この疾患の要点
周辺部網膜変性は鋸状縁 から赤道部に生じる変性変化の総称であり、多くは良性で無症状である。
格子状変性 は成人の5〜10%に認められ、裂孔原性網膜剥離 (RRD)眼の約40%に合併する。
症候性裂孔を未治療のまま放置すると、半数以上がRRDへ進行する可能性がある。1)
レーザー光凝固 によりRRDリスクを5%未満に低減できる。1)
診断には強膜 圧迫を併用した間接検眼鏡検査が標準的手技として推奨される。1)
格子状変性423眼の11年追跡では、臨床的RRDへ進行したのは3眼のみであった。1)
飛蚊症 ・光視症 が急に現れた場合は、速やかな眼科受診が必要である。
周辺部網膜変性(peripheral retinal degenerations)は、鋸状縁から赤道部にかけての周辺網膜 に生じる多様な変性変化の総称である。大部分は良性で無症候性であり、加齢とともに頻度が増す。
病変の解剖学的深さに基づき3群に分類される。
網膜内変性
定義 :網膜層内に限局する変性。
代表疾患 :格子状変性、蝸牛跡変性、嚢状変性、網膜タフト。
RRDリスク :格子状変性・牽引性網膜タフトは裂孔形成を介してリスクあり。
硝子体網膜変性
定義 :網膜と硝子体 の境界部に生じる変性。
特徴 :格子状変性辺縁部の強い硝子体癒着が典型例。
RRDリスク :後部硝子体剥離 (後部硝子体剥離)との相互作用で裂孔形成リスクが高まる。
脈絡網膜変性
定義 :網膜色素上皮 ・脈絡膜 を含む変性。
代表疾患 :敷石状変性。
RRDリスク :それ自体ではRRDリスクは低い。
多くの変性は生理的変化であり、定期検診や他疾患の精査時に偶発的に発見されることが多い。ただし特定のタイプは網膜裂孔 ・網膜剥離 の原因となりうるため、適切な管理が必要である。
Q 周辺部網膜変性は誰にでもあるのか?
A 周辺部嚢状変性はほぼすべての成人に認められる生理的変化であり、敷石状変性も成人の4〜28%に存在する。格子状変性は5〜10%にみられる。ただしRRDへ進展するのはごく一部であり、大多数は経過観察のみでよい。
周辺部網膜変性の大多数は無症状であり、定期検診や他疾患の精査時に偶発的に発見される。
以下の症状が現れた場合は、裂孔形成または網膜剥離の可能性がある。
飛蚊症 :硝子体混濁 による症状。後部硝子体剥離(後部硝子体剥離)や硝子体出血 を伴う際に生じる。
光視症(フォトプシア) :硝子体が網膜を牽引した際の閃光感。裂孔形成の警告症状となる。
視野欠損 :網膜剥離が生じた場合に出現する。剥離が中心窩 に及ぶと視力 低下を伴う。
急激な飛蚊症の増加 :硝子体出血の可能性があり、緊急受診を要する。
主要な周辺部網膜変性の特徴的所見を以下に示す。
格子状変性(lattice degeneration)
成人の5〜10%に認められる。近視 眼でさらに頻度が高い。
網膜の菲薄化・格子状の白線(硝子化した血管)・色素沈着が特徴。
辺縁部に硝子体との強い癒着を有し、萎縮円孔と牽引性裂孔の両方が生じうる。
RRD眼の約40%に格子状変性が合併する。一方、格子状変性自体のRRD発症率は0.3〜0.5%にすぎない。
蝸牛跡変性(snail track degeneration)
一般成人の約10%、近視眼では約40%に認められる。
光沢のある白色点が蝸牛の跡のように並ぶ外観が特徴。
格子状変性の亜型または前駆状態と考えられている。
敷石状変性(cobblestone degeneration)
成人の4〜28%に認められる。加齢・高度近視・末梢血管疾患で頻度が増す。
周辺部に離散した淡い黄白色の萎縮斑が敷石状に並ぶ。
脈絡毛細血管の局所的欠損による網膜色素上皮・外層網膜の萎縮が原因。
RRDリスクは低い。
網膜タフト(retinal tufts)
成人の最大72%に認められる最も頻度の高い変性。
有嚢胞・無嚢胞・牽引性の3種類に分類される。
牽引性網膜タフトは硝子体との癒着が強く、後部硝子体剥離時に牽引性裂孔を形成しやすい。
嚢状変性(cystoid degeneration)
ほぼすべての成人に認められる生理的変化。
外網状層に空洞が形成され、周辺網膜分離症 (retinoschisis)へ進行することがある。
Q 硝子体出血を伴う後部硝子体剥離で裂孔が見つかる頻度は?
