タイプ1
平坦・半透明型:最多で約70%を占める。2)
外観:表面平滑な半透明の灰白色病変。神経線維層の軽度肥厚として観察される。
石灰化:なし〜軽微。小児・若年者に多い。

網膜星細胞過誤腫(Retinal Astrocytic Hamartoma; RAH)は、網膜神経線維層(RNFL)に発生する良性のグリア細胞腫瘍である。腫瘍性増殖ではなく、正常組織成分の局所的な過形成(過誤腫)として分類される。
RAHは結節性硬化症(Tuberous Sclerosis Complex; TSC)の代表的な眼所見であり、TSC患者の36〜50%に認められる。4)一部の報告ではTSC患者の87%にRAHが認められるとされる。1)TSCはTSC1またはTSC2遺伝子の変異によって発症し、TSC2変異が全体の75〜80%を占める。1)有病率はおよそ6000人に1人とされる。1)3)
RAHはTSCを伴わない孤発性(散発性)症例でも生じ、孤発性RAHの割合は報告によって29〜81%と幅がある。6)孤発性RAHは1型神経線維腫症(NF1)との関連が教科書的に知られている。
RAHはTSCの代表的な眼所見だが、TSCを伴わない孤発性症例も存在する。孤発性の割合は報告によって29〜81%と幅があり、NF1との関連も指摘されている。6)TSCの家族歴や全身症状がない場合でも、RAHが疑われたら眼科・神経内科での精査が推奨される。
RAHは多くの場合、無症状で経過する。腫瘍が黄斑部に生じた場合や合併症を来した場合に自覚症状が出現する。
RAHの合併症として、黄斑浮腫(約20%)、牽引(約27%)、網膜前膜(ERM)の合併が報告されており、5)まれに網膜分枝静脈閉塞(BRVO)を合併する例もある。1)
RAHは眼底所見によって3つのタイプに分類される。同一眼内に複数のタイプが共存することもある(17.4%)。2)側頭側の網膜に好発するとされる。2)
タイプ1
平坦・半透明型:最多で約70%を占める。2)
外観:表面平滑な半透明の灰白色病変。神経線維層の軽度肥厚として観察される。
石灰化:なし〜軽微。小児・若年者に多い。
タイプ2
隆起・石灰化型:約55%に認められる。2)
外観:桑の実状(mulberry型)の白色隆起性腫瘤。石灰化を伴い不整な表面を呈する。
石灰化:著明。高齢者・病期進行例に多い。
タイプ3
混合型:約9%に認められる(中国人コホート)。2)
外観:タイプ1とタイプ2の特徴を兼備。一部が石灰化し、周囲は半透明。
OCT所見:内部に複雑な多層構造を示す。
光干渉断層計(OCT)によりRAHの内部構造を4段階に分類する方法が提唱されている。1)2)
各段階はRNFLの肥厚から始まり、内部エコーの増強・石灰化・後方陰影の形成へと進行する。SS-OCT(掃引光源OCT)はより深部の構造把握に優れ、病期評価に有用とされる。2)
眼底自発蛍光(FAF)では石灰化部位が高蛍光を示す。1)フルオレセイン蛍光眼底造影(FA)では初期に遮蔽蛍光を呈し、後期に腫瘍血管からの漏出蛍光を示す。
RAHはRNFL(神経線維層)を起源とし、OCT上で内顆粒層より内側に限局する高輝度病変として描出される。一方、網膜芽細胞腫は内顆粒層起源で網膜全層にわたる構造的破壊を示す傾向がある。6)生後3か月の乳児でも孤発性RAHのOCT所見を確認できた報告があり、早期鑑別に有用である。
TSCはTSC1遺伝子(ハマルチン産生)またはTSC2遺伝子(チューベリン産生)の機能喪失変異による常染色体優性遺伝疾患である。TSC2変異が全変異の75〜80%を占め、一般にTSC1変異より重症化しやすい。1)
TSC1・TSC2遺伝子産物はmTOR(mammalian target of rapamycin)経路の制御因子として機能する。変異によりmTOR経路が過活性化し、細胞増殖・タンパク質合成が亢進することで全身の過誤腫性病変が形成される。RAHもこの機序で発生すると考えられている。
