Le Fort I型
下部上顎の浮腫:下部上顎骨・上唇に限局した腫脹。
上顎動揺:上顎歯列全体が動揺する。
硬口蓋出血:硬口蓋・軟口蓋の斑状出血。
鼻出血:片側性〜両側性。眼窩は巻き込まない。

Le Fort骨折は中顔面(midface)の骨折を指す分類体系である。1901年、フランスの外科医ルネ・ル・フォール(René Le Fort, 1869–1951)が35回の死体実験で記述した。I型(水平骨折)・II型(ピラミッド型骨折)・III型(横断骨折=頭蓋顔面分離)の3型からなる。すべての型で翼状突起骨折を伴い、顔面骨格が頭蓋底から分離しうる。
Le Fort骨折は全顔面骨折の10〜20%を占めるとされてきた。大規模研究では、I型・II型・III型はそれぞれ全顔面骨折の0.3〜2.2%程度と報告されており、III型が最も稀である。男女比は2.0〜2.8:1で男性に多い。70歳超では女性に多くなる傾向がある。
Le Fort骨折に関連する外傷性脳損傷(TBI)の発生率は高く、顎顔面外傷患者の約9〜10%に頭蓋内出血を合併する。II・III型では外傷性脳損傷に対する脳外科的介入の発生率が増加する。顔面骨折の24〜28%に眼損傷を伴い、頸椎骨折は全顔面骨折の1.3%に合併する。
なお、実際にLe Fortパターンに正確に従う骨折はわずか24%とされ、多くは部分的Le Fort型と他の中顔面骨折の組み合わせである。
I型は上顎歯列を含む上顎が水平に離断される骨折で、眼窩は巻き込まない。II型は鼻根部から眼窩下内側を通るピラミッド型の骨折線で、眼窩底・眼窩下縁を巻き込む。III型は眼窩内壁から眼窩外側壁・頬骨弓に及ぶ横断骨折で、中顔面全体が頭蓋底から分離する。詳細は「病態生理学・詳細な発症機序」の項を参照。
各型に特徴的な所見を以下に示す。
Le Fort I型
下部上顎の浮腫:下部上顎骨・上唇に限局した腫脹。
上顎動揺:上顎歯列全体が動揺する。
硬口蓋出血:硬口蓋・軟口蓋の斑状出血。
鼻出血:片側性〜両側性。眼窩は巻き込まない。
Le Fort II型
中顔面変形:鼻と上顎複合体が動揺する。
眼窩周囲所見:両側眼窩周囲浮腫・斑状出血、両側性結膜下出血(主に内側)。
内眥間距離拡大:外傷性内眥間距離開大(traumatic telecanthus)。
髄液漏出:髄液鼻漏・耳漏(頭蓋底骨折示唆)。
Le Fort III型
皿状顔貌:著明な顔面浮腫と顔面の延長・平坦化(dish face)。
Raccoon eyes:両側眼窩周囲斑状出血(パンダの目)。バトル徴候・血鼓室も生じる。
眼科的所見:複視、眼球陥凹(enophthalmos)、外傷性内眥間距離開大、一過性視力障害、両側性全周性結膜下出血。
CSF漏出:III型で最高率。頭蓋内圧亢進の徴候を伴うことがある1)。
眼窩壁骨折では外眼筋捕捉による伸展制限が複視の主因となる。外眼筋捕捉が強い場合や若年例では迷走神経反射による悪心・嘔吐が生じる。三叉神経第2枝(眼窩下神経)障害では鼻翼・上口唇の知覚障害をきたす。大きな開放型骨折では急性期以後に眼球陥凹が明らかになる。
Le Fort II型では眼窩底・眼窩下縁の骨折により複視・結膜下出血・眼窩周囲浮腫が生じる。III型ではさらに眼球陥凹・外傷性内眥間距離開大・一過性視力障害も生じうる。重症例では眼窩軟部組織・外眼筋・視神経の損傷を伴うことがある。
Le Fort骨折は鈍的顔面外傷が原因であり、受傷機転は低速度と高速度に分類される。
各型の受傷机転を以下に示す。
| 型 | 主な受傷機転 | 特徴 |
|---|---|---|
| I型 | 低速度(56%)が主 | 上顎歯への下方への力 |
| II型 | 高速度が多い | 鼻骨レベルへの力。眼窩内側壁・眼窩底を巻き込みうる |
| III型 | 高速度 | 鼻根部・眼窩レベルへの力。眼窩軟部組織・眼球・視神経の損傷を伴いうる |
先進国では暴行(39.7%)・転倒(27.9%)・交通事故(27.2%)が主な原因である(Arslanら2014)。発展途上国では交通事故が最多となる。
主なリスク要因は以下の通りである。
ATLSプロトコルによる一次サーベイ(ABCDE)を最優先とする1)。特にII・III型では頸椎固定を行ってから顎顔面骨折の評価に進む。二次サーベイで顎顔面骨折の詳細を評価する。
病歴では、受傷原因・加わった力の大きさ・神経学的変化(意識消失・精神状態変化)・アルコール・薬物使用歴を確認する。家庭内暴力・虐待の可能性も調査する。
