT検査:眼窩外傷の第一選択画像検査。薄切CT(0.75〜1mm)が必須であり、3mm切片では視神経管骨折やOnodi cell出血を見逃す8)。視神経管骨折の20%はCTで見逃されるという報告もある。強膜壁の欠損が確認される場合がある。
  • MRI検査:STIR序列で視神経の腫脹・高信号を検出する4)。DWI(拡散強調画像)で視神経の拡散制限も検出可能である4)。視神経断裂例では管内-頭蓋内接合部に液体信号を認める4)。外傷後の第一選択としては金属異物の可能性がある場合は禁忌となる。
  • OCT:中間透光体の混濁により初期段階では有用でないことが多い。媒体が透明な場合はONH・黄斑部の変化を記録できる1)

視神経乳頭離断に対する有効な治療法は確立されていない。早期に診断を行い、不要な治療を行わないようにすることが重要である。高用量静注ステロイドの有用性は示されておらず、むしろ害のリスクがある1)

視神経乳頭離断以外の型を含む外傷性視神経症全般の治療として以下が検討される。

  • IONTS(国際外傷性視神経症研究):ステロイド療法・視神経管開放術のいずれも経過観察に対する明確な優位性を示せていない。治療は個別に判断すべきとされている3) 7)
  • 保存療法:高浸透圧液とステロイドの早期投与が行われる場合がある。
  • 視神経管開放術:視神経管骨折がある場合に視力改善が期待できる。内視鏡による経鼻的方法(ETOND)で低侵襲に施行可能である6)。早期手術(受傷24〜48時間以内)が予後良好と関連する5)。術前視力がhand motion以上の場合、術後改善率が高い5)

Fukumasa et al.(2024)は、10歳男児の視神経管骨折による外傷性視神経症に対し、受傷6時間後に視神経管開放術を施行し術後プレドニゾロン25 mg/kg/日を投与した。術前hand motionの視力が12日後に20/30まで改善し、9か月後も維持された5)。小児の外傷性視神経症では約80%で視力改善が報告される。

Tachibana et al.(2024)は、70歳男性の外傷性視神経症に対しメチルプレドニゾロン1 g/日パルス後に内視鏡的視神経管減圧術を施行した。VAは0.2から0.8へ改善した(6か月後)7)

黄斑下出血合併時:SF6ガス+rtPA 25μg/0.1mL硝子体内注射によるpneumatic displacementが有効な場合がある。伏臥位3日間の保持により出血の黄斑下移動に成功した報告がある1)

Q 視神経乳頭離断に対して手術は有効か?
A

視神経乳頭離断自体には確立された有効な治療法がない。ただし、視神経管骨折を伴う外傷性視神経症では視神経管開放術が視力改善に寄与しうる5)。完全離断など不可逆的な構造的損傷がある場合は手術適応がない4)

6. 病態生理学・詳細な発症機序

Section titled “6. 病態生理学・詳細な発症機序”

視神経乳頭離断の主要な発症機序は間接的損傷と直接的損傷に分類される。

  • 篩状板の脆弱性:視神経軸索は篩状板で髄鞘と支持結合組織を失う。この部位が最も損傷を受けやすく、ほとんどの症例が視神経乳頭-眼球接合部で発生する。無髄神経が断裂後、神経鞘の中を後方に移動する。
  • ベル現象(間接損傷):外傷時に眼球が上外方に回転する防御反射により、視神経に回転性歪みが加わる1)
  • 眼圧急上昇(間接損傷):非穿通性鈍的外傷による眼圧の急激な上昇が視神経を押し出す機序が議論されている。Cirovicらのコンピュータモデリングでは最大約300 mmHgの眼圧に達することが示されている1)
  • 急激な眼球変位:眼球の急激な前方変位または視神経の後方への押し込み(retropulsion)により剪断が生じる。
  • 直接的損傷:穿通性外傷による視神経乳頭への直接的損傷(比較的まれ)。
  • 眼窩内離断:より後方での離断も報告がある。病理組織学的に硬膜鞘内に神経組織がない所見が眼窩内での連続性破綻を証明した報告がある2)
  • グリア反応:部分離断では離断空洞をグリア組織が被覆する経過をたどる。1か月以降にグリア増殖が顕著化する1)
  • 血管障害:離断部位近傍の乳頭周囲血管変化により網膜灌流が障害される場合がある1)

