加齢黄斑変性(滲出型)

ラニビズマブ(ルセンティス®)
ひとめでわかるポイント
Section titled “ひとめでわかるポイント”1. ラニビズマブとは
Section titled “1. ラニビズマブとは”ラニビズマブ(商品名:ルセンティス®)は、VEGF-A(血管内皮増殖因子A)のすべてのアイソフォームを阻害するヒト化モノクローナル抗体Fab断片製剤である。分子量は48 kDaで、完全長IgG(約148 kDa)と比較して小さく、網膜各層への組織移行性に優れる。
2006年に米国FDAが加齢黄斑変性に対して承認した。その後、糖尿病黄斑浮腫・増殖糖尿病網膜症・網膜静脈閉塞症・近視性脈絡膜新生血管にも適応が拡大した。日本では「ルセンティス®」として販売されている。
主な適応疾患を以下に示す。
- 加齢黄斑変性:滲出型(湿潤型)加齢黄斑変性の脈絡膜新生血管に対する第一選択薬の一つ
- 糖尿病黄斑浮腫:糖尿病網膜症に伴う黄斑浮腫の治療
- 網膜静脈閉塞症:網膜静脈分枝閉塞症および網膜中心静脈閉塞症に伴う黄斑浮腫
- 増殖糖尿病網膜症(PDR):汎網膜光凝固術(PRP)の補助または代替
- 近視性脈絡膜新生血管:病的近視に伴う脈絡膜新生血管
滲出型加齢黄斑変性・糖尿病黄斑浮腫・網膜静脈閉塞症に伴う黄斑浮腫・増殖糖尿病網膜症・近視性脈絡膜新生血管の患者に用いられる。詳細は「診断と検査方法」の項を参照。
2. 主な症状と臨床所見
Section titled “2. 主な症状と臨床所見”ラニビズマブが使用される疾患に共通する自覚症状を以下に示す。
- 視力低下:黄斑部の浮腫や滲出が中心視力に影響する。加齢黄斑変性・糖尿病黄斑浮腫・網膜静脈閉塞症いずれでも出現する。
- 変視症(ゆがみ):格子状の直線がゆがんで見える。黄斑浮腫・網膜下液の存在を示唆する。
- 中心暗点:視野の中心部が暗く見えにくくなる。CNVや虚血が黄斑中心窩に及んだ場合に生じる。
- コントラスト感度低下:明暗差を識別しにくくなる。
加齢黄斑変性患者における具体的な改善例として、59歳女性の滲出型加齢黄斑変性患者が0.5 mg PRN投与により視力が6/60から6/24、最終的に6/12まで改善したケースが報告されている。1) 2回の注射で網膜下新生血管膜(SRNVM)は消退し、黄斑は乾燥化した。1)
各疾患の代表的な網膜所見を示す。
糖尿病黄斑浮腫 / 網膜静脈閉塞症
網膜浮腫(黄斑肥厚):OCTで網膜厚の増大として確認。中心網膜厚(CMT)250 μm超が治療基準の目安となる。2)
静脈蛇行・網膜出血:網膜静脈閉塞症では閉塞静脈の充血・蛇行と火炎状出血が特徴的。2)
綿花様白斑:虚血を反映した神経線維層の梗塞巣。
網膜静脈閉塞症における高血圧の頻度は80〜100%に達するとされ、全身疾患の管理が不可欠である。2)
光干渉断層計(OCT)で網膜の断面を非侵襲的に確認できる。中心網膜厚の測定が標準的であり、250 μm超を治療の目安とする報告がある。2) 詳細は「診断と検査方法」の項を参照。
3. 原因とリスク要因
Section titled “3. 原因とリスク要因”各適応疾患のリスク要因を以下に示す。
- 加齢(加齢黄斑変性):年齢が最大のリスク因子。喫煙・家族歴・CFH・ARMS2遺伝子多型が追加リスクとなる。
- 糖尿病(糖尿病黄斑浮腫・糖尿病網膜症):血糖コントロール不良・長期罹患・高血圧・腎症が複合的に関与する。
- 高血圧(RVO):分枝・中心静脈閉塞症患者の80〜100%に高血圧を認める。2)
- 高脂血症・肥満:加齢黄斑変性および糖尿病黄斑浮腫のリスクを増大させる。
4. 診断と検査方法
Section titled “4. 診断と検査方法”ラニビズマブ投与の適否を判断するための主な検査を示す。
| 検査法 | 主な目的 |
|---|---|
| 最良矯正視力(BCVA) | 治療効果の判定 |
| OCT(中心網膜厚) | 浮腫量の定量化 |
| 蛍光眼底造影(FA/ICGA) | 脈絡膜新生血管・虚血の同定 |
- 最良矯正視力:治療前後の比較に不可欠。ETDRS視力表が研究標準として用いられる。
- 光干渉断層計(OCT):網膜内液・網膜下液・網膜下高反射物質(SHRM)・色素上皮剥離(PED)を層別に評価する。中心網膜厚(CMT)250 μm超が治療反応の指標となる。2)
- 蛍光眼底造影(FA):脈絡膜新生血管の種別(典型・潜在型・RAP)、虚血領域の評価に用いる。
- インドシアニングリーン蛍光造影(ICGA):ポリープ状脈絡膜血管症(PCV)との鑑別に有用。
- OCT血管造影(OCTA):造影剤不要で脈絡膜新生血管および網膜血管異常を可視化できる。
5. 標準的な治療法
Section titled “5. 標準的な治療法”投与方法と用量
