この疾患の要点
網膜血管炎は網膜 血管の炎症を特徴とする病態であり、多彩な全身疾患に合併する。
ぶどう膜炎 患者の約15%に合併し、40歳未満の若年層に多い。
静脈・動脈の両方が侵されうるが、静脈炎がより多い。
最大1/3の患者が重度の視力 障害(20/200未満)に至る可能性がある。
感染性・非感染性の鑑別が治療方針決定において最も重要である。
非感染性には全身ステロイド 投与が基本で、抵抗例には免疫抑制薬・生物学的製剤 を段階的に追加する。
早期診断と適切な全身疾患管理が視力予後の改善につながる。
網膜血管炎(Retinal Vasculitis)は、網膜血管壁への炎症細胞浸潤を特徴とする病態である。単独に生じる場合と、全身性疾患の眼合併症として発症する場合がある。
年間発症率は10,000人あたり約1〜2人とされる。ぶどう膜炎患者の約15%に合併し、40歳未満に多く、女性にやや多い傾向がある。診断時の平均年齢は約34歳と報告されている。通常は両眼性で経過し、重篤例では最大1/3が重度視力障害(矯正視力20/200未満)に至る。
血管の侵犯部位によって呼称が変わる。静脈壁の炎症を「静脈炎」、動脈壁の炎症を「細動脈炎」と称する。全身性血管炎とは異なり、血管壊死を伴わない点が特徴的である。
病期は大きく4段階に分けて考えられる。
①炎症期 :血管周囲炎症細胞浸潤が主体
②虚血期 :血管閉塞・無灌流領域 の出現
③新生血管 期 :虚血に伴う網膜新生血管形成
④合併症期 :硝子体出血 ・牽引性網膜剥離
多発血管炎性肉芽腫症 の約50%に眼症状が出現し、約15%で眼が初発部位となる。閉塞性網膜血管炎は多発血管炎性肉芽腫症患者の5%未満に認められる6) 。SLE 患者の約10%にlupus retinopathyが生じ、lupus disease of retina/optic nerveを有するSLE患者の約77%で抗リン脂質抗体(APL)が上昇する1) 。
発症年齢
好発年齢 :40歳未満に多い。診断時平均約34歳。
性差 :女性にやや多い傾向がある。
両眼性
通常は両眼性 :片眼発症でも経過中に対眼に波及することがある。
視力予後 :最大1/3が重度視力障害(20/200未満)に至る可能性がある。
合併頻度
ぶどう膜炎合併率 :ぶどう膜炎患者の約15%に合併。
SLE合併率 :SLE患者の約10%にlupus retinopathyが生じる1) 。
Q 網膜血管炎はどのくらい珍しい疾患か?
A 年間発症率は10,000人あたり約1〜2人であり、比較的まれな疾患である。ただしぶどう膜炎患者の約15%に合併するため、ぶどう膜炎専門外来では頻繁に遭遇する病態である。
軽症では無症状のまま経過することがある1) 。症状が出現する場合は以下が多い。
霧視 :最も多い自覚症状。炎症や硝子体混濁 による。
飛蚊症 :硝子体 への炎症波及や硝子体出血による。
視力低下 :黄斑浮腫 (CME )・硝子体出血・虚血が原因となる。
血管周囲の白鞘化(鞘状変化)は網膜血管炎の古典的所見である。以下の所見が組み合わさって認められる。
主な所見を疾患別に整理する。
所見 特徴 代表疾患 白鞘化・血管周囲滲出 古典的所見 多くの原因疾患 Cotton-wool spots 神経線維層梗塞 SLE・多発血管炎性肉芽腫症 大血管・小血管の分節状漏出 蛍光造影で確認 クリオグロブリン2) 動静脈瘻・global ischemia 重症虚血の証拠 多発血管炎性肉芽腫症6)
SLE :両眼のcotton-wool spots、dot/blot出血、嚢胞様黄斑浮腫が特徴的1) 。SLE網膜症の72%の眼に新生血管を認める1) 。
クリオグロブリン血症 :大血管・小血管に分節状の蛍光漏出を認める2) 。
多発血管炎性肉芽腫症 :前房 炎症(2+cells)、動静脈瘻、広範な網膜虚血(global ischemia)を呈する6) 。
仮性狂犬病ウイルス(PRV) :白鞘様の網膜血管変化と硝子体混濁を認める5) 。
CREST症候群 :cotton-wool spotsと、視神経乳頭 から伸展する白色膜状変化を呈する4) 。
黄斑浮腫(CME) :多くの原因疾患に合併し、視力低下の主因となる。
網膜血管炎の原因は非感染性・感染性・薬剤性に大別される。
自己免疫疾患が最多である。
SLE :免疫複合体沈着が主要な病態。抗リン脂質抗体症候群(APS)合併例では血栓リスクが上昇する1) 。
Behçet病 :閉塞性血管炎を起こしやすく、視力予後が不良。
サルコイドーシス :肉芽腫性ぶどう膜炎 に伴う静脈周囲炎が多い。
多発血管炎性肉芽腫症(多発血管炎性肉芽腫症) :ANCA関連好中球脱顆粒が病態の中心。c-ANCA(PR3-ANCA)陽性率は80〜95%6) 。
CREST症候群 :眼内手術が炎症カスケードの引き金となり得る4) 。
クリオグロブリン血症 :C型肝炎・リンパ増殖性疾患に関連する2) 。
多発性硬化症 (MS) :中間部ぶどう膜炎 に伴うことが多い。
Eales病 :若年男性の特発性閉塞性血管炎。
感染性では原因病原体に対する治療が優先される。
結核・梅毒 :全身感染症の眼合併症として出現。
トキソプラズマ・ヘルペスウイルス :免疫抑制患者でリスクが高い。
仮性狂犬病ウイルス(PRV) :豚に接触する職業(養豚業者)に職業感染リスクがある5) 。
免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) :がん免疫療法の普及に伴い増加している。
特発性 :全ての検索を行っても原因が特定できない症例も存在する。
予防・日常のケア
SLE・Behçet病・サルコイドーシスなど全身の自己免疫疾患と診断されている方は、定期的な眼科受診をお勧めします。
飛蚊症・霧視・視力低下などの症状が出現した場合は、速やかに眼科を受診してください。
免疫チェックポイント阻害薬による治療を受けている方は、眼症状の出現に注意し、主治医に相談してください。
Q 原因が特定できない網膜血管炎はあるか?
