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眼外傷

眼瞼再建術

眼瞼再建術とは、眼瞼の欠損(腫瘍切除後・外傷・先天異常・熱傷など)に対し、閉瞼機能・涙液層の保存・視野の確保・審美性の回復を目的とした外科的再建術式の総称である。

代表的な術式の歴史は以下の通りである。Cutler-Beard法は1955年にNL CutlerとC Beardが報告した。Hughes瞼板結膜皮弁は1937年にWendell Hughesが報告した。Tenzel半円状前進皮弁は1975年にRR Tenzelが報告した。

適応は先天性と後天性に大別される。先天性にはコロボーマゴールデンハー症候群・トリーチャー・コリンズ症候群などがある。後天性には腫瘍切除後・外傷・熱傷・放射線照射後・医原性(美容手術後の合併症)などがある。

眼瞼悪性腫瘍は西洋では基底細胞癌が80%超を占める。アジアでは扁平上皮癌(7〜40%)と脂腺癌(3.4〜29%)の頻度が相対的に高い1)

Q 眼瞼再建が必要になるのはどのような場合か?
A

腫瘍切除後・外傷・熱傷・先天異常・放射線照射後に生じた眼瞼欠損が主な適応である。医原性(美容手術後の兎眼・瘢痕性眼瞼後退)も含まれる。欠損の大きさ・深さ・位置に応じて術式が選択される。

  • 閉瞼不全に伴う症状角膜乾燥・異物感・流涙・視力低下。
  • 外傷性の場合:疼痛・腫脹・出血。
  • 熱傷後の場合瞼球癒着による眼球運動障害・開瞼不全2)

臨床所見(医師が診察で確認する所見)

Section titled “臨床所見(医師が診察で確認する所見)”

術式選択に直結する評価項目を系統的に確認する。

  • 欠損の深さ:全層欠損(前葉・後葉ともに)か前葉のみかを区別する。
  • 欠損の大きさ:眼瞼長に対する割合(小:25〜50%、中:50〜75%、大:75%超)で術式選択が異なる。
  • 欠損の位置:内側・中央・外側。内眥・外眥の関与の有無。
  • 涙道系の損傷:涙点より内側の裂傷では涙小管断裂の可能性がある。通水検査・ブジー挿入で確認する。
  • 挙筋断裂の有無:外傷性眼瞼下垂の原因となる。裂傷創を展開し断裂の有無を観察する。
  • 各層の損傷程度:皮膚・眼輪筋・瞼板・結膜・挙筋・ミュラー筋の状態を個別に評価する。
  • 周囲組織の可動性・弛緩度:高齢者ほど組織弛緩が大きく再建しやすい。
Q 眼瞼裂傷で涙小管断裂が疑われるのはどのような場合か?
A

涙点より内側の眼瞼裂傷では常に涙小管断裂を疑う必要がある。通水検査やブジー挿入で確認し、断裂が判明した場合は受傷後48時間以内の修復が望ましい。

  • 腫瘍切除:最も多い原因。基底細胞癌・扁平上皮癌・脂腺癌・悪性黒色腫などの切除後に生じる1)
  • 外傷:眼瞼裂傷。爆発外傷では眼損傷の41.6%が眼瞼裂傷とされる。
  • 熱傷:化学熱傷・火炎熱傷による瘢痕拘縮・瞼球癒着2)
  • 先天異常:コロボーマ・ゴールデンハー症候群・トリーチャー・コリンズ症候群・フレーザー症候群。
  • 放射線照射後:周囲組織の線維化・壊死による欠損。
  • 医原性:美容手術後の兎眼・瘢痕性眼瞼後退3)
  • 問診・視診:裂傷の深さ・異物の有無・眼窩周囲骨折の推測を行う。
  • CT撮影:眼窩部・頭部・顔面。異物や骨折の確認に必須である。

欠損を系統的に分類し、術式選択の根拠とする。

評価項目分類・確認内容
深さ全層 / 前葉のみ
大きさ小(25〜50%)/ 中(50〜75%)/ 大(75%超)
位置内側・中央・外側、内眥・外眥の関与
  • 涙小管断裂の確認:涙点からの通水検査・ブジー挿入で確認する。
  • 挙筋断裂の確認:裂傷創を展開して筋・腱膜断裂の有無を観察する。
  • 腫瘍切除の場合:術中凍結切片による切除断端陰性の確認が必要である1)
  • Spinelli-Jelks分類(眼窩周囲5ゾーン):Zone 1(上眼瞼)、Zone 2(下眼瞼)、Zone 3(内眥)、Zone 4(外眥)、Zone 5(周囲組織)4)

眼瞼再建では前葉(皮膚・眼輪筋)と後葉(瞼板・結膜)の2層を個別に再建する。2層のうち少なくとも1層は血流のある皮弁で再建し、他方は遊離移植片としてよい3)。縫合糸の結び目は角膜刺激回避のため常に皮膚側に配置する。

