AOFVD
成人発症卵黄様黄斑ジストロフィ:最多サブタイプ。灰黄色の円形卵黄様病変を黄斑部に形成する。
4段階の病期:卵黄前期→卵黄期→偽蓄膿期→萎縮期に進行する。1)

パターンジストロフィ(Pattern Dystrophies of the RPE)は、網膜色素上皮(RPE)にリポフスチンが蓄積することで特徴的な黄色〜灰黄色のパターン状病変を呈する遺伝性黄斑変性症の総称である。
有病率は1/7,400〜8,200と推定される。1) 発症年齢は50〜70歳が多く、女性が57〜66%を占める。1) 常染色体優性(AD)遺伝を示す場合が多いが、散発性も存在する。
サブタイプは以下の5種類に大別される。成人発症卵黄様黄斑ジストロフィ(AOFVD)が最も頻度が高く、研究も最も進んでいる。
AOFVD
成人発症卵黄様黄斑ジストロフィ:最多サブタイプ。灰黄色の円形卵黄様病変を黄斑部に形成する。
4段階の病期:卵黄前期→卵黄期→偽蓄膿期→萎縮期に進行する。1)
蝶形ジストロフィ
Butterfly-shaped dystrophy:黄斑部に蝶の羽のような色素パターンを呈する。
特徴:RPEレベルの黄色・橙色・黒色素の蓄積が蝶形に配列する。
網状ジストロフィ
Reticular dystrophy:網目状のピグメント配列を呈する。Sjögren-Larsson-Dystrophyとも関連。
Benign concentric annular MD:同心円状パターンを示す稀な亜型。
その他
Stargardt様ジストロフィ:Stargardt病と類似した眼底所見を呈するが、AD遺伝である。
粉末状ジストロフィ(Fundus pulverulentus):黄斑部に微細な粉末状色素変化を認める。
多くの症例では視力は比較的長く保たれる。しかしCNV(脈絡膜新生血管)や地図状萎縮が合併すると視力低下が進行する。定期的な経過観察が重要である。詳細は「標準的な治療法」の項を参照。
症状は比較的軽度で、緩徐に進行する。
AOFVDの病期分類は4段階とされている。1) 以下に各病期の特徴を示す。
| 病期 | 名称 | 主な所見 |
|---|---|---|
| 1期 | 卵黄前期 | FAF高蛍光点、OCT正常〜軽度変化 |
| 2期 | 卵黄期 | 灰黄色円形均一病変、FAF著明高蛍光 |
| 3期 | 偽蓄膿期 | 卵黄様物質の液状化・層分離 |
| 4期 | 萎縮期 | RPE・光受容体萎縮、地図状萎縮 |
片側性AOFVDでは、脈絡膜厚(SCT)355〜669μmと肥厚した脈絡膜を伴うpachychoroid関連病態との関連が報告されている。2)
通常は両眼性だが、片側性のAOFVDも報告されている。片側性症例ではpachychoroid(脈絡膜肥厚)との関連が示唆されており、Best病との鑑別が特に重要となる。2)
パターンジストロフィは主に遺伝性疾患であるが、原因遺伝子は多様であり、散発性例も少なくない。
主な原因遺伝子を以下に示す。
ミトコンドリア遺伝子変異(m.3243A>G)によるMIDD(母性遺伝性糖尿病・難聴)もAOFVD類似の眼底変化を呈する。6) 85%という高い相関が報告されており、鑑別に注意が必要である。6)
全症例の2〜18%のみでPRPH2変異が同定されることからも、多くの症例では原因遺伝子が未同定のままである。1)
パターンジストロフィの診断は、特徴的な眼底所見と各種補助検査の組み合わせで行う。加齢黄斑変性・Best病などとの鑑別が最重要課題である。
マルチスペクトルイメージング(MSI)はAOFVDの病変評価に有用である。550〜850nmの波長帯でRPEと光受容体を詳細に評価でき、結節状高反射を持つRPE破壊領域の同定に優れる。4)
パターンジストロフィの鑑別診断は重要であり、診断を誤ると治療方針に大きく影響する。
| 疾患 | 主な鑑別点 | EOG |
|---|---|---|
| Best病(VMD2) | 若年発症・著明卵黄様病変 | 著明低下 |
| 滲出型加齢黄斑変性 | 高齢・ドルーゼン | 正常 |
| MIDD | 母性遺伝・糖尿病・難聴 | 正常〜低下 |
