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網膜・硝子体

弾性線維性仮性黄色腫(PXE)

1. 弾性線維性仮性黄色腫(PXE)とは

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弾性線維性仮性黄色腫(Pseudoxanthoma Elasticum; PXE)は、染色体16p13.1に位置するABCC6遺伝子の変異によって生じる常染色体劣性遺伝疾患である。Grönblad-Strandberg症候群とも称される。弾性線維への異所性石灰化・断裂が皮膚・眼・心血管系に多臓器障害をきたす、進行性の全身疾患である。

有病率は1/25,000〜1/100,000と推定される8)。日本では2015年に指定難病(難病番号335)に認定された。

ABCC6タンパクは主に肝臓・腎臓で発現するATPアーゼ依存性輸送体である。同タンパクの機能欠損により血中の無機ピロリン酸(PPi)産生が低下する。PPiは石灰化抑制因子であり、その欠乏が弾性線維への Ca/Pi 異所性沈着を引き起こす。健常者の約30%にとどまるPPiの産生量が、PXE病態の根幹となる5)

Q PXEは遺伝する疾患か?
A

常染色体劣性遺伝のため、両親ともにABCC6遺伝子の変異を持つキャリアの場合に子が発症する。ヘテロ接合体キャリアでも動脈硬化リスクが上昇するとの報告があり5)、家族歴がある場合は遺伝カウンセリングを検討する。

眼症状は通常20〜30歳代から始まり、緩徐に進行する。

  • 変視症:CNV発症に伴い、物が歪んで見える症状が出現する。42歳女性の症例では視力6/60まで低下し、抗VEGF治療後に6/36まで回復した2)
  • 視力低下:CNVの進行・網膜下出血・網膜線維化に伴い視力が低下する。
  • 中心暗点:進行例では中心視野欠損をきたす。
  • 皮膚症状:頸部・腋窩・鼠径部に橙黄色の丘疹が集簇し、「モロッコ革様」と称される特徴的外観を呈する。

眼底では病期に応じた特徴的所見が認められる。

早期所見

橙皮状変化RPE(網膜色素上皮)レベルの変化。眼底に橙皮のような不規則なテクスチャーが出現する。

血管様線条(AS)視神経乳頭周囲から放射状に延びる暗赤色〜褐色の線条。ブルッフ膜の石灰化・断裂によって生じる。

進行期所見

脈絡膜新生血管(CNV):ブルッフ膜の亀裂部から新生血管が侵入する。患者の72〜86%に発生する3)

彗星尾状病変:血管様線条に伴う特徴的な網膜下色素沈着。46歳男性症例での報告あり1)8)

急性網膜症:眼外傷を契機とした急性発症。全患者の約5%に生じる3)

炎症性表現型と呼ばれる稀な亜型では、急速進行性の網膜下線維化を呈する。24歳女性の症例(ABCC6 p.R1141*)では、3年間の抗VEGF療法に続きステロイド眼内注射・免疫抑制療法を行い、楕円体帯(EZ)の回復が得られた3)

皮膚所見は臍周囲穿孔性PXE(Perforating PXE; PPPXE)という亜型も存在し、85歳女性の高齢経産婦・肥満女性に多い4)

Q 血管様線条とはどのような所見か?
A

ブルッフ膜(網膜とその下の脈絡膜を隔てる薄い膜)に石灰が沈着して亀裂が生じ、眼底に血管に似た線状の影として見える所見である。PXEに最も特異的な眼底所見の一つであり、視神経乳頭周囲から放射状に延びる。

PXEの原因はABCC6遺伝子(16p13.1)の両アレル変異である。常染色体劣性遺伝であり、ヘテロ接合体でも動脈硬化・石灰化リスクが上昇する5)。修飾遺伝子(CSF1R・NLRP1など)が心血管症状の重症度に影響するとの報告がある6)

