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網膜・硝子体

渦静脈瘤

渦静脈瘤(Vortex Vein Varix; VVV)は、眼球赤道部に存在する渦静脈膨大部(vortex vein ampullae)が良性に拡張した状態である。眼底検査において赤道部の斜経線上に、片側性または両側性の袋状・涙滴状の隆起構造として認められる。

色調は茶褐色から灰色で、大きさは視神経乳頭径(disc diameter)の1〜3倍が典型的である。ただし、より大きな変異も報告されており、大型のものは耳側上方(supratemporal region)の上方四半部に多い傾向がある。

生理的な渦静脈膨大部は個人の約44%に存在する。一方、拡張した渦静脈瘤の有病率は、その希少性と偶発的な発見という性質から正確には記録されていない。

近視眼や色素の薄い眼では発見されやすい。後部硝子体剥離(PVD)の症状でフォローアップ中の患者に偶然発見されることもある。飛蚊症光視症とは直接関連しないと考えられている。

Q 渦静脈瘤は悪性疾患と関係があるか?
A

渦静脈瘤自体は良性の拡張であり、悪性病変ではない。しかし、脈絡膜メラノーマや転移性脈絡膜腫瘍など悪性疾患との鑑別が臨床上最重要であり、確定診断のための精密検査が必要な場合がある。詳細は「診断と検査方法」の項を参照。

渦静脈瘤は通常、特異的な症状を引き起こさない。

  • 無症状:多くの症例は自覚症状なく、他疾患の精査中に偶然発見される。
  • 非特異的視覚症状:まれに不明確な視覚症状や軽度の不快感を訴える場合がある。
  • 関連疾患による症状:下層の脈絡膜毛細血管板を圧迫し網膜色素上皮(RPE)の変化を招く場合は、視覚症状が出ることがある。

眼底の赤道部、斜経線上に特徴的な隆起性病変として現れる。

形態的特徴

色調:茶褐色〜灰色、青色または紫色に見えることもある。

形状:袋状または涙滴状の単一あるいは複数の隆起。

大きさ:視神経乳頭径の1〜3倍が典型。大型のものは耳側上方に多い。

位置:赤道部の斜経線上(片側性または両側性)。

動的所見

圧迫消失:指圧または3面鏡による眼球圧迫で、病変が縮小または消失する。これが最も重要な診断的所見。

注視変化:視線方向の変化に伴い病変の外観が変化することがある。

拍動性:一部の症例では拍動性の渦静脈血流が観察される場合がある。

網膜色素上皮の変化(色素上皮離や色素上皮の萎縮性変化)を伴うことがあり、これが視覚症状の原因となりうる。

Q 眼底検査だけで診断できるか?
A

近視眼や色素の薄い眼では臨床所見から診断しやすい。指圧や3面鏡による動的眼底検査で縮小・消失が確認できれば診断根拠となる。確信が持てない場合は、OCT・ICG蛍光造影・超音波検査などの追加検査で確定する。

渦静脈瘤の正確な病因は不明である。以下の複数のメカニズムが提唱されている。

  • 渦静脈の屈曲(kinking):視線変化によって誘発される強膜外での渦静脈の屈曲が発症に関与する可能性がある。
  • 血管壁・細胞外マトリックスの脆弱性:血管壁の構造的弱さが拡張を促す可能性がある。
  • 眼圧・静脈圧の変動:高い静脈圧や外圧が形成に寄与する可能性がある。
  • 外眼筋による圧迫:Shieldsらは上斜筋または下斜筋による渦静脈の部分的閉塞が静脈瘤形成に関与する可能性を指摘している。
  • 強膜導出管の狭窄:注視によって誘発される強膜導出管(scleral emissary canal)の狭窄も一因として挙げられる。
  • 眼静脈圧の上昇:腹臥位やバルサルバ法(Valsalva maneuver)時に生じる眼静脈圧の上昇が関与しうる。

渦静脈の分類(タイプI〜IV)を以下に示す。タイプIV(膨大部を伴う完全型)が渦静脈瘤患者でより一般的である可能性が示唆されているが、確定には更なる研究が必要である。

タイプ特徴
タイプI渦静脈なし。支流が直接強膜を通過
タイプII不完全型。支流の一部が並行して強膜通過
タイプIII完全型。全支流が強膜通過前に合流
タイプIV膨大部を伴う完全型。全支流が膨大部を形成後に強膜通過