CT(3D再構成)が標準的な画像診断法である1)。骨折の範囲と関連損傷の評価に有用であり、脳CT・頸椎CT・頸部血管造影を適宜追加する。
眼窩CTでは骨折所見のみならず、外眼筋・眼窩脂肪・出血などの軟部組織所見に注目する。脳CTのみで眼窩の判断を下してはならない。金属異物の疑いがある場合はMRIではなくCTが必須である。
Le Fort II・III型では以下の眼科的評価が必須である。
翼状突起骨折はLe Fort骨折に対して感度が高いが、特異的ではない。実際には正確なLe Fortパターンに従う骨折はわずか24%であり、臨床判断には柔軟な解釈が求められる。
CT(3D再構成)が標準であり、骨折の範囲・関連損傷の評価に最適である。眼窩CTは軟部組織所見にも注目する必要があり、脳CTのみでの判断は不十分である。関連する頭蓋内損傷・頸椎損傷の除外にはそれぞれ専用のCTが必要である1)。
ATLSプロトコルに従った一次サーベイを優先する1)。
重症Le Fort骨折は多診療科の協働が必要である1)。眼科・ENT・脳外科・顎顔面外科・形成外科・血管外科・ICUが連携して管理にあたる。
手術目標は不安定骨折片を安定構造に固定し、顔面の突出・咬合・鼻腔構造・眼窩構造を回復することである。
再建の推奨順序は「bottom to top and outside in」(Vujcich & Gebauer 2018)に準拠する1)。
手術時期の判断は以下を基準とする。
即時修復
外眼筋嵌頓+眼心臓反射:CT/MRI上の外眼筋嵌頓かつ非消退性の眼心臓反射(bradycardia)。
White-eyed blowout:小児のtrap-door骨折+筋嵌頓+眼心臓反射の組み合わせ。
眼球亜脱臼:上顎洞への眼球亜脱臼(稀)。
2週間以内
症候性複視+嵌頓:症候性複視かつ強制牽引試験陽性またはCT上嵌頓あり、かつ時間経過での改善が乏しい場合。
大きな眼窩底骨折:下方偏位(hypoglobus)や進行性の眼窩下知覚低下を伴う場合。
早期の眼球陥凹・顔面非対称:自然消退しないため早期対処が必要。
緊急(小児)
小児の閉鎖型骨折+嵌頓:外眼筋が嵌頓している閉鎖型骨折は緊急手術の適応。
受傷直後が最も複視が強く、自然経過でやや改善するが完治しないことが多い。
骨折の修復手技は以下の通りである。
眼窩底骨折例の7〜24%で斜視手術が必要となる。調節縫合が有用であるが、病因が多因子性・非共同性のため複視の完全消失は困難な場合が多い。
外眼筋嵌頓+眼心臓反射(徐脈)がある場合は即時修復が必要である。症候性複視+強制牽引試験陽性の場合は2週間以内の手術が推奨される。小児の閉鎖型骨折+嵌頓は緊急手術の適応である。大きな骨折や早期の眼球陥凹・下方偏位も約2週間以内の対処が必要とされる。
頭蓋骨は22個の骨(顔面骨14個、脳頭蓋骨8個)で構成される。顔面骨は2つの上顎骨・2つの頬骨・2つの鼻骨・下顎骨・2つの涙骨・2つの口蓋骨・2つの下鼻甲介・鋤骨からなる。
顔面骨格は垂直バットレスと水平バットレスから構成される。垂直バットレスは水平バットレスより堅牢であり、水平構造は垂直を支持するが脆弱である。
各バットレスの概要を以下に示す。
| 種別 | バットレス名 | 走行 |
|---|---|---|
| 垂直(4対) | 鼻上顎(内側上顎) | 前上顎歯槽突起→鼻上顎接合部→眉間 |
| 垂直(4対) | 頬骨上顎(外側上顎) | 外側歯槽突起→頬骨→眼窩外側壁・頬骨弓 |
| 垂直(4対) | 翼状上顎(後方上顎) | 上顎洞後壁→翼状突起基部 |
| 水平(5つ) | 前頭バー | 眼窩上縁に沿う |
| 水平(5つ) | 上部横上顎 | 眼窩下縁に沿う |
眼部打撲による眼窩内圧亢進と直達外力が眼窩壁骨折を引き起こす。眼窩内壁と眼窩下溝が骨折好発部位であり、この部位の骨が薄いためである。骨折部での外眼筋捕捉が複視の主因となる。眼窩脂肪のorbital septa(薄い隔壁)が外眼筋近傍で捕捉されても眼球運動制限が生じる。
Pswarayi & Burns(2022)はLe Fort III骨折を含む多発顔面骨折の44歳男性症例を報告した1)。来院時はショック状態(HR 31bpm、BP 53/32mmHg、SpO2 74%)で、ATLSプロトコルに基づく系統的蘇生と集学的アプローチにより救命に成功した。「bottom to top and outside in」の再建原則に従い、段階的手術が計画された。