前眼部所見
後方胎生環:最も高頻度の前眼部所見であり、約49%に認められる。
小眼球症・前眼部形成異常:小角膜、虹彩遺残、部分無虹彩などを呈する3)。
コロボーマ:脈絡網膜コロボーマとして視神経から黄斑に及ぶ例が報告されている3)。
ピータース異常・強膜化角膜:重度の前眼部発達異常の一型。
白内障:副甲状腺機能低下症による低カルシウム血症に続発する例がある9)。

ディジョージ症候群(DiGeorge syndrome; DGS)は、第22番染色体長腕の微細欠失(22q11.2 deletion)に起因する先天性疾患である。1960年代にアンジェロ・ディジョージ博士により初めて報告された。咽頭嚢の異常発達を基盤とし、心奇形、副甲状腺低形成、胸腺低形成、頭蓋顔面異常など多彩な臨床像を示す。
発生頻度は出生3,000〜6,000人に1人であり、最も頻度の高い微細欠失症候群である1)2)。症例の約90%がde novo(新生)変異であり、約10%は常染色体優性遺伝で親から継承される5)6)。罹患者の85%が約2.54Mbの欠失を有し、約40の遺伝子を含む5)。
DGSでは180を超える臨床症状が記載されており、表現型の多様性がきわめて大きい6)。眼科的徴候も多岐にわたり、網膜血管蛇行、後方胎生環、眼瞼異常、斜視、屈折異常、前眼部発達異常など広範囲の所見が報告されている。本疾患と診断されたすべての患者は眼科的評価を必要とする。
成人期の診断は珍しくない。遺伝学的検査が普及する1990年代後半以前に出生した患者や、低カルシウム血症のみで心奇形を伴わない症例では診断が遅れやすい5)。文献上、最高71歳で初めて診断された例がある9)。成人DGSの約60%は子どもの診断をきっかけに発見されたとの報告もある5)。
DGS患者が自覚する眼症状は、合併する眼所見の種類と重症度に依存する。
全身症状としては以下が特徴的である。
DGSの眼科的徴候は眼外・前眼部・後眼部に分類される。
前眼部所見
後方胎生環:最も高頻度の前眼部所見であり、約49%に認められる。
小眼球症・前眼部形成異常:小角膜、虹彩遺残、部分無虹彩などを呈する3)。
コロボーマ:脈絡網膜コロボーマとして視神経から黄斑に及ぶ例が報告されている3)。
ピータース異常・強膜化角膜:重度の前眼部発達異常の一型。
白内障:副甲状腺機能低下症による低カルシウム血症に続発する例がある9)。
後眼部所見
網膜血管蛇行:22q11.2欠失症候群の24〜75%に認められ、最も高頻度の後眼部所見である7)。心血管疾患との相関は認められていない。
網膜血管形成異常:形成異常を伴う血管から網膜内出血・硝子体出血を生じた例が報告されている7)。
乳頭異常:傾斜乳頭、乳頭浮腫(低カルシウム血症に続発)、乳頭上線維化。
持続性胎児血管遺残(PFV):DGSで初めて報告された症例がある3)。
眼外所見としては以下が認められる。
22q11.2欠失症候群の初回診断時に包括的な眼科検査を行い、その後は個々の所見に応じてフォローアップする。後方胎生環・網膜血管蛇行・眼瞼被さりなどの特徴的所見を認めながら未診断の患者は、遺伝学的評価への紹介を検討すべきである。
DGSの大部分は第22番染色体22q11.2領域における1.5〜3Mbのヘテロ接合型遺伝子欠失に起因する。この領域には低コピー反復配列(LCR)が存在し、非アレル相同組換え(NAHR)が欠失の主な原因である4)。
欠失領域に含まれるTBX1遺伝子が最も重要な責任遺伝子と考えられている。TBX1は神経堤細胞の遊走を制御し、咽頭弓由来の構造(頭蓋顔面骨、胸腺、副甲状腺、心臓流出路)の形態形成に関与する1)4)。TBX1欠失を含む症例では、心奇形や免疫不全がより顕著であるとされる8)。
遺伝学的原因以外に、催奇形因子(母体のアルコール摂取、母体糖尿病、レチノイン酸)もDGSの発症に関連している。
de Wallauら(2024)は61人の22q11.2欠失症候群患者を対象に、欠失の親由来(母親由来48%、父親由来52%)と臨床像の関連を検討した4)。母親由来欠失の患者ではけいれん(p=0.0455)と側弯症(p=0.0200)が有意に多く認められ、総動脈幹症や肺動脈閉鎖も母親由来のみに見られた。先天性心疾患や内分泌異常もやや高頻度であり、母親由来欠失がより重篤な表現型を示す可能性が示唆された。
約90%はde novo(新生)変異であり、親は罹患していない。しかし約10%は親から常染色体優性遺伝で継承される5)6)。罹患者の子どもは50%の確率で欠失を受け継ぐ。特に症状が軽微な親が未診断のまま子どもの発症で初めて発見される例もある6)。
DGSの確定診断はCD3陽性T細胞数の減少(<500/mm³)に加え、以下の3項目のうち2項目を満たす場合に成立する。
主な遺伝学的検査法の特徴を以下に示す。
| 検査法 | 特徴 | 感度 |
|---|---|---|
| aCGH | 全ゲノムの脈絡膜新生血管検出可能。最も推奨 | 高い |
