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網膜・硝子体

ポートデリバリーシステム(PDS / Susvimo)

1. ポートデリバリーシステム(PDS / Susvimo)とは

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ポートデリバリーシステム(Port Delivery System; PDS)は、滲出型加齢黄斑変性(neovascular 加齢黄斑変性; nAMD)に対する抗VEGF治療として開発された強膜内留置型の持続薬剤放出デバイスである。製品名はSusvimo(ジェネンテック/ロシュ社)。

nAMD患者の大多数は硝子体内への抗VEGF注射を繰り返し必要とする。ASRS(米国網膜硝子体外科学会)の調査では、nAMD患者の75.2%が治療負担の軽減を希望しており、通院回数・注射頻度の削減は患者QOLの向上において重要な課題とされてきた。

PDSは、持続的・受動的なラニビズマブ放出により注射の間隔を大幅に延長することを目的として設計されたデバイスである。2021年10月にFDAが承認した。2022年、セプタム(自己封鎖性弁)の脱落リスクが判明したため市場からリコールされたが、デバイス改良を経て2024年に市場復帰した。

Q PDSはどのような患者に向いているか?
A

2回以上の抗VEGF治療に反応し、疾患活動性が安定したnAMD患者が適応となる。頻回の硝子体内注射による通院負担が大きい患者や、注射恐怖のある患者に特に有益とされる。

PDSが対象とするnAMDそのものの症状は以下の通りである。

  • 視力低下脈絡膜新生血管(CNV)による滲出・出血が原因。
  • 変視症(ゆがみ)黄斑部の浮腫・滲出により直線が波打ってみえる。
  • 視野の中心暗点:病変が黄斑中心窩に及ぶと生じる。

PDS留置後に生じうるデバイス関連の症状として以下がある。

  • 一過性視力低下:術後1か月時点で平均4文字(ETDRS)の視力低下が報告されているが、翌月には平均2文字の回復が認められる。
  • 充血・違和感:デバイス留置部の結膜刺激症状。

PDS留置後に観察されうるデバイス関連合併症の所見を以下に示す。

  • 結膜侵食(conjunctival erosion):デバイス上の結膜が菲薄化・開放する合併症。デバイス露出のリスクとなる。
  • 硝子体出血:留置術時の合併症。ダイオードレーザー導入前は発生率が約50%に達していたが、術中レーザー使用の導入後は5〜10%まで低下した。
  • セプタム脱落:2022年のリコール原因。改良版デバイスで対応済み。
  • 眼内炎:初期の試験では発生例が確認されたが、改良後のデバイスと適切な充填手技の確立により発生率は低下している。
Q 術後に一時的な視力低下が起きるのはなぜか?
A

デバイス留置術中の処置や硝子体出血が原因と考えられる。術後1か月で平均4文字の低下が報告されているが、翌月には回復傾向を示す。留置術の技術改良により硝子体出血の発生率は5〜10%まで低減している。

PDSの適応は、以下の条件を満たすnAMD患者である。

  • ラニビズマブ(またはその他の抗VEGF薬)による硝子体内注射を2回以上受け、疾患活動性が安定している患者。
  • 初回治療(naïve)患者は適応外とされる。

禁忌と相対的禁忌の区分を以下の表に示す。

区分内容
絶対的禁忌活動性眼内感染・炎症
絶対的禁忌ラニビズマブ過敏症
相対的禁忌結膜瘢痕
相対的禁忌全身性炎症疾患(RA・SLE等)

PDSの適応判断には、以下の術前評価が必要である。

  • 結膜状態の確認:瘢痕・薄弱化の有無を確認する。デバイス留置部位(耳上側強膜)の結膜健全性はデバイス露出リスクに直結する。
  • 緑内障の有無眼圧管理が不良な症例では術後管理が複雑になりうる。
  • ドライアイの評価:術後の眼表面管理に影響する。
  • 全身疾患の確認:RA・SLE等の自己免疫疾患、および抗凝固薬・抗血小板薬の使用歴を確認する。
  • 抗VEGF治療歴の確認:2回以上の治療反応歴が適応基準を満たすかを確認する。

