軽度〜中等度
周辺部静脈拡張・蛇行:遠周辺部から始まる網膜静脈の怒張。強膜圧迫を併用した間接検眼鏡検査で確認可能。
周辺部出血:周辺網膜の点状・斑状出血が先行する。
ソーセージ様(数珠状)変化:網膜静脈の分節状拡張。WM(マクログロブリン血症)に特徴的な所見。

ワルデンシュトレームマクログロブリン血症(Waldenstrom macroglobulinemia; WM)は、モノクローナルIgMを過剰産生する悪性リンパ増殖性疾患である。非ホジキンリンパ腫の一種で、リンパプラズマ細胞性リンパ腫(lymphoplasmacytic lymphoma)とも称される。骨髄やリンパ節が多形性Bリンパ球に占拠され、血清IgMの大量増加を引き起こす。
1944年、スウェーデンの内科医ヤン・ゴスタ・ワルデンシュトレームが、血清粘稠度の上昇に起因する症状を持つ2例を初めて報告した。その三徴は粘膜出血・視覚変化・神経学的異常であった。「過粘稠度症候群(hyperviscosity syndrome)」という用語は1965年にFaheyによって命名された。
発症率は年間100万人あたり2〜5例と稀な疾患である1)。診断時の中央年齢は約69歳、男女比は約2:1と男性優位である1)。白人に多く、50歳未満での発症は稀である。血液がん全体の1〜2%を占める。
WM患者の約30〜40%に、血清過粘稠度に起因する網膜症が生じる。眼科的所見がWMの初発症状となることがあり、散瞳眼底検査が診断の端緒になる場合もある。
WM患者の約30〜40%に過粘稠度関連網膜症が生じる。特にIgM蛋白が3g/dL以上になると、過粘稠度症候群をきたしやすく眼底変化が出現しやすいとされている。
過粘稠度関連網膜症の眼症状は、主に網膜循環障害に起因する。
眼底所見は過粘稠度の程度と相関する。本疾患は全身疾患であるため、必ず両眼性に現れる。
軽度〜中等度
周辺部静脈拡張・蛇行:遠周辺部から始まる網膜静脈の怒張。強膜圧迫を併用した間接検眼鏡検査で確認可能。
周辺部出血:周辺網膜の点状・斑状出血が先行する。
ソーセージ様(数珠状)変化:網膜静脈の分節状拡張。WM(マクログロブリン血症)に特徴的な所見。
重度
中心部出血・黄斑浮腫:出血が後極部・黄斑に及び、視力低下をきたす。
視神経乳頭浮腫:進行した過粘稠度に伴い乳頭腫脹が出現する。
漿液性黄斑剥離:網膜下液の貯留。放置すると永久的視力喪失につながりうる。
網膜静脈閉塞症(両側性):重度の静脈圧迫・怒張が進行した場合に生じる。
出血の性状は微小血管瘤・点状・斑状(dot-blot)・火炎状と多彩である。FA(蛍光眼底造影)では網膜循環時間の延長、毛細血管無灌流、微小血管瘤が確認される。WMの症例で血漿交換前後のFAを記録した報告では、周辺白色中心性病変部の閉塞と毛細血管脱落が観察された1)。OCTは黄斑浮腫と外核層の過反射材料(hyperreflective material)のモニタリングに有用である1)。
黄斑部が侵されていない段階では、周辺部出血があっても視力に影響しないことがある。しかし漿液性黄斑剥離や黄斑浮腫が進行すると永久的な視力喪失につながりうる。WMに対する全身治療によって網膜所見は数か月かけて改善していくため、眼科的評価を定期的に行い、内科医と連携した総合的管理が重要である。
WMは主に孤発性疾患と考えられているが、遺伝的背景も報告されている。患者の多くに6q21-22.1の欠失が認められ、第一度近親者にもB細胞疾患が見られる例がある。
IgM-MGUS(意義不明の単クローン性ガンマグロブリン血症)を既往に持つ場合、将来WMを発症するリスクが著しく高まる。大部分のWMはMGUSに続いて発症する。
その他のリスク要因として、C型肝炎との関連、シェーグレン症候群などの自己免疫疾患が挙げられている。