Section titled “投与方法と用量”ラニビズマブは硝子体内注射(IVT-R)として投与する。
| 適応疾患 | 用量 | 投与間隔 |
|---|---|---|
| 加齢黄斑変性・網膜静脈閉塞症 | 0.5 mg | 月1回(導入3回後、PRNまたはT&E) |
| 糖尿病黄斑浮腫・糖尿病網膜症 | 0.3 mg | 月1回(導入3回後、PRNまたはT&E) |
PRN(必要時投与):毎月の診察で再発・悪化を確認した場合に再投与する。CATT試験でベバシズマブ月1回投与と同等の視力成績を示した。3)
T&E(treat-and-extend):再発がなければ投与間隔を2週ずつ延長する。注射回数を減らしつつ有効性を維持する方式。
主要臨床試験の成績
Section titled “主要臨床試験の成績”加齢黄斑変性:MARINA/ANCHOR試験
Section titled “加齢黄斑変性:MARINA/ANCHOR試験”MARINA試験(n=716、偽注射対照)およびANCHOR試験(光線力学療法対照)にて、2年間の月1回投与で偽治療に対し有意な視力改善を示した。3) これらの試験が抗VEGF硝子体内注射療法の標準確立に貢献した。
CATT試験では、ベバシズマブとラニビズマブの月1回投与・PRN投与の4群を比較し、2年成績でいずれも視力成績が同等であることが確認された。3)
糖尿病網膜症:Protocol S試験
Section titled “糖尿病網膜症:Protocol S試験”DRCR.net Protocol S試験では、増殖糖尿病網膜症(PDR)に対するラニビズマブ硝子体内注射がPRPに対して非劣性であることが示された。4)
Protocol S試験(n=305)では、5年間の視野評価でラニビズマブ群の視野変化が−23 dBに対し、PRP群では−422 dBと、ラニビズマブ群で有意に視野が保全された(p<0.001)。5) 硝子体手術率もラニビズマブ群15%に対しPRP群4%と有意差を認めた。5) 糖尿病黄斑浮腫発症率もラニビズマブ群28%対PRP群9%とラニビズマブ群で有意に低かった。5)
Protocol T試験では、ラニビズマブ0.3 mg・アフリベルセプト2 mg・ベバシズマブ1.25 mgの3剤を糖尿病黄斑浮腫に対して比較した。ベースライン視力が低い症例(20/50以下)ではアフリベルセプトが優位であったが、良好ベースライン視力例では3剤の差は小さかった。4)
網膜静脈閉塞症:BRAVO試験
Section titled “網膜静脈閉塞症:BRAVO試験”BRAVO試験では、網膜静脈分枝閉塞症に対するラニビズマブ6か月投与で18文字の視力改善が得られ、61%の患者が15文字以上の改善を達成した。6)
網膜静脈分枝閉塞症60眼を対象としたRCTでは、ラニビズマブ単独群(n=30)に対し、ラニビズマブ+上脈絡膜腔トリアムシノロン4 mg(STTA)併用群(n=30)が注射回数を4.4回から2.47回へ有意に削減した(p<0.001)。2) 12か月の最良矯正視力も併用群で優位であり(p=0.01)、再発間隔の延長も認められた(p=0.003)。2)
ポートデリバリーシステム(PDS)
Section titled “ポートデリバリーシステム(PDS)”Archway試験では、ラニビズマブ100 mg/mLを封入したPDSを6か月ごとに補充する方式で、98%の患者が月1回注射を不要とした。3) 眼内炎の発生率は約2%と報告された。3)
疾患・病態・治療反応によって異なる。加齢黄斑変性では導入期3か月間の月1回投与後、PRNまたはT&Eに移行する。上脈絡膜腔ステロイド注射との併用によりBRVO患者では注射回数を有意に削減できたとの報告がある。2)
ラニビズマブはFab断片(48 kDa)で眼科適応を持つが、ベバシズマブは完全長IgG(148 kDa)で眼科適応外使用(off-label)である。CATT試験では2年成績で有効性は同等と報告されている。3) 詳細は「病態生理学」の項を参照。
6. 病態生理学・詳細な発症機序
Section titled “6. 病態生理学・詳細な発症機序”VEGF-Aの役割
Section titled “VEGF-Aの役割”VEGF-A(血管内皮増殖因子A)は網膜血管内皮細胞の増殖・遊走・血管透過性亢進を促進するサイトカインである。VEGF-Aの過剰発現は、新生血管形成・血管漏出・網膜浮腫の主要な駆動因子となる。
- 加齢黄斑変性:加齢・酸化ストレス・ドルーゼン蓄積によりRPE細胞がVEGF-Aを過剰産生し、ブルッフ膜を貫通する脈絡膜新生血管が形成される。
- 糖尿病黄斑浮腫:慢性高血糖による内皮細胞障害と低酸素がVEGF-A産生を誘発し、血液網膜関門が破綻して黄斑浮腫を生じる。