A 全ての検査を行っても原因が特定できない「特発性」の症例が存在する。また、Eales病は若年男性に発症する特発性閉塞性網膜血管炎として知られている。原因不明例でも眼科的管理と定期的な全身精査が重要である。
蛍光眼底造影 (FA) :血管壁からの蛍光漏出・血管閉塞・無灌流領域・新生血管を検出する。活動性評価において最も重要な検査である。超広角FAにより、半数以上の患者で従来の撮影では検出できなかった所見が判明し、診断・治療方針が変更されることがある。
光干渉断層計 (OCT) :嚢胞様黄斑浮腫の検出と定量的モニタリングに有用。
OCTアンギオグラフィー (OCTA ) :無灌流領域の非侵襲的評価が可能。
多くの場合、眼所見だけでは原因疾患の特定は困難であり、系統的な全身検査が必要となる。
基本検査 :CBC、CRP 、ESR、補体 (C3/C4)、凝固検査
自己免疫疾患スクリーニング :ANA、ANCA、RF、抗セントロメア抗体
疾患が疑われる場合の追加検査は以下の通りである。
SLE疑い :ANA(≥1:320)、anti-dsDNA(≥1:80)、lupus anticoagulant。実際の症例では ESR 90・ANA>1:320・anti-dsDNA 1:80・C3 0.76 を示した1) 。
多発血管炎性肉芽腫症疑い :c-ANCA(PR3-ANCA)、腎生検6) 。
クリオグロブリン血症疑い :血清クリオグロブリン測定、C型肝炎ウイルス検査、骨髄生検2) 。
CREST症候群疑い :抗セントロメア抗体(≥1:640)4) 。
PRV疑い :次世代シークエンシング(NGS)による硝子体液中のウイルス核酸検出。PRV感染眼では眼内液中のIL-6(1247.1 pg/mL)・IL-8(214.7 pg/mL)・VCAM(7598.0 ng/mL)が著明に上昇する5) 。
Q 蛍光眼底造影検査は必ず必要か?