  • カルシウム・ビタミンD:過剰摂取は血管石灰化を促進し、PXEを増悪させる5)
  • 薬剤誘発性PXE:アバロパラチド(骨粗鬆症治療薬、PTHアナログ)による誘発が報告されている。PPiが正常の30%しか産生されない状態で投与すると、石灰化が加速する5)
Q PXEの患者はどんな薬を避けるべきか?
A

NSAIDsは出血傾向を高める可能性があり注意を要する。アバロパラチドなどの骨粗鬆症治療薬はPXEを誘発・増悪させる可能性がある5)。心血管合併症に対してはワルファリンよりもDOAC(直接作用型経口抗凝固薬)が推奨される6)。薬剤変更の際は必ず担当医に相談すること。

PXEの診断は主要所見・副所見の組み合わせで行う。

判定基準
確定診断主要所見2項目以上
疑い診断主要所見1項目+副所見1項目以上

主要所見

  • 特徴的皮膚所見(頸部・体幹屈側の丘疹・硬化)
  • 特徴的眼底所見(血管様線条・橙皮状変化・コメット病変)
  • ABCC6両アレル病的変異の確認

副所見

  • 若年発症の心血管疾患(冠動脈疾患・末梢動脈疾患・脳梗塞)
  • 皮膚・眼病変の家族歴
  • 組織学的Von Kossa染色陽性(弾性線維への石灰化確認)8)
  • 細隙灯・眼底検査:血管様線条・橙皮状変化・CNVの評価
  • 光干渉断層計(OCT):ブルッフ膜の亀裂、CNVの活動性、網膜下液・出血の評価
  • フルオレセイン蛍光造影(FA:CNVの同定・活動性評価
  • インドシアニングリーン蛍光造影(ICG):脈絡膜循環・血管様線条の詳細評価
  • 眼底自発蛍光(FAF):RPE障害範囲の評価

ABCC6の遺伝子解析により変異を同定する1)3)5)。一般的変異(c.3490C>T など)のほか、多様な変異が報告されている。確定診断・家族スクリーニング・遺伝カウンセリングに不可欠である。

Von Kossa染色またはAlizarin Red染色により弾性線維への石灰化を確認する8)。鑑別疾患として加齢黄斑変性(加齢黄斑変性)・パジェット病・マルファン症候群・エーラース-ダンロス症候群(EDS)などがある。

PXEに対する確立された根治療法はなく、CNVへの対症療法が中心となる。

抗VEGF療法(CNVの第一選択)

CNV合併PXEに対しては抗VEGF薬の硝子体内注射が第一選択である。

  • ベバシズマブ:42歳女性の症例で6/60→6/36への改善が報告されている2)
  • アフリベルセプト:強膜バックル近傍CNVの1症例では3回投与でも効果が限定的であった1)
  • 治療反応性は症例によって異なり、継続的なOCT・FAによる評価が必要である。

炎症性表現型への治療(難治性CNV):

抗VEGF療法への抵抗例では免疫抑制療法を考慮する。24歳女性症例(急速進行性網膜下線維化)では、3年間の抗VEGF療法後にデキサメタゾン眼内インプラント(Ozurdex)3回投与、さらにミコフェノール酸モフェチル(MMF)+タクロリムスの全身免疫抑制療法を実施し、楕円体帯回復を得た3)

心血管疾患はPXEの生命予後を規定する重要な合併症である。

合併症管理方針
虚血性心疾患DOAC推奨・ワルファリン回避6)
急性冠症候群ステントレスPCI(薬剤コーティングバルーン)7)
末梢動脈疾患血管外科との連携
腹腔動脈圧迫症候群(MALS)外科的介入を検討6)

72歳女性の急性冠症候群(ACS)症例では、左回旋枝完全閉塞に対してOCTガイド下でプラーク浸食を確認し、薬剤コーティングバルーンによるステントレスPCIを施行。DAPT1週間後にプラスグレル単剤へ移行した7)

6. 病態生理学・詳細な発症機序

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ABCC6はATPを基質としてUDP-グルコース・グルタチオン・PPiの前駆物質を輸送する。ABCC6機能欠損により血中PPi(石灰化抑制因子)が健常者比30%程度に低下する5)