7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)

Section titled “7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)”

LSCI(レーザースペックルコントラストイメージング)による血流評価

Section titled “LSCI(レーザースペックルコントラストイメージング)による血流評価”

LSCI(Laser Speckle Contrast Imaging)は外傷性視神経症における視神経乳頭血流を非侵襲的に定量評価する技術である。

Jallow et al.(2025)は、15歳男性の直接型後方外傷性視神経症において、LSCIでPeak BFVi(血流速度指数)が健眼20.5 a.u.に対し患眼13.4 a.u.(3週後)と低下していることを検出した9)。6か月後も健眼15.1 a.u.対患眼13.7 a.u.の差が持続した。急性期外傷の評価への応用可能性が注目される。

DTI(拡散テンソルイメージング)

Section titled “DTI(拡散テンソルイメージング)”

拡散テンソルイメージング(DTI)は視神経の微細構造変化を定量化し、予後予測に有用な可能性がある4)

GVF定量評価(KSM-GVFプログラム)

Section titled “GVF定量評価(KSM-GVFプログラム)”

GoldmannでのImageJマクロによる定量化手法であり、等感度線の面積変化を経時的に追跡できる7)。外傷性視神経症の視野変化の評価に応用されている。

エリスロポエチン、BDNF(脳由来神経栄養因子)、幹細胞療法などの実験的アプローチが将来の視神経修復に期待されている4)

Q LSCIとは何か?外傷性視神経症の診断にどう役立つ可能性があるのか?
A

LSCIはレーザースペックルコントラストイメージングの略称で、非侵襲的に網膜・視神経乳頭血流を定量評価する技術である。外傷性視神経症患眼で健眼に比べた血流低下を検出できることが示されており9)、急性期外傷の客観的評価指標としての応用が研究されている。


  1. Bayram-Suverza M, Rosano-Barragán M, Ramírez-Estudillo JA. Long-term follow-up of a patient with partial optic nerve avulsion associated with submacular hemorrhage who underwent pneumatic displacement. Am J Ophthalmol Case Rep. 2024;35:102083.

  2. Omari A, Carniciu AL, Desai M, et al. Globe dislocation and optic nerve avulsion following all-terrain vehicle accidents. Am J Ophthalmol Case Rep. 2022;27:101621.

  3. Tenewitz JE, Chen EJ, Cartwright MJ. A rare presentation of direct traumatic optic neuropathy in a patient poked in the eye by an antenna. Cureus. 2021;13(9):e18244.

  4. Naik SN, Nayak DV. Unravelling the unseen: a case series exploring the enigmas of traumatic optic neuropathy. Cureus. 2024;16(12):e75546.

  5. Fukumasa H, Yamaga Y, Miyaoka R, et al. Successful combination therapy of optic canal decompression and steroid administration for traumatic optic neuropathy in a 10-year-old boy. Cureus. 2024;16(9):e70124.

  6. Okui T, Sakamoto T, Morikura I, et al. Feasibility of navigation-assisted endoscopic transnasal optic nerve decompression for the treatment of traumatic optic neuropathy in patients with midfacial fractures. J Korean Assoc Oral Maxillofac Surg. 2024;50:273-284.

  7. Tachibana M, Kanno J, Hashimoto M, et al. Quantification of Goldmann visual fields during resolution of traumatic optic neuropathy. Case Rep Ophthalmol Med. 2024;2024:5560696.

  8. Mehta A, Rathod R, Ahuja C, et al. Hemorrhage in Onodi cell leading to traumatic optic neuropathy. Craniomaxillofac Trauma Reconstr. 2021;14(1):70-73.

  9. Jallow MA, Gholap RS, Asanad S, et al. Laser speckle contrast imaging detects relative blood flow reduction in traumatic optic neuropathy. Am J Ophthalmol Case Rep. 2025;38:102326.

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