以下の因子が関与する可能性がある。

  • 眼外傷の既往
  • 低眼圧
  • 高齢
  • 近視
  • 血管系に影響を与える全身疾患
  • 強膜炎:強膜炎に関連した症例も報告されており、強膜炎症が渦静脈の拡張や蛇行を促進・悪化させる可能性を示唆している。

診断は臨床評価と画像診断を組み合わせて行う。詳細な病歴(眼外傷歴、手術歴、全身疾患歴)聴取が不可欠である。近視眼や色素の薄い眼で発見しやすい。

各検査法の特徴と有用性を以下に示す。

  • 動的眼底検査(dynamic funduscopy):指圧または3面鏡による眼球圧迫で、病変の縮小・消失を確認する。最も重要な診断的アプローチであり、静脈瘤の「動的な性質」を活用する。
  • 光干渉断層計(OCT):スペクトラルドメインOCT(SD-OCT)では、三日月状の隆起として観察され、大きな脈絡膜静脈がその隆起に向かって合流する様子が確認できる。脈絡膜の詳細評価には Enhanced Depth Imaging(EDI)-OCTが有用である。
  • インドシアニングリーン蛍光眼底造影(ICG):膨大部静脈の集合体への色素貯留(pooling)を示すことで診断を確定する。渦静脈系の評価には超広角(UWF)ICGAが特に有用で、後極部から膨大部まで渦静脈系全体の形態評価が可能である1)
  • 超音波Bモード検査:ドーム状で音響的に実質性の脈絡膜病変として描出される。眼球への外圧により平坦化するのが特徴であり、脈絡膜メラノーマとの鑑別に有用。
  • フルオレセイン蛍光眼底造影(FA):補助的に用いる。網膜色素上皮変化が存在する場合の評価に有用。

以下の疾患との鑑別が重要であり、特に悪性疾患の除外が最優先である。

Q 脈絡膜メラノーマとの鑑別はどうするか?
A

最重要の鑑別疾患である。動的眼底検査(指圧・3面鏡圧迫による消失)および超音波Bモード(外圧による平坦化)が最初のステップ。ICGアンギオグラフィーで渦静脈膨大部への色素貯留を確認することで渦静脈瘤の診断を確定できる。なお、超音波検査でメラノーマは特有の音響減弱(internal echoes)を示すが、渦静脈瘤は圧迫で変形・消失する。

渦静脈瘤自体に対する特異的な治療は通常不要である。主な管理は定期的な経過観察となる。

  • 経過観察:基本的な管理方針。形態変化・合併症の有無を定期的に評価する。
  • 基礎疾患の治療:強膜炎や高度近視などの背景疾患がある場合はそれらを適切に治療する。
  • 網膜色素上皮変化への対応:網膜色素上皮の変化を伴い視覚症状がある場合は、その原因に応じた治療を検討する。

一般的に合併症は少なく、自然消失(spontaneous resolution)も報告されている。

  • 脈絡膜上腔出血:高度近視患者での報告がある。重篤な合併症であり、早急な対処が必要。
  • 網膜色素上皮変化:経過観察しつつ、視覚への影響が生じた場合に対処を検討する。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

Section titled “6. 病態生理学・詳細な発症機序”

脈絡膜の静脈血は、眼底の4つの四半部(上鼻側、下鼻側、上耳側、下耳側)それぞれの渦静脈に集められ、強膜を通過して眼外に排出される。Hayrehは脈絡膜静脈系が4つの独立した領域に分画されており、健常眼では別々の渦静脈系間に吻合はないことを最初に示した1)。しかし後の研究では、健常人の半数以上で耳側上方または耳側下方への選好的な排出が観察されている1)。健常眼での渦静脈膨大部の数は最大8個に及ぶ場合もある1)

眼底画像で観察される渦静脈膨大部の数は、組織学的研究で確認される強膜通過前の渦静脈数より多いことがある。これは一部の膨大部が強膜内で合流してから眼外に出る可能性を示唆する1)

渦静脈うっ血と血管リモデリング

Section titled “渦静脈うっ血と血管リモデリング”

渦静脈の流出障害は脈絡膜うっ血(choroidal congestion)を引き起こし、以下の一連の変化をもたらす。

サル眼を用いた渦静脈結紮実験では、渦静脈結紮が浸出性網膜剥離を伴わない脈絡膜血管リモデリングを引き起こすことが示されている1)。この実験モデルでは、渦静脈拡張、脈絡膜毛細血管板の充填遅延、渦静脈間吻合形成、脈絡膜肥厚、拍動性の渦静脈血流などのパキコロイド疾患に特徴的な所見が観察される1)