TSCを伴わない孤発性RAHは、1型神経線維腫症(NF1)との関連が知られている(教科書的知見)。孤発性RAHの場合も初発時は網膜芽細胞腫などの悪性腫瘍との鑑別を要する。6)
RAHの診断は眼底所見・各種画像検査の組み合わせによる。特に乳幼児や孤発性症例では網膜芽細胞腫(RB)との鑑別が最重要課題となる。
以下に主要な画像検査とその特徴を示す。
| 検査 | 主な所見 | 有用性 |
|---|---|---|
| OCT(SD/SS) | RNFL起源の内部構造・4段階評価 | 高(鑑別・病期評価) |
| B-scan超音波 | 石灰化・腫瘍径計測 | 中(初期スクリーニング) |
| 眼底自発蛍光 | 石灰化部の高蛍光 | 中(石灰化評価) |
| FA | 初期遮蔽→後期漏出 | 中(血管評価) |
| MRI | 頭蓋内病変(SEGAなど)の評価 | 高(全身評価) |
乳幼児の白色眼底腫瘤はRBとの鑑別が優先事項となる。Batu Otoら(2022)は生後3か月の乳児における孤発性RAHの1例を報告し、OCTによるRNFL起源の確認とB-scanによる境界明瞭な均質腫瘤像(3×3×2 mm)が鑑別に有効であることを示した。6)6年間の経過観察で変化がなく、良性であることが確認された。
RAHの多くは無症状かつ安定していることから、定期的な眼底検査による経過観察が基本方針となる。治療介入は合併症を生じた場合や腫瘍が進行した場合に行われる。
経過観察
適応:無症状・安定例(大多数)。
方法:定期的な眼底検査・OCT・眼底自発蛍光。TSC患者は年1回以上の受診。4)
自然退縮例:Dillonら(2025)は2年間で腫瘍径が1.04→0.75mmに自然縮小した例を報告している。4)
薬物療法
手術・レーザー
レーザー光凝固:腫瘍周囲の異常血管・滲出病変に対して施行。1)4)
硝子体手術(PPV):網膜前膜(ERM)合併例に対して膜剥離を行う。Cuadrosら(2021)は網膜前膜合併孤発性RAHに対し23G硝子体手術+膜剥離を施行し、術後20/20の視力を維持した。5)
適応:黄斑牽引・網膜前膜・裂孔原性網膜剥離合併例。
エベロリムスはTSCの主要な全身治療薬であり、mTOR経路を抑制することで腫瘍の縮小・安定化をもたらす。眼科的にも、生後13か月のTSC患者においてエベロリムス投与後にRAHおよび滲出性網膜剥離(ERD)の改善が報告されている。4)
RAHはVEGFと本質的に関連しており、1)網膜分枝静脈閉塞合併や腫瘍内血管からの滲出に対してベバシズマブなどの抗VEGF薬が使用される。1)3)Patra Sら(2024)は巨大RAHに対しPDT(光線力学療法)後にベバシズマブを投与した症例を報告している。3)
Cuadros Sánchez Cら(2021)は、黄斑浮腫と網膜前膜を合併した37歳女性の孤発性RAHに対し23G硝子体手術と膜剥離を施行した。術後に視力20/20を維持しており、網膜前膜合併RAHへの有効な治療法として初報告された。5)ShieldsらはRAH症例の20%が黄斑浮腫を、27%が牽引を有すると報告しており、5)外科的介入が必要となる症例は一定数存在する。
多くのRAHは無症状で安定しており、経過観察のみで対応できる。2021年改訂TSC診断基準では年1回の眼科検査が推奨されている。4)黄斑浮腫・網膜前膜などの合併症が生じた場合は、抗VEGF薬・硝子体手術などの積極的介入を検討する。