血清IgMの増加が過粘稠度の主因である。IgMは3g/dL以上になると高頻度に過粘稠症候群をきたし、眼底変化が出現しやすいとされている。
WMの確定診断には以下の2つの主要基準(メイヨークリニック基準)を満たす必要がある。
主な検査手順は以下の通りである。
眼底所見がWMの初発症状となることがある。過粘稠度症候群が疑われる場合は、徹底した眼科的検査が推奨される。
過粘稠度関連網膜症の眼所見は他疾患と類似することがある。
ある。散瞳下眼底検査における特徴的な所見(両眼性の網膜静脈ソーセージ様拡張・網膜出血)が初期診断のきっかけとなることがある。眼科医が過粘稠度症候群を疑った場合は、血液内科への紹介と血清蛋白電気泳動・粘稠度測定を促すことが重要である。
WMの治療は、急性期の過粘稠度症候群の管理と、IgM産生を抑制する根本的な全身治療の2段階で行われる。眼科的治療は全身治療と並行して適宜行う。
過粘稠度による急性症状(網膜症・神経症状・出血傾向)に対する第一選択である。IgMの80%以上が血管内に存在するため、血漿交換が効果的である。
血清IgMをコントロールし再上昇を防ぐために化学療法を行う。
原疾患の全身治療が優先されるが、網膜病変に応じた眼科的介入も行う。内科医との密な連携のうえで眼科的病状を報告することが重要である。
血漿交換はIgMを一時的に低下させるに過ぎない。IgMの再上昇を防ぐためには、続いて化学療法によるWMそのものの治療が必要である。血漿交換と化学療法を組み合わせることで網膜所見の長期的な改善が期待できる1)。
WMの中心的な病態は、クローナルなリンパプラズマ細胞による骨髄浸潤と五量体IgMの過剰産生である。
IgMは以下の特性により、血液粘稠度を著しく上昇させる。
正常な血清粘稠度は体温下で水の1.4〜1.8倍(cP)である。複数の研究によれば、4 cP未満では過粘稠度症状は起こりにくく、5.0 cPを超えると症状が出やすい。
粘稠度は細静脈(venules)で最も高くなる。粘性流体が細静脈壁を破り、微小血管出血を引き起こす。これが網膜での中心網膜出血・血管拡張として観察される。
自己調節性の静脈拡張が生じ、続く静脈うっ滞と血管内圧上昇により、網膜血管内皮の低酸素状態が惹起される。その結果、血管蛇行・網膜出血・滲出・網膜静脈閉塞が生じる1)。
骨髄生検ではダッチャー小体(Dutcher bodies:周辺虹彩前癒着染色陽性の細胞質内封入体)を認めることがある。肥満細胞(mast cells)の過剰増殖も特徴的であり、CD40リガンドを過剰発現してB細胞増殖を促進する。
OCT-A(OCT血管造影)は、非侵襲的に網膜灌流欠損を評価できる新しい手法である。従来の蛍光眼底造影では質的評価にとどまっていた網膜血管変化を、定量的に捉えることができる。
Schatzら(2021)は、WM関連過粘稠度関連網膜症の1例において、血漿交換前後のOCT-A画像に画像解析アルゴリズムを適用し、毛細血管密度が47.62%から45.35%へ、大血管密度が18.87%から10.16%へ客観的に低下したことを示した1)。これはOCT-Aを用いて過粘稠度関連網膜症の治療効果を定量的に評価した数少ない報告の一つである。
治療後の血管密度低下は、(1)過粘稠度による低酸素・擬似閉塞イベントによる毛細血管の恒久的破壊、または(2)血管径の縮小を反映したアーティファクトの可能性が考えられる1)。OCT-Aに画像解析アルゴリズムを組み合わせることで、治療期間のガイドや再発モニタリングへの応用が期待される。
先行報告では、WMに関連した免疫グロブリン血症黄斑症(immunogammopathy maculopathy)に対してbevacizumab硝子体内注射を用いたマルチモーダルイメージングの知見が報告されており、漿液性網膜剥離の軽減と外層網膜萎縮の残存が示された1)。標準治療としての位置づけは確立していない。