渦静脈うっ血が持続すると、隣接する四半部の渦静脈系への圧力解放のために吻合形成が起こりうる1)。うっ血が全四半部に飽和した場合、全般的な静脈うっ滞と慢性的な血管透過性亢進が持続し、脈絡膜毛細血管板の虚血→網膜色素上皮障害→外層網膜萎縮という悪循環が成立しうる1)

近年、渦静脈うっ血とパキコロイド疾患スペクトルの病態生理的関連が注目されている。

Cheungらの総説(Eye 2025)は、渦静脈膨大部のうっ血がパキコロイド疾患スペクトル(中心性漿液性脈絡網膜症、ポリープ状脈絡膜血管症、パキコロイド血管新生症など)の発症に寄与する可能性があることを論じている1)

Pang CEら1)は超広角ICGAを用いてCSC眼における渦静脈膨大部のうっ血を示し、流出うっ血がパキコロイド疾患スペクトルの発症機序に関与する可能性を提唱した。また、UWF画像は後極部から膨大部まで渦静脈系の解剖を評価することを可能にし、パキベッセルが四半部を超えて周辺部で連絡していることが示された。

パキコロイド疾患眼では、渦静脈吻合や脈絡膜排出分布の非対称性、局所的な狭窄・拡張が正常眼の90%以上で観察されたと報告されている1)

Sen らの報告によれば、パキコロイド疾患の特徴である「パキベッセル(拡張した脈絡膜外層血管)」は渦静脈系の静脈リモデリングによって形成される可能性があり、CSC、PCV、PNVなどの眼でCSCの90%、PNVの95%、PCVの98%に渦静脈間吻合が観察されている2)。この吻合チャネルは、脈絡膜うっ血を軽減するための新たな排出路として機能する可能性がある2)

渦静脈うっ滞によりハラー層が拡張し、内層の毛細血管板とサトラー層が菲薄化する。脈絡膜毛細血管板の菲薄化は虚血を招き、PNVやPCVで見られる血管新生複合体の形成につながりうる2)

Q 渦静脈瘤はパキコロイド疾患と関係があるか?
A

渦静脈系のうっ血と拡張がパキコロイド疾患スペクトルの病態生理に関与することが近年明らかになっている。渦静脈瘤そのものがパキコロイド疾患を直接引き起こすわけではないが、渦静脈系の流出障害が脈絡膜うっ血・血管リモデリングを介してCSCやPCVなどの発症素因になりうると考えられている。

7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)

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超広角画像技術による渦静脈系の評価

Section titled “超広角画像技術による渦静脈系の評価”

超広角(UWF)ICGAは、後極部から渦静脈膨大部まで渦静脈系全体の解剖を評価するための重要なツールとして近年普及しつつある1)

Cheungら(Eye 2025)1)の総説では、UWF ICGA画像によって渦静脈の拡張・うっ血・吻合パターンを包括的に評価できることが示された。同研究では、耳側下方四半部に拡張・うっ血した渦静脈の例や、4四半部すべてに広範な渦静脈拡張・うっ血を示す例が報告されている。

en face SS-OCT(スウェプトソース)やOCTアンギオグラフィーOCTA)も渦静脈系評価への応用が模索されているが、低流速のため OCTA での可視化が困難な場合がある1)

渦静脈解剖の個人差と疾患感受性

Section titled “渦静脈解剖の個人差と疾患感受性”

健常眼での渦静脈配置の個人差(1つの四半部での低形成性渦静脈排出など)が、特定の個人における脈絡膜うっ血の発症しやすさに関与する可能性が研究されている1)

脈絡膜排出の非対称性や局所的な狭窄・拡張がパキコロイド疾患眼の90%超で観察されたことから、渦静脈解剖の評価が将来的に疾患リスク評価に有用となる可能性がある1)

渦静脈瘤の形成機序・自然経過・パキコロイド疾患との関係については依然不明な点が多く、以下の課題が残されている。

  • 渦静脈の解剖学的タイプと静脈瘤形成の関係
  • 3次元眼球モデルを用いた渦静脈系解析の精緻化
  • 流出障害の定量的評価法の開発
  • 渦静脈うっ血と各種脈絡膜疾患の因果関係の確立

  1. Cheung CMG, Teo KYC, Spaide RF, et al. Pachychoroid disease: evolution in understanding of pathogenesis and implications for management. Eye. 2025;39:819-834.

  2. Sen S, Bhavesh MT, Dhar S, Gupta R. Polypoidal choroidal vasculopathy: a review. Clin Ophthalmol. 2023;17:53-75.

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