特発性
最多分類(約79%):明らかな全身疾患を伴わない石灰化。加齢との関連が示唆されるが、詳細な機序は不明。
両眼性が多い:特発性例でも両眼性を呈することがある。

強膜脈絡膜石灰化(sclerochoroidal calcification; SCC)は、強膜と脈絡膜の接合部に生じる稀な石灰化病変である。通常は良性経過をたどり、多くの症例で特別な治療を要しない2)。
SCCは約79%が特発性(原因不明)であり、約52%が両眼性を呈する2)。病変は眼底周辺部〜後極部の強膜・脈絡膜接合部に生じ、単発または多発性の黄白色隆起病変として観察される。
本疾患は眼科検診で偶然発見されることが多く、無症状のまま経過する例が大多数である。一方で、脈絡膜転移やメラノーマ、さらには眼内異物(IOFB)と誤認された症例報告もあり1)、正確な診断が求められる。
SCCは通常良性の石灰化病変であり、悪性腫瘍とは直接関係しない。ただし、脈絡膜転移やメラノーマとの鑑別が重要であり、EDI-OCTやCTなどのマルチモーダルイメージングで確認する必要がある。
SCCの多くは無症状であり、定期的な眼底検査で偶発的に発見される。
眼底所見としては、強膜・脈絡膜接合部の黄白色〜乳白色の平坦〜軽度隆起病変を認める。病変は通常、境界明瞭で上方〜耳側に好発する。
各種画像検査でそれぞれ特徴的な所見を呈する。各モダリティの所見を以下に示す。
| 検査モダリティ | 特徴的所見 |
|---|---|
| EDI-OCT | rocky-rolling パターン |
| Bスキャン超音波 | 高輝度エコーと音響陰影 |
| FA/ICGA | 充盈欠損・過蛍光 |
| CT | 眼球壁の高密度病変 |
| 眼底写真 | 黄白色隆起病変 |
**EDI-OCT(enhanced depth imaging OCT)**では、強膜面に沿う不規則な凹凸(rocky-rolling パターン)が特徴的である2)。石灰化部位は光学的陰影を伴う高反射域として描出される。
Bスキャン超音波では高輝度エコーを示し、後方音響陰影(acoustic shadowing)を伴う2)3)。この所見は石灰化病変に特異的であり診断に有用である。
**FA(蛍光眼底造影)・ICGA(インドシアニングリーン造影)**では、病変部に充盈欠損と周囲の過蛍光が認められる2)3)。
**CT(コンピュータ断層撮影)**では、眼球壁に高密度(石灰化に一致する)病変として描出される1)2)。この高密度所見により眼内異物(IOFB)と誤認された症例が報告されている1)。
rocky-rollingパターンとは、強膜面に沿って生じる不規則な波状の凹凸所見であり、石灰化による高反射と後方陰影を伴う。SCCに特徴的な所見であり、EDI-OCTによる診断の重要な根拠となる。
SCCの成因は大きく3つに分類される2)。
特発性
最多分類(約79%):明らかな全身疾患を伴わない石灰化。加齢との関連が示唆されるが、詳細な機序は不明。
両眼性が多い:特発性例でも両眼性を呈することがある。
変性性
加齢・変性変化:強膜・脈絡膜の変性による二次的石灰化。
CPPD(ピロリン酸カルシウム沈着症):関節軟骨石灰化(軟骨石灰化症)を伴う全身疾患として報告されている。
転移性
全身疾患由来:カルシウム・リン代謝異常を伴う全身疾患が背景にある場合。
主な関連疾患:副甲状腺機能亢進症、Gitelman症候群、低マグネシウム血症など。
SCCに関連する全身疾患と報告された頻度を以下に示す2)。
| 全身疾患 | 報告頻度 |
|---|---|
| 副甲状腺機能亢進症 | 約27% |
| Gitelman症候群 | 約11% |
| CPPD(軟骨石灰化症) | 報告あり |
| 低マグネシウム血症 | 報告あり |
| その他のCa/P代謝異常 | 報告あり |
副甲状腺機能亢進症は最も頻度の高い関連全身疾患であり、症例の約27%に認められる2)。Gitelman症候群(低カリウム血症・低マグネシウム血症・低尿酸血症を特徴とする尿細管疾患)は約11%に関連する2)。
CPPD(calcium pyrophosphate deposition disease; ピロリン酸カルシウム沈着症)との関連も報告されており2)3)、関節軟骨の石灰化を伴う例では本疾患の合併を念頭に置く必要がある。低マグネシウム血症もSCCの成因として挙げられている2)。
