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網膜・硝子体

乳頭周囲脈絡膜内空洞(PICC)

1. 乳頭周囲脈絡膜内空洞(PICC)とは

Section titled “1. 乳頭周囲脈絡膜内空洞(PICC)とは”

乳頭周囲脈絡膜内空洞(peripapillary intrachoroidal cavitation; PICC)は、強度近視眼の乳頭周囲コーヌス(視神経乳頭周囲の三日月状の露出強膜領域)の下縁に生じる空洞性病変である。眼底では境界鮮明な黄橙色の斑状病変として観察される。

2003年にFreundらが初めて報告し、その後Toranzoらが光干渉断層計(OCT)を用いて病変が脈絡膜内に位置することを確認し「脈絡膜内空洞」と改称した。有病率は報告によって2.2〜17%と幅がある2)。強度近視患者の一定割合に認められる疾患である。下耳側への好発は、視神経乳頭耳側の領域が最大の機械的張力を受けることに関連する2)

Q PICCはどのような患者に多いか?
A

強度近視眼に特徴的な病変であり、後部ぶどう腫や乳頭周囲萎縮(γPPA・PPS)を伴う眼に多く認められる。軸長が著しく延長した高度近視眼で検出頻度が高く3)、下耳側への発生が最多と報告されている2)

PICCの多くは無症状であり、検査中に偶然発見される。視神経や内層網膜の菲薄化が進行した症例では自覚症状が生じる。

  • 視野欠損:下方弓状暗点が典型的。視野欠損を認める症例は最大71%との報告がある2)
  • 視力低下:空洞自体による著明な視力低下は通常みられない。合併する黄斑萎縮・後部ぶどう腫が視力低下に関与することがある。

眼底・画像所見

眼底カラー写真:乳頭周囲コーヌス下縁に境界鮮明な黄橙色病変として観察される。検出感度は46〜53%にとどまる。

SD-OCT:脈絡膜内に低反射の空洞腔として描出される。網膜色素上皮は平坦で剥離を伴わない。最も確実な診断手段である。

マルチカラー撮影:短波長光は脈絡膜深層に到達できず、空洞内にメラニンがないため赤外線も反射しない。このためPICCは検出不能となる1)

フルオレセイン蛍光造影(FA:初期に低蛍光を示し、後期に染色される。

機能検査所見

相対的求心性瞳孔散大(RAPD):1.5 log unit のRAPDが報告されている2)

RNFL菲薄化:罹患眼では平均69 μmと有意な菲薄化を認める2)

GC-IPL菲薄化:罹患眼では平均60 μmの菲薄化を認める2)

視野欠損:下方弓状暗点が典型的。下耳側の欠損が最多であり、16か月の経過で進行が確認されている2)

Q PICCは視力を著しく低下させるか?
A

空洞自体で著明な視力低下をきたすことは少ない。ただし視野欠損(下方弓状暗点)は最大71%に報告され2)、一部では16か月の追跡で視野欠損の進行が確認されている2)。合併する近視性眼底変化が視力予後を左右する。

PICCは強度近視に密接に関連する病変である。眼軸延長に伴う後部強膜の弯曲が乳頭周囲組織に慢性的な機械的ストレスをもたらすことが、PICC発生の基盤と考えられている。

眼軸・屈折要因

強度近視・高度眼軸延長:後部ぶどう腫を伴う眼軸31 mm超の高度近視眼で発症リスクが高い3)

乳頭周囲萎縮(γPPA・PPS):γゾーン乳頭周囲萎縮や傍乳頭強膜の変性はPICC形成と密接に関連する。

解剖学的変化

後方強膜弯曲:強度近視による後極部変形が乳頭周囲組織の菲薄化をもたらす。

乳頭周囲コーヌス形成:視神経乳頭周囲の強膜露出部(コーヌス)の下縁に最も多く発生し、下耳側が最多と報告されている2)

病因の主要仮説

Elschnig体破綻説:近視性ぶどう腫進行に伴い乳頭周囲のElschnig体が破綻して空洞を形成するとする説(Toranzo)。

液体流入説:眼圧変動・眼球運動に伴い脈絡膜内に液体が流入するとする説(Wei)。

後方強膜弯曲説:網膜色素上皮・網膜の変位を伴わずに強膜が後方へ弯曲することでPICCが生じるとする説。

PICCの診断はSD-OCTが基本となる。各検査法の検出能を以下に示す。

検査法検出能・特記事項
SD-OCT最高感度。脈絡膜内低反射腔として描出
眼底カラー写真検出率46〜53%。見逃しが多い
マルチカラー検出不能(波長到達・反射の問題)1)
FA初期低蛍光→後期染色
OCTA耳側乳頭周囲血管密度(VD)の低下
  • SD-OCT:乳頭周囲コーヌス下縁に網膜色素上皮正常面下の低反射腔として描出される。EDI-OCT(深部強調OCT)を用いると後方強膜弯曲との関係がより明瞭に確認できる。
  • 眼底カラー写真の限界:約半数で病変を検出できない。OCTなしでの除外は困難である。
  • マルチカラー撮影の限界:短波長(青・緑)光がコーヌス部分の脈絡膜深層に到達できず、空洞内にメラニン色素がないため赤外線反射も得られないため、PICCを描出できない1)

PICCは緑内障・視神経症と類似した視野欠損・RNFL菲薄化・RAPDを呈する。特に以下の鑑別が重要である2)

