老視の病態
調節力低下:水晶体核の弾性低下により毛様体筋が収縮しても水晶体が厚くなれない。
近点距離の延長:調節力が約2D以下になると近点距離が50cm以上となり、手元が見えにくくなる。
焦点深度:加齢とともに瞳孔径が小さくなり、縮瞳に伴って焦点深度が自然に深まる代償機能が働く。

VUITY™(ヴイティ)は、ピロカルピン塩酸塩1.25%を有効成分とする点眼液である。アッヴィ社(AbbVie)が開発し、2021年10月に米国FDA(食品医薬品局)より成人の老視治療薬として承認を受けた。老視治療を目的とした点眼液としては世界初のFDA承認製品である。
老視(老眼、presbyopia)とは、加齢に伴い水晶体の弾力性が低下し、調節力が失われて近方が見づらくなる状態をいう。世界人口の約25%(約18億人)が老視の影響を受けており、いずれ誰もが経験する普遍的な加齢変化である1)。
10歳代では12〜14Dの調節力を有するが、40歳前後から急速に低下し始め、50歳代には1D前後になる。近点距離が40cm以上になると近方が見にくくなるという老視の症状が出現し、近用眼鏡が必要になる。
VUITY™には独自の緩衝液「pHast™テクノロジー」が使用されており、点眼後に涙液層の生理的pHに迅速に適合することでバイオアベイラビリティ(生物学的利用能)を高め、副作用の軽減を図っている。
2026年3月時点でVUITYは日本では未承認である。個人輸入は法的に可能な場合もあるが、医師の処方・管理なしに使用することはリスクを伴う。老視の治療については、眼科専門医に相談することが推奨される。
老視の初期症状は、近方視時の眼疲労と夕刻の視力低下である。本格的な近方明視困難は45歳以後に顕在化することが多い。
老視の病態
調節力低下:水晶体核の弾性低下により毛様体筋が収縮しても水晶体が厚くなれない。
近点距離の延長:調節力が約2D以下になると近点距離が50cm以上となり、手元が見えにくくなる。
焦点深度:加齢とともに瞳孔径が小さくなり、縮瞳に伴って焦点深度が自然に深まる代償機能が働く。
VUITY投与後の所見
瞳孔縮小(縮瞳):投与1時間後に瞳孔径が約3.4mmから約1.9mmへ縮小する1)。
近方視力改善:焦点深度が深まり、近方視力が改善する。効果は最短15分で現れ、6時間持続する。
遠方視力への影響:適切な縮瞳(2.0〜2.5mm)では遠方視力への悪影響は最小限に抑えられる1)。
老視は病気ではなく、誰にでも生じる生理的な加齢変化である。水晶体の弾性低下が主因であり、毛様体筋の機能はある程度保たれている。治療の目的は調節力の低下を光学的・薬理学的に補うことである。
老視の主要原因は、加齢に伴う水晶体の弾性低下(核の硬化)である。毛様体筋が収縮してチン小帯の緊張が緩んでも、硬くなった水晶体は曲率を変えられない。水晶体の調節力は50歳を過ぎるとほぼ消失する。
老視の発症時期・進行に影響するリスク要因は以下の通り。
老視の診断は問診・屈折検査・調節力検査によって行う。
| 検査項目 | 目的 |
|---|---|
| 近点距離測定 | 調節力の定量 |
| 近見視力検査 | 機能的視力の評価 |
| 調節機能解析 | 毛様体筋活動の他覚的評価 |
VUITYの適応評価においては、網膜剥離のリスク評価(特に近視眼・硝子体変性)のため散瞳眼底検査も推奨される。
老視の矯正・治療には、光学的矯正と薬物療法、そして手術療法がある。
VUITY(ピロカルピン1.25%点眼液)は成人の老視に対するFDA承認の薬物療法である。
用法・用量:
効果の発現と持続:
VUITYの効果は1回の点眼で6〜10時間程度持続するが、老眼鏡のように遠方視力を犠牲にせず終日使用できるわけではない。薄暗い環境での視力低下や夜間運転への影響も報告されている。現時点では老眼鏡を完全に置き換えるものではなく、補完的な使用が現実的である。
老視は水晶体の弾性低下による調節機能の低下が主因である。10歳代に約12Dある調節力は、40歳で約5D、50歳代には1D前後に低下する。
調節力低下の主な原因は水晶体核の弾性低下であり、毛様体筋の収縮力はかなり残存していると考えられている。年齢とともに高次収差が増加することも、自覚的調節幅に寄与する要因として挙げられる。
加齢に伴い瞳孔径が小さくなる(老人性縮瞳)ことは、焦点深度を深める代償機能として働く。瞳孔径3mmでは焦点深度は約0.5〜0.7Dとされている。
