結膜所見
結膜毛細血管拡張:HHT患者で最も頻度の高い眼所見。患者の最大半数に認められる。
拡張血管:結膜面に蛇行・拡張した血管が観察される。

遺伝性出血性末梢血管拡張症(hereditary hemorrhagic telangiectasia; HHT)は、オスラー・ランデュ・ウェーバー病とも呼ばれる常染色体優性遺伝の血管形成異常疾患である。有病率は5,000〜10,000人に1人と推定され、遺伝性出血性疾患としては2番目に多い1)。
HHTは全身の毛細血管拡張(telangiectasia)と動静脈奇形(AVM)を特徴とする。毛細血管拡張は皮膚・粘膜に出現する小血管病変を指し、AVMは内臓に形成される大血管病変である。いずれも毛細血管を介さず細動脈と細静脈が直接接続する構造を呈する。
眼科領域では結膜・網膜の毛細血管拡張、網膜血管瘤、網膜新生血管、眼窩AVM、眼窩静脈血栓症など多彩な所見を呈する。眼内病変は比較的稀であり多くの場合安定しているが、網膜新生血管や出血が生じた場合は視力を脅かす可能性がある。
HHTの原因遺伝子は主にTGF-β/BMPシグナル経路に関与する。ENG・ACVRL1変異が全症例の96%以上を占める1)。
主なHHT病型と原因遺伝子の対応を以下に示す。
| 病型 | 原因遺伝子 | 特徴 |
|---|---|---|
| HHT1型 | ENG | 肺・脳AVMが多い3) |
| HHT2型 | ACVRL1 | 肝AVMが多い1) |
| JP-HHT | SMAD4 | 若年性ポリポーシス合併1) |
罹患者ではVEGFおよびTGF-β1の血清レベルが上昇しており、これが異常血管新生の基盤となる3)。
HHTは常染色体優性遺伝であり、罹患者の子の50%に遺伝する。第一度近親者にHHT患者がいる場合、症状がなくても遺伝子検査やスクリーニングを受けることが推奨される1)。
眼に関連する自覚症状は以下の通りである。
多くの眼病変は無症候性であり、散瞳下眼底検査で偶然発見されることも少なくない。
結膜所見
結膜毛細血管拡張:HHT患者で最も頻度の高い眼所見。患者の最大半数に認められる。
拡張血管:結膜面に蛇行・拡張した血管が観察される。
網膜所見
網膜毛細血管拡張:患者の2〜10%に認められる。高血圧性網膜症に類似しうる。
網膜新生血管・血管瘤:散瞳下眼底検査で検出。網膜出血の原因となる。
中心窩傍毛細血管拡張:黄斑周囲に出現する。
眼窩所見
眼球突出:眼窩AVM(稀)による。結膜浮腫を伴う。
眼窩静脈血栓症:上眼静脈・眼窩AVMの血栓。抗凝固療法で管理可能。
網膜AVMは蛍光眼底造影で怒張した血管として描出される。フルオレセイン蛍光眼底造影(FA)は拡張血管や毛細血管拡張の同定に有用であり、網膜病変の経過観察に有益である。網膜出血が生じる可能性があるため、異常血管の同定とモニタリングのための精密な検査が重要である。
HHTはENG、ACVRL1、SMAD4などの遺伝子変異により、TGF-β/BMPシグナル経路が障害されて発症する。遺伝子変異は血管内皮細胞の完全性を破壊し、平滑筋分化の異常や細胞骨格の障害を引き起こす3)。その結果、血管壁が脆弱化し、出血しやすい異常血管が形成される。
特定の血管床にAVMが形成されるには「セカンドヒット」(外傷、炎症、体細胞変異の獲得など)が必要と考えられている2)。
HHTの臨床像は加齢とともに進行する。鼻出血は通常10代で出現し、毛細血管拡張は20〜30代で認められるようになる1)。小児期にはキュラソー基準を満たさない場合もあるため、遺伝子検査が有用である。妊娠は血行動態の変化を介してAVMの破裂リスクを高め、第3三半期では喀血や血胸などの重篤な合併症が生じうる7)。
HHTの臨床診断はキュラソー診断基準に基づく1)。
| 基準項目 | 内容 |
|---|---|
| 鼻出血 | 再発性・自発性 |
| 毛細血管拡張 | 口唇・口腔・指・鼻 |
| 内臓病変 | 肺・肝・脳・脊髄AVM |
| 家族歴 | 第一度近親者にHHT |
