OCT所見
嚢胞様変化:外網状層から内顆粒層にかけて液体貯留を認める。花弁状の嚢胞形成が特徴的。
中心網膜厚(CST)増加:定量的な評価が可能で、治療効果の指標となる。2)
亜臨床型:視力低下を伴わない軽微な液体貯留もOCTで検出される。

偽水晶体性嚢胞様黄斑浮腫(Pseudophakic Cystoid Macular Edema; PCME)は、白内障手術後に黄斑部に液体が貯留し嚢胞様の浮腫を生じる疾患である。1953年にIrvineが初めて報告し、のちにGassが蛍光眼底造影で詳細を記載したことからIrvine-Gass症候群とも呼ばれる。
臨床的なCMEの発生率は1〜3%とされ4)、OCTで検出される亜臨床型を含めると有病率は1.2〜11%に上る報告もある。5)術後5週前後に発症のピークを迎えることが多い。2)視力障害を伴う場合は迅速な診断・治療が求められる。
基本的に同一の病態を指す。Irvine-Gass症候群は歴史的な名称であり、白内障手術後の嚢胞様黄斑浮腫をより広く「PCME」と表記することが現代的な慣習である。
術後一度改善した視力が再び低下する場合に本疾患を疑う。
細隙灯顕微鏡では初期に明らかな異常を認めないことがあるが、OCTや蛍光眼底造影で特徴的な所見が得られる。
OCT所見
嚢胞様変化:外網状層から内顆粒層にかけて液体貯留を認める。花弁状の嚢胞形成が特徴的。
中心網膜厚(CST)増加:定量的な評価が可能で、治療効果の指標となる。2)
亜臨床型:視力低下を伴わない軽微な液体貯留もOCTで検出される。
FA所見
花弁状蛍光漏出:蛍光眼底造影(FA)で後期に黄斑部中心窩周囲に花弁状の過蛍光を示す。Irvine-Gassに特異的なパターン。
乳頭蛍光漏出:視神経乳頭からの蛍光漏出を伴うことがある。
OCTA所見
FAZ拡大:光干渉断層血管造影(OCTA)では中心窩無血管帯(FAZ)の拡大を認めることがある。
毛細血管リモデリング:慢性例では黄斑毛細血管の形態変化が観察される。
OCTは非侵襲的で繰り返し実施でき、液体貯留の定量評価と治療効果判定に優れる。4)FAは蛍光漏出のパターン確認に有用だが侵襲的である。日常診療ではOCTが主力の検査となっている。
PCMEの主な原因は、手術に伴う組織損傷によるプロスタグランジン(PG)産生亢進とVEGFの増加で、これが血液網膜関門(BRB)の破綻を引き起こすと考えられている。2)5)
術式・眼内条件に関連する主なリスク因子を以下に示す。
| リスク因子 | 備考 |
|---|---|
| 後嚢破損/硝子体脱出 | 最大の術中リスク因子4) |
| 術前ぶどう膜炎 | 炎症素因が増悪4) |
| 糖尿病網膜症 | 血管透過性亢進が下地に |
| 上膜(ERM)合併 | OR 4.535) |
| プロスタグランジン製剤点眼 | 緑内障治療薬として使用中の場合 |
術式に関しては、過去の硝子体手術既往、網膜光凝固既往、眼内炎症の既往も独立したリスク因子とされる。
**OCT(光干渉断層計)**が診断の中心となる。非侵襲的かつ高感度で、黄斑部の液体貯留を定量的に評価できる。4)外網状層と内顆粒層の嚢胞様変化、中心窩下液の有無、中心網膜厚(CST)を確認する。
**蛍光眼底造影(FA)**は花弁状蛍光漏出パターンを視覚化し、PCMEに特徴的な所見を提供する。鑑別に役立つが、侵襲的であるため日常診療ではOCTが優先される。
OCTAはFAに代わる非侵襲的な血管評価法として期待されており、FAZ面積の変化などの情報を提供する。
嚢胞様黄斑浮腫の原因疾患は複数あり、以下との鑑別が重要である。
NSAIDs点眼が第一選択薬であり、プロスタグランジン産生を抑制してCMEを改善させる。5)ESCRSのカタラクトガイドラインでは、NSAIDs予防投与により相対リスク(RR)0.26に低減できると報告されている。5)
ステロイドとNSAIDs単独比較では、ステロイド群でCMEリスクがRR 5.35と高く、NSAIDsの優位性が示されている。5)
