前方型
水晶体後面線維膜:白色瞳孔の主因。増殖した線維血管膜が水晶体後嚢に付着する。
毛様体突起延長:散瞳下に延長した毛様体突起が水晶体後面へ向かう所見を認める。
浅前房:水晶体が前方移動することで前房が浅くなる。
Mittendorf小点:水晶体後嚢に残存する硝子体動脈付着点。一般人口の1〜2%にも認められる軽微な遺残。

胎生血管遺残(Persistent Fetal Vasculature; PFV)は、胎生期に形成された硝子体血管系が出生後も退縮せずに遺残する先天性眼疾患である。旧来は「持続性過形成初代硝子体(Persistent Hyperplastic Primary Vitreous; PHPV)」と呼ばれていたが、1997年にGoldbergが疾患の本態をより正確に表す「PFV」へと改称した。現在では両者が同義として扱われる。
本疾患は白色瞳孔(白い瞳孔反射)をきたす疾患の中で2番目に多い原因である。患者の70〜90%は片眼性で、多くが非遺伝性である。ただし両眼性の場合はNorrie病や13トリソミーなどの全身疾患を伴うことがある。遺伝子レベルではATOH7遺伝子およびNDP遺伝子との関連が報告されている。
正期産児の眼底には硝子体動脈の痕跡が約3%に認められる一方、早産児では約95%に何らかの残存が確認される。ただし大多数は臨床的に問題のない軽微な遺残にとどまる。
PHPVはPFVの旧称であり、現在は同一疾患を指す。1997年にGoldbergが病態をより正確に表すためにPFVへの改称を提唱し、現在の国際的な標準名称はPFVである。日本でも両名称が混用されることがある。
新生児・乳幼児期に保護者が気づく症状が多い。
病変の主座により前方型・後方型・混合型(62%)に分類される。
前方型
水晶体後面線維膜:白色瞳孔の主因。増殖した線維血管膜が水晶体後嚢に付着する。
毛様体突起延長:散瞳下に延長した毛様体突起が水晶体後面へ向かう所見を認める。
浅前房:水晶体が前方移動することで前房が浅くなる。
Mittendorf小点:水晶体後嚢に残存する硝子体動脈付着点。一般人口の1〜2%にも認められる軽微な遺残。
後方型
大きく異なる。前方型では水晶体手術・前部硝子体手術により有用な視力が得られることがある。後方型は黄斑部が網膜ひだに含まれていたり変性していることが多く、視力予後は著明に不良である。5年後の視力中央値は前方型で20/100、後方型で20/800と大きな差がある1)。
胎生4週ごろ形成される硝子体動脈(第1次硝子体)は、胎生6週以降に第2次硝子体(無血管性透明硝子体)が形成されるにつれて退縮する。この退縮過程にはアポトーシスとマクロファージの活性化が必要であり、Wnt7b・Ang2・p53・VEGF・Arfなどの分子が関与することが明らかになっている。これらのシグナルが障害されると血管退縮が不完全となり、PFVが発症する。
体細胞モザイク仮説も提唱されており、受精後の体細胞変異が一部の症例の発症に関与する可能性がある。
両眼性PFVでは全身疾患の合併を積極的に検索する。関連が知られる主な疾患は以下の通りである。
PFVで最も重要な鑑別疾患は網膜芽細胞腫(生命を脅かす悪性腫瘍)であり、確実に除外する必要がある。
主要な鑑別疾患と鑑別のポイントを以下に示す。
| 疾患名 | 石灰化 | 眼球サイズ |
|---|---|---|
| PFV | なし | 小眼球 |
| 網膜芽細胞腫 | あり(90%以上) | 正常〜大 |
| 未熟児網膜症 | なし | 正常 |
白色瞳孔(白い瞳孔反射)は最重要の眼科緊急サインである。網膜芽細胞腫との鑑別が必要なため、発見後できる限り早急に専門施設の眼科を受診する必要がある。
PFVの治療目標は、(1)眼圧上昇・角膜混濁などの合併症予防、(2)可能な限りの視力獲得・維持、(3)弱視治療の3点である。
前方型は水晶体手術+前部硝子体手術が基本となる。後方型・混合型ではさらに後部硝子体手術が加わる。手術アプローチは通常前方角膜縁(輪部)アプローチが用いられる。
早期手術が視力予後に直結する。