A 活動性の評価には蛍光眼底造影(FA)が最も重要な検査である。血管炎の範囲・無灌流領域の有無・新生血管の存在を把握するために不可欠であり、超広角FA装置を用いることで診断精度がさらに向上する。
治療は非感染性と感染性で大きく異なる。感染性網膜血管炎では原因病原体の同定・排除を優先し、感染症の除外なくステロイドを投与することは禁忌である。
段階的なアプローチが基本となる。
段階 治療選択肢 備考 第一選択 ステロイド全身投与 PSL 0.5〜1mg/kg/日から漸減 重症例 mPSLパルス→経口PSL mPSL 1g/日×3日→PSL 40-60mg 第二選択 MMF・MTX・AZA ステロイド抵抗性・依存性例 第三選択 生物学的製剤 adalimumab・rituximab
SLE関連網膜血管炎 の治療の実際:
Kuthyarら(2022)は、SLE関連網膜血管炎でMMFが無効であった症例に対し、adalimumab 40mg隔週皮下注を導入した。27か月間の観察期間にわたり寛解が維持された3) 。TNF -αがSLEの免疫病態において重要な役割を果たすことが治療根拠とされており、NF-κB活性化の関与が示唆されている3) 。また rituximabも使用されているが、重篤感染症が約7%・注入反応が約4%に生じることが報告されている3) 。
SLE合併APSに対する抗凝固療法としてワーファリン 2〜5mg/日(PT-INR 1.5〜2)が用いられる1) 。IV methylprednisolone 1g×5日→経口PSL 1mg/kg→hydroxychloroquine(HCQ)400mg+MMF 1g+ワーファリン 5mgの組み合わせが報告されている1) 。
クリオグロブリン関連血管炎 では、ステロイド→抗代謝薬→生物学的製剤(rituximab)の段階的アプローチが有用である2) 。
多発血管炎性肉芽腫症 では、ステロイド+CPA/MTX/AZAの組み合わせが基本となり、rituximabも選択肢となる6) 。
デキサメタゾン眼内インプラント(Ozurdex ) :局所炎症のコントロール・嚢胞様黄斑浮腫治療に使用1) 。
抗VEGF薬 :新生血管・黄斑浮腫への局所治療として有用1) 。
汎網膜光凝固 (PRP ) :広範な無灌流領域に対して施行し、新生血管の退縮を促す。
原因病原体に応じた抗感染症治療を行う。
Yingら(2021)は、PRV感染による硝子体炎・網膜血管炎の症例に、全身抗ウイルス薬投与と硝子体内 ganciclovir 3.0mg+foscarnet 2.4mgの投与を行い、視力が0.1から0.3に改善したことを報告した5) 。
硝子体出血や牽引性網膜剥離を生じた症例では硝子体手術 が適応となる。
治療における注意点
感染性網膜血管炎を除外せずにステロイドを投与してはならない。感染の増悪を招く危険がある。
hydroxychloroquine(HCQ)を使用する場合は、網膜毒性スクリーニング(基礎検査とOCT/視野検査 の定期実施)が必要である1) 。
免疫抑制療法 中は日和見感染症に十分な注意が必要である。
Q ステロイドが効かない場合はどうするか?
A ステロイド抵抗性・依存性の場合は、MMF・MTX・AZAなどの免疫抑制薬を追加する。さらに抵抗する場合は、adalimumabやrituximabなどの生物学的製剤が選択肢となる。SLE関連例でadalimumabによる27か月間の長期寛解が報告されている3) 。治療選択は原因疾患と全身状態を考慮して決定する。
網膜血管炎の中心的病態は血液網膜関門 (BRB)の破綻 である。
炎症細胞(主にCD4+T細胞を中心とするリンパ形質細胞)が血管周囲に浸潤し、血管壁を障害する。E-セレクチン・可溶性ICAM(s-ICAM)・インテグリンなどの接着分子発現が亢進し、白血球の血管外遊走が促進される。1型インターフェロン-β(IFN-β)の血清レベル上昇も認められる。
疾患別の特徴的な病態を以下に示す。
SLE :免疫複合体の血管壁沈着→補体活性化→血管内皮障害。TNF-αとNF-κB活性化が炎症増幅に寄与する3) 。APS合併例では血栓性機序が加わり閉塞性病変を来す1) 。
多発血管炎性肉芽腫症 :ANCA(c-ANCA/PR3-ANCA)関連の好中球脱顆粒→血管壁の破壊的炎症6) 。
感染性 :分子模倣(病原体抗原と自己抗原の交差反応)による免疫異常活性化が推察されている。PRV感染眼では眼内液中のIL-6・IL-8・VCAMが著明に上昇し、局所炎症の激しさを反映する5) 。
閉塞性血管炎は非閉塞性と比較して、虚血・新生血管形成・硝子体出血などの重篤な合併症を来しやすく、視力予後が不良である。
Kuthyarら(2022)は、MMFが無効なSLE関連網膜血管炎例に対するadalimumab 40mg隔週投与の有効性を報告した3) 。27か月の長期寛解例を示すとともに、rituximabについても有用な選択肢となりうるが、重篤感染症(約7%)や注入反応(約4%)のリスクを踏まえた慎重な適応判断が求められると述べている3) 。
Thomasら(2024)は、クリオグロブリン関連網膜血管炎の症例シリーズにおいて、ステロイド→抗代謝薬→生物学的製剤の段階的アプローチの有用性を示した2) 。rituximabが難治例に対する選択肢として注目されている2) 。
Yingら(2021)は、NGS(次世代シークエンシング)により硝子体液からPRVを同定した症例を報告した5) 。NGSは培養や従来のPCRでは検出困難な稀な病原体の特定に威力を発揮する。また、眼内液中のIL-8などのサイトカインが治療モニタリングマーカーとして利用できる可能性を示した5) 。
超広角蛍光眼底造影(UWF-FA)やOCTアンギオグラフィー(OCTA)の普及により、網膜周辺部の無灌流領域の早期発見と治療モニタリングの精度が向上している。超広角FAにより、従来の撮影では発見できなかった無灌流領域が半数以上の患者で検出されることが示されており、より積極的な光凝固療法の適応判断につながる可能性がある。
免疫チェックポイント阻害薬(ICI)の普及に伴い、ICI関連網膜血管炎の症例報告が増加している。がん治療の恩恵を維持しつつ眼症状を管理するための最適なプロトコールの確立が今後の課題である。
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