Drusenoid型
形態:軟性ドルーゼンの融合によるドーム状隆起。
OCT所見:RPEとBruch膜間の均一な低〜中反射腔。
特徴:萎縮型加齢黄斑変性への進行リスクがある。視力は比較的保たれやすい。

網膜色素上皮剥離(Pigment Epithelial Detachment; PED)は、網膜色素上皮(RPE)層がその基底にあるBruch膜から分離し、両者の間に液体・脂質・血液・線維血管組織などが貯留した状態である。色素上皮剥離自体は独立した疾患ではなく、加齢黄斑変性・中心性漿液性脈絡網膜症(CSC)・ポリープ状脈絡膜血管症(PCV)・脈絡膜新生血管など多くの網膜疾患に伴う重要な臨床所見である。
加齢黄斑変性は色素上皮剥離の最多原因であり、特に新生血管型加齢黄斑変性(nAMD)の初期バイオマーカーとして重視されている。2)未治療のnAMD例では50%以上が1年以内に3行以上の視力低下をきたすとされる。2)
中心性漿液性脈絡網膜症においても色素上皮剥離の合併頻度は高く、急性期の中心性漿液性脈絡網膜症の9〜100%に色素上皮剥離合併が報告されている。1)
RPEがBruch膜から離れてドーム状に隆起した状態である。原因疾患により内容物(漿液・血液・線維血管組織など)が異なり、タイプによって予後と治療方針が変わる。詳細は「診断と検査方法」の項を参照。
色素上皮剥離単独では多くの場合無症状である。脈絡膜新生血管や漿液性網膜剥離の合併により以下の症状が出現する。
中心性漿液性脈絡網膜症に伴う色素上皮剥離では特徴的な日内変動が報告されている。コルチゾール値が高い覚醒時に色素上皮剥離が出現・拡大し、午後に縮小するパターンをとる例がある。1)
色素上皮剥離は貯留物の性状によって4つの主要タイプに分類される。
Drusenoid型
形態:軟性ドルーゼンの融合によるドーム状隆起。
OCT所見:RPEとBruch膜間の均一な低〜中反射腔。
特徴:萎縮型加齢黄斑変性への進行リスクがある。視力は比較的保たれやすい。
漿液性
形態:急峻な立ち上がりのドーム状隆起。内容は漿液。
OCT所見:RPE下の均一な無反射腔(光学的空洞)。
特徴:中心性漿液性脈絡網膜症・ポリープ状脈絡膜血管症・脈絡膜新生血管に伴う。自然消退例あり。
線維血管性
形態:緩やかな不整形隆起。内容は線維血管組織。
OCT所見:RPE下の中等度反射を示す不均一な腔。
特徴:1型脈絡膜新生血管に最も多い。治療反応が重要な予後因子。
出血性
形態:暗赤色の急峻な隆起。RPE下に血液貯留。
OCT所見:RPE下の高反射により深部は遮蔽される。
特徴:鉄毒性によるRPE障害リスク。巨大例は外科的治療の適応となることがある。3)
Multilayered 色素上皮剥離(多層型PED)は高反射層と低反射層が交互に積層した特殊な形態で、pre-choroidal cleftを65%に伴う。5)SS-OCTAでは扇形のtype 1 脈絡膜新生血管を認めることが多く、視力は比較的良好で裂孔リスクは低い。5)
大型色素上皮剥離の定義として、色素上皮剥離径>2500 μmの症例ではRPE裂孔リスクが特に高く、治療戦略の選択に影響する。4)
色素上皮剥離の基盤となる病態はBruch膜の機能障害であり、Bruch膜への脂質・コレステロール沈着や代謝産物の蓄積が液体の移動障害をきたす。脈絡膜新生血管が形成されると線維血管性・出血性色素上皮剥離に発展する。
主なリスク要因は以下の通りである。
中心性漿液性脈絡網膜症では、コルチゾールが脈絡膜血管透過性亢進・RPE直接障害・KCa2.3チャネル上方制御・コラーゲン合成抑制を介して色素上皮剥離を引き起こすと考えられている。1)
RPE裂孔のリスクは色素上皮剥離径と相関し、色素上皮剥離径>400 μmで裂孔リスクが有意に上昇する。4)線維血管性色素上皮剥離では15〜20%にRPE裂孔が生じるとされる。4)
色素上皮剥離の診断にはOCTが最も重要であり、タイプ判別・サイズ評価・経過観察に不可欠である。複数のモダリティを組み合わせて病態を総合的に評価する。