SCCの診断にはマルチモーダルイメージングの組み合わせが重要である。
血液・生化学検査として以下の項目が推奨される2)。
脈絡膜転移
頻度の高い鑑別疾患:原発腫瘍の有無を確認する。石灰化は乏しく、EDI-OCTでrocky-rollingパターンは見られない。
CT・超音波:転移巣では高密度の石灰化陰影は典型的でない。
脈絡膜メラノーマ
悪性腫瘍との鑑別:隆起度が大きく、色素を伴う場合が多い。超音波での内部エコーパターンが異なる。
蛍光造影:メラノーマでは特徴的なdouble circulation所見を示すことがある。
眼内異物(IOFB)
CT上の高密度病変:外傷歴が重要。SCCでは外傷歴がなく、両眼性を示すことが多い。
形状・分布:SCCは強膜・脈絡膜接合部の弧状分布が特徴的。IOFBは局在性1)。
CTで眼球壁に高密度病変として描出されるため、外傷の既往がない患者でもSCCがIBFBと誤認された症例が報告されている。外傷歴の詳細な聴取とEDI-OCT所見(rocky-rollingパターン)の確認が鑑別に重要である。
SCCのほとんどは良性経過をたどるため、経過観察が基本方針である2)3)。
無症状で視力に影響がない場合は、定期的な眼底検査・OCT検査による経過観察を行う2)3)。観察間隔は病変の大きさ・位置・全身疾患の有無によって個別に設定する。
脈絡膜新生血管(CNV)を合併した症例では、抗VEGF療法(硝子体内注射)が有効である可能性がある2)。抗VEGF薬の種類や投与回数は合併するCNVの活動性・範囲に応じて判断する。
副甲状腺機能亢進症やGitelman症候群などの全身疾患が同定された場合は、内科的治療による原疾患の管理が重要である。カルシウム・マグネシウム代謝の是正が眼病変の安定化に寄与する可能性がある。
SCCにおける石灰化の主体はピロリン酸カルシウム(calcium pyrophosphate; CPP)の沈着である2)。CPPが強膜・脈絡膜の接合部(脈絡膜の最外層)に異所性沈着することで、特徴的な病変が形成される。
ピロリン酸代謝の異常や局所組織の変性が石灰化促進因子として働くと考えられている。Gitelman症候群や副甲状腺機能亢進症では全身的なCa/P代謝の破綻が、眼局所での異所性石灰化を誘発する2)。
**自家蛍光(FAF)**では石灰化部位の高自家蛍光が観察される2)。この所見はリポフスチンの蓄積や石灰化物質自体の自家蛍光特性を反映すると推察されている。RPE(網膜色素上皮)への続発的な障害も自家蛍光パターンに影響を与える可能性がある。
石灰化病変は時間経過とともに拡大・硬化することがあり、これがRPEや脈絡膜毛細管板の循環障害をもたらし、CNVの誘因となる可能性がある。
EDI-OCTの普及により、SCCの非侵襲的かつ精緻な形態評価が可能となっている。これまでBスキャン超音波やCTに依存していた診断が、より詳細な層構造レベルの評価に移行しつつある1)2)。
Mani・Johnson(2023)は、CTでIOFBと誤診されたSCC症例を報告した1)。眼球壁の高密度病変を呈した本例は外傷歴がなく、EDI-OCTでrocky-rollingパターンが確認されSCCと確定診断された。本報告はCTのみに依存した診断の限界を示し、EDI-OCTとの組み合わせの重要性を強調した。
Thomson ら(2021)は両眼性の広範な特発性SCCについてレビューを含む報告を行い2)、EDI-OCTが病変の精密評価において中心的役割を担うことを示した。Bスキャン・FA・ICGA・CTを組み合わせたマルチモーダルアプローチが診断確実性を高めるとしている。
Nabih ら(2022)は、CPPD(軟骨石灰化症)を合併したSCC症例を報告した3)。本例ではプラーク状に拡大する石灰化が眼底腫瘤様(偽腫瘍型)の外観を呈し、臨床的に腫瘍との鑑別が問題となった。SCCがプラーク様に進展し偽腫瘍型外観を呈しうることが示され、腫瘍性病変との鑑別における画像診断の重要性が再確認された。
こうした知見を踏まえ、SCCの長期自然経過・病型分類・進展予測因子に関する多施設研究が今後の課題とされている。
多くの例は良性経過で視力への影響も軽微であり、経過観察が基本となる。ただし、一部ではプラーク状に拡大したり偽腫瘍型の外観を呈したりする例も報告されている。CNVの合併や視機能への影響が生じた場合は積極的な治療介入が必要になるため、定期的な眼科受診が重要である。