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網膜・硝子体

白血病性網膜症(白血病の網膜所見)

白血病性網膜症(leukemic retinopathy)は、白血病に伴う眼底病変の総称である。全白血病患者の35〜50%に何らかの眼底所見が認められ1)、眼内への白血病細胞浸潤は症例によって80%以上に達するとされる4)

慢性骨髄性白血病(CML)、急性骨髄性白血病(AML)、急性リンパ性白血病(ALL)、好酸球増多症候群(CEL)など、白血病の型を問わず発生しうる。眼底所見が白血病の初発徴候として現れることもあり、内科的な疾患活動性を反映する診断的クルーとなる3)

Q 白血病性網膜症は白血病が進行した段階で起こるのか?
A

必ずしもそうではない。眼底所見が白血病発症と同時期、あるいは初発サインとして現れた症例が報告されている3)。原因不明の網膜出血や視力低下を契機に血液疾患が発見されることがある。

  • 視力低下黄斑部への出血・滲出または網膜下液の貯留により生じる。突然あるいは緩徐に発症する。
  • 視野欠損:周辺部虚血や視神経乳頭浮腫を伴う場合に出現する。
  • 飛蚊症硝子体出血を生じた際に出現する。
  • 無症状:眼底病変があっても自覚症状を欠くことがある。定期眼底検査で偶然発見されるケースも少なくない。

主な眼底所見を以下に示す。

所見特徴重症度の指標
静脈拡張・蛇行最多の所見過粘稠度・高白血球
Roth斑白色中心の火炎状出血(約90%)
網膜出血(多層性)火炎状〜ドーム状血小板減少
綿花様白斑毛細血管閉塞の所見予後不良を示唆

網膜静脈の拡張・蛇行は最も頻度の高い所見である1)。中心網膜静脈閉塞(CRVO)様の像を呈する例も報告されている1)。Roth斑(白色中心を持つ出血斑)は約90%の症例で観察される。多層性の網膜出血は血小板減少を伴う症例で顕著であり4)、綿花様白斑の出現は予後不良を示唆する3)

WBC 200,000/μL以上の超高白血球症(hyperleukocytosis)では、網膜周辺部の虚血および新生血管形成が認められることがある1)。視神経乳頭浮腫を合併する例もある2)

OCT・OCTA所見として以下が報告されている。

  • 網膜下液(SRF)・網膜内液(IRF):OCTで滲出性変化として検出される2)
  • 血管密度の低下:OCTAで表層・深層毛細血管叢(SCP・DCP)の密度低下が確認される2)4)
  • 外層網膜障害(EZ loss):楕円体帯(ellipsoid zone)の消失を示す例が報告されている4)

一次性病変

定義:白血病細胞の網膜・硝子体への直接浸潤による変化。

主な所見:網膜浸潤巣、硝子体内細胞浸潤、視神経浸潤。

特徴:血液異常が軽度でも生じうる。

二次性病変

定義:貧血・血小板減少・過粘稠度など血液異常に起因する変化。

主な所見:網膜出血、Roth斑、静脈拡張・蛇行、綿花様白斑。

特徴:血液検査異常と相関することが多い。

Q 白血病性網膜症ではどのような見え方の変化が起こるか?
A

黄斑部に出血や浮腫が及ぶと中心視力が急激に低下する。周辺部病変が主体の場合は自覚症状が乏しいことがある。視神経乳頭浮腫を合併すると視野の中心部が暗くなる(中心暗点)場合もある。

白血病性網膜症の発症には、血液学的異常が複合的に関与する。

  • 超高白血球症(WBC >200,000/μL):白血球が網膜毛細血管に停滞・閉塞し(白血球停滞; leukostasis)、網膜虚血を引き起こす1)2)
  • 高度貧血:Hb 4.6 g/dL程度の貧血では網膜への酸素供給が著しく低下し、出血・白斑を生じやすくなる4)
  • 高度血小板減少:Plt 8,000/μL以下では出血傾向が増し、多発性網膜出血の原因となる3)4)
  • 過粘稠度:白血球・血小板の増加により血液粘度が上昇し、静脈拡張・微小循環障害が生じる。

白血病性網膜症の診断は、眼底所見と血液検査の組み合わせによって行われる。

  • 末梢血液検査(CBC):白血球数・貧血・血小板減少の把握。眼底所見と血液検査値の相関を評価する3)
  • 骨髄生検・フローサイトメトリー:白血病の確定診断・分類に必須1)3)
  • 眼底検査:細隙灯顕微鏡、間接倒像鏡で全周の眼底を評価する。
  • OCT:SRF・IRFの定量、外層網膜障害の評価に有用2)4)
  • 広角蛍光眼底造影(UWFA):網膜周辺部の無灌流域・新生血管を検出する2)
  • OCTA:非侵襲的に表層・深層毛細血管叢の血管密度を評価できる2)4)。症状出現前の早期変化の検出にも有用である。
  • Bモード超音波:硝子体出血などで眼底観察が困難な場合に使用する4)
Q 原因不明の網膜出血があった場合、どのような検査を受けるべきか?
A