3項目以上で確定診断、2項目で疑い例、2項目未満でHHTの可能性は低い。ただし小児では基準の陰性的中率が低く、遺伝子検査が推奨される1)。
ENG、ACVRL1、SMAD4、RASA1、GDF2、EPHB4を含む多遺伝子パネルで実施される。陽性であればHHTの確定診断となる。臨床診断例の10〜15%では変異が同定されない場合もある1)。
HHTと診断された場合、以下のスクリーニングが推奨される1)。
眼科所見のみでHHTを確定することはできない。結膜毛細血管拡張はHHTを疑う手がかりとなるが、確定診断にはキュラソー基準や遺伝子検査が必要である1)。眼科医が結膜や網膜の毛細血管拡張を認めた場合は、HHTの可能性を考慮し全身精査を促すべきである。
HHTの治療は基本的に対症療法であり、多職種連携(集学的治療)が不可欠である。
眼内病変は稀であり多くの場合安定しているが、網膜新生血管が生じた場合は以下の治療が選択される。
眼窩AVMに対しては塞栓術が行われることがあり、病変の退縮と症状の軽減が期待される。眼窩静脈血栓症には抗凝固療法が適用される。
HHT患者の50%以上が鼻出血や消化管出血による貧血を有する1)。治療はステップワイズに行われる。
網膜病変の早期発見のため、HHTと診断された患者は定期的な散瞳下眼底検査を受けることが推奨される。網膜毛細血管拡張や新生血管が認められた場合は、「標準的な治療法」の項に記載の治療を速やかに検討すべきである。
HHTはTGF-β/BMPシグナル経路の異常に起因する血管形成異常疾患である。700以上の原因遺伝子変異が同定されている2)。
ENG・ACVRL1はいずれも血管内皮細胞に優位に発現するTGF-β/BMPシグナル経路の受容体をコードする2)。これらの受容体のヘテロ接合性機能喪失変異により、以下の異常が生じる。
遺伝子変異のみではAVMは形成されず、局所的な「セカンドヒット」が必要とされる2)。セカンドヒットには外傷、炎症、血管新生刺激、体細胞変異の獲得などが含まれる。この「二段階モデル」により、同一患者でも臓器ごとに異なるAVMパターンが生じることが説明される。
肝AVMには3つのシャント型が存在する5)。
肝動脈→門脈
門脈圧亢進症:門脈内圧が上昇し、消化管出血や腹水の原因となる。
肝動脈→肝静脈
高心拍出性心不全:最も頻度が高い合併症。心臓への血液シャントにより心負荷が増大する5)。
門脈→肝静脈
門脈体循環性脳症:極めて稀。アンモニアが肝臓を迂回し脳に到達する5)。
Kawabataら(2021)は、肝AVMに起因する門脈体循環性脳症(PSE)の72歳女性例を報告した5)。血清アンモニア値は270 mg/dLまで上昇し、ラクツロースと分枝鎖アミノ酸投与で改善した。文献的にPSEの報告はわずか12例に限られる。
肝AVMを有するHHT患者の23%以上に基底核T1高信号(マンガン沈着)が認められる4)。鉄欠乏がマンガンの吸収と沈着を促進する可能性が示唆されている。パーキンソン様の神経症状を呈することがある4)。
HHTの治療ではベバシズマブが現在最も広く使用される抗血管新生薬であるが、静脈投与の負担が課題である。経口薬を含む複数の新規薬剤が臨床試験中である2)。
PATH-HHT試験(Al-Samkariら2024)では、経口ポマリドミドが144例のランダム化比較試験で鼻出血重症度スコアを-1.84有意に改善し、QOLの改善も認めた2)。
パゾパニブ(経口チロシンキナーゼ阻害薬)は、13例の輸血依存患者全例で輸血非依存を達成し、鼻出血重症度スコアが平均-4.77改善した2)。HHTに必要な用量は腫瘍学的用量の8分の1程度であった。
その他の治験中薬剤として、ニンテダニブ(経口チロシンキナーゼ阻害薬)、VAD044(AKT阻害薬)、シロリムス(mTOR阻害薬)、タクロリムス(SMAD経路活性化薬)がある2)。
Tangら(2024)は、PAVMによる奇異性塞栓で再発性脳梗塞を呈した58歳女性を報告した4)。基底核のマンガン沈着がHHT診断の手がかりとなった。PAVM塞栓術後に良好な経過を得た。鉄補充療法がマンガン沈着の予防に有効である可能性が示唆されている。