PDSは4つのコンポーネントで構成される。

本体・放出素子

チタン製リザーバー本体:ラニビズマブ100mg/mLを貯留する小型容器。強膜内(耳上側)に永久留置される。

放出制御素子:リザーバー前面に配置された多孔質膜。薬剤の受動拡散速度を制御する。

封鎖・固定部品

セプタム:自己封鎖性シリコン弁。充填交換時に34Gカニューラを刺入する部位。2022年のリコール原因(改良済み)。

フランジ:デバイスを強膜に固定するための翼状構造。縫合固定に使用される。

手術は8ステップで行われる。

ステップ内容
①結膜切開耳上側の結膜・テノン嚢を切開
②強膜切開3.5mmの強膜切開作成
③デバイス挿入リザーバーを硝子体腔内へ挿入
④フランジ固定縫合によりデバイスを強膜に固定
⑤初期充填確認ラニビズマブ100mg/mL充填済みであることを確認
⑥ダイオードレーザー網膜裂孔予防のためレーザー照射
⑦結膜縫合デバイスを完全に被覆するよう縫合
⑧術後確認眼圧・灌流・デバイス位置を確認

留置後の定期充填交換は外来で行われる。

  • 間隔:24週(約6か月)ごと
  • 使用薬剤:ラニビズマブ100mg/mL
  • 手技:34Gダブルカニューラを用いて古い薬剤を吸引しながら新しい薬剤を注入する。局所麻酔下で施行。

毎月硝子体内注射

投与間隔:1か月ごと(またはPRN・T&Eレジメン)

通院回数:年間12回以上の注射通院が必要な場合がある。

患者負担:注射恐怖・通院負担が大きく、治療継続率の低下につながりうる。

PDS(Susvimo)

投与間隔:24週(約6か月)ごとの充填交換

通院回数:年間2回の充填交換通院が基本。

患者満足度:Archway試験では93%の患者がPDSによる治療を好む(prefer)と回答した。

Q 充填交換は痛みを伴うか?
A

充填交換は局所麻酔下で外来にて行われる。点眼麻酔および結膜下麻酔を使用し、34Gの細径カニューラを使用するため侵襲は最小限である。術後の軽度不快感は生じうるが、通常は短期間で改善する。

6. 病態生理学・放出メカニズム

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PDSによる薬剤放出は受動拡散の原理に基づく。

放出制御素子(多孔質膜)の孔径と材質によりラニビズマブの拡散速度が制御される。リザーバー内の100mg/mLという高濃度薬剤が硝子体腔との濃度勾配を駆動力として持続的に放出される。この仕組みにより、硝子体内の薬剤濃度を毎月注射と同等の治療域に維持することが可能となる。

チタン製本体は生体適合性が高く、半永久的な留置が前提とされる設計である。デバイス本体の交換は不要であり、充填交換のみで長期にわたる治療継続が可能である。


7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)

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PDSの有効性を示す中心的なエビデンスはArchway試験である。

Archway試験(n=418)では、ラニビズマブ100mg/mL充填PDSの24週ごと充填交換レジメンが、毎月ラニビズマブ0.5mg硝子体内注射に対する非劣性を達成した。観察期間中、98.4%の患者でレスキュー治療(追加硝子体内注射)が不要であった。また、試験終了後のアンケートでは93%の患者がPDSによる治療を好む(prefer)と回答した。

Ladder試験・Portal試験(長期フォローアップ)

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  • Ladder試験(第2相):5年間の長期フォローアップにおいて、視力・解剖学的所見が安定して維持されることが示された。
  • Portal試験:48か月(4年)にわたる追跡においても長期安定性が確認された。

現在、nAMD以外の適応拡大を目的とした治験が進行中である。

  • PAGODA試験糖尿病黄斑浮腫DME)患者381人を対象とした試験。
  • PAVILION試験糖尿病網膜症(DR)患者106人を対象とした試験。

初期の臨床使用で課題となっていた硝子体出血について、術中ダイオードレーザーの導入により発生率が留置術前の約50%から5〜10%に低減されたことが報告されている。眼内炎については初期試験での発生例を受けた手技・デバイス改良により発生率の低下が図られている。

Q 日本ではPDSを受けられるか?
A

2026年3月時点では、Susvimo(PDS)は米国FDAの承認を取得しているが、日本での薬事承認状況については主治医または専門医療機関に確認が必要である。日本では承認取得前の医薬品・医療機器を通常の診療で使用することは原則できない。


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