OCT
用途:色素上皮剥離の形態・タイプ・厚み評価。治療効果判定の標準ツール。
EDI-OCT:脈絡膜厚・脈絡膜血管構造の評価に有用。中心性漿液性脈絡網膜症・ポリープ状脈絡膜血管症診断の補助。
ICGA・FA
ICGA(インドシアニングリーン蛍光造影):ポリープ状脈絡膜血管症の確定診断。ポリープ病巣・分枝状血管網を直接描出する。
FA(蛍光眼底造影):脈絡膜新生血管の種類・活動性評価。漏出パターンの確認。
SS-OCTA
用途:非侵襲的な脈絡膜新生血管・フロー評価。繰り返し検査が可能。
Multilayered 色素上皮剥離:SS-OCTAで扇形type 1 脈絡膜新生血管を検出できる。5)
各検査の使い分けを以下に示す。
| 検査 | 主な用途 | 特記事項 |
|---|---|---|
| OCT/EDI-OCT | タイプ判別・厚み | 第一選択 |
| ICGA | ポリープ状脈絡膜血管症確定診断 | アジア人に重要 |
| FA | 脈絡膜新生血管活動性 | 漏出パターン評価 |
ポリープ状脈絡膜血管症診断においては、OCT基準(AUC 0.90)がICGAと高い一致率を示すことが報告されており、スクリーニングへの応用が期待される。4)
Multilayered 色素上皮剥離のSS-OCTA評価では、pre-choroidal cleft(65%)と扇形脈絡膜新生血管の特徴的パターンが診断の手がかりとなる。5)
全例に必須ではないが、ポリープ状脈絡膜血管症が疑われる場合(特にアジア人・大型漿液性色素上皮剥離・サムネイル型隆起)にはICGAが確定診断に不可欠である。一方でOCT基準のAUC 0.90という高い精度も報告されており、状況に応じて使い分ける。4)
色素上皮剥離の治療方針は原因疾患・タイプ・脈絡膜新生血管の有無・病変サイズによって決定される。
脈絡膜新生血管合併の線維血管性・漿液性色素上皮剥離には抗VEGF薬の硝子体内注射が第一選択である。
Chakraborty Sら(2023)は、Extra-large 色素上皮剥離(>350 μm)を有するnAMD例にブロルシズマブを投与し、4週で著明なsub-RPE液の減少を確認した。81歳例(最終視力20/80)および70歳例(最終視力20/32)でいずれも良好な経過が得られた。2)眼内炎症(IOI)の発生率はHAWK/HARRIER試験で4.4%であった。2)
色素上皮剥離径>2500 μmのポリープ状脈絡膜血管症例ではRPE裂孔リスクが高い。抗VEGF単独よりも半量PDT先行→アフリベルセプトの治療戦略が有効との報告がある。
Li Yら(2024)は、色素上皮剥離>2500 μmのポリープ状脈絡膜血管症例において半量PDT先行→アフリベルセプト投与で最終矯正視力20/20が得られたことを報告した。OCT基準のポリープ状脈絡膜血管症診断AUCは0.90であった。4)
出血性色素上皮剥離が>50乳頭面積に達する巨大例では、RPE障害進行を防ぐため外科的治療が検討される。
Zheng Fら(2023)は、巨大出血性色素上皮剥離(>50乳頭面積)に対し硝子体手術+tPA(25 μg/100 μL)+C3F8(0.3 mL)+抗VEGFの組み合わせを行い、術後1〜2週で血液が消失し51歳例で最終視力20/25を得た。RPE裂孔を介した血液排出機序が示唆された。3)
色素上皮剥離に合併した全層黄斑円孔(FTMH)には硝子体手術(ILM peeling+SF6ガス)が有効である。
Meyer PSら(2021)は9眼中8眼で全層黄斑円孔閉鎖を達成し、10年の長期観察でも円孔の再開通は認められなかった。6)
Drusenoid 色素上皮剥離上に生じた全層黄斑円孔(円孔径480 μm)では閉鎖率が低く、再手術が必要となる場合がある。再手術により閉鎖・最終視力20/40が得られた報告がある。7)AREDS2 category 3のドルーゼン眼では黄斑円孔閉鎖率が低い傾向があり、術式の工夫を要する。7)
