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網膜・硝子体

顔面肩甲上腕型筋ジストロフィーの眼科的症状

1. 顔面肩甲上腕型筋ジストロフィーの眼科的症状とは

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顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー(facioscapulohumeral muscular dystrophy; FSHD)は、顔面・肩甲帯・上腕の筋力低下を特徴とする進行性の遺伝性筋疾患である。ジストロフィノパチーおよび筋強直性ジストロフィーに次いで3番目に頻度が高い1)。有病率は約20,000人に1人、オランダの研究では10万人あたり0.3人の発生率が報告されている。少なくとも1:10,000の有病率とする報告もある2)

1886年にフランス人医師2名によって初めて報告された。通常は20代までに発症し、男女同等に罹患する。女性は高齢での診断が多く、症状も軽い傾向がある。平均余命は通常と同等であるが2)、50歳までに約20%の患者が車椅子を要する。

FSHDは筋肉が主な病変部位であるが、筋外症状として網膜血管症・高周波音の難聴・心不整脈・てんかんなどを合併しうる。本記事ではFSHDにおける眼科的合併症を中心に解説する。

FSHD1(全症例の95%以上)、FSHD2(5%未満)、遺伝的原因未特定のFSHD3の3型が存在する。いずれも臨床的には区別がつかない。

Q FSHDにはどのような型があるか?
A

FSHD1・FSHD2・FSHD3の3型がある。FSHD1が全体の95%以上を占め、4q35のD4Z4反復配列短縮が原因である。FSHD2はSMCHD1遺伝子変異が原因で5%未満を占める。FSHD3は遺伝的原因が未特定の症例である。

FSHDの主要な自覚症状は進行性の筋力低下である。

  • 顔面筋脱力:表情が乏しくなり、口笛が吹けない、強く閉眼できないなどの症状が出現する。
  • 上肢挙上困難:肩より上に腕を上げることが困難になる。最も一般的な初発症状である。
  • 翼状肩甲:肩甲骨が背中から浮き上がる特徴的な所見である。

眼科的には多くのFSHD患者で網膜異常は不顕性であり、自覚症状を欠く。視力低下はCoats様疾患による黄斑浮腫滲出性網膜剥離が生じた場合に出現する1)。閉瞼不全に伴う乾燥感・異物感は自覚されうる。

以下の所見がFSHDの診断を支持する。

  • Poly-hill sign:肩周囲の筋萎縮パターンを反映する特徴的外観2)
  • Popeye arm:上腕筋萎縮と前腕筋温存による外観2)
  • 翼状肩甲:肩甲帯筋の脱力により肩甲骨が突出する
  • 睫毛徴候:強く閉眼しても睫毛が隠れない
  • 左右非対称の筋力低下:FSHDに特徴的である

前眼部所見

閉瞼不全(兎眼:眼輪筋の萎縮により、特に睡眠中に眼瞼が完全に閉じない。露出性角膜炎・角膜潰瘍の原因となる。

帯状角膜変性:兎眼による慢性的な角膜障害に続発しうる1)

中心角膜厚の菲薄化:健常対照群と比較して角膜が薄く、眼圧測定値が低いとの報告がある。

網膜所見

網膜血管蛇行:最も頻度の高い所見。患者の50〜75%に認められる。動脈の蛇行が主体である。

毛細血管拡張・微小血管瘤蛍光眼底造影(FA)で検出される。

周辺部網膜無血管野:FAで確認される虚血性変化である。

中心窩低形成:しばしば認められる。

Coats様疾患は少数の患者に発症し、毛細血管拡張と滲出性網膜症を呈する。進行すると網膜剥離・網膜新生血管新生血管緑内障に至る。成人発症型では男性に多く、生後20年以内の発症が典型的であるが、44歳で初めてCoats様疾患を発症した症例も報告されている1)

Bruzzoneら(2023)は、44歳女性のFSHD1患者において、過去の眼科歴が正常であったにもかかわらずCoats様疾患を発症した症例を報告した1)。左眼に傍中心窩の毛細血管拡張、黄斑浮腫、点状出血、硬性白斑および広範な周辺部網膜虚血を認め、汎網膜レーザー光凝固術を施行した。12ヶ月後も矯正視力1.0を維持し、新生血管合併症は認められなかった。