ピロカルピンはムスカリン受容体に結合する直接型コリン作動薬(muscarinic receptor agonist)であり、虹彩と毛様体の眼内平滑筋に直接作用する。
虹彩括約筋への作用:虹彩括約筋が収縮し縮瞳が起こる。縮瞳によりピンホール効果(開口光学)が生じ、焦点深度が拡大する。これが近方視力改善の主要なメカニズムである1)。
毛様体筋への作用:毛様体筋の収縮によりチン小帯の緊張が緩和され、水晶体が厚くなる方向に変化する。これは付加的な調節効果に寄与する可能性がある。
光学モデリングと臨床試験結果の統合解析によれば、縮瞳後の最適瞳孔径は2.0〜2.5mm程度であり、この範囲で焦点深度の拡張と網膜照度の確保のバランスが最も良好となる1)。1.25%ピロカルピン(VUITY)投与1時間後の瞳孔径は平均3.4mmから約1.9mmへ縮小する1)。
De Gracia & Pucker(2025)は光学モデリングとピロカルピン系薬剤の臨床試験データを統合解析し、薬理学的縮瞳で到達可能な2.0〜2.5mmの瞳孔径が、明所・薄明視下における焦点深度拡大と網膜照度確保の最適バランスをもたらすと結論した1)。
房水中のピロカルピンの半減期は約31.83分であることが示されている。
GEMINI 1・2試験(FDA承認根拠):40〜55歳の老視患者750名を対象とした30日間の第III相二重盲検ランダム化比較試験。
VIRGO試験(1日2回投与):230名を対象とした第III相試験。1日2回投与群でプラセボ比35.1% vs 7.8%が主要評価項目を達成した2)。
Farid らによるランダム化第2b相試験(166名、45〜64歳)では、0.4%ピロカルピン(CSF-1)単剤投与15日目において、3ライン改善達成率46.9%(CSF-1群)vs 16.1%(対照群)であり、統計的に有意な優越性を示した(P=0.0002)。0.2%ピロカルピンでは主要評価項目を達成できず、0.4%が最低有効濃度として同定された2)。
0.4%ピロカルピン(Qlosi;Orasis Pharmaceuticals)は2023年にFDAに承認された。1.25%より縮瞳が緩やか(投与後瞳孔径約2.3mm)であり、低照度下での視力低下を最小化しながら近方視力改善を実現する1)。
縮瞳による毛様体筋収縮は、近視患者において理論上網膜剥離リスクを高める可能性がある。GEMINI 1・2試験期間中には網膜剥離は認められなかったが、FDA承認後に硝子体中心窩牽引・網膜裂孔・網膜剥離の症例報告がある。
40年間にわたる数千例を対象としたレトロスペクティブレビューでは、ピロカルピン点眼患者において裂孔原性網膜剥離のリスクが3.14倍増加したことが示された(ただし発生率は1%未満)。
Waring ら(2024)は1.25%ピロカルピンが夜間運転パフォーマンスに及ぼす影響を評価し、縮瞳による入光量低下があっても夜間運転は「許容できる水準」を維持することを報告した1)。ただし、縮瞳が強すぎる(<2.0mm)場合は暗所での視力低下リスクが高まる1)。
屈折矯正手術後(LASIK・PRK後)や角膜移植後(DMEK後)の患者でも、光学的矯正の工夫が続けられている。DMEK後の単焦点眼内レンズ挿入患者に対し、毛様溝への補助トリフォーカル眼内レンズ二次挿入が眼底・角膜に影響を与えずに老視矯正を達成した症例も報告されている4)。また、Intracor(角膜内フェムト秒レーザー治療)後の患者では、小開口眼内レンズ(IC-8)と非回折型EDOF 眼内レンズの組み合わせが有効な場合があることが示されている3)。
縮瞳サイズの最適化に向けた光学モデリング(Visual Strehl Ratio of the Optical Transfer Function:VSOTF)と臨床試験の統合的研究が進み、2.0〜2.5mmを目標縮瞳径とした薬剤濃度設計の理論的根拠が整備されつつある1)。個々の患者の瞳孔径特性や使用環境(明所・暗所)に合わせた個別化投与戦略の開発が今後の課題である。
必ずしも起こるわけではない。網膜剥離のリスクは1%未満とされているが、近視患者・格子状変性・硝子体液化を有する患者では相対リスクが上昇する。VUITY使用前には眼科専門医による眼底検査を受け、リスクについて十分な説明を受けることが重要である。