PEDIG(小児眼疾患調査グループ)の白内障レジストリ研究(Haiderら、2024)では、生後77日以前に手術を施行した症例は77日以降の症例に比べ、指数弁以上の視力を得るオッズが13倍高いことが示された1)。
前方型への対応
水晶体摘出術:混濁した水晶体を除去する。多くは無水晶体として管理するか、小児では偽水晶体(眼内レンズ挿入)を選択する。
前部硝子体手術:水晶体後面の線維血管性膜および前部硝子体を切除する。
前部硝子体切除:96%の症例で施行される1)。
後方型への対応
後部硝子体手術:牽引性の硝子体索・網膜ひだの解除を行う。
網膜復位手術:牽引性網膜剥離を合併する場合に追加する。
視力予後:後方型は前方型より予後が著明に不良。機能回復には限界がある場合が多い。
術後の長期管理において以下の合併症に注意が必要である。
長期合併症の発生率を以下に示す(PEDIG白内障レジストリ、64眼・5年成績)1)。
| 合併症 | 5年累積発生率 |
|---|---|
| 緑内障 | 24%(無水晶体眼) |
| 視軸混濁 | 15〜45% |
手術後の弱視治療(健眼遮蔽療法)は視力予後改善に不可欠である。就学前からの継続的な遮蔽訓練が推奨される。
PEDIG白内障レジストリ(Haiderら、2024)の64眼・5年成績では、5年時点でVA 20/200以上を達成した症例は48%、年齢相応の視力(20/40以上)を達成した症例は10%にとどまった1)。無水晶体眼の中央視力は20/100、偽水晶体眼は20/400であった(偽水晶体PFVは有意に予後不良、OR 0.14)1)。前方型の中央視力は20/100、後方型は20/800と、後方型で著明に不良であった1)。
手術は視力予後改善の最大の機会だが、正常視力への回復は難しいことが多い。5年時点で年齢相応の視力(20/40以上)を達成するのは約10%にとどまる1)。視力回復の程度は病型(前方型・後方型)・手術時期・弱視治療の徹底度によって大きく異なる。
胎生4週ごろ、内頸動脈から分岐した硝子体動脈が硝子体腔に進入し、第1次硝子体の主体を形成する。胎生6週以降、無血管性透明ゲルである第2次硝子体が網膜側から形成を始め、第1次硝子体は周辺部へ押しやられて退縮する。
退縮過程は胎生後期から生後にかけて完了する。最終的な残存物として、水晶体後嚢のMittendorf小点・視神経乳頭上のBergmeister乳頭・硝子体動脈通路であったCloquet管のみが残るのが正常である。
硝子体血管の退縮にはアポトーシス(プログラム細胞死)とマクロファージによる貪食が必要である。この過程には複数の分子が関与する。
これらのシグナルが障害されると、硝子体血管周囲の線維血管組織が異常増殖し、水晶体の混濁・網膜の形成異常・小眼球をきたす。遺残組織の牽引が毛様体突起延長や網膜ひだの形成につながる。
小児眼疾患調査グループ(PEDIG)は小児白内障レジストリを通じてPFVを含む先天白内障の大規模データ収集を進めている。
Haiderら(2024)のPEDIGレジストリ研究(64眼・5年)では、視力20/200以上の達成率48%、緑内障24%、視軸混濁15〜45%が示された1)。過去の単施設報告(Bata研究33%、Anteby研究16.7%)と比較して視力達成率が向上しており、早期介入と体系的な術後管理の効果が示唆される1)。また偽水晶体眼での予後不良(OR 0.14)が定量的に示された点は、今後の手術戦略(無水晶体管理 vs 眼内レンズ挿入)の検討に重要な知見である1)。
小頭症・小眼球症・色素性網脈絡膜症(MPPC症候群)とPFVの関連が研究されている。分子遺伝学的解析により、硝子体血管退縮に関わる遺伝子変異の同定が進んでいる。
多くのPFVは非遺伝性とされてきたが、受精後の体細胞変異(モザイク)が発症に関与するという仮説が提唱されている。次世代シーケンシング技術の進歩により、今後この仮説の検証が進む見込みである。
現時点では発症した視力障害の完全回復は難しい。しかし長期データの蓄積により手術タイミングや術後管理の最適化が進んでいる。また分子遺伝学的な発症機序の解明から将来的な介入標的の開発も期待される段階にある。