段階的な治療アプローチを以下に示す。
第1段階
NSAIDs点眼:ネパフェナク、ブロムフェナクなど。術前から開始し術後も継続投与する。
ステロイド点眼:NSAIDsと組み合わせて用いる。PREMED試験ではNSAIDs+ステロイドの併用が有効とされた。4)
第2段階
テノン下トリアムシノロン注射:第1段階で改善しない難治例に有効な選択肢。症例報告では浮腫の改善と視力回復が得られた。2)
抗VEGF硝子体内注射:VEGFを標的とした治療。オッズ比0.151と有意な効果が報告されている。5)
第3段階
糖尿病患者ではCMEリスクが高く、術前からのステロイド+NSAIDs併用投与により、CMEを75.8%予防できたとの報告がある。5)高リスク眼では積極的な予防投与が推奨される。4)
Low CSら(Cureus 2025)は、両眼段階的に治療した58歳男性を報告した。2)ネパフェナク点眼→テノン下トリアムシノロン→Ozurdex 0.7mgの順に治療を進め、CMEが消失、BCVAは6/9を達成し、その後120日間維持された。
高リスク眼では術前から開始することが推奨されている。4)術後も継続して使用し、浮腫が消退するまで維持する。中止後の再発に注意し、主治医の指示に従って投与期間を決める必要がある。
PCMEの主な発症機序はプロスタグランジン(PG)とVEGFによる血液網膜関門(BRB)の破綻である。2)5)
白内障手術に伴う組織損傷がシクロオキシゲナーゼ-2(COX-2)を活性化させ、アラキドン酸カスケードからPGが産生される。2)PGはBRB毛細血管内皮の透過性を亢進させ、血漿成分が網膜外網状層と内顆粒層に貯留する。これが嚢胞様構造の形成につながる。
VEGFもBRB破綻に寄与しており、抗VEGF療法の有効性はこの機序を支持する。5)
Müller細胞(網膜の支持グリア細胞)も液体恒常性の維持に関与していると考えられている。CMEが消退した後に黄斑円孔が自然閉鎖した症例において、NSAIDs使用によりCMEが消失した後のMüller細胞の再生・修復促進が関与している可能性が示唆されている。3)
da Costa DRら(BMC Ophthalmol 2022)は、CMEと黄斑円孔を合併した75歳女性の症例を報告した。3)NSAIDs点眼によりCMEが消失した後、黄斑円孔が自然閉鎖し、最終矯正視力は20/25まで回復した。Müller細胞の再生促進による自然閉鎖の可能性が考察されている。
Ozurdex(デキサメタゾン0.7mgインプラント)は難治性PCMEに対して有効性が示されており、53.8%の症例で10文字以上の視力改善が報告されている。2)さらなる長期有効性と安全性データの蓄積が進んでいる。
フルオシノロンアセトニド持続放出インプラント(Yutiq)についても、難治性後眼部炎症性疾患に対する長期データが集積中であり、PCME難治例への応用が研究されている。2)
炭酸脱水酵素阻害薬アセタゾラミドはCME治療に用いられることがあるが、高齢者では重篤な副作用のリスクが報告されている。
Kudasiewicz-Kardaszewskaら(Life 2025)は、アセタゾラミド250mg×2回投与後に脈絡膜剥離を生じた87歳男性の症例を報告した。1)8日間で改善したが、高齢者ではアセタゾラミドの全身投与よりも局所治療を優先すべきとの警鐘が鳴らされている。
CMEと黄斑円孔の合併は稀なケースだが、NSAIDsによるCME消退後に黄斑円孔が自然閉鎖した症例が報告されている。3)この知見は、積極的なCME治療が黄斑形態の修復に貢献する可能性を示唆しており、外科的介入前に内科的治療を試みることの重要性を支持するものである。
Ozurdexは難治性のCMEで複数回の薬物療法に抵抗した場合に検討される。ステロイド性眼圧上昇のリスクがあるため、緑内障のある患者や眼圧が高い患者では慎重な検討が必要である。投与の適否は眼科専門医が判断する。