TSC1(ハマルチン)およびTSC2(チューベリン)の遺伝子産物は複合体を形成し、mTOR(哺乳類ラパマイシン標的タンパク質)の上流制御因子として機能する。TSC1/TSC2複合体はRhebのGAP(GTPase activating protein)として働き、mTORC1を抑制する。変異によりこの抑制が解除されると、mTORC1が過活性化して細胞増殖・タンパク質合成が亢進し、全身の過誤腫性病変(皮質結節・腎血管筋脂肪腫・肺リンパ脈管筋腫症・RAHなど)が形成される。
RAHにおける細胞成分は、Müller細胞・ゲミストサイト(gemistocytic astrocyte)・多形性星状細胞から構成されており、3)SEGAと組織学的に類似している。3)腫瘍細胞が上皮間葉転換(EMT)を示す証拠はなく、良性の性質が保たれる。
孤発性RAHでは、TSC1またはTSC2の一方のアレルに生殖細胞変異(第1ヒット)が存在し、後天的に他方のアレルが変異(第2ヒット)することで腫瘍が形成される可能性が示唆されている(2ヒット説)。ただし孤発性例でTSCと同様のメカニズムが常に成立するかは確認されていない。
RAHへの網膜分枝静脈閉塞合併は、腫瘍内に形成された異常血管の内皮障害に起因すると考えられている。1)さらに、RAHはVEGFと本質的な関連を有しており、1)腫瘍内血管からのVEGF過剰分泌が網膜血管透過性亢進・血管閉塞に寄与する可能性がある。これが抗VEGF療法の理論的根拠となっている。
掃引光源OCT(SS-OCT)によるRAHの4段階進行評価が確立しつつある。2)Dias PBら(2023)はSS-OCTを用いてRAHの内部構造変化を縦断的に分類し、タイプ1が最多(70%)で中国人コホートでは94%に達するという民族差も報告した。2)SS-OCTは石灰化部位をより詳細に描出でき、従来のSD-OCTに比べて深部構造の把握に優れるとされる。
エベロリムスをはじめとするmTOR阻害薬のRAHへの効果は症例報告レベルでの確認にとどまる。Dillonら(2025)はTSCと1型糖尿病を合併した14歳女性において2年間で腫瘍が自然退縮した例を報告し(1.04→0.75mm)、4)mTOR阻害薬なしでも安定する症例の存在を示した。mTOR阻害薬が眼科的にどの程度のRAH縮小をもたらすかを前向きに評価するエビデンスはまだ不十分である。
孤発性RAHに網膜前膜が合併した症例への硝子体手術の有効性は初報告の段階にある。5)
Cuadros Sánchez Cら(2021)は37歳女性の孤発性RAHで黄斑浮腫と網膜前膜を合併した1例に対し23G硝子体手術と膜剥離を施行した。術後20/20の視力を達成し、RAHの網膜前膜合併例への外科的アプローチの可能性を初めて示した。5)
ShieldsはRAH患者の20%に黄斑浮腫、27%に牽引が存在するとしており、5)外科適応例の系統的な評価が今後の課題である。
乳幼児の孤発性RAHとRBの鑑別において、OCT・B-scan・眼底自発蛍光を組み合わせたマルチモーダルアプローチが注目されている。
Batu Otoら(2022)は生後3か月の乳児の孤発性RAHを報告した。6)B-scan超音波では3×3×2 mmの均質な腫瘤像を示し、OCTでRNFL起源の内部構造を確認することでRBを非侵襲的に除外できた。6年間の経過観察で変化がなく、早期からのマルチモーダル評価の有用性を示した。
孤発性RAHでは、まず悪性腫瘍(特に網膜芽細胞腫)の除外が優先される。OCT・B-scan・眼底自発蛍光による画像評価が有用で、必要に応じてMRIも施行する。3)6)またTSCの潜在的合併(皮膚所見・頭蓋内病変・腎病変など)を除外するために、神経内科・皮膚科との連携も検討する。
RAHは基本的に良性腫瘍であり、悪性化の報告はきわめて稀である。しかし黄斑浮腫・網膜前膜などの合併症が視機能を損なう可能性があるため、定期的な経過観察が推奨される。自然退縮例も報告されており、4)腫瘍の安定性を確認することが重要である。