前眼部
前部ぶどう膜炎:最も一般的な眼症状の一つ。肉芽腫性または非肉芽腫性で、前房細胞・フレア・KPs・虹彩後癒着・前房蓄膿を呈する。
結膜炎・上強膜炎:軽度の充血・流涙・不快感。多くは急性全身症状に伴い自己限定的である。
角膜病変:貨幣状角膜炎(上皮下浸潤)や実質性角膜炎がみられることがある。

ブルセラ症(brucellosis)は、ブルセラ属菌(Brucella spp.)による全身性の人獣共通感染症である。ブルセラ菌はマクロファージ内で生存・増殖する通性細胞内寄生性グラム陰性球桿菌であり、ヒトの疾患は主に B. melitensis・B. abortus・B. suis・B. canis の4種が原因となる。
感染経路は以下の通りである。
地中海盆地・中東・中央および南アジア・ラテンアメリカ・アフリカの一部で風土病として存在する。
眼への波及はまれであるが視力を脅かしうる。報告によると、全身性ブルセラ症患者の約3〜26%に眼症状が認められる。Sungurらは132例の確認ブルセラ症患者のうち21%に眼症状を報告し、前部ぶどう膜炎(41%)と脈絡膜炎(32%)が最多であった1)。Rolandoらの26年間にわたるペルーでの大規模研究では、1551例中3.4%に眼症状があり、後部ぶどう膜炎(35%)と全ぶどう膜炎(32%)が多かった1)。
Evliceらによる27研究159例のメタ分析では、眼症状の統合有病率は52.2%、結膜炎は17.6%であった。全身感染症状を有する患者は27.7%で、治療後に視力を回復したのは37.1%にとどまった1)。
眼症状は全身疾患のどの段階でも発生しうる。急性期に出現することもあれば、慢性感染中に潜行性に進行することもある。まれに眼症状が全身症状に先行する場合もある。
報告により差があるが、全身性ブルセラ症患者の約3〜26%に眼症状が認められる。ぶどう膜炎が最も多く、眼症状全体の半数近くを占めるとされる1)。
眼ブルセラ症の自覚症状は非特異的であり、他の眼疾患と共通する点が多い。
眼症状は全身感染の慢性期に出現することが多く、早期発見はまれである1)。
眼ブルセラ症は多彩な臨床所見を呈し、解剖学的部位により分類される。
前眼部
前部ぶどう膜炎:最も一般的な眼症状の一つ。肉芽腫性または非肉芽腫性で、前房細胞・フレア・KPs・虹彩後癒着・前房蓄膿を呈する。
結膜炎・上強膜炎:軽度の充血・流涙・不快感。多くは急性全身症状に伴い自己限定的である。
角膜病変:貨幣状角膜炎(上皮下浸潤)や実質性角膜炎がみられることがある。
後眼部
神経眼科
各症状のおおよその頻度を以下に示す。
| 眼症状 | 頻度 |
|---|---|
| 前部ぶどう膜炎 | 20〜40% |
| 後部/全ぶどう膜炎 | 15〜30% |
| 視神経炎/視神経症 | 3〜8% |
ブルセラ菌は汚染された動物または動物製品への曝露によりヒトに感染する。栄養体はマクロファージ内に取り込まれた後、ファゴリソソーム融合を阻害して細胞内殺菌を回避し、血行性播種により眼を含む複数臓器に到達する(「病態生理学」の項参照)。
眼症状のリスク因子は以下の通りである。
農家・獣医師・屠畜場作業員など職業的に家畜と接触する人がブルセラ症自体の高リスク群である。眼への波及は、全身感染の診断遅延や不適切な治療、慢性・再発性の経過、免疫不全などで起こりやすい。
ブルセラ症の眼症状は非特異的であり、他の感染性・炎症性疾患を模倣するため、全身の疫学的背景と眼所見の統合的評価が不可欠である。
曝露歴(未殺菌乳製品の摂取・家畜との接触・風土病地域での居住)を聴取し、ぶどう膜炎・網膜炎・血管炎・硝子体炎・視神経乳頭浮腫の有無を確認する。
