OCT所見
網膜内液(IRF)優位:PPSではSRFよりIRFが優位に認められることが多い2)。
EZ障害の進行:楕円体帯(EZ)の障害が経過とともに拡大する例が報告されている2)。
鼻側脈絡膜肥厚:鼻側が特に顕著であり、431〜554μmに達する例がある3)。
乳頭周囲線維性増殖(PFP):PPSのバイオマーカーとして注目される所見である3)。

乳頭周囲パキコロイド症候群(peripapillary pachychoroid syndrome; PPS)は、視神経乳頭周囲の脈絡膜が異常に肥厚し、乳頭周囲に滲出性病変をきたす疾患である。2018年にPhasukkijwatanaらによって初めて報告された1)3)。
PPSはパキコロイド疾患スペクトラム(pachychoroid disease spectrum; PDS)の一亜型に位置づけられる4)。PDSは脈絡膜肥厚・pachyvessels(拡張した外層脈絡膜血管)・脈絡膜毛細血管板の菲薄化を共通の病態基盤とする疾患群であり、中心性漿液性脈絡網膜症、パキコロイド新生血管(PNV)、ポリープ状脈絡膜血管症(PCV)などを含む4)5)。
典型的な患者像は高齢男性の遠視眼である。乳頭周囲脈絡膜皺襞が77%の症例に認められ、短眼軸は39%に認められる1)。眼軸長は典型例で22mm台(患眼22.3/22.5mm)とされる1)。
PPSと中心性漿液性脈絡網膜症はいずれもPDSの亜型であり病態基盤を共有するが、病変の分布が異なる。PPSでは脈絡膜肥厚と滲出が黄斑部ではなく乳頭周囲に局在し、網膜内液(IRF)が網膜下液(SRF)より優位に出現することが多い2)。中心性漿液性脈絡網膜症ではFAで明らかな漿液性漏出を認めるが、PPSでは乳頭周囲の限局した滲出にとどまる点も異なる。
PPSの自覚症状は緩徐に進行する視力低下が主体である1)。急激な視力喪失ではなく、気づかないうちに進行することも多い。変視症(物がゆがんで見える)を訴える場合もある。
OCT所見
網膜内液(IRF)優位:PPSではSRFよりIRFが優位に認められることが多い2)。
EZ障害の進行:楕円体帯(EZ)の障害が経過とともに拡大する例が報告されている2)。
鼻側脈絡膜肥厚:鼻側が特に顕著であり、431〜554μmに達する例がある3)。
乳頭周囲線維性増殖(PFP):PPSのバイオマーカーとして注目される所見である3)。
画像・眼底所見
乳頭周囲脈絡膜皺襞:症例の77%に認められる特徴的所見。
乳頭周囲異常吻合血管(AVL):FAでリング状染色として観察される1)2)。
短眼軸・遠視眼:眼軸長22mm台の遠視眼が典型的1)2)。
両眼性:多くの症例で両眼に病変を認める。
PPSでは網膜下液(SRF)よりも網膜内液(IRF)が優位に認められる傾向がある2)。これは乳頭周囲脈絡膜静脈から前篩板部を介した側副循環経路との関連が考えられており、病態生理的に興味深い特徴である。詳細は「病態生理学」の項を参照。
PPSの発症には複数の要因が関与すると考えられている。
PPSの診断には複数の画像検査を組み合わせることが重要である。診断の遅れや誤診(特に網膜静脈分枝閉塞症や中心性漿液性脈絡網膜症との混同)が起こりやすい3)。
各画像検査の特徴を以下に示す。
| 検査 | 主な所見 | 特記事項 |
|---|---|---|
| EDI-OCT | 乳頭鼻側CT↑、IRF、EZ障害 | 最重要検査3)4) |
| ICGA | pachyvessels、AVL描出 | 早期相での評価が有用1)2) |
| OCTA | 脈絡膜毛細血管板の血流評価 | PDS診断で感度97%4) |
PPSは以下の疾患と誤診されやすい。
PPSの乳頭周囲滲出は網膜静脈分枝閉塞症による出血・滲出と外観が類似することがある。実際にアフリベルセプト5回投与が無効で、後にPPSと診断され光線力学的療法で消失した症例が報告されている3)。EDI-OCTでの乳頭周囲脈絡膜肥厚とICGAでのpachyvesselsの確認が正確な診断に不可欠である。
PPSの治療戦略は確立されておらず、症例ごとに個別対応が求められる。
経過観察
自然軽快例:3か月程度で自然軽快する症例が報告されている2)。
長期経過:5年間の無治療経過観察で最高矯正視力(BCVA)20/20を維持した例もある2)。
適応:症状が軽度で視力が保たれている場合の第一選択肢。定期的なEDI-OCTによる観察が必要。