  • 瞼縁断裂なし:創端を正確に合わせて縫合する。皮膚欠損を伴わないことが多い。
  • 瞼縁断裂あり:6-0ナイロンで瞼縁に仮縫合→モスキートで固定→6-0ナイロンで瞼板縫合の順に行う。睫毛列またはgray lineを正確に合わせる。球結膜裂傷があれば縫合し、ミュラー筋・眼瞼挙筋の断裂があれば縫合する。内・外眼角腱の断裂があれば元の位置に固定する。眼瞼皮膚は7-0ナイロン、眉毛・鼻根部周囲は6-0ナイロン埋没縫合で閉創する。
  • デブリードマン:極力控える。明らかに挫滅・汚染された組織のみを切除する。
  • 洗浄・麻酔:アドレナリン入り0.5〜1.0%リドカインで浸潤麻酔。砂・泥・ガラス片等の異物を生食で除去する。

欠損サイズに応じて術式を選択する。

小(25〜50%)

直接縫合:五角形状楔状切除後、埋没垂直マトリス縫合(far-far-near-near-near-near-far-far)。6-0バイクリル使用。

外眥切開+外眥靭帯切離:張力がある場合(33〜50%)に追加する。

中(50〜75%)

Tenzel半円状前進皮弁:外眥から半円を描き側頭方向へ前進させる。外眥切開+下方の外眥靭帯切離を行う。欠点:外側のまつ毛消失。

McGregor皮弁:Tenzel皮弁末端にZ形成術を追加し、垂直方向からの組織動員を増加させる。

大(75%超)

Cutler-Beard法(上眼瞼欠損):下眼瞼からの2段階全層前進皮弁。6〜8週後に茎を切断する。欠点:リンパ浮腫・下眼瞼外反・まつ毛なし。単眼症・乳児には弱視リスクのため禁忌。

Hughes瞼板結膜皮弁(下眼瞼欠損):上眼瞼の瞼板(瞼縁から4mm上方)から皮弁を挙上し前進させる。欠点:上眼瞼後退の可能性・結膜乾燥による紅斑。

  • Lid switch皮弁(大きな上眼瞼欠損):下眼瞼全層をまつ毛とともに移動させる。まつ毛を提供できる唯一の手技。茎は2〜3週後に切断する。
  • Mustarde頬部回転皮弁:大きな垂直方向欠損の前葉再建に有用。
  • 眉間皮弁(Glabellar flap):内眥欠損を伴う前葉再建。V-Y皮弁と菱形皮弁の組み合わせ。1段階で完了する。

後葉再建に使用する移植片の特性を以下に示す。

移植片特徴主な留意点
瞼板結膜ゴールドスタンダード。眼瞼幅75%以下の欠損に使用可能合併症率:東アジア人43%、白人84%(外反・内反が最多)5)
硬口蓋粘骨膜(HPM)瞼板結膜に類似した組織学的構成角化上皮のため角膜刺激の可能性3)
耳介軟骨薄く弾力性あり。長期生着良好。術後の有意な吸収・収縮なし鼻中隔軟骨より柔軟で採取容易3)
鼻中隔粘軟骨杯細胞・粘液腺を含み代替粘液を提供薄化後に瞼板の弯曲に適合させる5)
口腔粘膜弾力性に富み血管豊富構造的強度が低く単独使用は不可。軟骨との併用が必要3)
  • 全層植皮:分層植皮は使用すべきでない3)
  • プロペラ皮弁:島状皮弁を軸回転(90〜180度)させる。鼻唇溝皮弁や頬骨皮弁を利用する。合併症が少なく、色調・質感の一致が良好。外反・下眼瞼退縮のリスクが低い6)
  • Step ladder V-Y advancement flap:頬部からの段階状V-Y前進皮弁。5例全例で合併症なし。健常皮膚の犠牲が少なく、短時間で施行可能。Mustarde皮弁より低侵襲7)
  • Myotarsocutaneous flap:眼輪筋をペディクルとする島状皮弁。上下眼瞼溝に合わせたデザインで瘢痕を目立たなくする。瞼縁(まつ毛を含む)を欠損中央に配置可能8)
  • 鼻唇溝皮弁:顔面動脈・角動脈の穿通枝による豊富な血流。色調・質感の一致が良好。ドナー部瘢痕は鼻唇溝内に隠れる4)
  • 涙点より内側の眼瞼裂傷では涙小管断裂の有無を必ず確認する。
  • 受傷後48時間以内の整復が望ましい。
  • 全身麻酔が望ましい(局麻の浸潤による腫脹で断端同定が困難になる)。
  • シリコーンチューブ挿入後、8-0バイクリルまたはナイロンで涙小管を縫合する。チューブ留置は通常1〜2か月。