両眼性の多発網膜出血やRoth斑が認められる場合は、血液内科への紹介が必要である。CBC(末梢血算)と末梢血塗抹標本の確認が最初のステップとなる3)。眼科と血液内科の連携が診断の遅れを防ぐ。

治療は白血病の型と重症度、眼症状の程度に応じて選択される。全身化学療法が基本であり、眼底所見は多くの場合、全身治療への反応に伴って改善する。

全身化学療法

CMLチロシンキナーゼ阻害薬(TKI)が第一選択。Dasatinibで網膜症改善の報告あり2)

AML:ダウノルビシン+シタラビン(DA療法)が標準。

CEL:Imatinibが有効とされる3)

補助的減量:HydroxyureaによるWBC急速減少が有効1)3)

白血球除去療法

Leukapheresis:体外循環で白血球を選択的に除去する。

推奨グレード:ASFA(米国血液アフェレーシス学会)グレード2B1)

適応:超高白血球症(WBC >200K)による急性視力障害。

効果:迅速な視力回復が期待できる1)

眼科的治療

硝子体手術PPV:非吸収性大量出血に対して段階的に施行4)

Dexamethasoneインプラント嚢胞様黄斑浮腫(CME)に有用4)

放射線療法眼窩・眼内への局所浸潤に対して施行されることがある3)

白血病の型と主な治療薬、および視力改善の目安を以下に示す。

白血病型第一選択薬視力改善の目安
CMLDasatinib等TKI数週〜数ヶ月
AMLDA療法寛解後に改善
CELImatinib有効例あり
Q 治療で視力は回復するか?
A

全身化学療法によって白血病が寛解に向かうにつれ、眼底出血や浮腫が改善し視力が回復する例は多い。ただし、深層毛細血管叢(DCP)の血管密度低下は治療後も回復しにくいとの報告がある2)。外層網膜障害(EZ loss)が広範な場合は視力予後が不良となりうる。

Q leukapheresis(白血球除去療法)とはどのような治療か?
A

血液を体外循環させて白血球を選択的に除去する治療法である。超高白血球症(WBC >200,000/μL)による緊急視力障害に対し、化学療法の効果が現れるまでの橋渡しとして用いられる1)。ASFAではグレード2Bの推奨となっている。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

Section titled “6. 病態生理学・詳細な発症機序”

白血病性網膜症の発症機序は大きく一次性と二次性に分けられる1)

白血病細胞が網膜血管・実質・硝子体に直接浸潤し、局所的な組織障害を引き起こす。血液異常が比較的軽度でも生じうる点が特徴である。

貧血・血小板減少・過粘稠度の3因子が複合的に作用する。

  • 白血球停滞(leukostasis):WBC 200,000/μL以上で白血球が網膜毛細血管を物理的に閉塞し、網膜虚血・出血を招く2)
  • 貧血・血小板減少:酸素供給低下と出血傾向の組み合わせが多発出血・Roth斑を生じさせる。

深層毛細血管叢(DCP)は表層(SCP)と比べて灌流圧が低く、白血球停滞の影響を受けやすい。治療後もDCPの血管密度は回復しにくく2)、これが長期的な視力予後に影響する。外層網膜障害(EZ loss)は、慢性的な虚血による光受容体障害を反映していると考えられる4)

Jamshidiら(2025)の報告では、白血病性網膜症の症例においてOCTAが臨床的に明らかな網膜症の出現前から深層毛細血管叢の血管密度低下を検出できることが示された4)。OCTAは白血病患者の無症候性網膜病変の早期発見ツールとしての可能性を持つ。

段階的硝子体手術とDexamethasoneインプラント

Section titled “段階的硝子体手術とDexamethasoneインプラント”

Jamshidiら(2025)は重症白血病性網膜症に対して段階的硝子体切除術を施行した症例を報告した4)。術後に残存した嚢胞様黄斑浮腫(CME)に対するDexamethasoneインプラント(Ozurdex)の有効性も示され、視力改善が得られた4)。眼科的介入と全身治療の組み合わせが予後改善に寄与する可能性がある。


  1. Leong S, et al. Acute vision loss due to CML leukemic retinopathy reversed with leukapheresis. Clin Case Rep. 2023;11:e7441.
  2. Lim J, Kim I, Sagong M. Leukostasis retinopathy as the first sign of CML with severe hyperleukocytosis. Korean J Ophthalmol. 2023;37(3):266-269.
  3. Beketova T, et al. Leukemic retinopathy: a diagnostic clue for initial detection and prognosis of leukemia. Cureus. 2023;15(12):e50587.
  4. Jamshidi F, et al. Surgical management of a case of severe leukemic retinopathy. Am J Ophthalmol Case Rep. 2025;39:102417.

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