前眼部所見
虹彩ルベオーシス:67%に出現する最も特徴的な前眼部所見。新生血管緑内障の原因となる。
眼圧変動:虹彩ルベオーシスの半数で眼圧が上昇する。残りの半数は毛様体の房水産生低下により眼圧上昇を生じない。
前房内炎症:フレア・セル増加を認める。虹彩毛様体炎に類似する。
瞳孔異常:半散大固定または対光反射の鈍麻。相対的瞳孔求心路障害(RAPD)を呈する。

眼虚血症候群(Ocular Ischemic Syndrome; OIS)は、慢性的な眼血流の低下によって生じる眼病変の総称である。多くは動脈硬化による頸動脈の狭窄が原因となる。大動脈炎症候群(高安動脈炎)や巨細胞性動脈炎のような炎症性疾患も狭窄の原因となりうる。
内頸動脈(ICA)あるいは総頸動脈(CCA)の高度な狭窄による眼動脈の灌流圧低下が、狭窄血管と同側の眼障害を引き起こす。OISは脳梗塞をきたす危険性があるため、他科との連携が重要である。
症状のある頸動脈閉塞患者の約30%に通常は無症状の網膜血管変化が認められる。そのうち年間1.5%が症状を伴うOISへ進行する。
約20%は両眼に発症する。狭窄が両側頸動脈に及ぶ場合に生じやすい。重症度は狭窄の程度、側副血行路の発達、全身性血管疾患の有無によって異なる。
OISは全身性疾患の眼症状であり、眼症状よりも全身症状を主訴に受診する場合がある。主な自覚症状は以下の通りである。
OISの眼科的徴候は前眼部・後眼部・眼窩に分けられる。
前眼部所見
虹彩ルベオーシス:67%に出現する最も特徴的な前眼部所見。新生血管緑内障の原因となる。
眼圧変動:虹彩ルベオーシスの半数で眼圧が上昇する。残りの半数は毛様体の房水産生低下により眼圧上昇を生じない。
前房内炎症:フレア・セル増加を認める。虹彩毛様体炎に類似する。
瞳孔異常:半散大固定または対光反射の鈍麻。相対的瞳孔求心路障害(RAPD)を呈する。
後眼部所見
網膜動脈の狭細化:眼底検査で最も早期に認められる後眼部所見の一つ。
網膜静脈の拡張:静脈の拡張はあるが蛇行は軽度で、CRVOとの鑑別点となる。
網膜出血:中間周辺部に点状・斑状出血を認める。
その他:綿花状白斑、桜実紅斑(cherry-red spot)、視神経乳頭新生血管、網膜動脈の自然拍動、コレステロール塞栓。
OISでは慢性的な虚血により毛様体の房水産生機能が低下する。そのため虹彩ルベオーシスによる房水流出路の閉塞があっても、房水産生の低下により眼圧が正常〜低値にとどまる場合がある。
OISの最大の原因は動脈硬化による頸動脈の狭窄・閉塞である。以下のリスク因子が関与する。
側副血行路が健全であれば、ICAが完全に閉塞していてもOISを発症しない場合がある。一方、側副血行路が不十分であれば50%未満のICA狭窄でもOISが発症しうる。
OISの診断は眼所見と全身所見を組み合わせて行う。糖尿病網膜症やCRVOとの鑑別が特に重要である。
蛍光眼底造影はOISの診断に最も有用な検査である。
脈絡膜血管の異常をより詳細に評価できる。OISでは腕-脈絡膜循環時間および脈絡膜内循環時間の延長が認められる。脈絡膜毛細血管板の閉塞により充填欠損領域が出現する。
| 検査法 | 特徴 | 感度・特異度 |
|---|---|---|
| 頸動脈デュプレックス超音波 | 第一選択。非侵襲的 | 閉塞検出:感度96%、特異度100% |
| MRA | 二次的精密検査 | 70〜99%狭窄:感度95%、特異度90% |
| CTA | 脳血管障害の同時評価可能 | プラーク特徴付けに優れる |
頸動脈デュプレックス超音波での最高収縮期血流速度(PSV)とICA狭窄率の関係は以下の通りである。
カラードップラー画像では眼動脈の血流逆転パターンが同側の高度ICA狭窄・閉塞の特異的指標となる。
OISは以下の疾患と誤診されやすい。
| 鑑別疾患 | OISとの相違点 |
|---|---|
| 糖尿病網膜症 | 糖尿病網膜症は網膜出血が後極中心。OISは中間周辺部。蛍光眼底造影(FA)で動脈染色なし |
| 網膜中心静脈閉塞症 | 網膜中心静脈閉塞症は静脈蛇行が顕著。FAで静脈からの漏出が強い |
糖尿病網膜症の程度が軽いにもかかわらず虹彩・隅角に新生血管がある場合は、OISを疑い蛍光眼底造影と頸部エコーを実施すべきである。
OISではFA上、脈絡膜充盈の遅延・網膜動脈の組織染が目立ち、増殖性変化が軽い。一方、糖尿病網膜症では静脈からの漏出が主体で脈絡膜充盈は正常である。OISと糖尿病網膜症は合併する場合もあるため、眼底所見が軽い割に新生血管があれば両疾患の併存を考慮する。
OISの治療は、頸動脈狭窄に対する外科的治療と眼局所の治療に大別される。
頸動脈狭窄に対する外科的治療が眼血流を回復するための根本的治療である。症状を伴う50〜99%のICA狭窄では、頸動脈内膜剥離術(endarterectomy)が薬物治療に比べ良好な転帰を示す。血行再建後は網膜電図のa波・b波振幅の改善が報告されている。
OISの発症にはICA系とECA系の間、あるいは左右ICA間の側副血行路の不全が関与する。側副血行路の発達は個人差が大きく、疾患の発症と重症度を規定する最も重要な因子の一つである。
OIS眼では球後血管の血流が減少し、眼動脈の血流逆転が生じる。眼動脈が「盗血動脈(steal artery)」として機能し、低灌流状態が持続する。眼動脈の拡張期血圧は低下し、頸動脈手術後に改善・正常化する。
内頸動脈の粥状硬化(アテローム硬化)では、血管内膜に脂質沈着・線維性肥厚・粥腫が形成される。これにより血管内腔が狭小化し、下流の灌流圧が低下する。狭窄部から遊離した塞栓子が網膜動脈分枝を閉塞させることもある(一過性黒内障の原因)。
OCT angiography(OCTA)は造影剤を用いずに網膜・脈絡膜の血管構造を可視化できる技術であり、OISの網膜毛細血管無灌流領域の評価への応用が期待されている。蛍光眼底造影の補完的検査として位置づけられつつあるが、現時点ではOISにおけるOCTAの有用性に関する大規模研究は限られている。
頸動脈内膜剥離術に代わる低侵襲的な血行再建法として頸動脈ステント留置術の検討が進んでいる。手術リスクの高い患者に対する選択肢として注目されるが、OISに特化した長期的な視機能予後に関するエビデンスは十分に蓄積されていない。