外傷性眼瞼下垂は、神経原性(動眼神経・交感神経障害)・筋原性(挙筋・腱膜断裂)・腱膜性・機械性(瘢痕)に分類される。

  • 神経原性・腱膜性:受傷後6か月まで経過観察してから手術を検討する。
  • 挙筋・腱膜断裂が明らかな場合:断裂部の縫合を試みる。
  • 局所麻酔:2%リドカイン+1:80,000〜1:200,000アドレナリン。作用発現5分以内、持続約1時間。延長する場合はリドカインと0.5%ブピバカインの等量混合を用いる。
  • 点眼麻酔:アメトカイン1%、オキシブプロカイン0.4%。
  • 全身麻酔:広範囲修復や涙小管修復では全身麻酔が適応となる。
Q 眼瞼再建では前葉と後葉をどのように使い分けるのか?
A

前葉(皮膚・眼輪筋)と後葉(瞼板・結膜)を独立して再建する。2層のうち少なくとも1層は血流のある皮弁で再建し、他方は遊離移植片(瞼板結膜・硬口蓋・耳介軟骨・口腔粘膜など)としてよい。両層ともに遊離移植片を使用すると壊死のリスクがある。

Q 後葉再建に使われる移植片にはどのような種類があるか?
A

瞼板結膜移植片がゴールドスタンダードだが、眼瞼幅75%超の欠損では使用が難しい。代替として硬口蓋粘骨膜・耳介軟骨・鼻中隔粘軟骨・口腔粘膜などがある。口腔粘膜は構造的強度が低く単独使用できないため軟骨との併用が必要である。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

Section titled “6. 病態生理学・詳細な発症機序”

眼瞼は前葉(皮膚・眼輪筋)と後葉(瞼板・結膜)の2層構造からなり、灰白線が境界となる。

  • 瞼板:緻密線維組織。長さ28〜29mm、厚さ1mm。高さは上眼瞼10mm、下眼瞼3.5〜5mm。
  • 正常眼裂:水平28〜30mm、垂直10〜11mm。外眥は内眥より約2mm高位。
  • 血管支配:内側眼瞼動脈(眼動脈枝)と外側眼瞼動脈(涙腺動脈枝)が吻合し、縁動脈弓(瞼縁から2〜3mm)と周辺動脈弓を形成する。
  • リンパ流:上眼瞼大部分・下眼瞼外側半→耳前リンパ節。上眼瞼内側・下眼瞼内側半→顎下リンパ節。

後葉は3つの機能を担う。機械的支持(瞼板)・滑らかな粘膜表面(結膜)・脂質分泌(マイボーム腺)である5)

  • 結膜:非角化重層円柱上皮・杯細胞(5〜10%)から成る。ムチン分泌により涙液層を安定化する5)
  • マイボーム腺:分岐腺房型脂腺。脂質(meibum)を分泌し涙液の蒸発を抑制する5)
  • 皮弁による再建の必要性:少なくとも1層は血流供給のある皮弁で再建しないと壊死が生じる3)

7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)

Section titled “7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)”

脱細胞化真皮マトリックス(ADM)

Section titled “脱細胞化真皮マトリックス(ADM)”

ヒト・ブタ・ウシ由来のADMが後葉スペーサーグラフトとして研究されている。レベルII〜IIIの臨床研究で有効性・安全性が実証されている。

平均収縮率の比較ではADM 57%に対し、硬口蓋粘膜16%という報告がある5)。収縮率の観点ではADMは硬口蓋粘膜に劣るが、ドナー部合併症を回避できる利点がある。

TarSys(脱細胞化ブタ小腸粘膜下組織)

Section titled “TarSys(脱細胞化ブタ小腸粘膜下組織)”

コラーゲンI/III/IVを含む異種移植材料である。感染・炎症反応の懸念が残る5)

PLGA+骨髄間葉系幹細胞+TGF-β1プラスミドDNAを用いた組織工学的アプローチが研究されている。

ウサギモデルの研究(Dai 2019)では、移植8週後にECM沈着とマイボーム腺腺房形成が確認された5)

3Dバイオプリントされたスキャフォールド

Section titled “3Dバイオプリントされたスキャフォールド”

PCLスキャフォールドに脂肪由来間葉系幹細胞の脱細胞化マトリックスを被覆し、SZ95脂腺細胞をシードする手法が研究されている。

Chen らの研究では、ヌードマウス皮下移植1か月後にマイボーム腺腺房様構造と中性脂質分泌が確認された5)

PLA・PCL・PLGA・PPF等の合成ポリマーを用いた研究が進んでいる。結膜修復での杯細胞成長を動物モデルで支持する知見がある。PPF-HEMAコポリマーはADMより炎症反応が少なく組織浸潤が良好とされる5)

抗血管新生・抗炎症・抗瘢痕特性を持つ。結膜再建の代替物として最も広く使用されている。3〜6週で結膜上皮化し、6か月以内に吸収される5)


  1. Irawati Y, Paramita C, Daniel H. Challenging eyelid reconstruction in malignancies: Case reports. Ann Med Surg (Lond). 2021;71:102987.
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  6. Hayat N, Jan S, Aslam S, Asghar MS. Outcomes of Propeller Flap in Eyelid Reconstruction. Cureus. 2021;13(4):e14509.
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