タイプと原因疾患による。Drusenoid型色素上皮剥離や急性期の中心性漿液性脈絡網膜症に伴う漿液性色素上皮剥離は経過観察が原則である。脈絡膜新生血管合併例や拡大傾向のある出血性色素上皮剥離は治療介入を検討する。RPE裂孔リスクに応じた治療選択が重要であり、詳細は「病態生理学」の項も参照。
加齢に伴いBruch膜にコレステロール・酸化脂質・補体成分が沈着し、水分・代謝産物の輸送障害が生じる。脈絡膜毛細血管からの液体がBruch膜を通過できなくなり、RPE下に貯留して色素上皮剥離が形成される。1型脈絡膜新生血管がBruch膜を破壊せずにRPE下で増殖することで線維血管性色素上皮剥離が生じる。
中心性漿液性脈絡網膜症では精神的ストレス・ステロイド過剰によるコルチゾール上昇が主要な誘因である。コルチゾールはRPEに直接作用し、以下の機序で色素上皮剥離を引き起こす。1)
覚醒時コルチゾール値が高い朝に色素上皮剥離が出現・拡大し、午後に縮小する日内変動が観察されている。1)慢性化するとRPE萎縮が進行し、視力(20/200相当)の永続的な低下をきたす。1)
出血性色素上皮剥離では、血液中のヘモグロビンが分解されて生じた鉄イオンがRPEに直接毒性を示す。3)鉄毒性による光受容体障害は不可逆的であり、速やかな血液排出が視機能保護の鍵となる。巨大出血性色素上皮剥離ではtPAによる血栓溶解+ガスタンポナーデによるRPE裂孔経由の排出が有効である。3)
色素上皮剥離上の全層黄斑円孔では、硝子体の色素上皮剥離への付着と反対方向に作用する牽引力が円孔形成の誘因となる。6)通常の特発性全層黄斑円孔と比べて閉鎖率が低い理由として、RPE下液体の存在とRPE・Bruch膜の脆弱化が挙げられる。7)
Multilayered 色素上皮剥離は、1型脈絡膜新生血管によって産生された複数層の線維・基質・液体成分が交互に積層して形成される。5)高反射低反射の交互層と特徴的なpre-choroidal cleft(65%)がSS-OCTで観察される。5)この形態はRPEを保護する構造的緩衝帯として機能する可能性がある。
ブロルシズマブはその小分子(26kDa)・高VEGF-A結合親和性(2:1結合)から、網膜下・sub-RPE液の消失において既存の抗VEGF薬を上回る可能性が示唆されている。2)Extra-large 色素上皮剥離(>350 μm)を対象とした比較試験の充実が今後の課題である。IOI発生率(4.4%)の低減に向けた投与プロトコールの最適化も進行中である。2)
硝子体手術+tPA+ガスタンポナーデ+抗VEGFの組み合わせは症例報告レベルでの有効性が示されているが、症例数は限られている。3)血液排出のタイミング・tPA濃度・ガス種の最適化に関するエビデンスの蓄積が求められる。
ポリープ状脈絡膜血管症に伴う大型色素上皮剥離(>2500 μm)に対し、半量PDT先行→抗VEGF継続の戦略はRPE裂孔リスクを軽減しつつ視力予後を改善する可能性がある。4)OCTによるポリープ状脈絡膜血管症診断基準(AUC 0.90)の臨床実装により、ICGA非施行例へのアクセス向上が期待される。4)
Multilayered 色素上皮剥離はtype 1 脈絡膜新生血管の進行形態と考えられるが、視力予後が比較的良好で裂孔リスクも低い。5)この特殊な形態に対する抗VEGF治療の適応・効果に関するデータは乏しく、前向き研究が必要である。
コルチゾール値の正常化(ストレス管理・ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬eplerenone投与)による中心性漿液性脈絡網膜症関連色素上皮剥離の改善が探索されている。1)日内変動を活用したバイオマーカーとしての色素上皮剥離評価法の確立も今後の課題である。
コルチゾール経路・補体系・KCa2.3チャネルなどを標的とした新規治療の研究が進んでいる。現時点ではいずれも研究段階であり、標準治療としての確立には至っていない。