1型(COL2A1)
原因遺伝子:COL2A1(2型コラーゲン)
遺伝形式:常染色体優性
特徴:最多型(全体の80〜90%)。膜様硝子体表現型。網膜剥離リスクが最も高い。

スティックラー症候群(Stickler syndrome)は、1965年にGunnar Sticklerによって初めて報告された遺伝性結合組織疾患である1)。コラーゲン遺伝子の変異により、眼・関節・顔面・聴覚に多臓器にわたる異常を引き起こす。
原因遺伝子として最も頻度が高いのはCOL2A1であり、全症例の80〜90%を占める3)。有病率は7500〜9000人に1人と推定され、比較的まれな疾患ながら、若年発症の網膜剥離の主要原因として臨床的に重要である。
1型(COL2A1)
原因遺伝子:COL2A1(2型コラーゲン)
遺伝形式:常染色体優性
特徴:最多型(全体の80〜90%)。膜様硝子体表現型。網膜剥離リスクが最も高い。
2型(COL11A1)
原因遺伝子:COL11A1(11型コラーゲンα1鎖)
遺伝形式:常染色体優性
特徴:Marshall-Stickler症候群とも呼ばれる。自然水晶体吸収が報告される。
3型(COL11A2)
原因遺伝子:COL11A2(11型コラーゲンα2鎖)
遺伝形式:常染色体優性
特徴:眼症状を欠く非眼型。難聴・関節症状が主体。
眼限局型・劣性型
原因遺伝子:COL2A1(特定変異)、COL9A1-3
遺伝形式:COL9A1-3は常染色体劣性3)
特徴:眼症状のみで全身症状を欠く型、または劣性遺伝型。
多くは常染色体優性遺伝であり、親から子へ50%の確率で遺伝する。COL9A1-3による劣性型も存在する3)。家族内に網膜剥離や高度近視の既往がある場合は遺伝子検査を考慮する。
眼科的な主要所見と頻度を以下に示す。
| 所見 | 頻度 |
|---|---|
| 高度近視(-6D以上) | 89%3) |
| 網膜剥離 | 50%3)(COL2A1では60〜70%2)) |
| 白内障 | 33%3) |
| 緑内障 | 10.2〜11%3) |
硝子体の構造異常(PPVP欠如・膜様変性)と網膜格子状変性の多発が、網膜裂孔形成と牽引性網膜剥離のリスクを著しく高める1)。詳細な機序は「病態生理学」の項を参照。
スティックラー症候群の原因は、II型・XI型コラーゲンをコードする遺伝子の変異である。
各遺伝子と遺伝形式の概要を示す。
| 遺伝子 | コラーゲン型 | 遺伝形式 |
|---|---|---|
| COL2A1 | II型 | 常染色体優性 |
| COL11A1 | XI型α1鎖 | 常染色体優性 |
| COL11A2 | XI型α2鎖 | 常染色体優性 |
| COL9A1-3 | IX型 | 常染色体劣性3) |
診断にはRoseスコアリングシステムが用いられる1)。眼・口腔顔面・聴覚・関節・骨格の各ドメインにスコアを付与し、総合点で診断する。硝子体表現型(膜様・繊維状・異常なし)の分類により、変異遺伝子をある程度推定できる。
COL2A1・COL11A1・COL11A2・COL9A1-3の変異解析。確定診断および遺伝カウンセリングに用いる。硝子体表現型が膜様型であればCOL2A1またはCOL11A1変異を疑う。
スティックラー症候群における最重要の予防的介入である。未治療例では生涯網膜剥離発症率が53.6%であるのに対し、予防的360度バリアレーザー施行例では8.3%と有意に低下する6)。
| 治療 | 網膜剥離発症率 |
|---|---|
| 未治療 | 53.6%6) |
| 予防的360度レーザー | 8.3%6) |
AAO(米国眼科学会)の後部硝子体剥離診療ガイドライン(2024年)では、スティックラー症候群患者への予防的360度レーザー光凝固を推奨している6)。