- 網膜静脈閉塞症:静脈閉塞による網膜虚血がVEGF-Aを上昇させ、血管透過性亢進と黄斑浮腫を引き起こす。
ラニビズマブの分子標的
Section titled “ラニビズマブの分子標的”ラニビズマブはVEGF-Aの結合部位を1か所持ち、VEGF-Aのすべてのアイソフォーム(VEGF121・VEGF165・VEGF189など)を阻害する。in vitroでは硝子体内投与後72時間にわたり持続的なVEGF-A阻害活性が確認されている。
主な抗VEGF薬の結合親和性(解離定数Kd)を以下に示す。
| 薬剤 | Kd(pM) | 分子量 |
|---|---|---|
| アフリベルセプト | 0.66 | 115 kDa |
| ラニビズマブ | 20.6 | 48 kDa |
| ベバシズマブ | 35.1 | 148 kDa |
アフリベルセプトはVEGFR-1およびVEGFR-2の細胞外ドメインを組み合わせた融合タンパクで結合親和性が最も高い。ラニビズマブはFab断片のため組織透過性が高く、網膜各層への移行が容易とされる。
7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)
Section titled “7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)”Susvimo(持続放出型PDSのDME適応)
Section titled “Susvimo(持続放出型PDSのDME適応)”ラニビズマブ100 mg/mLを持続放出するポートデリバリーシステム「Susvimo」は、もともと加齢黄斑変性に承認されていた。2025年に糖尿病黄斑浮腫に対する適応が追加承認された。4) 月1回の硝子体内注射に代わり6か月ごとの補充で管理できることが期待される。
上脈絡膜腔トリアムシノロン(STTA)との併用
Section titled “上脈絡膜腔トリアムシノロン(STTA)との併用”RCTにおいてラニビズマブ+STTA 4 mg上脈絡膜腔注射の併用が、単独療法と比較して注射回数を有意に削減し(4.4回→2.47回、p<0.001)、視力成績・再発間隔を改善したことが報告された。2) 上脈絡膜腔注射は新たな投与経路として注目されている。
バイオシミラー
Section titled “バイオシミラー”ラニビズマブのバイオシミラーが複数承認され、治療コスト低減が期待されている。先行品との有効性・安全性の同等性が確認されている。3)
8. 参考文献
Section titled “8. 参考文献”- Sharma TS, Agarwal V, Juneja R, et al. Ranibizumab injections in neovascular age-related macular degeneration: visual prognosis and anatomical outcomes. Cureus. 2021;13(9):e17642.
- Nawar AE. Subthreshold micropulse laser combined with ranibizumab versus ranibizumab monotherapy in branch retinal vein occlusion with macular edema: a randomized controlled trial. Clin Ophthalmol. 2022;16:1139-1151.
- American Academy of Ophthalmology. Age-Related Macular Degeneration Preferred Practice Pattern 2024. [AAO AMD PPP 2024]
- American Academy of Ophthalmology. Diabetic Retinopathy Preferred Practice Pattern 2024. [AAO DR PPP 2024]
- American Academy of Ophthalmology. Diabetic Retinopathy Preferred Practice Pattern 2024. Protocol S visual field and surgical outcomes data. [AAO DR PPP 2024]
- American Academy of Ophthalmology. Retinal Vein Occlusion Preferred Practice Pattern 2024. [AAO 網膜静脈閉塞症 PPP 2024]