先天性嚢胞
色調:非色素性で真珠灰色〜黄灰色の半透明な嚢胞。
表面:滑らかで可動性あり。無茎性または有茎性。
位置:視神経乳頭前方、Cloquet管(クロケ管)の領域に多い。
伴随所見:ミッテンドルフ点やベルグマイスター乳頭を伴うことがある。

硝子体嚢胞(vitreous cysts)は、硝子体腔内に浮遊または固定した嚢胞性病変を形成する稀な疾患である。1899年にTansleyによって「表面に色素の線が見られる不規則な球状の嚢胞」として初めて報告された。眼科的に「ocular curiosity(眼の珍奇物)」とみなされるほど稀な疾患であり、正常眼への偶発的所見として発見されることもあれば、他の眼疾患に関連して生じることもある。
発症年齢は5〜68歳と幅広く、患者の多くは10〜20歳代の若年者であるが、10歳未満や40歳以上での報告もある。2)大多数は片側性で、通常は無症状のため、斜視や弱視の精査など他の目的での検査中に偶発的に発見されることが多い。1)
ICD-10コードはH43.89(その他の硝子体疾患)に分類される。
硝子体嚢胞は眼科的に「ocular curiosity」と呼ばれるほど稀な疾患である。正確な有病率は不明だが、症例報告が主体であり、大規模な疫学データは存在しない。多くは偶発的に発見される。
硝子体嚢胞は通常無症状であり、視力に影響を与えないことが多い。嚢胞が視軸内に侵入して光路を遮る場合、以下の症状を自覚することがある。
先天性嚢胞
色調:非色素性で真珠灰色〜黄灰色の半透明な嚢胞。
表面:滑らかで可動性あり。無茎性または有茎性。
位置:視神経乳頭前方、Cloquet管(クロケ管)の領域に多い。
伴随所見:ミッテンドルフ点やベルグマイスター乳頭を伴うことがある。
後天性嚢胞
色調:色素性(茶色)または非色素性。
起源:虹彩または毛様体の色素上皮に由来する色素性嚢胞が多い。
可動性:眼球運動に伴って動く自由浮遊型が典型的。
大きさ:0.15〜12 mmと幅広い。1)
形態学的な特徴として、嚢胞は球状・卵円形・分葉状をとり、表面は滑らかまたは鋸歯状(crenated)である。倒像眼底鏡での検査中、患者の眼球運動に伴って嚢胞が動くのが観察される。
OCT検査では、薄い高反射の嚢胞壁と、内部を複数の区画(multi-lobular structure)に分ける高反射隔壁が確認されることがある。1)Bモード超音波検査では、嚢胞壁のエコー輝度が水晶体後嚢と同等であることが報告されている。1)
通常は片側性であるが、特に網膜色素変性症に合併する場合は両眼性の症例も報告されている。片眼での多発例も存在する。
硝子体嚢胞は先天性と後天性に大別される。
胎生期の硝子体血管系(hyaloid vascular system)の遺残物に由来する。硝子体動脈は胎生6か月頃に機能を失い出生前に退縮消失するが、その退縮が不完全な場合に嚢胞が形成されると考えられている。Cloquet管や視神経乳頭周囲に位置することが多く、ミッテンドルフ点(Mittendorf’s dot)やベルグマイスター乳頭(Bergmeister’s papillae)を伴って発見されることがある。
通常は安定しており、進行せず、視力に影響を与えることは稀である。
以下の疾患や状態に続発して発生する。
硝子体嚢胞の診断は、細隙灯顕微鏡検査または眼底検査時の臨床診察で初めて発見されることが多い。他の感染性疾患・悪性疾患との鑑別のために系統的な検査が必要である。
以下の既往歴を必ず確認する。
主要な画像検査の特徴を示す。
| 検査 | 目的・所見 |
|---|---|
| Bモード超音波 | 嚢胞壁の高エコー、内部無エコー確認。頭節(scolex)の有無 |
| OCT | 嚢胞壁・内部構造の詳細把握1) |
| 超音波生体顕微鏡 | 毛様体・虹彩後面の異常除外 |
寄生虫感染や悪性腫瘍を除外するために以下を実施する。
一次性硝子体嚢胞の確定診断は、外傷・手術・感染・炎症の除外と、硝子体腔内の半透明または色素性嚢胞構造の同定により行われる。1)