Ca・Piがコラーゲン・弾性線維上のヒドロキシアパタイト(Ca10(PO4)6(OH)2)として沈着し、線維を断裂させる8)。ミネラル組成の分析ではヒドロキシアパタイトとリン酸カルシウムの混合物が確認されている8)

Mushtaqら(2024)は、RPEによるVEGF産生がブルッフ膜亀裂を介した脈絡膜虚血によって促進され、CNV形成につながる機序を報告した。血管様線条を有する患者の59〜87%がPXEに起因するとされる2)

ブルッフ膜の石灰化・断裂 → 脈絡膜虚血 → VEGF産生亢進 → CNV形成、という連鎖が視力障害の主たる機序である。

血管中膜の弾性板断裂が剖検で確認されている6)(Mendelsohn所見)。弾性板の構造破綻が血管壁の脆弱化・石灰化を引き起こし、冠動脈・末梢動脈の閉塞性病変に至る。

Willett ら(2025)の症例では、腹腔動脈圧迫症候群(MALS)・左室拡張機能障害などの多臓器心血管障害が確認され、皮膚スコアが重症群(5.7)vs 対照群(1.8)で有意差を示した6)

急性冠症候群ではプラーク浸食(erosion)が主たる機序である7)。アテローム破裂(rupture)よりも浸食が多い点がPXEの心血管病変の特徴とされる。


7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)

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ABCC6遺伝子の肝臓向け遺伝子治療が研究されている。PPiアナログ(エチドロナートなど)のサプリメントがマウスモデルで石灰化を抑制することが報告されており、マグネシウム補充との組み合わせも検討されている8)

CSF1R・NLRP1などの修飾遺伝子が心血管症状の重症度に影響することが明らかになりつつある6)。個人差が大きいPXEの表現型を説明する鍵として注目される。

アバロパラチド(骨粗鬆症治療薬)によるPXE誘発の報告は5)、PPi代謝経路がPXEの発症・増悪に直結することを示す新たな知見である。T50(石灰化傾向バイオマーカー)を用いたPXE活動性評価法の開発も進んでいる。

Oyeniran ら(2024)の症例報告は、CNVに加えて急速進行性の炎症を呈するPXE亜型の存在を示した3)。この炎症性表現型への免疫抑制療法(MMF+タクロリムス)が有効であった知見は、PXEの病態に炎症性機序が関与する可能性を示唆する。


  1. Lee KE, Bhende M, Bhende M, et al. Pseudoxanthoma elasticum with angioid streaks near scleral buckle: management dilemma. Am J Ophthalmol Case Rep. 2024;34:101970.
  2. Mushtaq I, Haroon T, Aqeel MA. Angioid streaks secondary to pseudoxanthoma elasticum presenting as choroidal neovascularization. Cureus. 2024;16(3):e57342.
  3. Oyeniran E, Lee CS, Bhende M. Rapidly progressive subretinal fibrosis in pseudoxanthoma elasticum: an inflammatory phenotype. Retin Cases Brief Rep. 2024;18:512-516.
  4. Duarte-Summers AL, Qian J, Nguyen K, et al. Perforating pseudoxanthoma elasticum with periumbilical perforation. JAAD Case Rep. 2025;59:1-3.
  5. Amjad SA, Eickenberg S, Halpern A. Drug-induced pseudoxanthoma elasticum in a heterozygous ABCC6 carrier. JAAD Case Rep. 2025;61:133-135.
  6. Willett A, Brown J, Patel A, et al. Multisystem cardiovascular manifestations of pseudoxanthoma elasticum. Cureus. 2025;17(7):e87113.
  7. Ono H, Maekawa Y, Watanabe A, et al. Acute coronary syndrome in a patient with pseudoxanthoma elasticum treated by stentless PCI. J Cardiol Cases. 2022;26:308-310.
  8. Esquivel-Pinto IA, Orozco-Covarrubias L, Ruiz-Maldonado R, et al. Pseudoxanthoma elasticum: report of two cases and review of the literature. Case Rep Dermatol. 2021;13:230-237.

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