| FISH | 従来のゴールドスタンダード | 小欠失は検出困難6) |
| MLPA | FISHと同等。迅速診断に有用 | 中程度 |
DGSは診断が遅れやすい疾患であり、特に低カルシウム血症のみで心奇形を伴わない症例では成人期まで見逃されることがある2)5)6)。
Wylazlowskaら(2023)は、13歳で初めてDGSと診断された男児を報告した2)。この患者はクレアチンキナーゼ高値を契機に筋ジストロフィー疑いでaCGH検査を施行され、22q11.2欠失が偶然発見された。過去のカルテに低カルシウム血症の記録が少なくとも2回あったが、見過ごされていた。
DGS患者の眼科的評価には以下が含まれる。
DGSに対する根本的治療は存在せず、各臓器の合併症に対する対症療法と多診療科連携による管理が基本である。
副甲状腺機能低下症に伴う低カルシウム血症はDGS患者の50〜70%に認められる2)。治療の基本はカルシウム製剤と活性型ビタミンD製剤の経口投与である。
低カルシウム血症に続発する白内障の進行例は手術適応となる。乳頭浮腫は低カルシウム血症の改善により約1〜5か月で消退する。
先天性心奇形(ファロー四徴症、心室中隔欠損症、大動脈弓離断症など)に対しては外科的修復術が施行される5)。
カルシウム製剤と活性型ビタミンD製剤(アルファカルシドール、カルシトリオールなど)の経口投与が基本である2)。PTH欠乏下では不活性型ビタミンDの活性化が障害されるため、必ず活性型を使用する。生涯にわたるカルシウム・PTH値のモニタリングが必要であり、感染・手術・妊娠などのストレス下では低カルシウム血症が増悪しうる6)。
DGSの基盤となる病態は、胎生期の第3・第4咽頭嚢の発達異常である。第3咽頭嚢は胸腺と下副甲状腺を、第4咽頭嚢は上副甲状腺を形成する1)。これらの構造の形成不全が、免疫不全、低カルシウム血症、心奇形の主要な原因となる。
22q11.2領域には44の既知のタンパク質コード遺伝子が含まれる4)。なかでもTBX1遺伝子は咽頭弓内の細胞に発現し、神経堤細胞の遊走を制御する。神経堤細胞は頭蓋顔面骨格、胸腺被膜、大動脈弓の血管構築など多くの構造の形成に関与する4)。TBX1の用量不均衡が神経堤遊走の異常を引き起こし、DGSの多彩な臨床像をもたらす。
部分型DGS
胸腺低形成:残存する胸腺組織によりT細胞の産生が部分的に維持される。
小児期のT細胞減少:成長に伴いIL-7刺激によるT細胞の恒常的増殖が生じ、末梢T細胞数は見かけ上正常化する8)。
IgM欠乏:T細胞の質的異常によりB細胞の補助が不十分となり、成人期に免疫グロブリン欠乏(特にIgM)を生じうる8)。
完全型DGS
胸腺欠如:胸腺組織の完全な欠如を特徴とし、DGS患者の約1.5%を占める8)。
重度免疫不全:細胞性免疫が著しく障害され、日和見感染のリスクが高い。
予後:移植を受けなければ平均余命は1年未満であり、胸腺移植または造血幹細胞移植が必要となる。
動物実験において、VEGF164アイソフォームの欠損がDGSに類似する先天異常をマウスに引き起こすことが示されている7)。VEGF164は網膜血管の正常な発達にも関与しており、その経路の異常が網膜血管蛇行や血管形成異常の原因と推測されている。
Kozakら(2022)はDGSの小児において網膜血管形成異常、乳頭周囲・網膜内・硝子体出血を初めて報告した7)。蛍光眼底造影では形成異常血管からの色素漏出は認められず、VEGF制御異常による血管構造の脆弱性が出血の原因と推察された。
副甲状腺低形成による低カルシウム血症は白内障や乳頭浮腫を合併しうる。乳頭浮腫は特発性副甲状腺機能低下症の約18%に認められ、低カルシウム血症の改善に伴い消退する。
de Wallauら(2024)は61人の22q11.2DS患者を対象とした研究で、欠失の親由来と臨床症状の関連を検討した4)。母親由来欠失の患者では先天性心疾患(66% vs 53%)、内分泌異常(21% vs 9%)、骨格異常(66% vs 47%)がやや高頻度であった。けいれんと側弯症は母親由来欠失のみに認められた(p<0.05)。統計学的有意差は多くの項目で示されなかったが、母親由来欠失がより重篤な表現型を示す可能性が示唆された。
VEGF164アイソフォームの欠損がDGS様表現型をマウスに引き起こすことから、VEGF経路がDGSの疾患修飾因子である可能性が提唱されている7)。網膜血管形成異常の分子基盤の解明は、将来的にVEGFを標的とした予防的治療戦略につながる可能性がある。
Hareら(2022)はDGS患者における悪性腫瘍の合併を報告した8)。687人の小児を対象とした多施設調査では、14歳未満のDGS患者における悪性腫瘍の発生率は10万人あたり約900であり、一般小児の10万人あたり3.4と比較して著しく高い。T細胞欠損、慢性感染・炎症、COMT遺伝子やSMARCB1腫瘍抑制遺伝子の欠失が関与すると考えられている。