主な診断法を以下に示す。
| 検査法 | 主な用途 | 備考 |
|---|---|---|
| ローズベンガル試験 | 迅速スクリーニング | 高感度だが特異度はやや低い |
| 凝集試験(ライト法) | 全身感染の確認 | 1:160以上で陽性と判定 |
| 培養(血液・骨髄) | 確定診断 | 感度は低いがゴールドスタンダード |
血清学的検査(ローズベンガル試験・凝集試験・クームス試験・ELISA)により全身感染を確認する。培養は確定診断のゴールドスタンダードであるが、培養期間が長く生物学的安全性の要件が高いため、血清学で明確な診断が得られた場合は省略されることもある1)。
Weiらの症例では、ローズベンガル試験陽性・凝集試験1:100++で診断し、ツベルクリン試験・梅毒検査(FTA-ABS)・リウマトイド因子・抗核抗体・トキソプラズマ抗体がすべて陰性であったことで他の病因が除外された1)。
神経眼科的徴候がある場合は髄液検査が不可欠である。
ぶどう膜炎のスクリーニング検査として、血算・CRP・血沈に加え、梅毒反応・QuantiFERON-Tbなどの病原体関連検査を行い、鑑別診断を進める。
眼ブルセラ症は以下の疾患との鑑別が重要である。
治療の中心は適切な全身的抗菌薬併用療法である。全身感染の制御が眼炎症の消退と再発防止に不可欠である。
WHO推奨の標準レジメンは、ドキシサイクリンとリファンピシンの併用を最低6週間、またはリファンピシンに代えてストレプトマイシンを最初の2〜3週間併用する方式である1)。
複雑症例では三剤併用療法が推奨される。
治療期間は3ヶ月以上が推奨される1)。
系統的レビューおよびネットワークメタ分析では、三剤併用が二剤併用より優越し、単剤療法は失敗率が高いこと、また6週以上の治療が短期治療より有意に有効であることが示された1)。
全身的抗菌薬治療に加え、眼の炎症とその合併症に対処する。
Weiらの症例では、三剤併用療法3ヶ月に加え、インドメタシン点眼と トブラマイシン/デキサメタゾン点眼を1ヶ月間使用した。治療2週間で症状改善、2ヶ月で両眼視力1.0に回復し、1年後も再発は認められなかった1)。
抗菌薬併用療法と局所治療の組み合わせにより、早期に治療を開始すれば2ヶ月程度で炎症が消退し視力が回復した報告がある1)。ただし後部ぶどう膜炎や全ぶどう膜炎は予後不良となりやすく、治療後も視力回復は37.1%にとどまるとの報告もある1)。
ブルセラ菌の眼への波及機序は複数存在する。
ブルセラ菌はマクロファージに食食された後、ファゴリソソーム融合を阻害することで細胞内殺菌を回避する。細胞内で増殖しながら肉芽腫性炎症を惹起し、慢性感染を確立する。
血行性播種により眼を含む複数の臓器に到達する。眼における病態は以下の4つの機序が複合的に関与する。
直接的な微生物侵入と免疫調節不全の寄与度は症例により異なり、多様な眼症状が呈される。このため、結核・梅毒・サルコイドーシス・ベーチェット病など他の疾患との臨床的類似が生じる。
メタゲノム次世代シーケンシング(mNGS)は、眼内液(前房水・硝子体液)中のすべての微生物DNA/RNAを偏りなくハイスループットに解析し、迅速な病原体同定を可能にする技術である1)。従来の培養では同定が困難であったブルセラ症のような細胞内寄生菌による眼感染症において、mNGSは診断精度の向上に寄与する可能性がある。
Zhuらは眼内炎患者の硝子体液に対するmNGS検査により、従来法では同定できなかった病原体の迅速な検出が可能であったことを報告している1)。
今後、多施設前方視的研究による臨床スペクトルの明確化とエビデンスに基づく治療ガイドラインの確立が期待される1)。