A 硝子体出血を伴う後部硝子体剥離では約70%に網膜裂孔が合併するとされており、即時の精査が必要である。散瞳 下での詳細な眼底検査 (「診断と検査方法」の項 参照)を速やかに行うことが重要である。
周辺部網膜変性の主な原因とリスク要因は以下の通りである。
加齢 :最も基本的な要因。嚢状変性・敷石状変性は加齢とともに頻度が増す。
近視 :格子状変性・蝸牛跡変性の頻度が高まる。眼軸長 の延長による周辺網膜の機械的伸展が関与する。
後部硝子体剥離(PVD) :牽引性裂孔形成の直接的誘因となる。
遺伝的素因 :Stickler症候群・Wagner症候群などの結合組織疾患では格子状変性が高頻度に合併し、若年性RRDのリスクが高い。
外傷 :眼球打撲による急性変化(dialysis)を起こしうる。
脈絡膜循環不全 :敷石状変性の主要な成因。末梢血管疾患・高血圧が関与する。
周辺部網膜変性の診断には、周辺網膜を詳細に観察できる検査手技が必要である。
間接検眼鏡+強膜圧迫 :周辺網膜の標準的な観察法。AAO PPPガイドラインでは強膜圧迫を併用した間接検眼鏡検査を推奨している。1) 強膜圧迫により鋸状縁付近の変性・裂孔を詳細に観察できる。
散瞳下細隙灯三面鏡検査 :前周辺部まで観察可能。三面鏡の周辺部レンズを使用する。
超広角眼底カメラ :非散瞳または低散瞳で広範囲の眼底撮影が可能。変性の記録と経時的比較に有用。
光干渉断層計 (OCT) :格子状変性の網膜菲薄化・嚢状変化の確認。広角OCTにより従来困難だった周辺部の断層像観察が可能となっている。
蛍光眼底造影 (FA) :格子状変性内の無灌流領域 や脈絡膜循環異常の確認。
眼底自発蛍光 (FAF) :RPE変化の評価に補助的に用いる。
AAO PPPガイドライン(2019)では以下のフォローアップが推奨されている。1)
変性の種類・状態 推奨フォローアップ間隔 無症候性萎縮円孔 1〜2年ごと 無症候性格子状変性 1〜2年ごと 症候性・治療後裂孔 治療後2〜4週、以後定期的に 高リスク(強い牽引・対側眼RRD既往) より短い間隔で
周辺部網膜変性の治療方針は、変性の種類・症状の有無・裂孔の状態・患者背景によって決定される。
多くの周辺部網膜変性は良性であり、経過観察が基本方針となる。
無症候性の格子状変性・萎縮円孔は定期観察のみとすることが多い。
AAO PPPガイドラインが引用する長期追跡研究では、格子状変性423眼を約11年間観察した結果、35%に萎縮円孔を認めたが、臨床的RRDへ進行したのは3眼のみであった。1)
適応となりやすい病変
症候性裂孔(飛蚊症・光視症を伴う格子状変性内裂孔、馬蹄形裂孔 )
対側眼にRRD既往を持つ患者の網膜裂孔
無水晶体 眼・IOL 挿入眼の網膜裂孔
硝子体手術 前の予防処置
治療効果
症候性裂孔にレーザーを施行することで、RRDリスクを5%未満に低減できる。1) 一方、未治療の症候性裂孔では半数以上がRRDへ進行する可能性がある。1)
孤立性の網膜裂孔では裂孔周囲のみの光凝固でよいが、格子状変性辺縁の裂孔では裂孔と変性巣全体を取り囲む必要がある。治療後2〜4週での確認が推奨される。1)
変性が網膜剥離へ進行した場合は手術が必要となる。
強膜バックリング術 (輪状締結術) :裂孔を外側から圧迫し復位を図る。硝子体液化が進行していない比較的若年の症例に適応。
硝子体手術(PPV ) :広範なRRD・黄斑部 剥離・増殖硝子体網膜症 を伴う症例に適応。
気体網膜復位術 (pneumatic retinopexy) :上方裂孔の単純なRRDに対し外来で施行可能。治療成績はバックリングやPPVよりやや劣る場合がある。
Q 格子状変性があると言われたが、手術は必要か?