AOFVDの灰黄色卵黄様病変は加齢黄斑変性のドルーゼンと類似するため、特に高齢発症例では混同されやすい。EOGが正常であること、遺伝歴があること、FAFで特徴的なパターン状高蛍光が見られることがAOFVDの特徴である。1)2)
現時点でパターンジストロフィの根本的治療法は存在しない。治療の主目的は合併症(CNV・地図状萎縮)への対応と視機能の維持である。
CNVは2.1〜11.7%の症例に合併する。1) CNV合併例に対する抗VEGF療法(ベバシズマブ・ラニビズマブ・アフリベルセプトなど)が主要な治療選択肢である。
抗VEGF療法により、87.5%の症例で視力3ライン以上の低下を回避できたことが報告されている。1)
光線力学的療法(PDT)はパターンジストロフィのCNVには無効との報告がある。1)
ePVAC(内視鏡的硝子体内手術による脈絡膜の外部圧迫)合併症例では抗VEGF療法が無効であったとする報告もあり、pachychoroid関連の血管圧迫仮説が提唱されている。3)
地図状萎縮は21.3〜26.9%の症例に認められる。1) 現時点で進行を抑制する確立した治療法はなく、経過観察が基本となる。
視力低下が進行した症例に対しては、拡大鏡・遮光眼鏡・弱視補助機器などを用いた低視力リハビリテーションが有用である。
パターンジストロフィの中心的病態は、RPEにおけるリポフスチンの異常蓄積である。
リポフスチンは、視細胞外節のリサイクル過程でRPEが処理しきれなかった酸化脂質と蛋白の複合体である。正常加齢でも蓄積するが、パターンジストロフィでは遺伝的要因により過剰蓄積が生じる。
PRPH2(ペリフェリン)は光受容体外節のディスク膜端部に発現し、ディスク構造の整合性を維持する膜タンパクである。システイン残基の変異(特にC214Sなど)は、PRPH2のホモ・ヘテロ二量体形成を障害し、ディスク膜の完全性を損なう。これにより視細胞外節の形成不全と変性が生じ、RPEへの代謝負荷が増大してリポフスチン蓄積が促進される。5)
BEST1はRPEの基底側膜に発現するCa²⁺活性化Cl⁻チャネルである。変異によりRPEのCa²⁺ホメオスタシスが障害され、外節フォゴサイトーシスの異常・リポフスチン蓄積・卵黄様物質の形成に至ると考えられている。1)
片側性AOFVD症例では厚い脈絡膜(pachychoroid)が認められ、脈絡膜血管の圧迫がRPEと光受容体への血流を障害するとする仮説が提唱されている。2)3) OCTAを用いた解析でも脈絡膜血流の異常が報告されており、pachychoroid関連疾患スペクトラムとの関連が注目されている。1)
MIDD(m.3243A>G変異)に伴うAOFVD類似病変では、ミトコンドリア機能異常によるRPEのエネルギー代謝障害が中心的病態と考えられている。RPEは代謝活性の高い細胞であり、ミトコンドリア機能障害の影響を受けやすい。6)
MSIは550〜850nmの広帯域波長で網膜を撮影する非侵襲的技術である。AOFVDの病変評価において、OCTでは捉えにくいRPE変化や光受容体障害の空間分布を可視化できる。
Yuan Mら(2022)はAOFVDの3眼にMSIを施行し、赤外線波長(850nm)での撮影で結節状高反射を伴うRPE破壊領域を同定した。4) 短波長(550nm)での撮影では病変の範囲がより明確に描出され、FAFとの対比でRPE機能喪失領域の精密なマッピングが可能であることを示した。
OCT・FAF画像に対するAIを用いた解析が進んでいる。AOFVD病変の自動同定・病期分類・萎縮進行速度の予測への応用が研究されており、大規模コホートでの検証が期待される。1)
従来のターゲット遺伝子パネル検査では原因不明のパターンジストロフィ症例が多く残る。WESを用いた網羅的解析により、CTNNA1など新規原因遺伝子の同定が進んでいる。5) これにより遺伝型と表現型の関連(ジェノタイプ・フェノタイプ相関)の解明も期待される。
PRPH2変異など原因遺伝子が特定された症例では、アデノ随伴ウイルス(AAV)を用いた遺伝子補充療法が基礎研究段階で検討されている。しかし現時点では臨床応用には至っておらず、標準治療として確立されていない。