ペグセタコプラン
標的:補体C3/C3b
作用点:補体カスケード中枢(C3転換酵素上流)
投与間隔:月1回または隔月
FDA承認:2023年2月

ペグセタコプラン(pegcetacoplan、商品名: Syfovre)は、地図状萎縮(geographic atrophy; GA)を対象に2023年2月に米国FDAが承認した、補体C3/C3b阻害薬である。GAに対して承認された初の治療薬(first-in-class)であり、15 mg/0.1 mLを月1回または隔月で硝子体内に注射する3)。
地図状萎縮(GA)は非滲出型(萎縮型)加齢黄斑変性(AMD)の末期段階であり、網膜色素上皮(RPE)・光受容体・脈絡膜毛細管板が不可逆的に消失する。世界で約500万人が罹患し、英国では患者の26%が法的失明に至る5)。2年間の追跡では75%が5文字以上・50%が10文字以上・25%が15文字以上の視力を喪失する5)。
先行する第2相FILLY試験(246名)でGA病変拡大の抑制が示され8)、その後のOAKS/DERBY Phase 3試験で有効性と安全性が確立された2)。
滲出型への移行がなく、加齢黄斑変性に伴うGAが確認された成人患者に使用する。OAKS/DERBY試験では中心窩下・傍中心窩のGA患者が対象であった。日本では2026年3月時点で未承認である。
GAは緩徐に進行するため、患者自身が気づきにくい段階が長期間続く。
75%の患者が2年間で5文字以上の視力喪失を経験し5)、病変が中心窩下・単発の場合は進行が速い傾向がある5)。
マルチモーダルイメージングで評価する。
病変が中心窩下・単発病巣の場合に最も進行が速い傾向がある5)。個人差が大きく、定期的な画像検査によるモニタリングが必要である。
GAは多因子疾患であり、補体系の慢性的な制御障害が主要な病因の一つである。
GAの診断と治療効果・副作用モニタリングには複数の画像検査を組み合わせる。
主な検査法を以下に示す。
| 検査 | 主な目的 | 特徴 |
|---|---|---|
| FAF | GA範囲の定量 | 低自発蛍光で萎縮範囲を測定 |
| OCT | cRORA/iRORA評価 | 断層構造でRPE・光受容体を確認 |
| FA/ICGA | CNV・血管炎の検出 | 漏出・血管壁染色を確認 |
両検査は相補的である。FAFはGAの面積・形状の全体像を把握するのに適し、OCTはRPEと光受容体の層構造を詳細に評価できる。cRORAとiRORAの鑑別にはOCTが不可欠である4)。
ペグセタコプランの有効性はOAKS試験(n=637)とDERBY試験(n=621)の2つのPhase 3 RCTで検証された2)。
24ヵ月時点でのGA病変拡大抑制率(対偽薬比)は以下の通りである2)3)。
| 試験 | 月1回 | 隔月 |
|---|---|---|
| OAKS | 22% 抑制 | 18% 抑制 |
| DERBY | 19% 抑制 | 16% 抑制 |
Heierら(Lancet 2023)はOAKS/DERBYのプール解析で、月1回・隔月いずれの投与間隔でも統計的に有意なGA抑制を報告した2)。BCVA(最高矯正視力)の有意な改善は両試験で認められなかった2)。
GALE試験は36ヵ月時点での長期データを評価した延長試験である。月1回投与群においてマイクロペリメトリーで評価したjunctional zone(境界帯)の感度保持に統計的有意差(P=0.0156)が認められた4)。
15 mg/0.1 mLを硝子体内に注射する。投与間隔は月1回または隔月から選択する3)。
同じGA治療薬のアバシンカプタドペゴル(Izervay; 補体C5阻害薬)と比較して、ペグセタコプランはC3を標的とするためより上流の補体阻害が得られる3)。
ペグセタコプラン
標的:補体C3/C3b
作用点:補体カスケード中枢(C3転換酵素上流)
投与間隔:月1回または隔月
FDA承認:2023年2月
アバシンカプタドペゴル
標的:補体C5
作用点:補体カスケード下流(MAC形成抑制)
投与間隔:月1回または隔月
FDA承認:2023年8月
副作用の頻度は以下の通りである3)。
| 副作用 | 頻度 |
|---|---|
| 眼内炎症(IOI) | 2.1〜3.8% |
| 新規CNV発症 | 月1回11%/隔月8%(OAKS) |
| 眼内炎 | 0.03%/注射 |
| 網膜血管炎 | 0.01%/注射(市販後) |
眼内炎症(IOI):2.1〜3.8%に報告される副作用である3)。充血・霧視・飛蚊症などの症状を呈し、ステロイド点眼で対処することが多い。