予防的治療
360度バリアレーザー:格子状変性・裂孔を囲む全周性光凝固。
対象:スティックラー症候群と診断されたすべての患者(症状の有無を問わない)。
効果:網膜剥離発症率を約1/6に低減6)。
網膜剥離手術
緑内障管理
頻度:10.2%に合併3)。
治療:点眼薬による眼圧コントロール。
手術:隅角手術(線維柱帯切開術など)が選択される3)。
白内障は33%に合併する3)。COL11A1変異による Marshall-Stickler症候群では、自然水晶体吸収が報告されており、手術計画に注意を要する5)。
明確な推奨年齢のコンセンサスはないが、診断が確定した段階で予防的レーザーを検討する。小児例でも施行可能であり、発症リスクが高い(COL2A1変異など)場合は早期介入が考慮される6)。
スティックラー症候群の眼症状は、コラーゲンの構造異常に起因する複数の機序で生じる。
正常眼では硝子体前皮質内にPPVP(posterior precortical vitreous pocket)と呼ばれる液化腔が形成される。スティックラー症候群ではII型・XI型コラーゲン異常によりこの構造が欠如し、硝子体は膜様または繊維状の均一な外観を呈する1)。PPVP欠如は網膜との硝子体接着を異常化させ、格子状変性や裂孔形成を促進する。
Nagashima(2024)は、スティックラー症候群における術中硝子体所見を解析し、PPVP欠如例では硝子体手術(PPV)の解剖学的復位率(84.2%)が強膜バックリング(66.7%)を上回ることを報告した1)。この差はPPVP欠如による硝子体構造変異が術式選択に直接影響することを示す。
COL2A1変異はBruch膜に含まれるV型コラーゲンに影響を及ぼす2)。Bruch膜の構造脆弱化は網膜色素上皮(RPE)との接着不全を招き、黄斑脈絡網膜萎縮の原因となる。OCTAを用いた研究では、萎縮病変部での脈絡膜毛細血管層の消失が確認されている2)。
XI型コラーゲン(COL11A1産物)はII型コラーゲン線維の径を調節する機能を持つ5)。COL11A1変異はコラーゲン線維径の異常増大をもたらし、水晶体や硝子体の構造異常の一因となる。Marshall-Stickler症候群(COL11A1変異)で観察される自然水晶体吸収は、この線維径調節機能の障害を反映している5)
Shah(2025)は、COL2A1変異スティックラー症候群例においてOCT/OCTAを用いた黄斑評価を行い、脈絡膜毛細血管層の消失を伴う黄斑脈絡網膜萎縮を詳細に記述した2)。Bruch膜V型コラーゲン障害が萎縮機序として示唆されており、今後の治療標的となる可能性がある。
Nagashima(2024)の報告では、スティックラー症候群における網膜剥離手術の術式選択においてPPVP欠如の有無が重要な指標となることが示された1)。PPVPの術前評価をSS-OCTで行うプロトコールの確立が今後の課題である1)。
Gocuk(2026)は、スティックラー症候群の小児コホートにおいて緑内障合併率が10.2%に達することを報告し、早期スクリーニングの重要性を強調した3)。緑内障の病型・進行速度・最適治療介入時期については、さらなる長期研究が必要である。
COL2A1など原因遺伝子が特定された単一遺伝子疾患であり、理論上は遺伝子治療の候補となりうる。ただし現時点では標準治療としての遺伝子治療は存在せず、研究段階にある。現状では予防的レーザーによる眼合併症管理が最も有効な戦略である6)。
必要である。口蓋裂には口腔外科・形成外科、難聴には耳鼻咽喉科、関節・骨格変形には整形外科、全身管理には小児科・内科との連携が求められる。多職種チームでの管理が標準的なアプローチである。