早期発症FSHDでは筋外症状がより高頻度に出現する。324例の文献レビューでは、網膜症18.2%、難聴39.1%、脊柱変形42.0%、車椅子依存35.1%であった4)

Q 網膜の異常は自覚症状として気づけるか?
A

大部分の網膜異常は不顕性であり、患者自身が気づくことは困難である。フルオレセイン蛍光眼底造影(FA)なしでは微細な変化を見落としやすい。Coats様疾患に進展した場合に視力低下として自覚される。定期的な眼科検査が重要である。

FSHDは第4染色体長腕末端(4q35)のD4Z4反復配列に関連するエピジェネティックな疾患である。

項目FSHD1FSHD2
頻度95%以上5%未満
原因D4Z4反復の短縮(1〜10個)SMCHD1遺伝子変異
遺伝形式常染色体優性二遺伝子性

FSHD1では、健常者に11〜100個存在するD4Z4反復配列が10個未満に短縮する。この短縮がDNAの低メチル化を招き、通常は抑制されているDUX4遺伝子が異所性に発現する1)。DUX4は成人の骨格筋細胞に対して毒性を有する。

FSHD2では、D4Z4反復数は正常であるが、第18染色体上のSMCHD1遺伝子変異によりDNA低メチル化が生じる3)。まれにDNMT3B遺伝子やLRIF1遺伝子の変異を伴う。

いずれの型でも、4qAアレル上のポリアデニル化シグナルがDUX4 mRNAを安定化させることが発症の必須条件である。

D4Z4反復数と疾患重症度には負の相関がある。反復数1〜3個の患者はより重篤な症状への進行が速い4)。網膜血管蛇行の重症度もD4Z4サイズと相関する。

FSHD1は10〜30%で孤発例が生じる。FSHD2では約60%が孤発例と推定されている。韓国で初めて報告されたFSHD2症例では、新規のSMCHD1フレームシフト変異(c.3801delG)が同定された3)

FSHDの診断は臨床的特徴と家族歴から示唆される。確定診断は遺伝子検査による。

  • サザンブロット法:D4Z4反復配列の短縮を検出する標準的検査法である。感度93%、特異度98%。
  • 分子コーミング法:サザンブロットより高い解像度を持ち、モザイクの検出や境界域の結果の判別に優れる4)
  • メチル化解析:4qAアレル存在下での低メチル化はFSHDの診断根拠となる3)
  • 全エクソーム解析:FSHD2の診断においてSMCHD1変異の同定に有用である3)
  • 筋電図:筋原性変化を示す。
  • 血清CK値:軽度上昇することがある。
  • 筋生検:非特異的変化を示す。筋膜の構造変化(筋細胞膜と筋原線維の距離増大)がみられる。

すべてのFSHD患者に対し、診断時に散瞳下眼底検査を含む眼科評価が推奨される。

  • 細隙灯顕微鏡検査:閉瞼不全・帯状角膜変性・露出性角膜炎の評価
  • 眼底検査:網膜血管蛇行、毛細血管拡張、出血・滲出の確認
  • フルオレセイン蛍光眼底造影(FA):周辺部網膜無血管野の検出に不可欠。微細な血管変化は眼底検査のみでは見落とされやすい1)
  • 光干渉断層計(OCT):黄斑浮腫の定量的評価

網膜微小血管所見の鑑別として以下を考慮する。

FSHDに対する根治的治療法は現時点で存在しない。疾患管理はスクリーニング・リハビリテーション・対症療法を中心とした支持療法に基づく。

網膜治療

レーザー光凝固術:Coats様疾患における虚血性網膜領域に対して施行する。新生血管合併症の予防が目的である1)。渗出性変化が強い症例では積極的に実施する。

抗VEGF硝子体内注射:網膜新生血管に対して使用される。

経過観察:不顕性の網膜血管異常に対しては定期的な眼科フォローアップを行う。

前眼部管理

露出性角膜炎の予防:人工涙液の点眼により角膜の乾燥を防ぐ。就寝時のテーピングや眼軟膏の使用も有効である。

閉瞼不全の管理:重度の兎眼に対しては外科的介入を検討する。

  • リハビリテーション:筋力維持と関節可動域の保持
  • 補助装具:足関節装具やスクーターの活用
  • 脊柱変形の手術治療:必要に応じて整形外科的介入を行う
  • 疼痛管理:理学療法と薬物療法の併用
  • 呼吸機能モニタリング:進行例では呼吸筋障害に注意する
  • 難聴への対応:感音性難聴に対する標準的治療を行う4)

