別名・名称
英語名:Torpedo Maculopathy
別名:Solitary Hypopigmented Nevus、先天性網膜色素上皮欠損症(一部の文献での呼称)
初報告:1992年(Roseman & Gass)

魚雷型黄斑症(Torpedo Maculopathy)は、黄斑の耳側(側頭側)に位置する先天性の低色素性病変である。病変の形態が魚雷(torpedo)に似ており、細い先端が中心窩の方向を向くことからこの名称がつけられた。
1992年にRosemanとGassが初めて報告した比較的まれな疾患である。有病率は16歳未満の集団において10万人あたり約2人と推定されている。片眼性が典型的で、多くは単発病変として認められる。
RPEの先天異常が主たる病因と考えられているが、発症機序の詳細はいまだ解明されていない(「病態生理学」の項を参照)。
別名・名称
英語名:Torpedo Maculopathy
別名:Solitary Hypopigmented Nevus、先天性網膜色素上皮欠損症(一部の文献での呼称)
初報告:1992年(Roseman & Gass)
疫学
有病率:10万人あたり約2人(16歳未満)
性差・左右差:明確な偏りなし
発症形式:片眼性・単発が典型
病変の特徴
形状:魚雷型(先端が中心窩を向く)
色調:低色素性(脱色素・灰白色調)
位置:黄斑水平縫線より耳側かつ中心窩周囲
境界:明瞭
ほぼ全例が無症状であるため、健診や他疾患の精査・手術前検査など、眼底検査を行った際に偶発的に発見される。自覚症状から受診して診断されることはまれである。
魚雷型黄斑症はほぼ全例が無症状である。視力低下・変視症・暗点などの自覚症状は通常みられない。病変が中心窩外に位置することがほとんどであるため、中心視力への影響はきわめて小さい。
症状が現れる場合は、脈絡膜新生血管合併など二次的変化を生じた際に限られる。
眼底所見の要点は以下の通りである。
病変の長径は概ね1〜5乳頭径程度と報告されており、個人差がある。長期的に病変サイズが大きく変化することは少なく、多くは10年以上安定した経過をたどる。
魚雷型黄斑症の病因は確定されていない。現在、4つの主な仮説が提唱されている。
環境的リスク因子・遺伝的素因はいずれも明確には同定されていない。家族内発症の報告はごくまれである。
魚雷型黄斑症の診断は、特徴的な眼底所見の確認と補助検査の組み合わせによる。眼底検査で典型的な低色素性魚雷型病変を認めた場合、OCTにより病変の内部構造を評価してタイプ分類を行う。
OCT所見に基づくWong分類(4タイプ)が広く用いられている。
以下にWong分類の概要を示す。
| タイプ | OCT所見の特徴 | 備考 |
|---|---|---|
| Type 1 | RPE・外層網膜の欠損のみ | 最多、単純型 |
| Type 2 | 病変下に空洞(キャビティ)形成 | 空洞型 |
| Type 3 | 病変内に網膜下病変を伴う | 脈絡膜新生血管合併の疑い |
| Type 4 | 複合所見(空洞+網膜下病変) | 最複雑型 |
以下の疾患との鑑別が重要である。
| 鑑別疾患 | 鑑別ポイント |
|---|---|
| 脈絡膜母斑 | 色素沈着あり・形状不定 |
| 網脈絡膜萎縮 | 経過で進行・両眼性あり |
| 卵黄状黄斑変性 | 黄色卵黄状病変・両眼性多い |
確定診断と病型分類にOCTは欠かせない。特に脈絡膜新生血管合併の有無(Type 3・4)を判定するためには、OCTおよびOCTAによる評価が必須である。眼底所見のみでは病型分類は不可能である。
治療の基本は経過観察である。大多数の症例は無症状・安定経過をたどるため、積極的な治療介入は不要である。報告では10年以上にわたって病変が安定している例が多い。
定期的な眼底検査・OCT・OCTAによるモニタリングを行い、以下の変化の有無を確認する。
タイプ3・4で脈絡膜新生血管合併が確認された場合、抗VEGF薬の硝子体内注射が選択される。治療適応と方針は通常の滲出型加齢黄斑変性に準じる。
自然消退は報告されていない。しかし多くは生涯にわたって安定した状態を保つ。脈絡膜新生血管などの合併症を生じない限り、視力に大きな影響を及ぼさないことが多い。
現時点で最も支持されている発症機序は、**胎生期の側頭側隆起(temporal bulge)**に関連する説である。
胎生期の眼球発達において、黄斑耳側には「側頭側隆起」と呼ばれる一過性の形態学的膨隆が生じることが知られている。この隆起が形成される部位は、成人後の魚雷型黄斑症病変の好発位置と解剖学的に一致している。
この説によれば、胎生期に側頭側隆起が生じた際、局所のRPEが正常な分化・成熟過程から外れることで色素形成が不全となり、永続的な低色素病変として残存すると考えられる。
魚雷型病変の先端が中心窩を指向するのは、病変が黄斑水平縫線上に位置し、その軸が中心窩と耳側周辺を結ぶ線に一致するためである。この独特の方向性は、胎生期の血管発達や神経線維の走行との関連が指摘されている。
神経線維層発達不全説
概要:黄斑耳側の神経線維層が局所的に発達しないことで、RPEが二次的に影響を受けるとする説。
根拠:病変部の外層網膜菲薄化との関連。
脈絡膜循環異常説
概要:胎生期の脈絡膜血流が局所的に低下し、RPEの分化・色素形成に障害をきたすとする説。
根拠:病変下の脈絡膜菲薄化所見。
側頭側隆起説(最有力)
概要:胎生期に形成される側頭側隆起の部位でRPE分化が障害されるとする説。
根拠:病変の好発位置と側頭側隆起の解剖学的一致。
子宮内脈絡網膜炎説
概要:胎生期の感染(ウイルス・原虫など)による局所炎症がRPEの発達を阻害するとする説。
根拠:炎症後瘢痕との組織学的類似性。
近年、Wong分類の普及によりOCTを用いた病型分類が標準化されつつある。病型分類は脈絡膜新生血管合併リスクの層別化に寄与し、フォローアップ頻度の決定に役立てられている。Type 2の空洞(キャビティ)の形成機序については、外層網膜の局所的変性・液体貯留・RPE欠損の複合的関与が示唆されているが、詳細は未解明である。
OCTAの導入により、脈絡膜新生血管の存在を無侵襲かつ高感度で検出できるようになった。魚雷型黄斑症においてもOCTAによる定期的モニタリングが有用とされ、従来の蛍光造影に代わる評価手段として注目されている。
マルチカラーイメージング(多波長走査レーザー眼底撮影)は、病変の色素変化と輪郭をより詳細に描出できる。今後の大規模コホート研究により、各病型の自然経過・脈絡膜新生血管合併率・長期予後のデータ蓄積が期待される。
脈絡膜新生血管などの合併症を生じない多くの例では、生涯にわたって視力が保たれる。ただし、Type 3・4など脈絡膜新生血管リスクが高い病型では定期的なOCT・OCTAモニタリングを継続し、早期に治療介入することが視力維持の鍵となる。