薬物療法
ステロイド点眼:プレドニゾロン1%点眼TIDから開始して漸減投与が行われた報告がある。3か月で最高矯正視力 20/25まで改善し、9か月後も再発なし1)。
炭酸脱水酵素阻害薬(CAI):ドルゾラミド点眼が使用された例がある3)。
ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA):エプレレノン25mg 1日2回が使用された例がある3)。
光線力学的療法
光線力学的療法(ハーフフルエンス):25 J/cm²のハーフフルエンス光線力学的療法施行例で2か月後に滲出液が消失した報告がある3)。
適応:薬物治療が無効な場合や滲出が持続する場合に検討される。抗VEGF薬無効例でも有効性が報告されている3)。
治療法ごとの報告された投与条件と転帰を以下に示す。
| 治療 | 投与法・条件 | 報告された転帰 |
|---|---|---|
| プレドニゾロン点眼 | 1%TID→漸減1) | 3か月で最高矯正視力 20/25 |
| エプレレノン+ドルゾラミド | 25mgBID+点眼3) | 3か月で改善 |
| 光線力学的療法(ハーフフルエンス) | 25 J/cm²3) | 2か月で消失 |
PPSに対する抗VEGF薬の有効性は確立されていない。アフリベルセプト5回投与が無効であった症例が報告されており3)、PDS全般での位置づけも不確定とされている4)。PPSが疑われる場合は、抗VEGF薬に頼る前に正確な診断を行うことが重要である。
PPSの病態は、乳頭周囲における脈絡膜血管異常と静脈流出障害を中心とした複合的なメカニズムで説明される。
Donvito & Primaveraは、乳頭周囲脈絡膜静脈から前篩板部を経由して中心網膜静脈(CRV)へと向かう側副循環経路を提唱した2)。この経路における静脈圧の上昇が、網膜内液(IRF)優位の滲出パターンを引き起こすと考えられる。
同報告では、就業後と休暇後で脈絡膜厚(CT)が+33〜+104μmの変動を示したことが報告されており、精神的・身体的ストレスがPPSの病態に影響する可能性が示唆されている2)。長期経過では楕円体帯(EZ)障害が進行し拡大することも確認されている2)。
Cheung CMGらは、PPSを含むPDS全般について、複数の誘因が重なることで発症するmulti-hit theoryを提唱している4)。遺伝的素因(pachyvessels形成傾向)に加えて、局所的・全身的ストレス因子が組み合わさることで発症閾値を超えると考えられる。
脈絡膜の渦静脈吻合(vortex vein anastomosis)の存在がPDS各亜型で高頻度に認められる。中心性漿液性脈絡網膜症で90%、PNVで95%、ポリープ状脈絡膜血管症で98%に渦静脈吻合が確認されており5)、乳頭周囲を含む後極部全体の脈絡膜血流動態がPPS発症に関与すると考えられる。
無治療で経過観察された症例では、楕円体帯(EZ)障害が経過とともに拡大することが報告されている2)。視力は長期にわたって保たれる場合があるが(5年間最高矯正視力 20/20を維持した例2))、光受容体の不可逆的変化の可能性に留意が必要である。
PPSに対するハーフフルエンス光線力学的療法の有効性は少数症例での報告にとどまる。
Bouzika et al.(2022)は、網膜静脈分枝閉塞症と誤診されアフリベルセプト5回投与が無効であったPPS症例に対し、25 J/cm²のハーフフルエンス光線力学的療法を施行し、2か月後に滲出液の完全消失を達成したと報告した3)。
光線力学的療法がPPSに対してどのような機序で作用するか、またどの患者に適応すべきかについての前向き研究は今後の課題である4)。
Donvito & Primaveraが提唱した「乳頭周囲脈絡膜→前篩板部→CRV」の側副循環経路は、IRF優位のPPS病態を説明しうる仮説として注目されている2)。今後のICGA・OCTAを用いた前向き研究による検証が求められる。
Cheung CMGらは、PDSにおける疾患定義・分類の明確化とバイオマーカーの体系化を提唱している4)。乳頭周囲線維性増殖(PFP)のPPSバイオマーカーとしての意義3)や、OCTAの高感度診断ツールとしての有用性(感度97%)4)を含め、診断・治療基準の国際的な統一が今後の課題である。