Bruzzoneら(2023)は、成人FSHD患者に対し年1回の散瞳下眼底検査と網膜画像検査を含む定期的眼科検診を推奨した1)。周辺部網膜無血管野はいかなる年齢でも網膜新生血管を引き起こす可能性があり、症状出現時のみの受診では不十分であると指摘している。

Q FSHD患者はどのくらいの頻度で眼科検査を受けるべきか?
A

診断時に散瞳下眼底検査を受け、初回所見の重症度に応じてフォローアップ間隔を決定する。網膜血管症がない成人でも少なくとも年1回の検査が推奨される1)。D4Z4反復数が少ない患者や早期発症型では、より慎重な経過観察が必要である。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

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FSHDの分子病態はDUX4遺伝子の異所性発現に集約される。

FSHD1では、4q35のD4Z4マクロサテライト反復配列の短縮(1〜10個)がDNA低メチル化を招く。低メチル化によりクロマチン構造が弛緩し、反復配列の最後のユニットに含まれるDUX4遺伝子が転写されるようになる1)。DUX4は本来、生殖細胞系列の転写因子であり、体細胞では抑制されている。骨格筋細胞でのDUX4の異所性発現が細胞傷害を引き起こし、筋変性・筋萎縮の原因となる。

FSHD2では、SMCHD1遺伝子の変異がD4Z4の低メチル化をもたらし、同様にDUX4の脱抑制が生じる3)

いずれの場合も、4qAアレル上のポリアデニル化シグナルが不安定なDUX4 mRNAを安定化させることが発症の必須条件である。4qAアレルを欠く場合にはDUX4タンパク質が翻訳されず、臨床症状は出現しない。

DUX4の毒性メカニズムとしては、筋分化の障害、酸化ストレス応答、免疫応答、タンパク質代謝回転の異常が関与するとされる4)。興味深いことに、DUX4は遺伝学的に診断された無症候のFSHD被験者の筋組織からも検出される1)。このことはエピジェネティック修飾因子がDUX4発現の臨床的影響を左右する可能性を示唆する。

網膜血管症の発症機序は完全には解明されていない。血管平滑筋や内皮細胞の機能(細胞増殖・血管新生など)に関与する遺伝子の不適切な抑制解除が支配的な役割を果たすと考えられている。DUX4の異所性発現が関連する血管合併症の正確なメカニズムは未解明である1)


7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)

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FSHDに対する将来的な治療戦略は大きく2つに分類される。

ACE-083はTGF-β関連タンパク質(アクチビンとミオスタチン)を標的とする治療薬であり、臨床試験が進行中である4)。筋量の増加や筋力の回復を目指す。

DUX4のノックダウンや下流ターゲットの抑制を目的とした遺伝子サイレンシング戦略が評価されている4)。eteplirsenやnusinersenなどのアンチセンスオリゴヌクレオチドの応用も検討されている。DUX4タンパク質産生を阻害する300以上の化合物が同定されている4)

低分子薬・遺伝子治療・アンチセンスオリゴヌクレオチドなど多岐にわたるアプローチが模索されているが、いずれも臨床応用には至っていない。


  1. Bruzzone F, Beltraminelli T, Casanova A, Menghini M. Management of Coats-like disease in a forty-four-year-old patient with FSHD type I. Case Rep Ophthalmol. 2023;14:250-256.
  2. Erdmann H, Becker K, Abicht A. Visual diagnosis of facioscapulohumeral muscular dystrophy (FSHD). Dtsch Arztebl Int. 2025;122:210a.
  3. Lee JH, Park HJ, Seong MW, Park SS, Choi YC. Two cases of facioscapulohumeral muscular dystrophy 2 in Korea. Yonsei Med J. 2021;62(1):95-98.
  4. Xiao T, Yang H, Gan S, Wu L. A pediatric case report and literature review of facioscapulohumeral muscular dystrophy type 1. Medicine. 2021;100(47):e27907.

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