色素性嚢胞は悪性黒色腫と外観が類似するため鑑別が重要である。Bモード超音波で内部の音響空洞性(acoustically hollow)を確認し、眼窩・頭部MRIや腹部超音波で転移の有無を調べる。さらに嚢虫症・エキノコックスなどの寄生虫の血清学的検査を実施して感染症を除外する。
嚢胞の特性や患者の視力に変化がないかを確認するため、定期的な経過観察とフォローアップが基本となる。無症状で視軸外に位置する嚢胞には、治療的介入は不要である。1)
症状が有意な場合、以下の治療選択肢がある。
薬物治療に抵抗する重篤な視力障害症例では、硝子体切除術による嚢胞摘出が必要となる場合がある。若年の有水晶体眼では白内障発症のリスクを伴う。
色素性嚢胞で重篤な障害がある場合には、レーザー照射により色素濃縮が生じる可能性があるため、レーザーと硝子体切除術の組み合わせが推奨されることがある。1)
硝子体嚢胞の発症機序については複数の仮説が提唱されており、単一の機序では説明できない。
胎生期の硝子体動脈(硝子体血管系)は胎生6か月頃に機能を失い出生前に退縮消失するが、その退縮が不完全なために生じる遺残物が嚢胞形成に関与すると考えられている。Cloquet管は退縮した第一次硝子体が硝子体腔中央に圧縮されて形成される管状構造であり、先天性嚢胞が生じやすい部位である。先天性嚢胞は第一次硝子体系の迷離腫(choristoma:正常組織が異常部位に存在するもの)と病理学的に定義される。
発症に関する3つの主要仮説を以下に示す。
非色素性嚢胞はグリア細胞(神経膠細胞)由来の可能性を示す免疫組織化学染色所見(GFAP・S100・シヌクレイン陽性、メラノサイトマーカー・上皮マーカー・マクロファージマーカー陰性)が報告されている。
色素性嚢胞は虹彩由来、非色素性嚢胞は硝子体動脈遺残由来とする見解もある。1)
OCT検査で確認された高反射隔壁による内部多区画構造は、残存上皮細胞によって形成されたと推測されており、Bモード超音波で示された嚢胞壁エコーが水晶体後嚢と同等であることは、水晶体上皮細胞との関連を示唆する。1)
外傷は毛様体の色素上皮に損傷を与え、色素性嚢胞を引き起こす可能性がある。その他、基礎にある網膜変性に対する硝子体反応、毛様体腺腫の硝子体内への破綻、コロボーマ部位の嚢胞性増殖の硝子体内への進入などの病態も示唆されている。
網膜色素変性症では健常者に比べて硝子体嚢胞・星状硝子体症の頻度が高いことが知られている。
Luら(2024)は37歳男性の原発性色素性硝子体嚢胞に対し、OCT・走査型レーザー眼底鏡(SLO)・眼底カラー写真・マルチカラーイメージング・赤外線反射(IR)画像を組み合わせたマルチモーダル画像評価を実施した。
OCT検査では嚢胞の内部に高反射隔壁が多数存在し、内腔が多区画(multi-lobular)構造を呈することが確認された。これは嚢胞内部構造をOCTで詳細に捉えた2例目の報告である。また赤外線反射画像ではメラノソームによる高反射域が確認され、色素上皮由来の可能性を支持する知見が得られた。Bモード超音波では嚢胞壁のエコー輝度が水晶体後嚢と同等であることが判明し、水晶体上皮細胞との関連が示唆された。1)
本症例は6ヶ月のフォローアップで視力良好を維持し、治療介入なしで経過観察が継続されている。マルチモーダル画像の組み合わせが希少疾患の病態理解に貢献することが期待される。1)
Al Qattanら(2024)は、ファロー四徴症と高度近視(-14D)を合併した2歳6ヶ月女児の左眼前部硝子体に3 mmの色素性分葉状嚢胞を報告した。
後部ぶどう腫を伴う高度近視眼で、嚢胞は前部硝子体に浮遊し、2ヶ月間の経過観察で増大なく安定していた。高度近視・後部ぶどう腫と硝子体嚢胞の関連性が示唆されたが、病態生理は未解明である。また、ファロー四徴症・二列歯・低鼻根部・胸骨突出など複合的な全身異常を伴っており、Carpenter症候群など既知の症候群との鑑別が必要であった。このような全身症状の合併は従来報告がなく、遺伝子検査の実施が推奨された。2)
硝子体嚢胞と全身疾患の関連性については、さらなる症例集積と研究が必要である。