  • 正常眼圧緑内障:眼圧正常でも視野欠損・RNFL菲薄化をきたす点が共通。強度近視眼でのOCT確認が鑑別の鍵。
  • 前部虚血性視神経症:急性発症・乳頭浮腫の有無で鑑別する。
  • 後天性視神経萎縮:脳MRIなど全身精査が必要。

Belamkarら(2022)の報告した症例では、血液検査(ACE、CRP、ESR、ANCA、QuantiFERON、梅毒、ライム病等)および脳MRIはすべて正常であった2)。蛍光眼底造影でも新生血管を示す過蛍光は認められず、PICCの診断が確定した。

Q 眼底写真だけでPICCを診断できるか?
A

眼底カラー写真の検出率は46〜53%にとどまり、半数近くで見逃される。マルチカラー撮影でも検出不能である1)。確実な診断にはSD-OCTが必須である。

現時点ではPICCに対する確立された積極的治療法はなく、定期的な経過観察が基本方針となる。

無症状で視野欠損がない症例では、定期的なOCT・視野検査による追跡を行う。視野欠損が認められる場合も、進行速度が緩徐であれば経過観察を継続する。

緑内障類似の視野欠損を伴う症例では、眼圧下降・神経保護を目的とした点眼薬の使用が提案されることがある。しかし、PICCを対象としたエビデンスは現時点では乏しく、有効性は確立されていない2)

後部ぶどう腫・黄斑萎縮・近視性脈絡膜新生血管など強度近視に関連した合併症が生じた場合は、それぞれの疾患に応じた治療を行う。近視性脈絡膜新生血管に対しては抗VEGF療法が適応となる。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

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PICCの発症機序として最も有力なのは、後方強膜弯曲を主体とする機械的仮説である。

強度近視による眼軸延長に伴い後部強膜は著明に弯曲し、乳頭周囲組織は菲薄化する。眼圧変動・眼球運動による機械的ストレスが繰り返し加わることで、脈絡膜内に液体が貯留し空洞が形成されると考えられている。

空洞形成に伴う主な病態は以下の通りである2)

  • 内層網膜への影響:空洞の存在が乳頭周囲の内層網膜(RNFL・GC-IPL)の菲薄化をもたらす。罹患眼では平均RNFL 69 μm・GC-IPL 60 μmの菲薄化が報告されている2)
  • 視野障害の機序:RNFL菲薄化が下方弓状線維に優先的に生じることで、下方弓状暗点が出現する。拡大する嚢胞が上方の内層網膜を障害し、軸索流を阻害する可能性もある2)
  • RAPDの発生:視神経線維への影響により、1.5 log unit のRAPDが生じ得る2)

Belamkarら(2022)が報告した55歳男性の症例では、3年間の漸進的視力低下を主訴とし、検査によりRAPD 1.5 log unit・RNFL 69 μm・GC-IPL 60 μmの菲薄化が確認された2)。下方弓状暗点は16か月の経過観察で進行し、PICCが視野欠損の直接原因となりうることが示された。

強度近視における後部ぶどう腫の進行は、黄斑萎縮を含む眼底変化を経時的に悪化させる3)。PICCはこうした強度近視の構造変化の一部として位置づけられる。


7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)

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Belamkarら(2022)は16か月の追跡期間中に下方弓状暗点が上鼻側にも進行することを記録し、PICCが視野欠損の進行に直接関与する可能性を示した2)。PICC自体が原因か、強度近視に伴う視神経症の二次的変化かは未解明であり、前向き長期追跡研究の蓄積が必要とされている。

マルチカラー撮影の限界と画像モダリティの選択

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Venkateshら(2021)は、眼底カラー写真ではPICCが検出可能な一方、マルチカラー撮影では検出不能であることを症例報告で示した1)。その原因として、短波長光の到達不能とメラニン欠如による赤外線反射消失を挙げた。この知見は、PICCのスクリーニングにおけるモダリティ選択の重要性を示唆しており、マルチカラー撮影に依存した評価ではPICCを見逃すリスクがある1)

PICC関連の視野障害に対し、ブリモニジン酒石酸塩などの神経保護作用を有する薬剤が提案されることがある2)。しかし現時点ではPICCを対象とした臨床試験のデータは乏しく、有効性は確立されていない。

強度近視における眼底変化との関連

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Carlàら(2025)は1228眼の強度近視(平均軸長31.6 mm)を解析し、後部ぶどう腫と黄斑萎縮が経時的に進行することを示した3)。PICCを含む乳頭周囲病変と黄斑変化の関連については、さらなる長期追跡研究が必要である。

Q 将来的に有効な治療法は開発されるか?
A

現在、神経保護薬(ブリモニジン等)や強度近視の眼軸制御治療(低濃度アトロピン、オルソケラトロジー等)との関連で研究が進んでいる。ただし、PICCを直接標的とした治療のエビデンスはまだ乏しく2)、長期的な追跡研究の結果が待たれる。


  1. Venkatesh R, Sinha S, Nayak S, et al. Peripapillary intrachoroidal cavitation: why is it visible on fundus photography but not on multicolour imaging? BMJ Case Rep. 2021;14:e246837.
  2. Belamkar AV, Kohli C, Bhola R, et al. Peripapillary intrachoroidal cavitation presenting as progressive visual field defect. Neuro-Ophthalmology. 2022;46(4):254-257.
  3. Carlà MM, Giannuzzi F, Gambini G, et al. Long-term progression of macular atrophy in high myopia with posterior staphyloma. Ophthalmol Retina. 2025;9:774-786.

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