A 格子状変性のみで無症状の場合、多くは定期観察のみで手術は不要である。長期追跡でも423眼中RRDに至ったのは3眼のみであった。1) ただし飛蚊症・光視症が出現した場合は速やかに受診し、裂孔の有無を確認することが重要である。
格子状変性は複数の組織変化が複合して生じる。
網膜血管の閉塞 :病変内の小血管が消失し、格子状の白線(硝子化した血管)として観察される。血管閉塞に伴い周囲組織への栄養供給が低下する。
網膜菲薄化 :内層から外層にかけて進行性に菲薄化し、萎縮円孔の原因となる。
辺縁部硝子体癒着の強化 :病変辺縁部では硝子体との癒着が強く、後部硝子体剥離進行時の牽引で馬蹄形裂孔(弁状裂孔)を生じやすい。
嚢状変性は外網状層(Henle線維層)に空洞が形成される状態である。空洞が拡大して内層と外層が分離すると周辺網膜分離症(retinoschisis)となる。外層に孔が形成されない限りRRDリスクは低いが、内外両層に孔が生じた場合はRRDに進行しうる。
脈絡毛細血管板の局所的閉塞により、RPEと外層網膜が虚血性萎縮を起こす。萎縮部は周囲に比べ色調が淡く境界明瞭で、敷石状に密集することが多い。変性巣内の網膜はブルッフ膜 と強く癒着しており、それ自体では硝子体との癒着形成が少なく、RRDへの直接的な関与は低い。
周辺部網膜変性を背景とした裂孔原性網膜剥離(RRD)の発症経路は2つある。1)
萎縮円孔経路 :格子状変性内の網膜菲薄化が進行し、円形の網膜孔(萎縮円孔)が形成される。硝子体液化が進んだ場合に網膜下液 の流入によりRRDへ進展する。若年者に多く、進行は比較的緩徐。
牽引性裂孔経路 :後部硝子体剥離が進行する際、格子状変性辺縁部・牽引性網膜タフトとの癒着部に牽引力が集中し、馬蹄形裂孔が形成される。その後急速にRRDへ進展することが多い。
AAO PPPガイドライン(2019)が引用する格子状変性の長期追跡研究では、423眼を平均約11年間追跡した結果、萎縮円孔の形成は35%に認められたが、臨床的なRRDへ進行したのは3眼のみであった。1) この結果は無症候性格子状変性に対する経過観察の妥当性を支持する根拠となっている。
広角光干渉断層計(wide-field OCT)の進歩により、従来は観察困難であった周辺網膜の断層像をリアルタイムに非侵襲的に評価できるようになった。格子状変性の層別菲薄化・嚢状変化・分離の程度を定量化する研究が進行中であり、RRDリスク予測への応用が期待されている。
AAO Retina/Vitreous Panel. Posterior Vitreous Detachment, Retinal Breaks, and Lattice Degeneration Preferred Practice Pattern. San Francisco: American Academy of Ophthalmology; 2019.
記事の全文をコピーして、お好みのAIに貼り付けて質問できます
下のAIを開いて、チャット欄に貼り付け(ペースト) してください