新規脈絡膜新生血管(CNV)発症:OAKS試験では月1回投与群で11%・隔月投与群で8%に新規CNVが発症した3)。滲出型加齢黄斑変性への移行であり、抗VEGF薬の追加治療が必要となる。
網膜閉塞性血管炎:市販後調査(ASRS REST委員会)では0.01%/注射の頻度で報告された7)。まれだが視力予後に重大な影響を及ぼしうる重篤な副作用である(「病態生理学」の項参照)。初回注射での発症例があり1/4000程度の頻度とされる7)。
OAKS/DERBY試験ではBCVAの有意な改善は認められなかった2)3)。効果はGA病変の拡大抑制であり、進行を遅らせることが主な目的である。GALE試験36ヵ月では機能的保持を示唆するデータが得られている4)。
GAの主要な病因の一つは補体系の慢性的・制御不全活性化である。正常な老化に伴いRPE下にドルーゼンが蓄積するが、その成分にはC3・C3a・C3b・C5b-9(膜侵襲複合体; MAC)が含まれる。これらの補体成分が慢性炎症を持続させ、RPE・光受容体の不可逆的な障害(地図状萎縮)を引き起こす。
ペグセタコプランはPEG化ペプチドであり、補体C3およびその活性化断片C3bに高い親和性で結合する。C3の切断を阻害することで補体C3転換酵素の形成を遮断し、古典経路・副経路・レクチン経路いずれの活性化もC3段階で抑制する。これにより、下流のC3a・C5a(アナフィラトキシン)産生とMAC形成が抑制される。
**眼内炎症(IOI)**は注射後の非特異的炎症反応であり、硝子体内の免疫応答の一部と考えられている。
網膜閉塞性血管炎はより重篤な副作用であり、IV型(遅延型・細胞性)過敏反応が関与すると考えられている1)9)10)。Dourosらの症例報告では78歳女性が初回注射後11日目に閉塞性網膜血管炎を発症した1)。散在性網膜出血・血管鞘形成・前房出血・硝子体出血を認め、培養およびHSV-PCRは陰性であった。全身性ステロイド(高用量プレドニゾロン)とアフリベルセプト硝子体内注射で治療され、最終VA 20/400で安定した1)。
Baumalら(Ophthalmology 2020)はブロルシズマブ関連血管炎との比較研究において、抗VEGF薬投与後の網膜血管炎はII型またはIV型の薬剤誘発性過敏反応の可能性を示唆した9)。血管炎の機序は薬剤間で異なる可能性があり、ペグセタコプラン関連血管炎の詳細な機序は現在も研究中である。
Witkinら(Ophthalmology 2017)はバンコマイシン投与後の出血性閉塞性網膜血管炎(HORV)の分析でIV型過敏反応の関与を示唆しており10)、ペグセタコプラン関連血管炎との機序的な類似性が議論されている。
GALE試験(36ヵ月)では、FAFによるGA面積に加えてマイクロペリメトリーによる機能的エンドポイントが評価された。月1回投与群でjunctional zone(境界帯)感度保持に有意差(P=0.0156)が認められており4)、今後の臨床試験では構造的エンドポイント(GA面積)だけでなく機能的エンドポイントの採用が議論されている。cRORA/iRORAの鑑別評価も試験デザインに取り込まれつつある4)。
欧州医薬品庁(EMA)および英国医薬品・医療製品規制庁(MHRA)はペグセタコプランを不承認としている4)。主な理由として、GA面積の縮小は示されたが視力改善のエビデンスが不十分とされた点が挙げられる。構造的エンドポイントと機能的エンドポイントの解離をどのように評価するかが今後の最大の課題である。
FILLY試験(n=246; Liaodら 2020)はペグセタコプラン(当時APL-2)のPhase 2試験であり、12ヵ月時点でのGA抑制効果が初めて示された8)。その後のOAKS/DERBYへと続く開発の礎となった。
日本では2026年3月時点でペグセタコプランは未承認であり、国内での保険診療は受けられない6)。日本の加齢黄斑変性診療ガイドラインにおける萎縮型GAへの現時点での標準治療は確立されておらず、今後の国内承認審査の動向が注目される。
OAKS/DERBY
試験規模:637名/621名(Phase 3 RCT)
主要評価項目:24ヵ月GA面積変化
結果:月1回22%/19%・隔月18%/16%の抑制
GALE延長試験
試験規模:OAKS/DERBY延長(36ヵ月)
新規評価項目:マイクロペリメトリー
結果:月1回群で感度保持 P=0.0156
2026年3月時点で日本では承認申請の情報は公開されていない。欧州でも不承認となっており、今後の機能的エンドポイントのデータ蓄積が承認審査の鍵となる見通しである4)6)。